なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年07月

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1.はじめに
平成28年に、ホテル内のテナントのマッサージ店が利用者に施術のミスで重い障害を負わせたことにつき、マッサージ店だけでなくホテルに対しても名板貸の責任を認めた興味深い裁判例が出されていました(大阪高裁平成28年10月13日判決・確定)。

2.大阪高裁平成28年10月13日判決(確定)
(1)事案の概要
Xは、ホテルY1に宿泊して滞在中、Y1内のマッサージ店Y2でのマッサージ施術を受けたが、その施術過誤により両下肢の機能不全による身体障害4級の障害を負った。なお、マッサージ店Y2はY1との間の出店契約に基づいてホテル本館の男湯と女湯との中間に位置する賃貸部分で営業を行っていたが、入口に扉はなく、またその入口には屋号であるY2 の看板ないし表記はなかった。また、ホテル館内の館内案内板にも、Y2部分は「マッサージコーナー」と表記されているだけであった。

そこでXは、Y2には施術において被施術者の生命・身体を侵襲しないよう注意して施術を行うべき契約上の不随義務および施術者としての注意義務に違反したとして、Y2に対して債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、Y1に対しては会社法9条の類推適用による名板貸の責任を主張して損害賠償の請求を求めたのが本件訴訟である。原審および本高裁判決はXの主張を認めた(確定)。

(2)判旨
『本件マッサージ店にはY1のロゴが記載されていたタオルが常備されていたが、本件マッサージ店の屋号を記載したタオルは置かれておらず…本件マッサージ店の経営主体がY1以外であることを積極的に示す表示はなく、むしろ、Y1の一コーナーとしてY1が経営主体であるかのような誤認を利用者に生じさせる外観が存在していたものと認められる。』

『本件施術が行われた当時、本件マッサージ店の営業主体がY1であると誤認混同させる外観が存在したと認められる。そして、そのような外観の存在を基礎づける要素のうち、本件イラストマップ、本件案内図などの記載は、Y1自身が作出したものであり、また、本件マッサージ店の看板、張り紙等については、本件協定書の合意に基づいて、Y1がY2に是正を求めることができたものである。(略)また、(略)看板内での配置などに照らし、Xがこれを見落としたことについて重大な過失があると認めることはできない。』

このように判示し、本高裁判決はY1の名板貸の責任に関するXの主張を認めました。

3.検討・解説
会社法9条が規定する名板貸の責任は、「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社」に生じる責任です。例えば、甲商店を営む甲が、乙に対して自己の営業の一部であるかのように甲商店神田支店の商号のもとで営業をすることを認めるような場合です(近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁)。営業主体を誤認させる外観の存在、名板貸人の帰責性、取引の相手方の誤認が責任要件です。

また、取引の相手方保護の見地からは、この規定は商号の使用を許諾した場合だけでなく、商標等の使用を許諾した場合にも類推されると解すべきとされています(神田秀樹『会社法 第20版』14頁)。

判例は、商号だけでなく、広く自己の氏、氏名の使用許諾も名板貸責任の枠組みで規律していた旧商法23条のもと、「商号を使用して営業を行うことを許諾」するという要件が満たされていない事案においても、それでも営業主体を誤認させる外観の存在と当該外観作出に対する責任主体の関与が認められる場合は同法が類推適用されるとして、ペット店をテナントに入れていたスーパーにペット店の名板貸責任の類推適用を認めたものがあります(最高裁平成7年11月30日判決)。

本判決は、この平成7年最高裁判決に沿って、外観の存在を認定し、名板貸人側の帰責性を認め、類推適用を認めたもので、現行法においても平成7年最高裁判決が妥当することを示したことに意義があります。

なお、本判決を消費者保護の観点から出された判決とする見解が一部にありますが(弥永真生『ジュリスト』1508号2頁)、会社法9条の趣旨はあくまでも権利外観法理であると思われます(神田・前掲15頁、土岐孝宏『法学セミナー』752号107頁)。

