なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年04月

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1.はじめに
政府の漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する「緊急決定」を受けて、4月23日に、NTTコムやNTTドコモなどNTTグループは、政府の決定に応じて、ブロッキングを行う旨を記者会見で発表しました。

・報道発表資料 インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について|NTTドコモ

このようなNTTグループの対応に対しては、ネット上などで多くの学識者の方々から、通信の秘密を定める憲法21条2項や電気通信法4条に抵触するとの批判が出されています。(同法4条に電気通信事業に従事する者が違反した場合、同法179条2項により、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処される可能性があります。)

そして、ツイッターなどSNSにおいては、NTTグループの従業員のSEと思われる方の「自分はこのブロッキングは違法なものと考えるが、もし上司からそれを実施せよと指示されたとき、それを断ることはできないのだろうか?」との趣旨の悩みも表明されるに至っています。

これが本当にNTTグループの従業員の方の悩みであったとして、従業員は指示された業務が違法であることを理由として、当該業務を断ることができるのでしょうか?

2.使用者の指揮命令の限界
使用者(企業)と労働者が労働契約(雇用契約)を締結することにより、その使用者と労働者は雇用の関係になります(労基法2条、労働契約法3条)。そして、労働契約に基づいて、使用者は労働者に対する指揮命令権(業務命令権)や指揮監督権を持つことになり、一方、労働契約に基づいて、労働者は労務提供義務(労働義務)、業務を誠実に行う誠実義務などを負うことになります。そして、使用者側が具体的にどのような指揮命令を行えるかについては、労働契約の内容と、就業規則によることになります。

そのため、この使用者側の指揮命令権や、労働者側の労務提供義務や誠実義務があることにより、原則として、労働者はその上司らから業務命令を受けた場合、それを拒否することはできません。それを理由なく拒否した場合は、その労働者は懲戒処分に科されるおそれがあります。しかし、上司の業務命令も無制限に何でも許されるわけではなく、限界があります。

この点、使用者は、労働契約の内容や就業規則の内容を超える指揮命令を出すことはできません。労働契約の内容を超える指揮命令は無効であり、使用者は労働者の指揮命令違反を理由として懲戒や賃金カットなどを行うことはできません。同様に、労働協約や労使慣行に反する指揮命令も許されません。

3.憲法・法律に違反する指揮命令の効果
また、同様に、使用者は憲法や労基法に違反する指揮命令を出すこともできません(西日本鉄道事件・最高裁昭和43年8月2日判決)。さらに、使用者は労働者の人格権や権利を不当に侵害するような指揮命令を出すこともできません(民法90条)。このような指揮命令は違法なものと評価され、労働者はその指揮命令に従う義務はありません(東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』265頁)。

4.労働者側の取りうる対応
とはいえ実際の問題として、上司や経営陣がある業務を行えと従業員に命令するとき、経営陣や上司はその業務命令は「適法・妥当」であると考え、かりに労働者側が当該業務命令が違法・違憲であると考えたとしても、議論したとしてもそれは平行線に終わるでしょう。

そのため、経営陣や上司の出す業務命令が違法であるか適法であるかは、終局的には裁判により司法判断により決せられることになります。

しかし今回の事案のように、まさにNTTグループの経営陣がブロッキングの命令を出そうとしているときに、労働者は裁判の判決を待っているわけにもゆきません。また、裁判までして会社側と徹底抗戦したいと思う労働者も多くはないでしょう。

このような場合、労働者側としては、まずは社内の内部通報窓口に、何らかの手段でブロッキングは違憲・違法のおそれが高いことを通報すべきと思われます。公益通報者保護法は、内部通報者(公益通報者)に対して使用者側が、内部通報をしたことを理由として解雇やその他の不利益処分を当該内部通報者に科すことを禁止しています(3条、5条)。なお、会社側は、かりに内部通報が匿名によりなされたものであっても、社内の不祥事などを防止する観点から、できる限りの対応を行うべきです(消費者庁「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」Ⅲ.1.(3))。 

また、内部通報を行っても会社側が動かない場合、内部通報者は監督官庁などに内部通報を行うことができます。上と同じく、会社側はこの内部通報を理由として解雇その他の不利益処分を科すことは禁止されています(法3条2号、5条)。

さらに、労働者は、違法な指揮命令が行われている旨を、所轄の都道府県労働局や労基署などに申告することができます。労働局などは、会社側に対して、個別紛争解決促進法4条などに基づいて、助言・指導を行うことができます。

*なお、詳細につきましては、もよりの弁護士事務所などにご相談ください。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』149頁
・東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』265頁
・西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』122頁

