なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年06月

新生銀行の図
(新生銀行サイトより)

1.新生銀行
本年5月初旬に、新生銀行がコンビニなどの提携ATM手数料を原則有料化すると発表しました。

・ニュースリリース「新生ステップアッププログラム」の改定について|新生銀行

このニュースリリースを読むと、新生銀行の関連会社のプリペイドカード「GAICA」にあらかじめ金銭を入金しておくと、従来どおり新生銀行の提携ATM手数料が無料となるように読めます(入金は1万円以上)。

ところが、最近、新生銀行のコールセンターに質問してみると、手数料無料を維持するには、プリペイドカード「GAICA」への入金は1回で済むのではなく、毎月必要とのことでした。つまりコンビニなどのATM手数料を無料とするには年12万円も新生銀行にお布施をしなければならないことになり、これはとても採算のとれた話とは思えません。

新生銀行の関連会社の発行するクレジットカードを毎月利用するなどの方法もあるようですが、当該クレジットカードは初年度は無料なものの、次年度以降はカード年会費5000円がかかるそうで、これも庶民にはレベルが高すぎる話です。

2.ソニー銀行
また、新生銀行に追随するかのように、ソニー銀行も提携ATM手数料の原則有料化をウェブサイトで発表しました。

・外貨預金為替コストならびにATM利用手数料の改定についてのお知らせ|ソニー銀行

こちらは新生銀行のような救済措置(?)すら存在しないようです。

かつて3、4年前に3メガバンクがコンビニなどのATM手数料を原則有料化するようになってきてから、私は新生銀行やソニー銀行を利用してきたので、非常に残念です。

3.結局、メガバンクが良い?
しかしこうなってくると、逆に自社のATMの多い3メガバンクのほうが庶民からみて魅力的にみえます。

例えば、みずほ銀行は、同社のクレジットカードで毎月利用があれば、「みずほマイレージクラブ」制度でみずほ銀行のATMの時間外手数料が無料となり、コンビニ等のATM手数料も4回まで無料となります。さらに、投資信託や公社債などを1口(1万円)以上保有していると、月4回まで他行あて振込手数料が無料となります。

・みずほマイレージクラブ|みずほ銀行

4.余談1:イオン銀行
なお、みずほ銀行はイオン銀行と提携しており、みずほ銀行の利用者はイオン銀行のATMでも手数料なしでお金の出し入れを行うことができます。また、イオン銀行は一定の条件を満たすと、普通預金の金利が何と0.1%以上となるなど画期的なサービスを提供しています。

5.余談2:りそな銀行
準大手銀のりそな銀行は、2年目以降は毎月りそなのデビットカードを利用していないと、りそな銀行の自社ATMすら1回目から有料となってしまうようで、庶民からみて論外であると思われます。

6.まとめ
結局、体力のある3メガバングのATMのほうが、中小銀行よりも庶民にとっては様々な面で使いやすいようです。

日銀のマイナス金利政策の長期化により経営が厳しいのは分かりますが、新生銀行やソニー銀行などが顧客の選別を行い、富裕層のみを自社の顧客としようとしていることは、自分で自分の首をしめているようにも見えます。また、金融庁が掲げる「顧客本位の業務運営」に完全に反していることは間違いありません。

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1.はじめに
プロの総合格闘技選手が激しい練習により捻挫などを受傷したとして約2年間で合計393日分もの過大な通院給付金の支払いを求めたというなかなかマニアックな裁判例が最近出されていました。これは典型的なモラルリスク事案であるといえます(保険金の不正請求事案)。結論として判決は「不慮の事故」に該当しないとして、選手側の通院給付金の支払いの主張を退けています(東京地裁平成29年4月24日判決、『自保ジャーナル』2000号140頁、土岐孝宏『法学セミナー』2018年7月号119頁)。

2.東京地裁平成29年4月24日判決(棄却)
(1)事案の概要
(a)共済契約の内容・約款条項
プロの総合格闘技選手のXは30歳台の男性であり、平成8年にY1共済との間で生命共済契約を締結し、また、Y2生活協同組合との間でも生命共済契約を締結した。

