1.はじめに
最近の法律雑誌に、損害保険会社が代位取得した損害賠償請求権を行使する際に、弁護士費用の費用を認めない興味深い判決が掲載されていました(名古屋高裁平成29年10月13日判決、判例時報2381号87頁)。

2.名古屋高裁平成29年10月13日判決(確定)
(1)事案の概要
幅4.2メートルの道路の十字路において、X1~X3が乗っていたX1の運転する自動車と、右折しようと対向して進行してきたAの運転する自動車が正面衝突し、X1~X3が負傷した。本件事故の原因はAの前方不注意であった。

Aの自動車の所有者であるYに対して、X1~X3が損害賠償を請求し、またX1の損害賠償請求権を代位取得した損害保険会社X4が保険法25条による請求を行ったのが本件訴訟である。

原判決(津地裁平成28年12月16日判決)は、本件事故はAの過失であると認定し、X1らにつき、治療費、通院交通費、休業損害、弁護士費用などの損害を認めたため、Yが控訴。

(2)判旨
本判決は原審をおおむね肯定したものの、損害保険会社X4について、つぎのように弁護士費用を認めなかった。

『なお、X4のYに対する請求は、保険代位により取得した損害賠償請求権に基づく弁護士費用が当然に賠償の対象となるものではないと解される。しかるに、X4は、弁護士費用が賠償の対象となる旨の具体的な主張・立証をせず、他に、これを認めるべき事情もうかがわれないから、弁護士費用は認められない。』


3.検討
損害保険会社が保険代位により取得した損害賠償請求権に基づき提起する求償権訴訟における弁護士費用について、損害保険の実務書はつぎのように消極的な立場をとっています。

『不法行為による損害賠償請求では、不法行為により発生した損害として弁護士費用相当額の賠償を認めるのが判例である(最高裁昭和44年2月27日)。ここでいう弁護士費用とは、被害者が不法行為によって生じたその余の損害の賠償を求めるにについて弁護士に訴訟の追行を委任し、かつ、相手方に対して勝訴した場合に限って、弁護士費用の全額または一部が損害と認められるものであ(る。)(略)

他方、交通事故によるものであっても、保険金請求訴訟や、保険会社が保険代位により取得した損害賠償請求権に基づき提起するいわゆる求償権請求訴訟においては、原則として弁護士費用の賠償は否定的に解される。

ただし、例えば(略)保険代位によるいわゆる求償権請求訴訟において、保険代位が生じた時点で既に被害者が訴訟追行を弁護士に委託していた場合には、具体的に発生した弁護士費用相当額の賠償を求める権利が、損害賠償請求権の一部として保険会社に移転したものとして、その請求が認められる余地がある。』
(佐久間邦夫・八木一洋『交通損害関係訴訟(増補版)』112頁)

本件訴訟は、上の実務書の「ただし―」以下の場合に該当するようではないので、本高裁判決は、原則どおり従来からの損保実務に沿った判断をしたものと思われます。

■参考文献
・『判例時報』2381号87頁
・佐久間邦夫・八木一洋『交通損害関係訴訟(増補版)』112頁

交通損害関係訴訟 (リーガル・プログレッシブ・シリーズ)