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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年08月

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1.はじめに
最近、裁判所が自動車保険の請求代理制度と生命保険の指定代理人制度の異同について論じためずらしい判決が法律雑誌に掲載されていました。

2.札幌高裁平成28年7月15日判決(控訴棄却・上告、判例タイムズ1435号159頁)
(1)事案の概要
昭和43年生まれの控訴人Xは、本件原付バイクをバイク店(保険代理店・保険契約者)より借り、本件バイクの運転者を被保険者とする自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。保険者は被控訴人のY保険会社)に被保険者として加入していた。

本件保険契約の保険約款の基本条項20条3項、4項にはつぎのような規定が置かれていた。

(3) 被保険者に保険金を請求できない事情がある場合で、かつ、保険金の支払を受けるべき被保険者の代理人がいないときは、次のいずれかに該当する者がその事情を示す書類をもってその旨を当会社に申し出て、当会社の承認を得たうえで、被保険者の代理人として保険金を請求することができます。
① 被保険者と同居または生計を共にする配偶者
② ①に規定する者がいない場合または①に規定する者に保険金を請求できない事情がある場合は、被保険者と同居または生計を共にする親族のうち3親等内の者
③ ①および②に規定する者がいない場合または①および②に規定する者に保険金を請求できない事情がある場合は、①以外の配偶者または②以外の親族のうち3親等内の者

(4)(3)の規定による被保険者の代理人からの保険金の請求に対して、当会社が保険金を支払った後に、重複して保険金の請求を受けた場合であっても、当会社は、保険金を支払いません。

平成21年11月9日にXは、原動機付自転車(本件バイク)で青信号の道路を走行していたところ十字路で左前方の路地から侵入してきた自転車と正面衝突する交通事故に遭った。

この交通事故により、Xは外傷性くも膜下出血、脳挫傷、器質性精神障害などを受傷し、交通外傷後高次脳機能障害の後遺障害(見当識障害、注意障害、記銘力障害、幻視、易怒性など)を負い、平成24年7月20日に労災保険法施行規則に定める障害等級2級と認定された。

Y保険会社の本件事故の担当者Bは、事故から約1年後の平成22年2月12日に、保険契約者であるバイク店より本件事故の第一報を受けた。Bは保険金請求の案内はがきを出したり、電話をかけるなどを行ったがXと連絡がとれなかった。

平成23年11月29日にバイク店からの連絡でBはAの連絡先を知り、同年12月1日および2日に電話にてXの保険金請求の案内を行ったところ、Aは、本件事故によりXは重度の後遺障害を負っているので本人に連絡しないでほしい趣旨の意向を伝えた。平成24年7月30日に、BはAより保険金請求書、医療記録に関する同意書、印鑑証明書、念書などの必要書類を受領した。

平成24年7月30日、YにXより電話があったため、Bが折り返し電話を掛けたところ、Xは診断書を提出するので保険金を支払ってほしいとの趣旨であったため、Bは返信用の封筒をX宛に郵送したが、診断書は送られてこなかった。

平成24年9月10日、Xより年金証書がFAXでYに送付された。また調査担当者によりYは病院から診断書などを受領し、保険金支払い査定を行い、Xは後遺障害等級3級3号に該当し、自損事故特約保険金(後遺障害)など、合計約1260万円が支払いの対象となると判断した。

平成24年9月24日、BはAに対して上の保険金が支払いとなる旨を伝えたところ、Aは、Xは浪費等の問題があるとして、保険金156万円のみをXの口座に支払い、残りの約1110万円はAの口座に支払うよう要請し、Yはそれに従ってそれぞれ保険金を支払った。Aは平成25年7月25日に死亡した。事情を知ったXが本件訴訟を提起。

Xは、Yには被保険者であるXに対して保険金を支払う義務があったにもかかわらず、父親であるAが無権限であることを知りながら、同人名義の銀行口座に保険金合計1264万円を支払い、Xに損害を与えたなどと主張し、本件保険契約上の付随義務違反に基づき, 1264万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