新・労働契約Q&A 会社であなたをまもる10章

実例解説 企業不祥事対応―これだけは知っておきたい法律実務

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現在、水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」のテレビアニメが放送されているので、ゲゲゲの鬼太郎や水木しげる先生にゆかりのある調布市のスポットを地元民として紹介してみたいと思います。

調布駅の北口ロータリーすぐの旧甲州街道沿いには、水木しげる先生がよく足を運んだといわれる、真光書店があります。

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(真光書店 調布市布田1-36-8)

真光書店は40年以上の歴史のある、この地域では一番の老舗書店です。最近リニューアルオープンしましたが、近くに電気通信大学があることもあってか、IT関係の専門書が非常に充実しています。(法律書コーナーも良い本が揃っています。)また、地下1階の漫画コーナーもとても充実しています。地下1階には水木先生の書籍を特集した本棚もあります。

真光書店から少し東から布田天神までを南北に結ぶ天神通り商店街には、ゲゲゲの鬼太郎のオブジェがたくさん設置されています。
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なお、天神通りの個人的おすすめは、「あずきや安堂」の今川焼です。あずきなどが120円からで販売されています。昔懐かしい庶民の味です。(暖かい時期には、かき氷も注文できます。)
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(あずきや安堂 調布市布田1-36-10)

調布駅東口の近くの旧甲州街道沿いには、壁に大きく鬼太郎達が描かれた大きな自転車駐輪場があります。
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(調布駅東自転車等駐車場 調布市布田3-4-1)

駐輪場にある郵便ポストもこんな感じです。
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また、天神通りの少し西側を平行している、調布駅と電気通信大学前の甲州街道(国道20号線)を結ぶ電通大通りの歩道部分には、ゲゲゲの鬼太郎のマンホールが点在しています。 IMG_0860

天神通りが甲州街道とぶつかっているところをさらに北に歩くと、布田天神社があります。
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(布田天神社の本殿 調布市調布ヶ丘1-8-1)

この布田天神の本殿の裏の森が鬼太郎の住み家であるそうです。布田天神は非常に古くからある神社だそうで、また、月末ごとに骨董市や縁日などが境内で開催されています。

布田天神から甲州街道を1kmほど西に行ったところに、下石原八幡神社があります。この神社の本殿の軒下に猫娘が住んでいるそうです。
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(下石原八幡神社 調布市富士見町2-1-11)

下石原八幡神社から北西に少し歩くと、石原小学校の近くに、覚證寺があります。ここが水木先生のお墓があるお寺です。
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(覚證寺 調布市富士見町1-35-5)

この覚證寺から少し歩いて石原小学校の道向かいには、鬼太郎公園があります。意外と広い公園で、夏は盆踊りなどが開催されています。
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(鬼太郎公園 調布市富士見町2-19-4)

調布駅前に戻って、今度は南西の方向に少し歩くと、調布市役所の隣に、「調布市文化会館たづくり」があります。この、たづくり1階の奥には、水木先生やゲゲゲの鬼太郎に関する展示が「ゲゲゲギャラリー」という名称で行われています。(ここは写真撮影OKです。)
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(調布市文化会館たづくり 調布市小島町2-33-1)
また、この「たづくり」5階の調布市立中央図書館の一角には、水木先生の書籍や鬼太郎等のフィギアなどを集めたコーナーがあります。(図書館内は写真撮影不可。)

調布駅からバスに乗ると、深大寺に行けます。深大寺も8世紀からある古刹であり、釈迦堂にある銅造釈迦如来倚像は、2017年に国宝に指定されました。
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(深大寺の本尊 調布市深大寺元町5-15-1)

深大寺の門前には、「鬼太郎茶屋」があります。建物が非常にこっています。
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(鬼太郎茶屋 調布市深大寺元町5-12-8)

鬼太郎茶屋の店頭では饅頭や飲み物が販売され、店内では鬼太郎に関連する各種のグッズが販売されています。またお店の奥は喫茶店となっています。
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なお、深大寺から坂道を北に少し歩くと、神代植物公園の深大寺口があります。このあたりの景色はドラマ「ゲゲゲの女房」でもしばしば登場しましたが、ここにある深大寺そばの「玉之屋」と「松葉茶屋」が、個人的には気に入っています。そばはもちろんおいしいですし、天気のよい日は屋外の席に座ると、雑木林の緑をみながらそばを楽しめます。 IMG_0594[1]
(手前は玉之屋、奥が松葉茶屋 調布市深大寺元町5-11-3)


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調布・府中・深大寺 (散歩の達人handy)

ゲゲゲの鬼太郎 大解剖 (日本の名作漫画アーカイブシリーズ サンエイムック)

「その後」のゲゲゲの女房

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1.損害保険契約の解約返戻金を差し押さえた債権者は、当該保険契約を解約できるか?
『金融法務事情』2064号88頁によると、損害保険(自動車保険)の保険契約を差し押さえた債権者(差押債権者)は、当該保険契約を解約できないとした興味深い裁判例が出されています(東京高裁平成28年9月12日判決)。