4.まとめ
本判決や平成7年最高裁判決の事例のように、ホテル、スーパーなどでテナントに別法人の店舗が入っている事業者等は、本判決等を参考に、テナントの店舗がホテル・スーパーと同一法人であるかのような外観を作出していなか等を改めてチェックする必要があるといえます。また、このことはインターネット上で商取引のプラットフォームを提供し、”店子”のテナント事業者にBtoCの取引を行わせている、例えば楽天市場、ヤフーショッピング、アマゾンなどのIT企業においても同様と思われます。

■参考文献
・土岐孝宏「テナント営業に対するホテル主の名板貸責任(類推)」『法学セミナー』752号107頁
・『金融・商事判例』1512号8頁
・弥永真生『ジュリスト』1508号2頁
・神田秀樹『会社法 第20版』14頁
・近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁

会社法 <第20版> (法律学講座双書)

商法総則・商行為法 第7版 (有斐閣法律学叢書)

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1.はじめに
生損保の保険会社各社は保険約款に暴力団排除条項(暴排条項)を設けていますが、この暴排条項を根拠として法人契約を解除した保険会社の対応は正当とする興味深い判決が出されていました(広島高裁岡山支部平成30年3月22日判決)。

本判決は下級審判決ではあるものの、保険約款上の暴排条項の適用を有効と認定した初の公開事例です。また、暴排条項の一つの「その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること」について具体的な例示を行っている点で、保険訴訟以外の分野においても参考になる事例であると思われます。

2.広島高裁岡山支部平成30年3月22日判決(控訴棄却・確定)
(1)事案の概要
(a)保険契約など
平成26年8月、塗装工事・土木工事等を業とするX株式会社は、Y1生命保険およびY2損害保険との間で、保険契約者をX、被保険者をXの代表取締役Qとする生命保険と損害保険のセット商品である経営者大型総合保障制度保険契約を締結した。

Y1らの普通保険約款の「重大事由による解除」の条項にはつぎのような暴排条項が規定されていた。

第 18 条(重大事由による保険契約の解除および保険金の不支払等)
当会社は、次の(1)から(6)のどれかに該当する事由が発生した場合には、この保険契約を将来に向って解除することができます。
(1)~(4) (略)
(5) 保険契約者、被保険者または保険金の受取人が、次の(ア)から(オ)のどれかに該当する場合
 (ア) 反社会的勢力に該当すると認められること
 (イ) 反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供与するなどの関与をしていると認められること
 (ウ) 反社会的勢力を不当に利用していると認められること
 (エ) (略)
 (オ) その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること
  (後略)
(大同生命保険「無配当年満期定期保険(無解約払戻金型)」より)

(b)経緯
Qは暴力団組長Rの犯した傷害事件の被害者であるSに被害申告をしないよう約束させRに対して便宜を供与したり、その後、被害申告をしたSに対してRが逮捕されたことに因縁をつけ、X社の工事代金支払い債務を免れようとする等した。

そこで、県は平成26年9月1日付で、同日から平成28年8月31日までの間、X社を入札指名業者から排除する旨の措置を行った。

これを受け、Y1およびY2は、平成27年11月13日付の各通知により、各普通保険約款の暴排条項に基づき、本件各保険契約を解除する旨の意思表示を行った。

これに対して、Xが本件各保険契約の保険契約者の地位を確認する訴訟を提起したのが本件訴訟である。

原審(岡山地裁平成29年8月31日判決)では、X側は、本件暴排条項は、保険金不正請求を招来する高い蓋然性がある場合に限り適用されるように限定解釈すべき規定であると主張したが、裁判所は限定解釈すべきではなく、また、あいまいかつ広範ということもできないとしてY1らの保険契約解除は正当としてX側の主張を退けた。Xが控訴。

(2)判旨
『Xは、本件排除条項が、暴力団していると単に噂されたり、暴力団員と幼な間柄という関係のみで交際したりしているだけでは適用されないと解釈できるというだけでは、どのような場合に「社会的に非難されるべき関係」と評価されるのか明らかではないと主張する。