これに対し、Yは、本件保険契約については、その保険約款(以下「本件約款」という)において、「代理請求制度」が規定されているところ、①被保険者であるXは、障害等級2級に該当する交通外傷後高次脳機能障害に罹患しており、保険請求の能力を欠いているから、本件約款款が規定する「被保険者に保険金を請求できない事情がある場合」に当り、②AはXの父として、本件約款の規定する「被保険者の代理人」に該当することから、Aの代理請求制度に基づく保険金の請求に応じてAに保険金を支払ったYは、本件約款の規定により免責されるなどと主張して争ったものである。

原審(札幌地裁平成28年2月17日判決)は、Yの上記主張に理由があるなどとして、Xの請求を棄却したところ、Xがこれを不服として控訴したが、控訴審も同様の理由により控訴を棄却した。

(2)判旨
『Xは、指定代理請求制度が被保険者の同意を得て予め指定した代理人により保険請求ができるという制度であり、当然に、一般的な代理権を基礎づけるものではなく、また、仮に、Aが代理請求人であったとしても、例外的な制度である指定代理人請求制度がA名義のゆうちょ銀の口座に被保険者の保険金を送金する代理権までを認めるものではない旨主張する。

 しかし、そもそも、本件約款が規定し、Aが利用した制度は代理請求制度であって、指定代理請制度ではないところ、代理請求制度は、代理人に対して、保険金を請求し受領する権限を与えるものであると解される。したがって、Aには、本件保険金を受領する権限が認められているのであるから、本件保険金をA名義の口座に送金させこれを受領することは,その権限内の行為であって、Aに対する本件保険金の支払は有効である。したがって、Xの上記主張は理由がない。


このように判示して、本件高裁判決は、YのAへの代理請求制度による保険金支払いは正当であり、Yは再度Xに対して保険金を二重払いする義務を免責されるとしました。

3.分析・解説
(1)損保の代理請求制度と生保の指定代理制度
うえの2.(1)でみたように、自動車保険などの保険約款には保険金支払いの例外的な場合として、「代理請求制度」が一般に規定されています。

この損害保険の代理請求制度とは、「被保険者が保険金受取人である契約において、被保険者自身が保険金を請求できない事情がある場合で、かつ、被保険者の代理人がいないときに、所定の方が被保険者の代理請求人として、保険金を請求することができる制度です」と解説されています(損害保険総合研究所「損害保険Q&A」問78)。

そして、この定義中の「被保険者自身が保険金を請求できない事情」について、同Q&Aは、「意識不明の状態など被保険者に意思能力がない場合(診断書や医師の見解を確認することなどによって、慎重に判断されます。)」と解説しています。

一方、生命保険の指定代理請求制度とは、「被保険者が保険金受取人で、保険事故発生の時点で、被保険者自身が重篤で意思能力がない状態であったり、被保険者本人が「余命6ヶ月以内」という余命告知を受けていなかったりする理由等で自ら保険金の請求手続きを行えない状態の際に、一定の要件を満たす被保険者の家族など(指定代理人)から保険金支払の請求ができるよう創設された制度」です。そして、指定代理人は、「被保険者の同意のもと、 契約者によってあらかじめ指定されている特別の代理人」であり、実務取扱い上は、生命保険契約の申込の際に保険契約者・被保険者に指定していただくのが通常です(長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』252頁)。

このように、損害保険における代理請求制度と生命保険における指定代理制度は似た制度ですが、生命保険の指定代理制度は指定代理人について被保険者があらかじめ同意しているのに対して、損害保険における代理請求制度は代理請求人を被保険者があらかじめ同意していない点が異なります。

(2)Xの代理人弁護士の重大なミス
このように、損保の代理請求制度と生保の指定代理制度は似て非なる制度であるにもかかわらず、本件訴訟の地裁・高裁判決を読むと、Xの代理人弁護士は損保の代理人請求制度を生保の指定代理制度と誤解し、指定請求制度に照らしてYの対応はおかしいととんでもない主張を行っています。また、判決文によると、Xの代理人弁護士は、「保険は民法の第三者のためにする契約であるから被保険者は保険会社の約款に拘束されない」旨の無茶苦茶な主張も行っています。このような弁護士の度重なるオウンゴールにより、本件訴訟は、裁判所が「本件は代理請求制度が適用されるべき場面であり、指定管理制度と主張するXの主張は失当」という趣旨の請求棄却をあっさり出して終わっています。

