なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年06月

DSC_0629

本日、新宿南口の近くのビルの一角の「新宿駅前テストセンター」というところで、きんざい(金融財政事情研究所)のコンプライアンス・オフィサー・生命保険コースの試験を受けてきました。私にとってこの資格試験が斬新だったのは、紙ベースの問題を解くのでなく、受験生に一台割り当てられたパソコンのモニター画面上の問題を解くという「CBT試験」であったことです。

やや早めに試験会場に行くと、CBT方式なのでそもそも試験運営団体から受験票などが郵送されてこないので、運転免許証などの本人確認の書類の提示を求められます。また、不正行為防止のためとのことで、スマホを電源オフにして鞄に入れロッカーに入れるよう指示され、さらに腕時計までロッカーにしまえと指示されたことには驚きました。また衣服のポケットのなかのものはすべてロッカーに入れること、紙屑なども不可とのことで、なんだか不安になってきます。さらに試験前の説明の際に、不正がないかあなたのかけているメガネを見せてくださいと言われたことも驚きました。この試験の受託団体のCBT-Solutionsという会社は、受験生を人権のない犯罪者または囚人か何かだと思っているのでしょうか・・・。

それはともかく、自分の席にたどりつき、モニター画面で試験を開始しましたが、紙ベースの問題と違ってこれがまた解きにくい・・・。私はいつもこういう選択肢形式の試験は、それぞれの選択肢に自分なりに〇あるいは×とつけて解いてゆくのですが、パソコンモニターではそうもいきません。なんだか自分のペースをつかめぬまま、時間だけが経ってゆくような気がします。

とはいえ、だらだらやっていてもしかたないので、ある意味適当に50分くらいで50問一応回答し、終了ボタンを押すと、なんとか合格していました。

DSC_0632(2)


この成績表のプリントアウトを出口でいただき、終了です。問題集の説明などによると、CBT方式は合格証などの郵送もないそうで、何だかわびしいものがあります。また、わびしいというと、問題冊子を持ち帰ることができないのも悲しいものがあります。(我ながら年寄りの発想。)

しかしこのようにして、電子媒体による試験を受けてみると、武雄市などの学校で実験的な取り組みが行われ、今後、全国の学校で導入が予定されているという、タブレット端末を教科書として使う授業はあまりうまくいかないのではと懸念を抱きました。 今回私が受けたような頭の上だけでなんとかなる簡単な試験(失礼)であればともかく、たとえば法律関係でいえば、司法試験、司法書士試験、行政書士試験の民法などは、事例問題は自分で図を書きながらでないと正解にたどりつけません。小中高の算数や数学、物理、化学などの理系科目もそうではないでしょうか。安直にタブレット端末を教科書替わりに学校に導入すると、「若者の勉強離れ」が発生してしまいそうな予感がします。

なお、これは試験前に2018年度の問題集をやっていたときも気になっていたのですが、本試験も、2年前の保険業法の大改正で導入された意向把握義務・説明義務や乗合保険代理店の体制整備義務にまったく触れていませんでした。きんざい・金融財務研究所といえば、金融・保険業界に業界雑誌や専門書籍などを多数出している老舗出版社なのですが・・・。







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

1. はじめに
労働契約法20条は、“職務内容や責任などが同一であれば、有期雇用契約の労働者が無期雇用契約の労働者に比べ、不合理な取り扱いを受けることは許されない”旨の条文ですが、この20条に関して、平成30年6月1日に二つの最高裁判決が出されました(ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件)。

この二つの最高裁判決のうち、とくに労働者が定年後再雇用されたことは労働契約法20条の「不合理」な格差の判断要素となるか否かが争われ、判断要素に該当するとして原告・労働者側の主張を退けた判決(長澤運輸事件)は人事・労務の実務に対する影響が大きいものと思われます。

2.最高裁平成30年6月1日判決(平成29(受)442地位確認等請求事件・長澤運輸事件)
(1)事案の概要
運送会社「長澤運輸」でセメントタンク車の運転手として定年まで正社員として勤務してきた原告3名(以下「X」という)は、退職後、嘱託社員として再雇用された。業務内容や責任などはそれまでと同一であったが、賃金は退職前に比べて約2割から3割程度減額された。そこでXらが長澤運輸(以下「Y」とする)に対して、職務内容が同一なのに賃金格差を設けることは労働契約法20条に照らして不合理として出訴したのが本件訴訟であった。 

第一審(東京地裁平成 28 年5月 13 日判決)は、労働契約法20条に照らして「職務内容や責任が同じなのに賃金の格差を設けることは特段の事情がない限り不合理」としてXらの主張を認めた。

これに対して、第二審(東京高判平成 28 年 11 月2日判決)は、減額幅は2割程度で同規模企業の平均より小さいとして、「職務内容が変わらないまま一定程度減額されることは広く行われており社会的に容認されている」としてXらの主張を退けた。

(2)本件最高裁の判旨
労働者の賃金に関する労働条件は,労働者の職務内容及び変更範囲により一義的に定まるものではなく,使用者は,雇用及び人事に関する経営判断の観点から,労働者の職務内容及び変更範囲にとどまらない様々な事情を考慮して,労働者の賃金に関する労働条件を検討するものということができる。