この2件の共済契約は、契約内容の変更などを経つつ本件各事故の当時まで保険期間を1年として毎年自動更新されていた。本件各事故当時、2つの生命共済契約はいずれも保険料が月4000円であり、「不慮の事故」によるケガを対象とする日額3000円の傷害通院共済金の特約が付加されていた。これらの通院共済金は、事故から90日以内の通院を対象とし、かつ通算90日間までを対象とするものであった。

Y1・Y2の生命共済契約の普通共済約款においては、傷害通院共済金の支払い事由となる「不慮の事故」等はつぎのように定義されていた。

ウ 不慮の事故
「不慮の事故」とは、急激かつ偶発的な外来の事故(略)で、かつ、昭和53年12月15日行政管理庁告示第73号に定められた分類項目中下配のものとし、分類項目の内容については「厚生省大臣官房統計情報部編、疾病、傷害および死因統計分類提要、昭和54年版」によるものとする。

そして、本件に関連する分類項目は

「16.その他の不慮の事故」

であり、かつ、

努力過度および激しい運動(略)中の過度の肉体行使、レクリエーション、その他の活動における過度の運動

は支払い事由から除外することが規定されていた。
加えて、通院共済金の支払い事由における通院先については、つぎのように定義されていた。

エ 「病院、診療所等」
「病院、診療所等」とは、次に掲げるものをいう。
(ア)医療法に定める日本国内にある病院または診療所(略)
(イ)柔道整復師法に定める日本国内にある施術所
(後略)

(b)事案の経緯
①本件事故1
平成25年5月8日、Xは自宅において椅子から立ち上がろうとした際に右大腿部に痛みが生じ、右大腿部挫傷の傷害を負い、Xは同日から同年8月13日まで、B接骨院に合計47日間通院した。

②本件事故2
平成25年9月17日、Xは格闘技の練習を行っているCジムにおいて、練習中、足を踏み込んだ際に左股関節に痛みが生じ、左股関節捻挫の傷害を負い、XはB整骨院に合計80日通院した。

③本件事故3
平成26年4月7日、XはCジムにおいて、走った際につまずき、右足間接捻挫の傷害を負い、B整骨院に合計61日間通院した。

④本件事故4
平成26年7月1日、XはCジムにおいてランニング中、滑って転倒し、右手を床についた際に右手関節捻挫を負い、B接骨院に合計90日間通院した。

⑤本件事故5
平成26年9月24日、XはCジムにおいて格闘技の投げの練習中に転倒し、右肩鎖関節脱臼の傷害を負った。そしてD整形外科に4日通院し、その後、B接骨院に合計26日通院した。

⑥本件事故6
平成26年12月1日、XはCジムにおいて格闘技の練習中、左ひざをひねり、左膝内側側副靭帯損傷の傷害を負った。そしてD整形外科に2日間通院し、その後B整骨院に89日通院した。

Xが本件事故1から6までに関する通院共済金の支払いをY1・Y2に行ったところ、Y1らは本件各事故の頻度や通院の状況などから、事故の偶然性や通院の必要性に疑問があるとして通院共済金の支払いを拒んだため、XがY1・Y2を提訴。

(2)判旨
(a)本件事故1~本件事故4について
本件事故1について
『また、本件事故1の発生日時について、 原告が作成した事故状況報告書とB整骨院において作成された施術記録及び施術録の記載に齟齬があり、また、Bが作成した診断書の 「受傷日」 欄が平成25年5月 8日から同月7日に訂正されていることに関し、原告は、B整骨院の施術記録は、治療内容や負傷日の記載が実際と異なると感じるところがあるが、自分もはっきり覚えていない旨供述する。
 さらに、前提事実(7)ウのとおり、原告は、本件事故1の発生日として主張している平成25年5 月8日に、本件ジムにおいてランニングマシンを使用中、右膝を打撲したとして、E株式会社に対して保険金の支払を請求している。この点、原告は、同日のB整骨院での診察において、右膝の打撲については伝えていないが、他の機関等での治療を受けておらず、保険金を請求する際にどのような資料を添付したかは覚えていないと供述し、また、本件事故1 の受傷部位である右大腿部の受傷も、ランニングマシンの使用中に生じたものであると思うなどと、事故発生状況について自らの主張と矛盾する供述をしている。
(略)

   これらの事情に照らすと、B整骨院において作成された診断書、施術記録及び施術録に記載された、原告の怪我の症状、発生原因、治療内容等について信用性を認めることはできず、それは原告本人の供述も同様である。
 よって、上記各書面の記載及び原告本人の供述によっても、本件事故1が発生したと認めることはできない。
 したがって、本件事故1が発生したとは認められないから、 本件事故1に係る共済金支払請求は認められない。