思うに、本件訴訟のX側の弁護士は保険金請求訴訟に関してド素人のようで驚いてしまいます。素人なら素人なりに文献を調査して訴訟を行うべきなのではないでしょうか。本件訴訟はXの弁護過誤レベルに思えます。Xはこの弁護士を名宛人として損害賠償訴訟を提起しても許されるレベルに思えます。

(3)Y損害保険会社の金融機関としての注意義務は尽くされているか
本件訴訟においてはY保険会社はX側の弁護士の「自爆」によって勝訴していますが、判決文を読んでいて、Y(とくにB)の保険金支払い業務が適切であったのかは疑問を感じます。判決文を読むと、Bは何度もXの父Aと面会を繰り返し、保険金支払いの準備を進めています。しかしBは肝心の被保険者(保険金受取人)本人であるXとは一回も面談していません。唯一BがXとやり取りしたのは、平成24年7月30日にXがY社に電話をしてきたので折り返し電話をした際のみです。

しかもこの際にBはXから保険金請求をしたいとの申し出を受けたにもかかわらず、診断書を送るよう答えて封筒を送るだけで、保険金請求書類を送っていません。

うえでみた損保総研のQ&Aによると、代理請求制度の適用が可能となるのは、被保険者本人が意思能力を失った場合など例外的な場合に限られるはずです。

たしかに交通事故により重篤な外傷を罹患した後遺障害で、Xは判断能力・事理弁識能力が大きく低下してしまっているようですが、警察に相談などして、Y保険会社に電話をして自分の保険金を支払ってほしいと請求を行っているのです。Xの状況が意思能力を失った状況とは思えません。B(Y)はAへの保険金支払いありきではなく、AとXのどちらに保険金を支払うべきか、もっと慎重な対応が必要だったのではないでしょうか。少なくともBあるいはY社が委託した保険調査員が自宅を訪問し、Xと直に面談を行い、Xの意思能力・判断能力をチェックすべきだったのではないでしょうか。Y社は本件の保険金支払いにあたり、金融機関としての注意義務を尽くしていたといえるか疑問です。(私は生保の人間なので、損保の実務はよく存じ上げないのですが、元保険金支払査定部門の人間としてはYの大雑把な業務には疑問を感じます。)

(4)金融機関の注意義務(民法478条)
民法478条は本事案のように金融機関が金銭を二重払いするリスクを負う場面でしばしば問題となります。つまり、保険会社は保険金受取人らしく思われる人間(債権の準占有者)に対して保険金を支払った場合は、当該保険会社が保険金支払いにあたり善意・無過失であった場合に限り、後日、真の保険金受取人から支払いの請求を受けたときにその二重払いを免れるのです。

そして、ここでいう金融機関の善意・無過失とは、「金融機関としての注意義務を尽くしていたこと」が必要であるとされています(最高裁昭和48年3月27日判決、保険会社に関するものとして最高裁平成9年4月24日判決)。

しかしうえでみたように、BおよびY社は、最初からAへの保険金支払いありきのようであり、真の保険金受取人であるXとはまともにやり取りをしていません。

4.まとめ
この点、本件訴訟においては、Xの代理人弁護士は、生保の指定代理制度を持ち出したり、あるいは「保険契約に不随する注意義務」などのトリッキーな珍理論によりXへの保険金支払いを主張するのではなく、王道である、保険金支払いにおける民法478条による金融機関として尽くすべき注意義務をYは尽くしているのかという点を主な争点にすえるべきだったのではないかと思われます。

■参考文献
・『判例タイムズ』1435号159頁
・長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』252頁
・山下友信『保険法』537頁
・近江幸治『民法講義Ⅳ 第3版』298頁
・損害保険総合研究所「損害保険Q&A」問78

保険法

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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ジャパンビバレッジ
(フジテレビより)

1.ジャパンビバレッジの有給休暇の取り扱いがネット上で物議
8月のお盆休みごろからネット上で話題となっていた、自動販売機事業大手のジャパンビバレッジの、“上司から出されたクイズに部下全員が正解できず有給休暇を取得できなかった”という話題がメディアでも報道されるなど物議を醸しています。しかしこんな人事・労務上の取り扱いが許されるのでしょうか?