 しかし、本件排除条項の趣旨が、反社会的勢力を社会から排除していくことが社会の秩序や安全性を確保する上で極めて重要な課題であることに鑑み、保険会社として公共の信頼を維持し、 業務及び健全性を確保することにあると解されることは、 前記1で引用した原判決が説示するとおりである。

 また、本件排除条項は、被保険者等が、①反社会的勢力に該当すると認められること、②反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供するなどの関与をしていると認められること、③反社会的勢力を不当に利用していると認められること等に加えて、「その他反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められること」と規定するものである(甲7、8 )。

 そうすると、本件排除条項の「社会的に非難されるべき関係」とは、前記①ないし③に準じるものであって、反社会的勢力を社会から排除していくことの妨げになる、反社会的勢力の不当な活動に積極的に協力するものや、反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの等をいうことは容易に認められる。

 よって、本件排除条項が、控訴人が主張するような意味において不明確ということはできず、上記の観点からその適用すべき場合の限界を画されているといえるから、控訴人の前記主張は採用できない。』

このように本高裁判決は判示し、QのSに対する行為は「反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの」に該当するとし、Y1・Y2の保険契約解除は正当であるとしてXの主張を退けました。

3.検討・解説
(1)暴排条項導入の経緯
政府の平成19年の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」の策定と、金融庁の平成20年3月の「保険会社向けの総合的な監督指針」の一部改訂等(監督指針II -4-9「反社会的勢力による被害の防止」)により、保険会社は反社会的勢力との一切の関係遮断が求められることになりました。それを受けて、平成23年、生命保険協会および日本損害保険協会はそれぞれ暴排条項の約款例を策定・公表し、平成24年4月以降、生損保の各保険会社の保険約款に暴排条項が順次導入されてゆきました(長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』200頁)。

(2)重大事由による解除条項と暴排条項の構造
平成20年に成立した保険法は、「保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由」があるときは、保険会社(保険者)は、「生命保険契約を解除することができる」とする、いわゆる「重大事由による解除」の規定を新設しました(保険法30条3号、57条3号、86条3号)。これは故意による事故招致による不正な保険金請求などのモラルリスクを排除するためです(萩本修『一問一答保険法』97頁)。

保険法

(重大事由による解除)
第五十七条 保険者は、次に掲げる事由がある場合には、生命保険契約(第一号の場合にあっては、死亡保険契約に限る。)を解除することができる。
 一 保険契約者又は保険金受取人が、保険者に保険給付を行わせることを目的として故意に被保険者を死亡させ、又は死亡させようとしたこと。
 二 保険金受取人が、当該生命保険契約に基づく保険給付の請求について詐欺を行い、又は行おうとしたこと。
 三 前二号に掲げるもののほか、保険者の保険契約者、被保険者又は保険金受取人に対する信頼を損ない、当該生命保険契約の存続を困難とする重大な事由

そして、冒頭の2.(1)(a)でみたように、この重大事由による解除の規定をより具体化するために、生命保険各社の保険約款には重大事由による解除の条項が規定されています。この保険約款における重大事由による解除の条項の一つに暴排条項は規定されています。

この点、暴排条項に該当することが、保険法57条3項などの要件である「保険契約者等に対する信頼を損ない、当該保険契約の存続を困難とするものである」といえるか否かが問題となりますが、反社会的勢力等が保険金詐取等の犯罪行為に関与する蓋然性は通常人に比べて相当に高いと考えられ、また、反社会的勢力等に属すること自体から保険金不正請求を招来する高い蓋然性があることから、「信頼関係が破壊され、契約継続が困難」であると考えられるので、保険約款の暴排条項は保険法57条3項等の重大事由による解除の規定の趣旨に沿い、その一つの条項であるといえるとするのが学説・保険実務のおおむねの理解です(日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』316頁、山下友信・永沢徹『論点体系 保険法2』214頁)。

なお、 保険法の重大事由による解除は、片面的強行規定 (保険法33条2項、65条2号、 94条2号)であることから、保険法に比して保険契約関係者にとって不利な約款規定は無効となる点も問題となります。しかし、モラルリスク事案等の保険制度の健全性を害する行為の排除を目的とした重大事由による解除の保険法の趣旨は、暴排条項の規定目的と合致すること、暴排条項がもたらす保険契約の解除という効果も、重大事由による解除の予定する範囲であることから、片面的強行規定に反することにはならないと解されています(日本生命保険・前掲215頁、山下・永沢・前掲215頁)。