一方、生命保険契約については、保険契約の解約返戻金を差し押さえた債権者(差押債権者)は、当該保険契約の解約権を行使できるか否かについては、平成11年に最高裁がこれをできるとする判決を出し、判例として決着がついています(最高裁平成11年9月9日判決)。

2.東京地裁平成28年9月12日判決(請求棄却・控訴)
(1)事案の概要
Aは、平成27年7月13日、損害保険会社であるY保険会社との間で、自らを保険契約者および被保険者とする、保険期間1年間の自動車保険契約(任意保険)(以下「本件保険契約」とする)を締結した。本件保険契約の保障内容は、対人賠償:無制限・対物賠償:無制限・人身傷害:3000万円であり、年間保険料は5万490円であり、AはYに一括払いで保険料を支払っていた。

本件保険契約には、保険契約者はいつでも保険契約を解約でき、本件保険契約が解約された場合、Y保険会社は、保険契約者たるAに対し、契約内容および解約時の条件により、未経過保険期間に相当する保険料を解約返戻金として支払う旨の特約があった。

本裁判の原告であるXは、平成27年10月22日、Aに対する執行力ある判決正本(元本1566万4734円および遅延損害金を命じる判決)に基づき、Aを債務者、Y保険会社を第三債務者として、東京地裁に対し、AがYに対して有する本件保険契約に基づく解約返戻金等6万円について債権差押命令の申立てを行い、同年11月4日、その旨の債権差押命令の発令を受けた。その命令正本は、Aに対して同月13日、Yに対して同月5日にそれぞれ送達された。そしてXは同年11月26日、Yに対して差押債権者による取立権の行使として、本件保険契約を解約する旨の通知を行い、Yは同日にこれを受領した。この日時点における本件保険契約の解約返戻金は3万3660円であった。

この本件保険契約の解約返戻金3万3660円の支払いを求めてXがYに提起したのが本件訴訟である。本地裁判決は、つぎのように判示してXの請求を棄却した。(Xは控訴。)

(2)判旨
『第3 当裁判所の判断
1.(1)
金銭債権を差し押さえた債権名義は、 民事執行法155条1項により、 その債権を取り立てることができるとされているところ、 その取立権の内容として、 差押債権者は、自己の名で差押債権の取立てに必要な範囲で債務者の一身専属的権利に属するものを除く一切の権利を行使することができる。

(略)問題となるのは、差押債権者による本件保険契約の解約権の行使が、取立ての目的の範囲を超えるものとして制限されるかどうかである(略)。

(2) ところで、 生命保険契約の解約返戻金請求権に関しては、これを差し押さえた債権者がその取立金に基づき債務者の有する解約権を行使することができる(取立ての目的の範囲を超えない)とされていることは、 原告の引用する平成11年最判(=最高裁平成11年9月9日判決)に示されているとおりである。そこで、以下、特に生命保険契約との異同を念頭に置いて、検討することとする。

2.(1) 生命保険契約が解約によって終了した場合に保険契約者に認められる解約返戻金は、通常、被保険者のために積み立てられた保険料積立金から解約により保険者に生ずる損害を控除した残額であると理解されているものである(証拠略)。したがって、生命保険契約の解約返戻の基本的な格は績立金にほかならず (保険法63条、 保険業法施行規則10条3号参照)、 将来に向かって維持・蓄積されることが予定された潜在的的な資産という性格を有するものといえる。(略)保険契約の債権者の立場で、そのような潜在的な資産を債務者の責任財産として現実化することを求めることは、ごく自然な要請ということができる。

これに対し、損害保険契約における解約返戻金は、払込保険料のうちの未経過保険期間に対応する部分(いわゆる未経過保険料)が、これと対価性のある未履行給付(保険サービスの提供)の消滅に伴い返還されるものであって、解約権が行使されない場合には、保険期間の経過とともに資産性が逐次失われていくものである。換言すれば、解約返戻金を発生させるために損害保険契約の解約権を行使するということは、将来の保険サービスを享受する地位を剥奪することで、その対価として充当することが予定されていた払込保険料を返還させるものにほかならない。 これは、もともと潜在的に存在していた資産を現実化するという側面にとどまらないものであり、取立ての目的を実現する手段として、過剰な要素が含まれていると考えざるを得ない。

(2) また、 特に自動車保険を想定した場合、未経過保険料として通常想定される上限額は、一般的な保険期間である 1 年分の保険料相当額であって、さほど大きな金額にはなり得ないものである。本件でも、差押えに係る請求債権額が元本だけで1566万 4734円であるのに対し、 解約返戻金の額は3万3660 円にすぎないのであって、債権回収の実質という点でどれほどの意味があるか疑問といわざるを得ない。