本地裁判決はこのように判示し、本件事故1について、接骨院の診断書およびXの供述は信用できないとして、Xの請求を退けています。そして同様の理由で、本件事故2~本件事故4までのXの請求も退けています。

(b)本件事故5・本件事故6について
本件事故5について
『Xが、 平成26年9月24日、本件ジムの格闘技スタジオにおいて、数人の仲間とスパーリングをしており、一緒に練習していた者と組み合った状態で投げられ、右肩から落ちて床に強打したことにより、右肩鎖関節脱臼の傷害を負ったことが認められる余地がある。
 しかしながら、 原告の主張する事故態様が認められたとしても、Xは、総合格闘家であるところ、本件事故5の際、 Xは仲間とともに、実戦同様、実際に相手を投げるという、 程度の強い練習をしており、本件事故5は、「激しい運動中の過度の肉体の行使」に当たり、「不慮の事故」 に当たらないと解される。
 すなわち、「激しい運動中の過度の肉体の行使」から生じた負傷が、共済金給付の対象である 「不慮の事故」から除外されるのは、肉体を酷使する場面は、そもそも負傷が生じやすい運動であるとの質的な側面、あるいはその強度等により負傷が生じやすいとの量的な側面から、負傷事故が発生しやすく、一般的な共済契約加入者の日常的な生活においては通常想定されない場面であることから、「不慮の事故」の要素たる偶発性を欠くものと考えられるためであると解される。そのうえで、原告のような職業格闘家の、かつ (通常人でも行うであろう基礎トレーニングなどではなく)実戦形式の練習は、格闘技がその性質上、選手同士が体を酷使する面を伴うことが必須であることからしても、負傷する可能性が高いのであり、質的な面で正しく「不慮の事故」から除外すべき、つまり、負傷が偶発的でない場面であるといえる。(略)
 したがって、本件事故5は、「不慮の事故」に当たらないから、本件事故5に係る共済金支払請求は認められない。』

このように本地裁判決は判示し、本件事故5についてXの主張を退けました。同様の趣旨で裁判所は本件事故6についてもXの主張を退け、結局、Xの請求すべてを棄却しています。

5.検討・解説
(1)本地裁判決
本地裁判決は、Xの請求について、本件事故1~4について、B接骨院およびXの供述はあいまいで信用できないとして棄却しています。また、本件事故5・6については、実戦形式の激しいトレーニングであり、「激しい運動中の過度の肉体の行使」に該当し、偶然性を欠くとして「不慮の事故」に該当しないとして請求を棄却しています。これら本地裁判決の判断はおおむね妥当であると思われます。

(2)「激しい運動中の過度の肉体の行使」
生命保険などにおける災害給付金・傷害給付金等の支払事由から「激しい運動中の過度の肉体の行使」が対象外とされている理由としては、「身体の自然な衰弱化の経過によるものであり、外来性・急激性・偶発性を充足しないため」と解説されています(日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』243頁)。この点、本地裁判決は実戦形式による激しい格闘技のトレーニングは不慮の事故の偶発性を欠くとしており、この点も妥当であると思われます。

(3)「激しい運動中の過度の肉体の行使」はプロ選手・若年層に不公平なのか?
ところで、『法学セミナー』2018年7月号119頁の本地裁判決の判例評釈において、土岐孝宏教授は、「激しい運動中の過度の肉体の行使」要件について、激しい運動によりケガを起こしやすいプロ選手・若年層に不利で、高齢者に有利ではないかとの問題提起を行っておられます。

しかし、保険が成り立つためには、保険者(保険会社)が引き受ける危険の程度が数量化でき、合理的尺度で測定できなくてはなりません。つまり、同一保険料で同一の保障を受ける被保険者集団は同質の危険度を有するものの集団でなければなりません(危険均一性の原則)。たとえば標準の危険の集団に、より高い危険を有するものが混入した場合、集団の利益を損ねることになります(生命保険協会『生命保険講座 生命保険総論』17頁、長谷川仁彦『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』59頁)。

