ジャパンビバレッジ
(フジテレビより)

1.ジャパンビバレッジの有給休暇の取り扱いがネット上で物議
8月のお盆休みごろからネット上で話題となっていた、自動販売機事業大手のジャパンビバレッジの、“上司から出されたクイズに部下全員が正解できず有給休暇を取得できなかった”という話題がメディアでも報道されるなど物議を醸しています。しかしこんな人事・労務上の取り扱いが許されるのでしょうか?

・クイズ不正解だと有給取れず 「ジャパンビバレッジ」|フジテレビ

2.年次有給休暇の性質
労働基準法39条1項以下は、労働者の勤続年数に応じて年次有給休暇を10日以上20日までと定めています。そして、同法39条5項は、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定しています。

つまり、労働者・従業員が有給休暇を取る権利は労基法39条1項の要件を満たすことで発生しており、従業員が上司等にその取得の時季、つまり休暇の始期と終期を指定(=請求)することにより確定します。これに対する使用者側の承諾は不要とされています(林野庁白石営林署事件・最高裁昭和48年3月2日判決)。

3.時季変更権
ただし、同法39条5項ただし書きは、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と規定しており、これが使用者の時季変更権です。

とはいえ、使用者側はジャパンビバレッジのように好き勝手に従業員の有給休暇の取得を拒否できるわけではありません。労基法39条5項ただし書きが規定するとおり、上司・使用者側が部下・従業員からの有給休暇の取得を別の時季にしてくれと拒めるのは、「事業の正常な運用を妨げる場合」です。

この「事業の正常な運用を妨げる場合」とは、単に会社が繁忙、人員の不足であることでは認められないとされています(東亜紡績事件・大阪地裁昭和33年4月10日判決)。なぜなら、労働者が休暇を取ることは、労基法の上位規定である憲法27条2項が定めるとおり、労働者が憲法上持つ人権だからです。

そのため、使用者側は会社業務の繁忙などに備えて余裕を持った人員配置などを行う義務を負っているのです(西日本JRバス事件・名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決など)。そのような場合以外は、後述しますが、労働者は原則として理由を問わず自由に有給休暇を取得することができます。

したがって、「クイズに正解できたら有給休暇の取得を認める」というジャパンビバレッジの有給休暇の取り扱いは、労基法39条5項ただし書きの「事業の正常な運営を妨げる場合」におよそ該当しないので、違法・不当な実務取扱いであるといえます。

4.「休暇願い」の「理由」欄
なお、うえでみたように、使用者は事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更権を行使できるので、有給休暇を取得する理由を労働者に質問することはできるとされています。実際上、一般的な企業の職場の「休暇願い」の書面または電子上のフォーマットに日付とともにその理由を書く欄があるのはそのためです。

ただし、有給休暇やそれを拒む時季変更権の法的性質は上でみたようなものなので、実際上はともかく、労働法上は仮に休暇願いの理由に「デートに行くため」と書かれたとしても、上司はそれだけを理由に時季変更権を行使することはできません。(争議行為を目的とした有給休暇を認めた判例すらあります。最高裁昭和48年3月2日判決)

5.まとめ
このように、やはり「クイズに正解できないから有給休暇を与えない」というジャパンビバレッジの実務取扱いは人事・労務の観点、つまり労働法の観点から間違っています。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』530頁、537頁、542頁
・東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』337頁、340頁

労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)

新・労働契約Q&A 会社であなたをまもる10章