(3) 以上に加えて、 自動車保険契約が保険契約者の意思によらずに解約されてしまう不利益には、看過し得ない、重大なものがあるというべきである。すなわち、本件保険契約のものを含め、自動車保険 (任意保険))は対人 ・ 対物賠償責任保険を中心とするものと理解されるところ、このような対人・対物賠償責任保険は、(略)社会全体のセーフティネットの役割をも担っているからである。(略)

(4) さらに、保険法上、生命保険における60条(=介入権)に相当する規定が損害保険には設けられていないところ、このこと自体、保険法が、損害保険につき差押債権者による解約権の行使を想定していないことを示すものと解される。』

本判決はこのように述べ、損害保険には生命保険に関する平成11年最判の考え方は適用できず、本件自動車保険契約を債権者が差押え、解約し、その解約返戻金を第三債務者たる保険会社から支払いを受けることはできないと結論づけました。

この地裁判決について、私は結論について賛成ですが、その理由付けには困難なものがあると考えます。

3.検討
(1)解約返戻金とは何か
まず、平成22年施行された保険法の前の旧商法においては、同法680条2項、同640条、653条などが、保険金等の支払の免責事項に該当したとき、保険契約者による保険契約の任意解除があった場合など、保険契約の途中で保険契約が終了したときは、保険会社は、「被保険者ノ為メニ積立テタル金額」を保険契約者に支払わなければならないと規定していました。この金員が、いわゆる「責任準備金」であり、この責任準備金は、平成22年に施行された保険法でも「保険料積立金」という名称で維持されています(保険法63条、同92条)。

そして、主に生命保険分野においては、各保険会社の普通保険約款において、従来より、免責事項の発生や、保険契約者による保険契約の解約があった場合は、いわゆる「解約返戻金」を保険会社は保険契約者に支払うと規定されているのが通常です。この解約返戻金は、上の責任準備金から一定額の控除(解約控除)を引いた金額です(萩本修『一問一答 保険法』208頁)。

この点、生命保険分野においては、例えば日本生命の終身保険などの「みらいのカタチ」の「契約基本約款」の第18条(解約)第1項は、「保険契約者は、将来に向かって保険契約を解約し、解約払戻金があるときはこれを請求することができます」と規定しています。

一方、損害保険分野においては、例えば東京海上日動の自動車保険「トータルアシスト自動車保険」の普通保険約款の「第6節 保険料の返還、追加または変更」第1条8項は、5号の「保険契約者による保険契約の解除」があった場合は、「付表1に規定する保険料を返還します」と規定し、「付表1」は、保険期間が1年で保険料の支払い方法が一時払いであった場合は、「保険契約が失効した日または解除された日の保険契約の条件に基づく年間適用保険料から既経過期間に対して「月割」をもって算出した保険料を差し引いた額」を、「返還保険料」として支払うと規定しています。

(2)民事執行法155条1項の差押債権者の取立権
民事執行法155条1項は、金銭債権を差し押さえた債権者は、その債権を取り立てることができるとしており、その取立権の内容として、差押債権者は自己の名で被差押債権の取り立てに「必要な範囲」で、「債務者の一身専属権を除く一切の権利」を行使することができるとされています。(中野貞一郎『民事執行法(増補新訂5版)』670頁)また、保険契約者の保険契約の解約は、形成権と解されており、さらに、給与や公的年金などと異なり、民間保険会社の保険契約の保険金や解約返戻金は各種の法律上の差押禁止債権とはされていません。

(3)差押債権者は取立権を行使し保険契約を解約し、保険会社から解約返戻金の支払いを受けることができるのか?
このように民事執行法や保険法・保険約款の規定があるなか、主に生命保険分野において、「差押債権者は保険契約を取立権(民事執行法155条1項)に基づき解約し、保険会社から解約返戻金の支払いを受けることができるのか」という論点については、つぎのように学説が分かれていました。この論点において評価が分かれるのは、保険契約の取立権による解約が「取立の目的」を超えていないか否か、保険契約の解約権は一身専属権であるか否かです。

①肯定説 差押債権者は民法155条1項の取立権の効果として、債務者の有する解約権を行使できるとする説で、多数説です(山下友信『保険法』658頁)。

②否定説 取立権の効果としては解約権を行使できず、債権者代位の方法によるべきとする見解です(伊藤眞『金融法務事情』1446号25頁)。

③二分説 保険契約を貯蓄、資産運用、節税などを目的とする保険(貯蓄型)と、被保険者または保険金受取人の生活保障、社会保障の補完を主な目的とする保険(生活保障型)に二分し、貯蓄型については取立権の効果として解約権を行使できるが、生活保障型については、解約権は一身専属権であり行使できないとする説です。(『判例時報』1689号45頁)