また,労働者の賃金に関する労働条件の在り方については,基本的には,団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きいということもできる。そして,労働契約法20条は,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する事情として,「その他の事情」を挙げているところ,その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。』

『使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合,当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして,このような事情は,定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって,その基礎になるものであるということができる。

そうすると,有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。

そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の-賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。

『さらに,嘱託乗務員は定年退職後に再雇用された者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上,被上告人は,本件組合との団体交渉を経て,老齢厚生年金の報酬比例部分の支給が開始されるまでの間,嘱託乗務員に対して2万円の調整給を支給することとしている。』

これらの事情を総合考慮すると,嘱託乗務員と正社員との職務内容及び変更範囲が同一であるといった事情を踏まえても,正社員に対して能率給及び職務給を支給する一方で,嘱託乗務員に対して能率給及び職務給を支給せずに歩合給を支給するという労働条件の相違は,不合理であると評価することができるものとはいえないから,労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。

このように判示して、最高裁はXらの主張について精勤手当以外の部分を退けました。

3.検討・解説
(1)労働契約法20条の趣旨
正社員つまり無期雇用契約の労働者に対する、有期雇用契約の労働者の賃金その他の労働条件の格差の問題は、従来より雇用上の差別として多くの議論を集めてきました。この問題に関しては、近時、いわゆるパートタイム労働法において、賃金・福利厚生施設の利用などにおいて差別的取り扱いを禁止する立法がなされました(いわゆる「均等取扱い」(同一労働同一賃金))。(ただしこの規定は、対象となるパートタイム労働者の要件が厳しいなどの問題点があります。)

労働契約法20条は、この考え方に沿う条文ですが、第一に一般法としての労働契約法に規定が設けられた点、第二に「均等取扱い」ではなく「不合理な労働条件の禁止」という新たな類型を設置したことに特色があります。すなわち、使用者側からみて、「均等取扱い」にくらべて「不合理な労働条件の禁止」はややゆるやかな禁止規定といえます。

労働契約法

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
第20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

(2)労働条件の不合理な相違(格差)の禁止
労働契約法20条は、労働条件の相違(格差)が、職務の内容および配置の変更の範囲、職務上の責任などを総合考慮して、不合理であることを禁止しています。このように、有期契約労働者の職務内容を「考慮」しながら、不合理な労働条件を禁止するということは、そこに多用な労働条件のなかでそれらとのバランスを考慮しながら不合理な労働条件の禁止をおこなうものです。

20条は、労働条件の相違が不合理であるかの判断において考慮すべき要素として、①労働者の業務の内容および当該業務に伴う責任の程度、②当該職務の内容および配置の変更の範囲、③その他の事情、の3点をあげています。

そして、本最高裁判決においては、「③その他の事情」がとくに重視されています。

本最高裁判決は、ごくおおざっぱに要約すると、「たしかにXらは再就職前と同じ職務内容、職務の責任、配置転換の範囲なども同じであるが、定年まで正社員として勤務してきたのだから厚生年金など公的年金を受給することができるので、定年後の再就職は「その他の事情」に該当し、総合考慮の結果、Xらの年収の低下は「不合理」な格差ではなく、労働契約法20条違反とならない。」となると思われます。

(3)厚労省の平成24年の通達
ところで、厚労省の平成24年の労働契約法の一部改正の施行に伴う通達(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」第5の6(2)オ)は、20条の「その他の事情」についてつぎのように説明しています。

『「その他の事情」は、合理的な労使の慣行などの諸事情が想定されるものであること。 例えば、定年後に有期労働契約で継続雇用された労働者の労働条件が定年前の他の無期契約労働者の労働条件と相違することについては、定年の前後で職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲等が変更されることが一般的であることを考慮すれば、特段の事情がない限り不合理と認められないと解されるものであること。』

・平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」|厚労省

この厚労省の通達を読むと、本最高裁判決の、「公的年金が受給できるから、退職後の再就職は「その他の事情」に該当し、年収など労働条件を下げることは「不合理」な格差ではない」との主張はやや苦しいと思われます。

4.まとめ
厚労省の通達は、一般論として、定年後再就職をすると職務の内容や責任などが低下するので、賃金などの労働条件が下がってもしかたないと言っているにすぎません。(この点は私も納得できます。「ノーワーク・ノーペイの原則」。)

一方、本件最高裁判決は、ざっくりと一言でいうと、「公的年金があるから文句いうな」となるわけですが、公的年金は国民が支払った保険料の対価であって、労働関係上の、たとえば退職金が「賃金の後払い的性質」を有することとはまったく別の、労働関係の外部の制度であるはずです。そのようなものを「その他の事情」の総合考慮の要素に含めてしまったよいのでしょうか。

また、現在政府において、公的年金の支給開始年齢を原則65歳から70歳に後ろ倒しにすることが検討されています。この動きは今後も続くでしょう。このような公的年金の「崩壊」を最高裁はどのように考えているのでしょうか。

