キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」
(調布市役所サイトより)

1.はじめに
調布市役所から週一ペースで配信されてくる市のメールマガジンの項目のなかに、「キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」(白百合女子大学)(2019.04.08)」という項目がありぎょっとしました。調布市役所ウェブサイトにも宣伝の掲示があります。

・キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」(白百合女子大学)|調布市サイト

もちろん私立大学である白百合女子大学がこのような宗教講座の公開講座を行うことは自由であり、民間企業のマスメディアなどがこれを宣伝・報道することも自由です。しかし、公権力である調布市がこの宗教講座である市民公開講座を市民に告知・宣伝することは、憲法20条、89条が規定する政教分離原則の観点から許されるのでしょうか?

2.政教分離原則
憲法20条1項後段は、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と規定し、同3項は、「国及びその他の機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と規定し、国から特権を受ける宗教を禁止し、国家の宗教的中立性を明示しています。そして、憲法89条は、財政的な観点から政教分離を規定しています。

憲法

第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

このように国家と宗教の分離の原則を政教分離の原則と呼びますが、これは戦前の日本の国家神道のように、国家と宗教の一致による弊害を避けることや、国民個人のそれぞれの信教の自由を保障するための原則です。

3.裁判例
この憲法20条、89条の政教分離原則が争点となったリーディングケースである津地鎮祭事件において、最高裁は、国・自治体についてその「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為」は憲法20条により禁止される宗教的行為であると判示し、いわゆる「目的・効果基準」を採用しました(津地鎮祭事件・最高裁昭和52年7月13日判決)。

また、その後の愛媛玉串料訴訟なども、この目的・効果基準を厳格に運用し、自治体の行為を違憲とする判断を示しています(愛媛玉串料事件・最高裁平成9年4月2日判決、芦部信喜『憲法 第7版』164頁)。

4.調布市役所の行為を考える
ここで調布市役所の今回の行為をみると、まず、白百合女子大学の当該講座は、調布市の告知のページにリンクが貼られた同大学サイトの説明によると、

「現代の日本でいちばん必要なことは、 このイエスのもたらした新しい創造、新しいいのちの経験です。イエスが教会に委ねた使命を、 私たちの一人ひとりが自分のこととして引き受け、自分の周りから始めることが必要です。そのためには、イエスの中にあった神のいのちをしっかりといただき直して、現代の日本に証しすることが不可欠でしょう。」

・宗教講座「創造への道」|白百合女子大学サイト

などと説明されており、これは一般市民向けの一般教養講座ではなく、完全にキリスト教の宗教教育講座です。

そのため、よくある地域の大学の一般教養講座ではなく、白百合女子大学の今回の宗教教育講座を市の公式ウェブサイトを使って宣伝し、市公式メールマガジンでも配信・宣伝している調布市役所の行為は「目的として宗教的意義を持つ」と言わざるを得ません。

また、この調布市サイトの告知・宣伝を見た多くの調布市民は、「調布市においては行政からキリスト教が優遇されているのか」と感じるでしょう。つまり調布市の行為は、「効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進」にあたるといえます。

調布市の担当者の方々や、白百合大学の担当者の方々は「そんな大げさな」と言うかもしれません。しかし今回問題になっているのが、もしミッション系の私立大学のキリスト教に関する宗教教育講座ではなく、かりに例えば布田天神や日本青年会議所などが主催する「神道を学ぶ講座」「靖国神社を学ぶ講座」などであったらどう感じるのでしょうか?

したがって、調布市が白百合女子大学の宗教教育講座「キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」について市公式ウェブサイトやメールマガジンなどで宣伝などを行っている行為は、憲法21条、89条の定める政教分離原則に照らして違法であるといえます。

もちろん、調布市が自治体として地元の各大学と相互友好協力協定を締結している趣旨はわかります。しかし、市は自由な活動が許される民間企業等ではないのですから、各大学の公開講座を宣伝する際にも、憲法や各種の法令に抵触しない範囲で宣伝などを行うべきと思われます。

もし調布市が憲法その他の法令を無視した行政運営を行うのであれば、それは地元住民からの住民監査請求、住民訴訟の提起などの法的リスクをはらむものになるでしょう(地方自治法242条、242条の2)。


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