この論点につき生命保険契約(定期保険特約付終身保険、死亡保険金額3500万円)の差押債権者による取立権行使による解約が争われた最高裁平成11年9月9日判決は、①肯定説に立つことを明らかにしました。

すなわち、最高裁は、①解約権の行使は差押債権者が行使しなくては意味がなくなることから取立権の「必要な範囲」に含まれること、②否定説や二分説が懸念する保険契約者や保険金受取人などの不利益は、民事執行法153条による差押命令の取消や、あるいは解約権の行使が権利濫用にあたるような場合はその効力を否定することにより処理すればいいこと、などを理由にあげています。

(4)本件東京地裁判決を考える
(ア)本件判決を振り返る
以上を踏まえて本件判決をみると、主につぎの3点を理由にあげています。

①生命保険契約における解約返戻金の基本的な性質は、将来の保険金支払いのための保険料の積立金であるのに対して、損害保険契約における解約返戻金は、払込保険料のうちの未経過保険期間に係る部分の未経過保険料が、それと対価関係にある未履行の保険サービス(保険給付など)の消滅に伴い返還される性質であることから、損害保険において解約返戻金に対して取立権を行使することは、取立権の目的を超えること。

②自動車保険における解約返戻金は、一般的な保険期間である1年分の保険料相当額であって、大きな金額にはならないので、債権回収の手段として相当でない。

③対人・対物賠償責任の自動車保険の機能は交通事故における社会的なセーフティネットであり、自動車保険契約が差押債権者により解約されてしまう不利益は重大であること。

④生命保険には、保険契約が差押えられた際に、保険金受取人が差押債権者に解約返戻金相当額を支払うことにより、保険契約を存続させる「介入権」制度が保険法60条に新設されたが、損害保険にはそのような制度は存在しないので、損害保険契約を差押債権者が解約できると解するべきではない。

(イ)①について
たしかに一般的な損害保険(自動車保険・住宅総合保険など)の法的性質はそのようなものと解されており、生命保険におけるような、将来の保険金支払いのために保険料を積み立てた責任準備金・解約返戻金は存在しません(東京海上日動『損害保険の法務と実務』396頁)。

しかし、損害保険においても、積立型の保険は存在します(積立型火災保険、積立型傷害保険など)。これらの保険においては保険期間の満了時に満期保険金が支払われるため、一般的な生命保険に類似した、将来の満期保険金の支払いのため保険料を積み立てた責任準備金・解約返戻金が存在します。

そして、損保分野においても、会社を保険契約者・保険金受取人、社長を被保険者とする積立ファミリー交通傷害保険契約に対する債権者の差押を認める裁判例も出されています(東京地裁昭和59年9月17日判決・『判例時報』1180号212頁(『判例評釈』326号212頁))。

また、生命保険分野・傷害疾病定額保険の分野においても、保険契約者からの解約があった際の解約返戻金をゼロあるいは著しく低額とすることにより、保険料を下げた医療保険・がん保険・定期保険などが、近年、各保険会社から次々と販売されています。これらの保険は、解約返戻金がゼロという点で、むしろ損害保険に類似した保険数理の仕組みをとっています。

このように、差押債権者の取立権の行使が目的を超えるか否かは、対象となる保険商品が生命保険か傷害保険かという二分的な考え方をとるのでなく、生損保商品ともに、当該保険商品が責任準備金・解約返戻金を持つ仕組みを採用しているか否かで判断すべきであると考えられます。そのため、この点を漠然と判断している本件判決の①について私は賛成できません。

(ウ)②について
これも、個人を対象とした自動車保険であれば、自動車やバイクなどは数台にとどまるので、判旨のいうこともわかりますが、同じ自動車保険でも、対象となる自動車等が10台以上の大型契約であるフリート型の自動車保険も販売されています。また、保険期間が5年など複数年度にまたがる自動車保険・損害保険も実務上販売されているところであり、「自動車保険=保険料が廉価」というのは本件裁判の裁判官の思い込みであると思われます。

(エ)③について
自動車保険はモータリゼーションが発達した現代社会では社会的セーフティネットであり、これを保険契約者以外の者が解約すべきではないと本判決は述べていますが、これは上でみた生命保険に関する最高裁平成11年9月9日判決が否定した、「生活保障型・社会保障型の生命保険は保険金受取人ら遺族の生活保障に大事であるから解約すべきでない」とする二分説に先祖返りしているように思われます。

かりに本判決の主張をみとめるとしても、生損保の普及率が高いわが国においては、交通事故の両当事者がそれぞれ自動車保険などに加入していることが通常であり、また、自動車保険の多くには、事故の相手方が自動車保険に加入していなかった場合に備える無保険車事故傷害保険がついているのが通常です。加えて、自賠責保険は強制保険です。