(3)本高裁判決における暴排条項
本高裁判決は、本件の保険約款の暴排条項が保険法上の重大事由による解除として位置づけられるのか否か、そして、本件暴排条項が保険法上の片面的強行規定に抵触しないのか否かについては明確には述べていません。

しかし、2.(2)でみたように、本高裁判決は、Xの本件暴排条項が不明確であるとの主張に対して、「本件暴排条項の趣旨が…保険会社として公共の信頼を維持し、業務の適切性及び健全性を確保することにある」ことは「原判決が説示するとおりである」と述べ、本件暴排条項の効力とその行使を否定していません。そのため、本高裁判決は、学説・保険実務の立場に近い考え方をしているように思われます。

加えて、本高裁判決は、本件暴排条項の「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係」の意味と、当該条項の具体的事案へのあてはめを行っている点も注目されます。

つまり、本高裁判決は、「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係」とは、「(被保険者等が、①反社会的勢力に該当すると認められること、②反社会的勢力に対して資金等を提供し、または便宜を供するなどの関与をしていると認められること、③反社会的勢力を不当に利用していると認められること)に準じるものであって、反社会的勢力を社会から排除していくことの妨げになる、(a)反社会的勢力の不当な活動に積極的に協力するものや、(b)反社会的勢力の不当な活動を積極的に支援するものや、(c)反社会的勢力との関係を積極的に誇示するもの、と(a)~(c)の3類型を具体的に例示して判示しています。

そのうえで本高裁判決は、本件のQがSに対して行った一連の行為は、(b)(c)に該当するとして、「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる」とあてはめを行い、結論としてY1らの本件各保険契約の解除を肯定しています。

このように本判決は、下級審判決ではあるものの、保険訴訟における保険約款上の暴排条項の適用を肯定した初の公表事例として、また、暴排条項中の「反社会的勢力と社会的に非難されるべき関係」の意味や具体的例示を行った判決として保険実務および企業法務全般において意義のあるものといえます。

■参考文献
・『金融法務事情』2090号70頁
・『銀行法務21』830号65頁
・山下友信・永沢徹『論点体系 保険法2』214頁
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』316頁
・長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』200頁
・萩本修『一問一答保険法』97頁
・潘阿憲『保険法概説 第2版』275頁、280頁

論点体系 保険法2

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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調布市・深大寺のほおずきまつり(鬼燈まつり)に行ってきました。

調布市は本日、約36度とかなりの暑さでしたが、なかなか賑わっていました。 IMG_1341

ゲゲゲの鬼太郎の「鬼太郎茶屋」もにぎわっていました。
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出店で鬼灯の枝をひとつ購入しました。
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深大寺の本尊
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ハスやサルスベリの花がきれいでした。 IMG_1347

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帰りは深大寺そばと甘処の「八起」でラムネを飲みました。

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■関連するブログ記事
・「ゲゲゲの鬼太郎」の調布の聖地をめぐってみた

調布・府中・深大寺 (散歩の達人handy)

調布・仙川本 (エイムック 3945)

ゲゲゲの鬼太郎 大解剖 (日本の名作漫画アーカイブシリーズ サンエイムック)

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三郷市図書館
(media.housecomより)

1.埼玉県三郷市の小学校図書館が貸出記録とコンピュータを利用して読書指導をしているというニュース記事が炎上
二週間ほど前に、埼玉県三郷市のある市立小学校が、学校図書館に導入したコンピュータを用いて生徒の読書傾向などを分析・把握し、司書や担当教師らが個々の生徒に読書指導を行っているという趣旨のmedia.housecomのニュース記事がネット上で物議をかもしているという話題を、個人情報保護法制、地方公務員法上の守秘義務や「図書館の自由に関する宣言」との関係でいかがなものかという趣旨で取り上げました。

