1.秋篠宮さまが「政教分離」発言
本日の朝日新聞に興味深い記事が載っていました。

『秋篠宮さまが30日の53歳の誕生日を前に紀子さまと記者会見し、天皇の代替わりに伴う皇室行事「大嘗祭」について、「宗教色が強いものを国費で賄うことが適当かどうか」と述べ、政府は公費を支出するべきではないとの考えを示した。この考えを宮内庁長官らに伝えたが「聞く耳を持たなかった」といい、「非常に残念なことだった」と述べた。』
(朝日新聞2018年11月30日付1面)

・秋篠宮さま、大嘗祭支出に疑義「宮内庁、聞く耳持たず」|朝日新聞

この秋篠宮さまの発言について、“政治的発言であり不適切”とする河西秀哉・名古屋大学准教授のつぎのコメントを朝日新聞は掲載しています。

『河西秀哉・名古屋大学准教授は「政府の決定に公の場で異論を唱えており不適切だ」と話す。憲法4条は「天皇は、国政に関する権能を有しない」と定めており、皇族もこの規定に準じて行動するべきと考えるからだ。』
(朝日新聞2018年11月30日付2面)

さきの天皇陛下の「お心の表明」についても似たような「憲法4条に照らして不適切だ」との意見は見られましたが、「まだ憲法4条で消耗してるの?」と疑問視派には言いたくなります。

2.天皇の政治的な権能
憲法3条、4条はつぎのように規定しています。

憲法

第三条 天皇の国事に関するすべての行為には、内閣の助言と承認を必要とし、内閣が、その責任を負ふ。

第四条 天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない。
2 (略)

この4条1項の国事に関する行為(国事行為)については憲法6条、7条に列挙されていますが、総理大臣や最高裁長官等を任命すること、大臣・大使等の公務員の任命、栄典の授与、外国の大使等の接受、儀式などの形式的・儀礼的行為です。

そして今回問題となる国政に関する行為については、憲法4条1項後段ははっきりと、「国政に関する権能を有しない」と規定しています。

この点、憲法の解説書はつぎのように説明しています。

『4条は、天皇は国政に関する権能をもたないと無条件に定めている。』
(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』117頁)

つまり、そもそも天皇は政治的な権利能力をもっていないのであり、かりに政治的な行為をしようとしても、それは法的にしようがないのです。天皇本人ですらそうなのに、皇室の方の政治的行為が法的に問題になるとは思えません。

今回の秋篠宮さまの発言に関して、もし何らかの問題が発生するとしたら、その責任は、秋篠宮さまではなく、内閣が負うべきであると思われます(憲法3条)。

名古屋大学の河西秀哉氏は本業は歴史学者だそうで法律にはうとい方なのかもしれませんが、憲法を持ち出して新聞の取材に応じるからには、教科書などを読んで憲法を少しは勉強すべきではないのでしょうか。

3.憲法尊重擁護義務
なお、総理大臣や大臣、国会議員、官僚、公務員などと同様に天皇は憲法尊重擁護義務を負っています。

第九十九条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。


この憲法尊重擁護義務に照らすとき、“宗教的色彩の強い大嘗祭を公費で行うことは憲法の定める政教分離に反する”と秋篠宮さまが述べられたことは、むしろ憲法の趣旨に沿う、極めて正しい姿勢であると思われます(最高裁平成14年7月11日判決参照)。

戦前の国家神道がわが国を戦争に突入させたことの反省を踏まえ、現行憲法は厳格な政教分離原則を採用しているからです(憲法20条、89条)。

憲法1 第5版