たとえば生命保険実務においては、保険の引き受けにおいて、被保険者の健康状態等だけでなく、被保険者の職業も審査の対象となります。保険各社は「審査基準」というリストにより健康状態や職業等を審査しますが、プロボクサーやパイロットなどは保険金額の上限が普通の被保険者より低く条件付けされる等の基準が設定されているのが通常です。

つまり、保険各社の一般的な個人向け生命保険商品は、一般的な職業の国民をメインの被保険者と想定しており、総合格闘家やプロボクサーなど危険な職業はメインの顧客ではないのです。「激しい運動」などによるケガなどは、一般の生命保険が引き受けるべきリスクとして想定されていないので、支払対象外の規定が置かれているのです。

(4)モラルリスク・不必要通院
ところで本件は、被保険者(給付金請求者)が捻挫など患者の主観面の要素が強い傷病により、1事故につき40日から90日もの通常ではありえない日数の通院を行っており、しかもその通院先は接骨院となっています。元保険金・給付金支払査定担当の人間からすると、これは給付金の不正請求が強く疑われるモラルリスク事案であると考えられます。

保険会社各社の約款には、「重大事由による解除」の約款条項が置かれており、そのなかには「保険金請求者による詐欺」も含まれています。この重大事由による解除は保険法57条、86条にも盛り込まれています(長谷川・前掲187頁)。本件は事案の悪質性に鑑み、Y1・Y2の各共済は、通院給付金の不払いを主張するだけでなく、重大事由による解除を適用する余地もあったのではないかと思われます。

(5)保険会社の調査と被保険者のプライバシー
なお本件においては、Xは保険会社の調査員による調査(事実の確認)は被保険者のプライバシーの侵害であるという争点も争っています。この点、本地裁判決は、「合理的な範囲を超えない調査はプライバシーの侵害にあたらない」との判断を示している点も注目されます。(なお、保険実務においては、保険会社の調査員が調査を開始するにあたり、被保険者の書面による同意を得たうえで調査に着手します。)

■参考文献
・『自保ジャーナル』2000号140頁
・土岐孝宏『法学セミナー』2018年7月号119頁
・生命保険協会『生命保険講座 生命保険総論』17頁
・長谷川仁彦『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』59頁
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』243頁

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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ベネッセトップ
(ベネッセのウェブサイトより)

1.はじめに
本日の日経新聞によると、2014年のベネッセの個人情報漏洩事件に関する個人情報が漏洩した被害者約180人による損害賠償を求める民事訴訟において、東京地裁は「慰謝料が発生するほどの精神的苦痛は発生していない」として被害者側の訴えを退けたとのことです(東京地裁平成30年6月20日判決)。これには驚いてしまいました。

・個人情報流出「慰謝料生じず」ベネッセ事件で東京地裁、賠償請求退ける|日経新聞

■関連するブログ記事
・ベネッセの個人情報漏洩事故につき経産省ガイドラインの法的拘束力を認めるも情報処理推進機構のガイドラインの拘束力は認めなかった裁判例-千葉地判平成30・6・20

2.ベネッセ事件に関する平成29年10月の最高裁判決
このベネッセの個人情報漏洩事故に関しては、別の被害者らによる民事の損害賠償請求訴訟が提起されており、地裁・高裁が被害者側の主張を認めなかったところ、最高裁はつぎのように述べて被害者側の主張を認め、事案を大阪高裁に差し戻しているところです(最高裁平成29年10月23日判決)。

『本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)、上記事実関係によれば、本件漏えいによって、上告人は、そのプライバシーを侵害されたといえる。
 しかるに、原審は上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無およびその程度について十分に審理(していない。)』

3.早稲田大学講演会リスト提供事件
この平成29年の最高裁判決が引用している最高裁平成15年9月12日第二小法廷判決とは、早稲田大学で当時の中国の元首が講演をした際にそれを聴講した学生らの氏名、住所などのリストを大学当局が学生らに無断で警察当局に提供したという事件です。

この平成15年の最高裁判決は、ごくおおまかに要約すると、「たとえ氏名、住所などの情報は私的な情報として秘匿されるべき程度が低いとしても、それらの情報と、中国の要人の講演会に出席していたという情報がセットで第三者に提供されたことにより、本人の思想・信条などが推知されることとなるので、プライバシー権の侵害はあったといえる」というものです。