このように本件最高裁判決をみてみると、本件YがXら定年後再雇用の労働者に対しておおむね8割の賃金を準備していること、定年後再雇用の労働者に対しては賃金が定年前より下がるという社会的慣行がわが国にあることから、結論にはおおむね賛同できます。しかし、その理由付けとして、「公的年金があるからいいでしょ」は、最高裁判決にしてはちょっと乱暴すぎるのではと思われます。

■参考文献
・西谷敏・野田進・和田肇『新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法』429頁
・荒木尚志・菅野和夫・山川隆一『詳説 労働契約法 第2版』227頁

詳説 労働契約法 第2版

新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法 別冊法学セミナー (別冊法学セミナー no. 220)

このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

金融庁プレート

1.明治安田生命保険の遺伝子検査に関する見解の新聞報道
Fintech(フィンテック)という言葉がもてはやされるようになった2016年4月に、大手生命保険会社の一つである明治安田生命保険が、人の遺伝子の情報を保険サービスに活用する検討に入ったことが新聞報道されました。

・明治安田生命 遺伝情報、保険に活用検討 病気リスクで料金に差も|毎日新聞

しかしこれは、顧客が生命保険契約に加入する際に、遺伝子情報の内容により、保険料が割高となったり、あるいは保険金額が削減されたり、最悪の場合、顧客が保険加入を断られるリスクが発生する危険があります。そもそも保険とは多数の顧客が加入することにより、広くリスクを分散する、相互扶助の制度であるにもかかわらずにです。

平成27年に改正された個人情報保護法は、「要配慮個人情報」に関する条文を新設し(法2条3項)、病歴などのセンシティブ情報(機微情報)に該当する個人情報は特に厳格な取り扱いが必要と定めました。この要配慮個人情報には遺伝子検査の結果も含まれています(個人情報保護委員会「個人情報保護ガイドライン(通則編)」2-3(8))。また、最近、IT企業などが実施している消費者直版型遺伝子検査(DTC)の結果もこれに含まれます(個人情報保護委員会Q&A1-26、岡村久道『個人情報保護法 第3版』91頁)。

また、アメリカやドイツなどでは、遺伝子情報に基づく進学・就職・保険への加入などにおける差別を禁止する遺伝子差別禁止法が制定されていますが、日本にはそのような法律は未だ存在していないのが現状です。

■関連するブログ記事
・遺伝子検査と個人情報・差別・生命保険/米遺伝子情報差別禁止法(GINA)
・明治安田生命保険が保険の引受け審査に遺伝子情報の利用を表明/ドイツ遺伝子診断法

2.保険法学界の反応
このような一部の生命保険会社の前のめりな姿勢に対して、学説はつぎのような批判的な見解をとっています。

『保険加入のために(加入者の側が)遺伝子検査を受けることを強制されることは自己決定権を侵害することになる。既に遺伝子検査を受けており何らかの異常があることが判明している場合に、自分自身では如何ともしがたい遺伝子情報を理由に保険への加入を拒絶されることは不当な差別である。また生存に不可欠な保険に加入する権利を脅かすものである』(山下友信『保険法(上)』(2018年6月)418頁以下)。


3.金融庁の反応
そして、監督官庁である金融庁も2018年2月のプレスリリースのなかで、このような一部生命保険会社のスタンスをつぎのように牽制しています。

4.「遺伝」情報の取扱いについて
○ 先日、全ての生保会社および損保会社を対象に、約款および事業方法書等に「遺伝」関連の文言が残っていないかの調査を行ったところ、約款に4社、事業方法書等に 33 社、「遺伝」関連の文言が確認された。(略)

○ 各社におかれては、これまでも遺伝的特徴に基づく不当な差別的取扱いの排除に努めているものと承知しているが、今後とも、役職員に対する教育を徹底するなど、引き続き適切に対応してほしい。

・生命保険協会(平成30年2月16日)(PDF:75KB)|金融検査・監督の考え方と進め方|金融庁

4.まとめ
このように、学界や監督官庁から、遺伝子検査の結果などを生命保険の引き受け審査に利用することは、顧客への差別などにつながるので許容されないとの見解が出されている以上、明治安田生命をはじめ、一部の前のめりな生命保険各社は、遺伝子検査情報に関するスタンスを今一度確認する必要があります。

一部の医療機関でない民間IT企業などによる安易な通販型の遺伝子検査(消費者直版型遺伝子検査(DTC))がすでに行われる一方で、わが国においては未だ遺伝子検査・遺伝子情報の取扱について社会的議論が深まっているとはいえない状況にあり、米独などのような遺伝子差別禁止法も制定されていません。

このような社会情勢のなか、生命保険会社が急性に遺伝子検査情報を保険の引き受け査定などに利用することは、社会からの生命保険業界全体への厳しい批判や信頼低下を招くおそれがあります。

また、消費者も占いでも楽しむように安易な感覚で民間企業の遺伝子検査を受けることは避けるべきです。軽い気持ちで検査を受けて、入学、就職、保険への加入など人生における重要な事柄を台無しにしてしまいかねません。

■参考文献
・山下友信『保険法(上)』(2018年6月)418頁以下
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』91頁







このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック

↑このページのトップヘ