・クイズ不正解だと有給取れず 「ジャパンビバレッジ」|フジテレビ

2.年次有給休暇の性質
労働基準法39条1項以下は、労働者の勤続年数に応じて年次有給休暇を10日以上20日までと定めています。そして、同法39条5項は、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない」と規定しています。

つまり、労働者・従業員が有給休暇を取る権利は労基法39条1項の要件を満たすことで発生しており、従業員が上司等にその取得の時季、つまり休暇の始期と終期を指定(=請求)することにより確定します。これに対する使用者側の承諾は不要とされています(林野庁白石営林署事件・最高裁昭和48年3月2日判決)。

3.時季変更権
ただし、同法39条5項ただし書きは、「ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」と規定しており、これが使用者の時季変更権です。

とはいえ、使用者側はジャパンビバレッジのように好き勝手に従業員の有給休暇の取得を拒否できるわけではありません。労基法39条5項ただし書きが規定するとおり、上司・使用者側が部下・従業員からの有給休暇の取得を別の時季にしてくれと拒めるのは、「事業の正常な運用を妨げる場合」です。

この「事業の正常な運用を妨げる場合」とは、単に会社が繁忙、人員の不足であることでは認められないとされています(東亜紡績事件・大阪地裁昭和33年4月10日判決)。なぜなら、労働者が休暇を取ることは、労基法の上位規定である憲法27条2項が定めるとおり、労働者が憲法上持つ人権だからです。

そのため、使用者側は会社業務の繁忙などに備えて余裕を持った人員配置などを行う義務を負っているのです(西日本JRバス事件・名古屋高裁金沢支部平成10年3月16日判決など)。そのような場合以外は、後述しますが、労働者は原則として理由を問わず自由に有給休暇を取得することができます。

したがって、「クイズに正解できたら有給休暇の取得を認める」というジャパンビバレッジの有給休暇の取り扱いは、労基法39条5項ただし書きの「事業の正常な運営を妨げる場合」におよそ該当しないので、違法・不当な実務取扱いであるといえます。

4.「休暇願い」の「理由」欄
なお、うえでみたように、使用者は事業の正常な運営を妨げる場合には、時季変更権を行使できるので、有給休暇を取得する理由を労働者に質問することはできるとされています。実際上、一般的な企業の職場の「休暇願い」の書面または電子上のフォーマットに日付とともにその理由を書く欄があるのはそのためです。

ただし、有給休暇やそれを拒む時季変更権の法的性質は上でみたようなものなので、実際上はともかく、労働法上は仮に休暇願いの理由に「デートに行くため」と書かれたとしても、上司はそれだけを理由に時季変更権を行使することはできません。(争議行為を目的とした有給休暇を認めた判例すらあります。最高裁昭和48年3月2日判決)

5.まとめ
このように、やはり「クイズに正解できないから有給休暇を与えない」というジャパンビバレッジの実務取扱いは人事・労務の観点、つまり労働法の観点から間違っています。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』530頁、537頁、542頁
・東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』337頁、340頁

労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)

新・労働契約Q&A 会社であなたをまもる10章

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1.はじめに
『判例地方自治』平成30年7月号55頁に、海老名市のいわゆるツタヤ図書館に関する住民訴訟の地裁判決が掲載されていました。結論として住民側敗訴の残念な内容の判決です。なお本判決は、公立図書館の指定管理者に関する住民訴訟の判決としては、公開された判決として初のものと思われ、先例的な意義があります。