■前のブログ記事
・埼玉県三郷市の市立彦郷小学校図書館の取り組みがネット上で炎上

■media.housecomのニュース記事
・「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校「社会問題の根幹にあるのは読書不足」」|media.housecom

しかし、その数日後に、今度はキャリコネニュースがこの話題を取り上げたところ、小学校の校長は、「読書傾向の分析などは行っていない」とほぼ180度逆の回答をしています。

■キャリコネニュースの記事
・三郷市の小学校の読書促進策に批判殺到「担任が児童の読んだ本を把握し個別指導」って本当? 学校「誤解を招いて申し訳ない」|キャリコネニュース

ところがこのニュース記事に対しては、media.housecomの記者と思われる方が、当方の記事に間違いはないとネット上で反論しており、外野の一般人からはどちらが正しいのかわかりかねる状況です。

ところでさらに興味深かったのは、私の冒頭のブログ記事に対して、図書館の司書など専門家と思われる方々より、直接あるいは間接に、「学校図書館は公立図書館ではない。学校図書館で読書指導などを行うのは当たり前」「禁止する判例はない」という趣旨のご見解を複数頂戴したことです。

2.学校図書館における読書指導の変遷
この点、「図書館の自由」につき長年研究をなさっている学者の方の論文を読むと、たしかに、

『学校図書館が管理する貸出記録を教育指導の資料として活用することは、戦後直後から1960年代にかけて展開されてきた「生活指導の一部としての読書指導」論の中では当たり前に捉えられてきた。』

と説明されています(山口真也「個人情報保護制度と学校図書館活動-貸出記録の教育的利用・貸出記録の返却時消去・図書委員による貸出の是非をめぐって-」『沖縄国際大学日本語日本文学研究』13巻1号28頁)。

たとえば、図書館教育研究会『新学校図書館通論 三訂版』208頁は、

『学校図書館で本を借りる状況は、コンピュータ化が進んでいる学校ではコンピュータに「個人読書履歴」として記録し、またコンピュータ化が進んでいない学校では従来からの「個人貸出カード」を使う。(略)学校図書館以外の利用は、読書記録をつけ(させる。)』

などの手法を用いて、学校司書や担任教師などが個々の生徒に読書指導を行うべきとしています。

(なお、公立図書館の情報システムにおいては、利用者がどんな図書を借りたかという個人情報・プライバシーを守るために、利用者が図書を返却するとシステムから当該貸出記録そのものが消去される仕組みとなっています(鑓水三千男『図書館と法』183頁)。)

3.憲法から考える
しかし、読書とは判例がつぎのように述べるとおり、内心の自由(憲法19条)、人格権・プライバシー権(13条)、表現の自由・知る権利(21条1項)に由来する重要な人権です。

『およそ各人が、自由に、さまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会をもつことは、その者が個人として自己の思想及び人格を形成・発展させ、社会生活の中にこれを反映させていくうえにおいて欠くことのできないものであり、また、民主主義社会における思想及び情報の自由な伝達、交流の確保という基本的原理を真に実効あるものたらしめるためにも、必要なところである。

それゆえ、これらの意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法一九条の規定や、表現の自由を保障した憲法二一条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれるところであり、また、すべて国民は個人として尊重される旨を定めた憲法一三条の規定の趣旨に沿うゆえんでもあると考えられる。』(よど号新聞記事抹消事件・最高裁昭和58年6月22日大法廷判決)

4.子どもの権利条約から考える
また、1990年に発効し日本は1994年に批准した18歳未満の子どもの権利保障を定める「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」は、第16条で子どものプライバシー権を保障しています。

子どもの権利条約

第16条
 いかなる児童も、その私生活、家族、住居若しくは通信に対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。
 児童は、1の干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

そのため、国・自治体や学校は、生徒の読書の自由を尊重し、また、生徒のプライバシーを大人同様に尊重しなければなりません。

5.学校図書館法4条1項4号と文科省の通達「第四次 子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」
さらに、学校図書館における読書記録・読書履歴を生徒の読書指導・生活指導に利活用することに賛成派の論者は、学校図書館法4条1項4号の「図書館資料の利用その他学校図書館の利用に関し、児童又は生徒に対し指導を行うこと。」を念頭においているようです。