つまり、平成29年10月の最高裁は、平成15年の早大講演会リスト提供事件の判例を引用することにより、「氏名、住所などの情報は個人情報として保護されるべき程度が低い」と言い切ってしまったかつての住基ネット訴訟における最高裁判決とは違った立場をとっているのです。

4.本日の東京地裁判決を考える
今回のベネッセ個人情報漏洩事件においても、顧客の生徒・その親などの氏名、住所などが漏洩しただけでなく、それらの個人情報が、ベネッセの会員であった、ベネッセの〇〇の講座を受講していた等の情報とセットで漏洩してしまっています。

その結果、生徒やその親がベネッセの会員であり、進学に関心をもっていることなどの秘匿されるべきプライベートな事柄がセットで漏洩してしまっているのですから、従来の住基ネット訴訟判決ではなく早大講演会リスト提供事件の判断枠ぐみを採用すべきことは明らかです。

ところが、本日出された東京地裁の判決は、住基ネット訴訟の「氏名、住所などの個人情報はかりに漏洩しても私的な情報として価値が低い」という点を重視しているようであり、法的判断を誤っています。もし大学法学部の憲法の期末試験などで学生がこんな答案を書いたら単位はもらえないでしょう。

5.出産予定日などの情報の漏洩
なお、今回のベネッセ個人情報漏洩事件においては、妊娠中の女性の出産予定日というデリケートな個人情報も漏洩してしまっています。近年改正された個人情報保護法は、病歴などのセンシティブ情報を「要配慮個人情報」として明文化しました(2条3項)。妊娠している事実や出産予定日などは病歴ではありませんが、それに準じるセンシティブな個人情報です。

このようなデリケートでプライベートな度合いの高い個人情報が漏洩しているのに、「精神的損害は発生していない」とする本日の東京地裁が正しいとは、この点でも思えません。

6.お詫び料と損害賠償
さらに、本東京地裁判決は、ベネッセが被害者の顧客らに対して一人あたり500円の「お詫び料」を支払っていることも総合考量において重視して、「原告らに精神的損害はない」との判断をしているようです。しかしこの点も正しくありません。

お詫び料とは、あくまでも加害者企業が被害者顧客に対して「誠意の意思」を示すことや、「企業イメージの低下を防ぐため」に出捐する金銭であって、損害賠償とは性質が異なります。東京地裁は考慮してはならない事項を考慮して判決を出しているので、この点も間違っています。

本日の東京地裁判決に関しては、原告らが即日控訴したそうであり、東京高裁などがまともな判断を出すことが待たれます。

7.具体的な損害額の値段
ところで、上級審がベネッセ側の損害賠償責任を認めたとして、具体的な損害賠償額がいくらとなるかも気になる点です。

この点、大組織による個人情報漏洩事故における被害者の損害が争点となったリーディングケースである、宇治市住基台帳漏洩事件においては、被害者一人あたり1万円の損害が認定されました(大阪高裁平成13年12月25日判決)。

また、上でみた早稲田大学事件においては、被害者一人あたり5000円の損害が認定されています。

さらに、女性のスリーサイズなどの情報を含む個人情報の漏洩が問題となった、TBC事件においては、被害者一人あたり1万7000円または3万円の損害が認定されています。

したがって、つぎの東京高裁が被害者側の損害の発生を認めた場合、その金額は、出産予定日などのセンシティブな個人情報が漏洩してしまった被害者については1万7000円~3万円、それ以外の被害者については5000円~1万円の損害が認定されるのではないかと思われます。東京高裁のまともな判断が待たれます。

■関連するブログ記事
・ベネッセの個人情報流出事件の民事訴訟(最高裁平成29年10月23日)ー損害賠償額はいくらに?

■参考文献
・竹内朗・鶴巻暁『個人情報流出対応にみる実践的リスクマネジメント』37頁
・棟居快行「講演会参加者リストの提出とプライバシー侵害」『憲法判例百選Ⅰ 第6版』44頁
・日経コンピュータ『あなたのデータ、「お金」に換えていいですか?』60頁、61頁

個人情報流出対応にみる実践的リスクマネジメント (別冊NBL (No.107))

プライバシー大論争 あなたのデータ、「お金」に換えてもいいですか?