2.横浜地裁平成29年1月30日判決(一部却下・一部棄却・控訴(控訴棄却))
(1)事案の概要
海老名市は、 市立中央図書館の管理・運営について、地方自治法244条の2 第3項の指定管理者制度を導人し、その指定管理者として、A共同事業体(カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と図書館流通センターの共同事業体、以下「本件事業体」という。なお図書館流通センターは後に本件共同事業体から撤退した)を指定し、本件事業体との間で基本協定(以下「本件基本協定」という)を締結し、本件事業体に市立中央図書館の管理を委ねるとともに、市立中央図書館の大規模改修工事(以下「本件改修工事」という 。)を行った上で、本件事業体を構成するB社(CCC)に対し、市立中央図書館の一部を書籍等の販売及び喫茶の営業のために使用することを許可した(以下「本件許可」という)。

本件住民訴訟は、海老名市の住民である原告ら(X)が、市の執行機関である被告(海老名市長、以下Yとする)に対し、①本件基本協定は、市立図書館の指定管理者としての適格がない本件事業体との間で締結されたもので違法である旨主張して、本件基本協定を解約することを求め (請求1 )、 ②YがB社に対してした本件使用許可は、市立中央図書館の機能を著しく阻害し、かつ、権限なくされたものであるから違法である旨主張して本件使用許可を取り消すことを求めるとともに(請求2)、本件使用許可をした当時の市長であるCに対して本件使用許可により市が被った損害の賠償請求をすることを求め(請求3)、③市が指定管理者である本件事業体に市立中央図書館の図書購入を委託してその支払を代行させることは違法である旨主張してこれを禁止することを求め(請求4)、④市が本件事業体に対して支出した平成26年度の指定管理料は杜撰な積算のため余剰を生じ、また、本件改修工事にはB社の営業を支援するために行われた必要性のない工事が含まれていたと主張して、上記指定管理料の支出及び本件改修工事に係る請負契約(以下「本件請負契約」という。)締結の当時の市長であるCに対し、当該支出及び本件請負契約締結により市が被った損害の賠償請求(請求5 )をすることを求めた訴訟である。

(2)裁判所の判断
横浜地裁は、Xの請求1、請求2、請求4について、地方自治法242条の2第1項各号の定める住民訴訟の各類型のいずれにも該当しない、あるいはXには訴えの利益がない等の理由により却下しました。

その上で、横浜地裁はXの請求3について次のように判示しています。

『地自法242条の2第1項が定める住民訴訟は、地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし、その対象とされる事項は同法242条第1項の定める事項、すなわち、公金の支出、財産の取得、管理若しくは処分、契約の締結若しくは履行若しくは徴収、管理若しくは債務その他の義務の負担、又は、公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実に限られるのであり、これらの事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。

したがって、 請求3に係る訴えが適法といえるためには、Yがした本件使用許可が、中央図書館の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の日的とする財務会計上の行為としての財産管理行為に当たるものでなければならないと解するのが相当である (最高裁平成2年4月12日第一小法廷判決、民集44第31頁参照)。

地教法21条2項所定の教育財産である中央図書館の目的外利用についての使用許可(地自法238条の4 第7項)は、本来、市の教育財産の管理権限を有している市教委(地教法21条2号)が、その管理行為の一環として行うべきものである。

そして、地教法は、教育財産について、その取得及び処分を地方公共団体の長の権限とする一方で(22条4 号)、その管理を教育委員会の権限としていること(21 条2号)、 地自法238条の4第7項の許可を受けてする行政財産の使用については借地借家法の適用がなく(同条8項)、当該使用を許可した場合において、公用若しくは公共用に供するため必要が生じたとき等は、普通地方公共団体の長又は委員会はその許可を取り消すことができるとされており(同条9項)、使用料の額の決定及び減免については別途の処分が予定されていること (同法225条、 228条1項前段参照) に照らせば、 市の教育財産である図書館の目的外使用の許否処分それ自体は、教育行政を所掌する教育財産の管理である市教委が、 教育上及び公共上の政策的な見地から、図書館施設の管理に係る教育行政上の処理を直接の目的としてその許否を決すべき処分というべきであって、当該図書館施設の財産的価値に着目し、その価値の維持、保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の行為としての財産管理行為には当たらないと解するのが相当である。