また、任意加入部分の自動車保険は何らかの法律で差押禁止と規定されているわけでもありません。さらに、その解約権は保険契約者の一身専属権であるとする法律の定めも存在しません。

したがって、「自動車保険はセーフティネットだから差押債権者が解約すべきでない」とする本判決の理由づけは正当とは思えません。

(オ)④について
保険法の立案に関する文献をあたってみましたが、保険法60条の規定は生命保険に係るものでありますが、しかし法制審保険法部会などの議事録において、法60条を新設するからには、損害保険は差押債権者などによる保険期間中の中途解約を禁止する意図があることは確認できませんでした(萩本・前掲201頁、萩本修『保険法立法関係資料』10頁)。

むしろ、法制審における保険法の審議の過程では、責任準備金(保険料積立金)の条文だけでなく、解約返戻金についても保険法に条文を置くことが検討されていますが、これは、近年の生損保業界において、解約返戻金ゼロや低解約返戻金など、さまざまな保険新商品が開発され販売されていることから、それを裁判規範を有する明確なルールとして条文化することが困難であったことから見送られたとされています(萩本・前掲211頁、萩本修『保険法立法関係資料』10頁、11頁)。

4.まとめ
以上より、本判決の①から④までの理由づけはあいまいであり、保険法や実務への裁判官の無理解を感じさせます。(保険法や、なぜか保険業法施行規則まで判決文中で検討しながらも、一番重要な普通保険約款についてはほとんど検討していないことも疑問です。)

本判決は、最高裁平成11年9月9日判決の判断枠組みに従って、①解約権の行使は差押債権者が行使しなくては意味がなくなることから取立権の「目的」に含まれること、②自動車保険契約が解約されることにより社会的セーフティネットが失われるリスクについては、民事執行法153条による差押命令の取消や、あるいは解約権の行使が「権利濫用」にあたるような場合はその効力を否定することにより処理すればいいことであり、本事案においては、約1560万円の債権を回収するために、解約返戻金約3万6千円の自動車保険を解約することは、権利濫用(民法1条3項)にあたるとして、結論として、差押債権者Xの請求を棄却すべきであったと思われます。

また、同様の事案においては、対象となる保険契約の種類が生命保険・傷害疾病定額保険か損害保険かに注目するのではなく、その保険契約が保険約款上、解約返戻金を持っているのか否かで、差押債権者による解約の是非を検討すべきであると思われます。

■参考文献
・『金融法務事情』2064号88頁
・山下友信『保険法』658頁
・萩本修『一問一答 保険法』201頁、208頁、211頁
・東京海上日動『損害保険の法務と実務』396頁
・中野貞一郎『民事執行法(増補新訂5版)』670頁
・萩本修『保険法立案関係資料』10頁、11頁など
・生命保険協会『生命保険講座 生命保険計理』73頁
・法務省サイト『法制審保険法部会第12回会議議事録』など
・『判例時報』1689号45頁

保険法(上)

一問一答 保険法 (一問一答シリーズ)

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1.セクハラ被害者は加害者との会話をこっそり録音してよいのか?
4月18日にセクハラ問題の福田・財務省事務次官が辞任しました。ところでネット上をみていると、18日夜ごろから、「セクハラ被害者であっても、相手との会話をこっそりICレコーダー等で録音してよいのか?」という話題がわき起こり、ツイッターでも一時トレンド入りしているのが興味深い状況です。

2.プライバシー権から
プライバシーとは、「私生活をみだりに公表されないという法的保障ないし権利」(東京地裁昭和39年9月28日・「宴のあと」事件)、あるいは「自己に関する情報をコントロールする権利」(自己情報コントロール権)と一般的に定義されます。

そして、自らの発言や会話などは、ときと場合によっては、「私生活をみだりに公表されない」という意味でプライバシーに含まれる可能性があります。

このプライバシー権は、憲法13条に基づく人格権の一つと解されているので、プライバシー侵害は、人格権侵害として、不法行為責任(民法709条)の問題となり得ます。

ところで、民法720条1項はつぎのような条文を置いています。

民法

(正当防衛及び緊急避難)
第720条 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。

つまり、他人から不法行為をされ、自己または第三者の権利等を防衛するため、やむを得ず加害行為(正当防衛)をした者は、不法行為責任を免除されるのです。

この点、裁判例においては、使用者側が従業員の不正行為を調査した事案ですが、調査の必要性を欠いていたり、あるいは、調査の方法が社会的相当性を超えていなければ、本人に調査を行っていることを通知・公表せずに個人情報を取得しても不法行為に該当しないとするものがあります(日経クイック情報事件・東京地裁平成14年2月26日判決、浜辺陽一郎『個人情報・営業秘密・公益通報Q&A』58頁)。

