1.自筆証書遺言の保管申請
(1)保管の申請
遺言をする者(遺言者)は、遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を所轄する法務局に対して遺言の保管の申請を行うことができます(遺言書保管制度)。

この遺言書保管制度による保管の対象となるのは自筆証書遺言に限られます(遺言書保管法1条)。また、遺言書の保管の申請は、遺言者が所轄の法務局に自ら出頭して行う必要があり、その際には法務局の遺言書保管官(法務事務官)は、申請人が本人であることの確認を行います(同4条6項、5条)。

(2)遺言書の保管
保管の申請を受けた法務局(遺言書保管官)は、遺言書の原本を法務局の施設内で保管します(同6条1項)。また、法務局は、つぎの事項を記録した「遺言書保管ファイル」により遺言書の情報を管理します。

①遺言書の画像情報
②遺言書に記載されている作成の年月日
③遺言者の氏名、生年月日、住所および本籍(外国人の場合は国籍)
④遺言書に受遺者・遺言執行者の記載があるときは、その氏名・名称、住所
⑤遺言書の保管を開始した年月日
⑥遺言書が保管されている法務局の名称および保管番号

2.保管された自筆証書遺言についての相続人による確認など
(1)遺言書情報証明書
遺言者の死亡後、相続人はどの法務局(遺言書保管官)に対しても「遺言書保管ファイル」に記録されている事項を証明した書面(「遺言書情報証明書」)の交付を申請し、遺言の画像情報などを確認することができます。この遺言書情報証明書には、つぎの事項が記録されています(遺言書保管法9条1項、7条2項)。

①遺言書の画像情報
②遺言書に記載されている作成年月日、遺言者の氏名・生年月日・住所および本籍(外国人は国籍)
③受遺者や遺言執行者がいる場合にはその氏名・名称および住所
④遺言書の保管を開始した年月日
⑤遺言書が保管されている法務局の名称および保管番号

なお、相続人はどの法務局においても遺言書情報証明書を取得することができるため、最寄りの法務局で証明書を取得することができます。

(2)自筆証書遺言の原本の閲覧
相続人は、遺言者の死亡後、遺言者が作成した自筆証書遺言を現に保管する法務局に対しては、当該遺言の原本の閲覧を請求できます(遺言保管法9条3項)。

(3)他の相続人への通知
上の遺言書情報証明書の交付や自筆証書遺言の原本の閲覧が行われた場合、法務局から他の相続人に対して、当該自筆証書遺言を保管している旨の通知が行われます(遺言保管法9条5項)。

(4)自筆証書遺言の原本の取り扱い
相続人は、遺言者の作成した自筆証書遺言の原本の返還を受けることはできません。これは、複数の相続人からの返還の申し出が競合した場合、対応が困難なことや、特定の相続人が遺言書原本の返還を受けた後にこれを隠匿するおそれがある等のためです。また、相続人による遺言書情報証明書の請求や自筆証書遺言の原本の閲覧は、遺言者が死亡した場合に限って行うことができます。

3.法務局に保管された自筆証書遺言の検認の要否
(1)現行の制度
現行民法は、遺言者が自筆証書遺言を作成しており相続の開始があった場合には、当該遺言書は、家庭裁判所による検認を経る必要があります(民法1004条1項)。これは遺言書の偽造や変造を防ぐためです。

(2)遺言書保管制度による自筆証書遺言
一方、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言においては、法務局(遺言者保管官)が家庭裁判所の検認手続きと同様の機能を果たすため、家庭裁判所による検認は不要となります(遺言書保管法11条)。

(3)金融実務への影響
現行制度においては、金融機関が預金の払い戻しや保険金支払い等を行うにあたっては、自筆証書遺言が検認を経ているかチェックする必要があります。しかし、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言に関し、相続人から預金の払い出しなどを行うにあたっては、相続人が所持しているのは遺言書情報証明書だけであり、その提示を受けて払戻しなどを判断することになります。検認を経ていることのチェックは不要となります。

■参考文献
・『一問一答相続法改正と金融実務』126頁
・『金融機関のための相続法改正Q&A』30頁