しかし、文部科学省の通達「第四次 子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」などを読んでも、「生徒の自主的、主体的な読書」が強調されており、また、「学校図書館の情報化」の部分(25頁)においても、学校図書をデータベース化することによるOPAC検索の導入、学校図書館などにパソコンを導入し生徒がインターネットで様々な事柄を調べることができるようにする取り組みなどがあげられているのみで、生徒の貸出記録をコンピュータに保存・分析し、各生徒の読書のゆがみを矯正するなどの埼玉県三郷市彦郷小学校の取り組みのようなことは記述されていません。

加えて、生徒の読書記録は生徒の個人情報のなかでも思想・信条などセンシティブ情報を推知させるデリケートな個人情報であり、そのような個人情報の取得・利用などにあたっては、自治体は個人情報保護条例上の特別な対応が必要となるはずです。しかし埼玉県三郷市はそのような特別の対応を行っていないように見受けられます。

6.まとめ
このように考えると、埼玉県三郷市の小学校図書館における取組や、電子データ化した読書記録等を学校が生徒の読書指導等に利活用することは、憲法や学校教育法、文科省の通達の趣旨に抵触または違反しているのではないかと思われます。

『読書は、読者が誰からも制約されることなく自由に好きなものを自分で選び取ってはじめて、真に心を開いて楽しめる、すぐれて個人的な営みである。そのことは子どもといえども違いはない。(略)

読書記録の扱いも同様で、本を借りた記録がいつまでも帯出カードに残る仕組みは自由な読書を制約することになる。(略)

自分に関する情報は、自分でコントロールできる、自分に関することが自分のあずかり知らないところであれこれの判断の素材になるといったことがあってはならぬ、というのがプライバシーの原則順守である。』
(塩見昇『学校図書館の教育力を活かす』120頁)

■参考文献
・塩見昇『学校図書館の教育力を活かす』120頁
・図書館教育研究会『新学校図書館通論 三訂版』208頁
・山口真也「個人情報保護制度と学校図書館活動-貸出記録の教育的利用・貸出記録の返却時消去・図書委員による貸出の是非をめぐって-」『沖縄国際大学日本語日本文学研究』13巻1号28頁
・渡邊重夫『学校図書館の対話力』136頁、191頁
・鑓水三千男『図書館と法』183頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』247頁
・「第四次 子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」|文部科学省

学校図書館の教育力を活かす―学校を変える可能性 (JLA図書館実践シリーズ)

図書館ノート―沖縄から「図書館の自由」を考える

学校図書館の対話力: 子ども・本・自由

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1.はじめに
被告人らが国立大学の学生証、危険物取扱者免状、運転免許証などを偽造し、建物損壊3件および非現住建物等放火1件の犯行におよんだ事件の捜査において、警官らがリモートアクセスのための検証許可令状を裁判所から得ずにパソコンからネット経由でメールサーバーからメールの送受信歴および内容を保存した行為が令状主義に反し違法とされた興味深い裁判例がだされていました(東京高裁平成28年12月7日判決、判例時報2367号107頁)。

2.東京高裁平成28年12月7日判決(控訴棄却・上告)
(1)事案の概要
被告人Xは、平成23年より平成24年5月にかけて、国立大学の学生証、私立大学の学生証、危険物取扱者免状、運転免許証などを偽造した。Xは平成24年8月3日から4日にかけて共犯者2名と共謀し、東京都町田市内の建物の窓をバールで破壊するなどし、また別のビルの地下1階にガソリンをまき火を点けるなどした。

神奈川県警の警察官は、刑訴法218条2項のいわゆるリモートアクセスによる複写の処分が許可された捜索差押許可状に基づき、X方を捜索し、本件パソコンを差し押さえた。しかしその際、本件パソコンのログインパスワードが不明であったため、リモートアクセスによる処分を行わなかった。