ニッポンの個人情報 「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ

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警察庁
(警察庁サイトより)

5月下旬にcoinhiveなど仮想通貨マイニングのプログラムについてブログ記事を書きましたが、つい最近の新聞各紙によると、とうとう警察当局が大々的に動き出したようです。

■関連するブログ記事
・サイト等にCoinhive等の仮想通貨マイニングのプログラムを設置するとウイルス作成罪(不正指令電磁的記録作成罪)が成立するのか?

6月14日にはつぎのような報道が新聞各紙で行われました。

・違法マイニングで16人摘発 10県警、仮想通貨獲得で不正アクセス|産経新聞

記事タイトルのとおり、全国の10県警が16人の容疑者を不正指令電磁的記録作成罪の疑いで摘発したとのことです。

この問題に関して、新聞の取材に対し、産業技術総合研究所の高木浩光主任研究員は「(HPが閲覧者の)CPUを使うのは表現(方法)の一部として日ごろ行われていることだから、『意図に反する動作をさせる』に該当しない」とコメントしておられます。

・仮想通貨マイニング初立件 「不正採掘」真っ向対立 警察「PC無断使用」/弁護側「合法」|毎日新聞

ところで、6月15日には、警察庁は仮想通貨マイニング(仮想通貨マイニングツール)についてつぎのような注意喚起をサイト上で発表しています。

・仮想通貨を採掘するツール(マイニングツール)に関する注意喚起|警察庁サイバー犯罪プロジェクト

この注意喚起においては、警察当局が仮想通貨マイニングについて、とくに「自身が運営するウェブサイトに設置する場合であっても、マイニングツールを設置していることを閲覧者に対して明示せずにマイニングツールを設置した場合、犯罪になる可能性があります。」と、「サイト閲覧者にマイニングツール設置を明示しているか否か」を犯罪の成立のポイントとして重視していることがうかがわれます。

したがって、今後も自身のウェブサイト等にcoinhiveなどの仮想通貨マイニングのプログラムを設置しようと考えている方は、当該ウェブサイトにはマイニングツールを設置していることを明示する必要があると思われます。

Q&A インターネットの法的論点と実務対応 第2版

基本刑法II 各論 第2版

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1.はじめに
判例雑誌を読んでいたところ、火災保険契約の保険金の不払いについて、保険契約者・被保険者ではなく、建物の所有権者が当該火災保険契約の真の被保険者は自分であるとして、その論証として、火災保険の被保険者を「保険の対象の所有者で保険証券に記載されたもの」とする保険会社の約款条項は保険法2条4号に反し無効であると主張しているややめずらしい裁判例がありました(神戸地裁平成29年9月8日判決・『判例時報』2365号84頁)。

2.神戸地裁平成29年9月8日判決(棄却・確定)
(1)事案の概要
原告X1は、住宅建物など2棟(以下「本件建物」とする)の所有者であった。本件建物には、X1の姪であるX2と、X1の妹夫婦が同居していた。

平成27年5月27日、X2は損害保険会社Y(東京海上日動)との間で、保険期間を3年、保険契約者兼被保険者をX2、保険の対象を本件建物とする火災保険契約(「住まいの保険」)を締結した(以下「本件保険契約」という)。保険金額は建物2400万円、家財300万円であった。

本件保険契約の約款にはつぎのような条項があった。

第4条(被保険者)
 この住まいの保険普通保険約款において、被保険者とは、保険の対象の所有者で保険証券に記載されたものをいいます。

第5条(保険金をお支払いしない場合)
 当会社は、下表(抄)のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては、保険金を支払いません。
①次のいずれかに該当する者の故意もしくは重大な過失または法令違反
 ア 保険契約者
 イ 被保険者
 ウ (略)
 エ アまたはイの同居の親族

平成27年12月26日午後11時すぎに、本件建物で火災が発生し本件建物および内部の家財はすべて焼損した。X1・X2らの保険金請求に対してYは免責条項(同居親族の重過失)を理由として保険金の支払いを拒んだため、X1らがYを名宛人として本件訴訟を提起した。

本件訴訟においては、①X1は被保険者に該当するか、②本件では同居親族の重過失による免責条項が適用されるか、の2点が争点となった。(②については本ブログ記事では省略。)

X1は、争点①に関して、“保険法2条4号イによれば、損害保険契約によっててん補することとされる損害を受ける者以外の者は、当該契約の被保険者になることはできない。しかるところ、X1は本件建物の所有者であり、その損害のてん補を受けるべき地位にあった以上、本件保険契約の被保険者に当たることは明らかである。そうするとX1以外の者を被保険者とする本件約款4条および本件保険証券は無効というべきである。”等と主張した。