したがって、この裁判例や民法720条に照らして、セクハラ被害者が自分の精神的・身体的安全を図り目的で証拠を保全するために加害者との会話を加害者に内密にICレコーダー等で録音することは、必要性があり、手段として社会的相当性があるのなら、不法行為に該当せず、違法ではないということになります。

3.個人情報保護法から
個人情報保護法2条1項1号は、「生存する個人であって、(略)当該情報に含まれる氏名、生年月日、(略)音声(略)その他一切の事項により特定の個人が識別できるもの」を個人情報と定義し、同法2条2項1号も、電子データ化された音声(声帯データ)は個人識別符号に含まれ、つまり個人情報に該当するとしています。そのため、会話における相手方の音声は、個人情報に該当します。

ところで、個人情報保護法18条1項は、個人情報取扱事業者は、原則として個人情報を取得する際には、利用目的を通知・公表しなければならないと規定しています。しかし、同法18条2項ただし書は、「ただし、人の生命、身体又は財産の保護のために緊急に必要がある場合は、この限りではない」と規定しています。そのため、セクハラ等により現在、まさに被害を受けているような際に、自らを保護するために、証拠を保全するためにICレコーダー等で相手のセクハラ発言を録音することは法18条2項ただし書により許容されることになります。

加えて、個人情報保護法第4章が利用目的の特定、通知・公表など各種の規定を義務付けているのは個人情報取扱事業者であり、つまり「個人情報データベース等を事業の用に供している者」であり、「民間部門の事業者」をさすと解されているので、一般的な従業員はこれに該当しないと思われます。

したがって、個人情報保護法の観点からも、セクハラ加害者の発言を被害者が内密にICレコーダー等で録音することは違法ではありません。

4.セクハラ・パワハラの証拠の集め方
このように、セクハラにおいて被害者側が加害者側の音声を内密に録音することは違法でないことを確認しました。セクハラ・パワハラは証拠が残りにくいため、とくに非正規職員の方など職場において立場の弱い方は、ICレコーダーやスマホの録音アプリなどで、万一の際は証拠を保全すべきです。これらの音声データは、民事訴訟などで法廷に提出された場合、高い証拠能力を持ちます。

また、パワハラで暴力を振るわれケガをした、精神疾患に罹患した、というような場合は、医師に診断書を書いてもらうべきです。あるいは、会社のパソコンにメールで上司等から暴言を書かれたというような場合は、その画面をプリントアウトして保管すべきです。このような客観的なものも高い証拠能力を持ちます。さらに、近年は、職場の同僚の証言なども証拠能力が上がってきているようです。

なお、日々つけているビジネス手帳なども、日時とともにいつどのようなセクハラ・パワハラを受けたかを日々書いてゆけば、これも相当程度の証拠能力を持ちます。パソコン等で作成するより、手書きのほうが証拠能力は高いとされています。(古川啄也『ブラック企業完全対策マニュアル』124頁)。

■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』103頁、82頁
・浜辺陽一郎『個人情報・営業秘密・公益通報Q&A』58頁
・西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』126頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』275頁
・古川啄也『ブラック企業完全対策マニュアル』124頁

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1.「被害女性が名乗り出ない限りセクハラを事実と認定できない」
財務省の福田淳一事務次官が新聞記者に対してセクハラを繰り返してきたと報道されている問題について、4月16日に、財務省は、「事実ではない」という報告書とともに、「被害者記者らは名乗り出て財務省の調査に協力せよ」との趣旨の文書を発表しました。

そして翌17日、麻生財務大臣は、閣議後の記者会見で、福田事務次官のセクハラ疑惑について「状況が分かるように(被害者の女性が)出てこないといけない。申し出てこないと、どうしようもない」と話し、女性が名乗り出ない限りセクハラを事実と認定できないという考えを示したとのことです。(「財務相 被害者名乗り出ないと認定できず セクハラ疑惑」毎日新聞2018年4月17日付より)

しかし、役職員のセクハラという不祥事のおそれが発覚した後の麻生大臣ら財務省の対応には疑問があります。

2.民間企業におけるセクハラ相談窓口・内部通報窓口
使用者は労働者に対して安全配慮義務を負い(労働契約法5条)、男女雇用機会均等法11条は、職場におけるセクハラ防止のために、雇用管理上必要な措置を事業主に義務付けています。男女雇用機会均等法における「労働者」には、公務員も含まれています(法2条2項)。

このような法律の規定を受けて、民間企業は、①セクハラ防止のためのポスターの掲出、②社内研修会の実施、③アンケートを実施して社内の状況を把握、④セクハラ相談窓口の設置、を実施しています。