後日、警察官は、本件パソコンを検証すべき物とする検証許可状の発布を受けた(本件検証許可状にはリモートアクセスの許可は含まれていなかった)。警察官は本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットにアクセスし、本件パソコンからのアクセス履歴が認められたメールアカウントのメールサーバーにアクセスし、メールの送受信履歴およびメールの内容をダウンロードし保存した。

裁判において、弁護人は、本件パソコンの検証には重大な違法があるとして、違法収集証拠排除を主張したのに対して、検察側は、本件検証におけるリモートアクセスは、検証のために必要な処分(刑訴法222条、129条)として許容されると主張した。

第1審は、本件検証におけるリモートアクセスを違法と認定し、リモートアクセスにより得られた証拠の証拠能力を否定した。しかし、それ以外の証拠の証拠能力を認め、Xを有罪としたためXが控訴。

(2)判旨
『本件検証は、本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットに接続してメールサーバーにアクセスし、メール等を閲覧、保存したものであるが、本件検証許可状に基づいて行うことができない強制処分を行ったものである。しかも、そのサーバーが外国にある可能性があったのであるから、捜査機関としては、国際捜査共助等の操作方法を取るべきであったといえる。

そうすると、本件パソコンに対する検証許可状の発布は得ており、被告人に対する権利侵害の点については司法審査を経ていること、本件パソコンを差し押さえた本件捜索差押許可状には、本件検証で閲覧、保存したメール等について、リモートアクセスによる複写の処分が許可されていたことなどを考慮しても、本件検証の違法の程度は重大なものといえ、このことなどからすると、本件検証の結果である検証調書及び捜査報告書について、証拠能力を否定した原判決の判断は正当である。』

このように判示し、本高裁判決は第一審の判断を支持しています。

3.検討・解説
平成23年の刑事訴訟法改正(「情報処理の高度化等に対応するための刑法等の一部を改正する法律」)によって、いわゆるリモートアクセスによる複写の処分(刑訴法99条2項、218条2項)が導入されました。

リモートアクセスとは、例えば、捜索現場に所在する被疑者等のパソコン等が差し押さえるべきものであるときに、そのパソコンを用いてアクセスすることができる外部メディア上のデータを、現場にあるパソコン等にダウンロードした上でそのパソコン等を差し押さえるものです(笹倉宏紀「サイバー空間の捜査」『法学教室』446号31頁)。

しかしこのリモートアクセスによる複写の処分は、あくまでもパソコン等の差押を行う場合に、付加的に認められた処分であり、パソコン等の差押後に行うことは想定されていません。また、検証(刑訴法128条、218条1項)には、平成23年の法改正においても、リモートアクセスを許す条文は新設されませんでした。

このようななかで、本判決は、本件パソコンを検証すべき物とした検証許可状によりリモートアクセスを行った本件検証を令状主義に反する違法なものと判断した重要な裁判例といえます。

(なお、検証対象をパソコンだけでなく、そのアクセス先の記録媒体等と指定した検証許可状によるリモートアクセス捜査の当否については、今後の裁判例の判断が待たれます。)

ただ、近年はいわゆるクラウド・サービス等が普及しつつあり、本判決に違和感を持つ方々もおられると思われます。この点については、法制審議会がこの法改正の原案を答申したのは2003年(平成15年)であり、それから法改正まで9年もの歳月を要したため、スマートフォンやクラウドサービスが普及し、パソコンよりむしろクラウド環境のほうにデータが集積されつつある現代との齟齬が生まれてしまっていると解説されています(笹倉・前掲446号32頁)。

(なお、本検証は違法ではないとして本判決に疑問を示す評釈として、宇藤祟「差押たパソコンに対する検証許可状によりサーバにアクセスしメール等を閲覧・保存することの適否」『法学教室』445号152頁がある。)

■参考文献
・『判例時報』2367号107頁
・笹倉宏紀「サイバー空間の捜査」『法学教室』446号31頁
・宇藤祟「差押えたパソコンに対する検証許可状によりサーバにアクセスしメール等を閲覧・保存することの適否」『法学教室』445号152頁
・白取祐司『刑事訴訟法 第9版』137頁
・栗木傑など『新基本法コンメンタール刑事訴訟法 第3版』278頁、138頁


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