そして、 中央図書館の本件目的外使用につきYがした本件使用許可は、 許可権限のないYが誤って行ったものであるが、 そうであるからといって、教育上及び公共上の政策的見地から図書館施設の管理に係る教育行政上の処理を直接の目的としてその許否を決すべき処分である図書館の使用許可の性質が変わるものではないから、Yがした本件使用許可も、財務会計上の行為としての財産管理行為に当たらないというべきである。

そうすると、Yがした本件使用許可は、地自法242条1項が定める住民訴訟の対象となる行為であるということはできない』。

このように裁判所は判示し、請求3について却下しています。また、請求5についても裁判所は形式的な審査を行い「本件改修工事はB社の営業支援のために行われたとはいえない」と棄却しています。そして結論として、住民Xらの主張をすべてしりぞけています。

3.検討・解説
(1)住民訴訟の対象
住民訴訟の対象となる事項(地方自治法242条の2第1項)は財務会計行為に限るとされていますが(最判平成2・4・12)、何が財務会計行為かが本件訴訟のように問題となることが少なくありません。

(2)指定管理者制度
指定管理者の指定(地方自治法244条の2第3項)については、市立駐車場の運営に指定管理者を指定した事案において、指定管理者の指定は、当該公共要物の財産的価値の維持、保全を図る財務処理を直接の目的とする財務会計上の行為にあたらないとする裁判例が存在します(大阪地判平成18・9・14、判例タイムズ1236号201号)。このように、裁判例においては、財務会計行為該当性を判断するにあたり、財務会計処分を直接の目的としているかを重視する傾向がみられます(宇賀克也『地方自治法概説 第7版』357頁)。

このような裁判例に対しては、「公物の公物管理権は、当該公物の所有権から派生する権能であると解すれば、公の施設=公物を所有している自治体は、所有権に内包されている管理権限の1つとして管理者を指定する権能を行使することが地自法により認められているのである。それ故に管理者を指定する権能は当然にして財産的側面を有しているのである。それゆえ、住民訴訟の対象性が認められるべきである。すなわち、公の施設=公物の管理に関して、財産的管理と公物の機能管理を截然と区分(することはできない。)」(寺田友子「公の施設の管理外部化にみる住民訴訟」『桃山法学』7号31頁)との批判がなされています。

また、指定管理者の指定の問題は本件訴訟も否定するとおり、取消訴訟などの訴訟類型では争えないものです。そのため、住民としては指定管理者による公の施設の運営などに違法・不当の疑義がある際に住民訴訟で争えないとなれば、指定管理者制度による公の施設の運営は、司法審査が及ばないブラックボックスとなってしまい、これは妥当とは思われません。

(3)先行行為・後行行為論
なお、住民訴訟の場面においても、先行行為に違法があった場合にはその違法性は後行行為である財務会計行為に承継され、当該財務会計行為は住民訴訟の対象となるとするのが判例です(最判昭和60・9・12、宇賀・前掲375頁)。本件訴訟は、海老名市の予算執行部門による指定管理費の支給を後行行為として住民訴訟を提起する道もあったかもしれません。

(4)ツタヤ図書館
ツタヤ図書館は、「町おこし」「街のにぎわいの創出」を目的として、海老名市立中央図書館のおよそ半分の面積を目的外利用で本屋や喫茶店、各種のグッズ売り場とし、大音響のBGMを館内で流し、ツタヤの営業部分が主で図書館機能は従の関係になっています。そして図書館機能をみても、利用者にわかりにくい図書の「独自分類」を採用し図書を配架・分類しており、また、肝心の図書も1990年代、00年代の本が多く並んでいる状態です。

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(WindowsXPの図書が大量に並んでいる海老名市立中央図書館。2015年当時。)

図書館法1条は、図書館の目的を「社会教育法の精神に基づき、図書館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もって国民の教育と文化の発展に寄与することを目的とする」と規定しています。

解説書によれば、「社会教育法の精神」とは、「教育を受ける権利」(憲法26条)であり、同法は、「国民の教育と文化の発展に寄与する」ために、個々の地方自治体の施策を超えて、「全国画一的保障=ナショナル・ミニマム確保の見地から、それぞれの図書館施設が提供する役務・サービスの最低限度の内容あるいはその利用手続き」を規定したものであるとされています(塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』98頁、101頁)。