(2)判旨
X1の主張について
(略)しかし、損害保険契約の被保険者が誰であるかということは、契約の内容がその当事者の自由な意思に委ねられるという一般原則に基づき、当該損害保険契約の当事者、すなわち、保険者(保険会社)と保険契約者の合意により定まることは明らかである。このことは、保険法上も、損害保険契約を締結したときは、保険者は、保険契約者に対し、「被保険者の氏名又は名称その他の被保険者を特定するために必要な事項」を記載した書面を交付しなければならないとしていること(6条1項3号参照)から明らかである。

 この点、保険法2条4号イは、損害保険契約の被保険者とは、損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者をいうと定めているから、当該損害保険契約の当事者が上記の者以外の者を被保険者と定めた場合には、当該損害保険契約は無効になると解される。この点、同号イは、(損害保険契約の性質に照らし)、契約の内容はその当事者が自由に定めることができるという一般原則を修正する趣旨のものであると解される。

 そうすると、損害保険契約の当事者が、保険法2条4号イ所定の要件を満たさない者を被保険者と定めた場合には、たとえ客観的には同要件を満たす者が他に存在するとしても、その者は、当該損害保険契約の当事者から被保険者と定められていない以上、同号イの定めから直ちに、当該損害保険契約の被保険者に当たるとはいえないといわざるを得ない。

 したがって、本件約款が、本件保険契約の被保険者の要件として、「保険の対象の所有者」に加えて「保険証券に記載されたもの」と定めていることは、以上の説示に沿ったものであるから、保険法に反する無効なものであるということはできない。』

このように本判決は争点①について判示し、争点②についてもX1らの親族による重大な過失を認定し、結論としてX1・X2の主張を退けました。

3.検討・解説
損害保険契約とは、保険者が一定の偶然の事故(保険事故)によって生ずることのある損害をてん補することを約する保険契約をいいます(保険法2条6号)。そして、損害保険契約における被保険者について、保険法2条4号イはつぎのように定義しています。

保険法
第2条
  被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。
   損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者
  (略)

つまり、保険法上、損害保険の被保険者とは「損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者」となっています。すなわち、損害保険契約においては、生命保険契約等と異なり、被保険者は保険金請求権者でもあることになります(萩本修『一問一答保険法』33頁)。

これは、損害保険契約においては、利得禁止原則(被保険者は保険により不当な利得を得てはならないとする原則)が妥当し、この原則を貫徹するために、保険事故の発生について経済的な利害関係の存在(被保険利益)が必要とされ、その帰属主体を被保険者とし、また、同じく利得禁止原則および被保険利益の考え方より、被保険利益の帰属主体としての被保険者は保険金請求権の帰属主体となるからであるとされています(山下友信『保険法(上)』89頁)。

そして、平成20年の保険法成立前の旧商法において、保険の対象が保険契約者兼被保険者の所有する不動産であることを前提に損害保険が締結されたところ、実際には当該被保険者の所有物でなかった事例において、判例は当該損害保険契約は無効と解していました(最高裁昭和36年3月16日判決・高田桂一『損害保険判例百選 第2版』12頁)。

4.まとめ
今回の本神戸地裁判決は、この昭和36年の最高裁判決が、保険法施行後も判例として有効であることを裁判所が確認した点に意義があるものと思われます。

また、損害保険契約の被保険者が保険法2条4号イに照らして真の被保険者ではなく当該損害保険契約が無効となる際に、保険法2条4号イが実質上の被保険者にみえる者を当該保険契約の真の被保険者とする作用は持っていないと本神戸地裁判決が判示している点も注目されます。

なお、本神戸地裁判決が、本件火災保険の保険約款4条が被保険者を「保険証券に記載のある者」と定義していること自体を違法としていないことは、民事における契約自由の原則と、それに修正を加える保険法とのあり方を考えると妥当であると思われます。

■参考文献
・『判例時報』2365号84頁
・山下友信『保険法(上)』89頁
・萩本修『一問一答保険法』33頁
・高田桂一『損害保険判例百選 第2版』12頁

保険法(上)

一問一答 保険法 (一問一答シリーズ)

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