また、2006年に公益通報者保護法(内部告発者保護法)が施行されたことを受け、民間企業は法務部門などに、内部通報窓口を設置しています。企業によっては、セクハラ相談窓口と内部通報窓口を一つにしているところもあれば、それぞれ設置しているところもあります。しかしどれも存在しないということはありえません。

そして、これらの内部通報窓口等においては、マスコミに報道されり、監督官庁から指摘を受ける前に不祥事の芽をつみ、レピュテーションの低下を回避するために、リスク情報は幅広く収集すべきであるとされ、通報者は社内の役職員に限られず、グループ会社や取引先の役職員なども含まれるべきであるとされています。

つぎに、内部通報窓口等へのアクセス方法は、通報者の選択肢を増やし、リスク情報を幅広く収集するために、面談、電話、電子メール、ファクシミリ、郵便などできるだけ広い範囲とすべきとされています。そして、通報対象の事実に関しても、法令違反に限る等と限定するのではなく、企業行動規範、社会倫理、就業規則などへの違反や、その「おそれ」も含めるべきとされています。加えて、従業員を委縮させないために、内部通報を行っても不利益処分を会社が科すことは法律で禁止されていること、内部通報制度のしくみ等を従業員向けのパンフレットやポスターなどでわかりやすく説明すべきであり、また、従業員を委縮させない観点から、匿名による内部通報も受け付けるべきであるとされています。(西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』122頁)


このように、民間企業における内部告発制度においては、通報者は社内の人間に限られず、また、アクセス方法も郵送などを可とし、さらに匿名での内部通報も受け付ける実務を行っています。

3.国家公務員のセクハラ対応
国家公務員のセクハラ対応については、人事院が、「人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)の運用について」等を発出しており、各省庁に対して、セクハラ防止に関する基本方針・内部規則の策定、研修の実施、セクハラ等の苦情相談を受ける体制整備、などを各省庁の長に義務づけています(規則10-10・4条関係、8条関係)。

しかし、この人事院規則を読むと、民間企業におけるセクハラ防止への取り組みに比べ、国家公務員・人事院側に非常に「お役所的」というか、温度差を感じます。

同規則には、一応、「セクシュアル・ハラスメントの態様等によっては信用失墜行為、国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行などに該当して、懲戒処分に付されることがある。」との規定も存在しますが(別紙1・第1・4)、セクハラの苦情相談の対応の規定を読むと、とにかく被害者から事実を詳細に聞き出し、間違いがないか確認を求める構成となっており、被害者の基本的人権や精神的苦痛への配慮は二の次のようです。

逆に、「加害者には十分に弁明の機会を与える」「セクハラの程度が軽い場合は、加害者本人からの聴取は行わない」など、あたかもセクハラは被害を訴える側が悪く、加害者側は悪くないという前提のうえでこの人事院規則が作られているようにも読めます(別紙2・第2・第3)。

4.まとめ
このように、民間企業におけるセクハラへの取り組みに比べると、もともと国家公務員・各省庁のセクハラへの取り組みはレベルがやや低いようです。

とはいえ、財務省の4月16日付の報告書によると、福田事務次官は「女性が接客するような店舗ではそのような発言をすることもある」「話し相手からそのような話題を振られたら、応じることもある」等の趣旨の発言を調査担当者にしてはばからない人物のようであり、以前より職場の内外でセクハラ的な言動を日常的に行っていたのではないかと推察されます。

この点、男女雇用機会均等法11条がセクハラ防止の取り組みを事業所の長に義務づけていること、まがりなりにも人事院規則10-10が、各省庁の長に、セクハラ防止の各種の取り組みを求めているにもかかわらず、財務省内のセクハラ防止のための体制は長年にわたり機能不全に陥っていたのではないかと推測されます。

さらに、「被害者が申し出てこないことには事実を認めるわけにはいかない」「福田事務次官には人権はないのか」などと発言する麻生財務大臣は、男女雇用機会均等法などのセクハラ関連の法令の趣旨をまるで理解していないとしか思えません。事業所内でセクハラの芽をつめず、週刊誌に事務次官のセクハラ問題をスクープされ、自省のレピュテーションをさらに低下させた財務省の不祥事対応・危機管理対応は、最悪といえます。

なお、「1億総活躍」とか「女性活躍」などと昭和の臭いがする政策を掲げるのも結構ですが、その前に、政府・与党の首脳陣は、自分たちがどんなに一般国民の社会倫理・モラルの感覚からずれているか、把握すべきであると思われます。

■関連するブログ記事
・財務省の福田事務次官がセクハラを否定ー取引先からのセクハラ

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』240頁、263頁
・西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』122頁
・戸塚美砂『管理者のためのセクハラ・パワハラ・メンタルヘルスの法律と対策』182頁、186頁

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