また、図書館は利用者・国民の「知る権利」(憲法21条1項)に奉仕する公の施設であり、その機能は民主主義の土台でもあります。

図書館法3条は、それぞれの自治体・図書館が「土地の事情及び一般公衆の希望」に沿った創意工夫を行うことも規定していますが、しかしそれは同法3条各号が掲げる、図書・郷土資料等の収集・一般公衆への提供(1号)、図書の分類配置・目録の整備(2号)、レファレンス(3号)などのナショナル・ミニマムの役務・サービスを達成した上で行なわれるべきものです。

利用者・国民の「教育を受ける権利」や「知る権利」・民主主義ではなく、「町おこし」「街のにぎわいの創出」を目的としたCCCを指定管理者とした全国のツタヤ図書館の導入・運営は、図書館法1条に抵触する違法なものであると思われます。

民間により行政が担ってきた公的事業の代替が認められるためには、いやしくも民間化によって、それまで行政により確保されてきた国民の憲法が保障する社会権・生存権がないがしろにされてはならないのです(晴山一穂『現代国家と行政法学の課題』161頁)。

4.まとめ
本件訴訟は住民側敗訴という残念な結果に終わりました。しかしそれは住民訴訟という訴訟類型に住民側の訴えが適合していなかったという形式的な理由に止まるのであり、裁判所はツタヤ図書館に積極的なお墨付きを与えたわけではありません。

ボールは海老名市議会や市当局、海老名市の住民の方々に戻されたものと思われます。海老名市議会にはツタヤ図書館問題の追及を続けておられる理性的な議員の方もおられます。そのような方々のより一層の奮闘が望まれます。

■関連するブログ記事
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた

■参考文献
・『判例地方自治』平成30年7月号55頁
・宇賀克也『地方自治法概説 第7版』357頁
・寺田友子「公の施設の管理外部化にみる住民訴訟」『桃山法学』7号31頁
・塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』98頁、101頁
・晴山一穂『現代国家と行政法学の課題』161頁

地方自治法概説 第7版

新図書館法と現代の図書館

現代国家と行政法学の課題―新自由主義・国家・法

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東京医科大学

1.東京医科大学の一般入試で女性差別が発覚
本日の読売新聞などによると、東京医科大学が2011年頃より医学部医学科の一般入試で、女子受験者の得点を一律に減点し、女子の合格者数を抑えていたことが関係者の話でわかったとのことです。これには「いつの時代だよ!?」と驚いてしまいました。

・東京医大、女子受験生を一律減点…合格者数抑制|読売新聞

記事によると、大学関係者は、「医師の国家試験に合格した同大出身者の大半は、系列の病院で働くことになる。」「同大出身の女性医師が結婚や出産で離職すれば、系列病院の医師が不足する恐れがあることが背景にあった」と説明しているようです。

しかしこのような東京医科大学の一般入試における男女差別は、わが国の近年の社会の各分野における女性への不平等の是正、男女雇用機会均等法の制定・数次の改正、最近は国会における「政治分野における男女共同参画推進法」の成立などの一部分野におけるアファーマティブ・アクションなどの社会の動きに真っ向から逆行しています。

2.法の下の平等
憲法14条1項は、性別による差別を明文をもって禁止しています。また、同26条1項は教育の機会均等を定めています。

憲法
第14条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

第26条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。

そして、教育分野について定める教育基本法は2条3号で教育の目標の一つに「男女平等」を掲げ、同法4条1項は男女差別を禁止しています。

教育基本法
第4条 すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。

3.平等の意味
このように憲法や法律には何重にも平等原則が規定されていますが、一般に、平等には形式的平等と実施的平等の二種類があるとされています。人の現実のさまざまな差異を一切捨象して一律平等に扱うこと、つまり機会均等を形式的平等と呼びます。一方、人の現実の差異に注目してその格差是正を行うこと、つまり配分・結果の均等を実質的平等と呼びます。

そして、近代立憲主義(自由主義)によるわが国の憲法は、自由の理念と調和する平等の理念に基づいているため、憲法14条の規定はまずは形式的平等を保障したものであり、実質的平等は憲法13条、25条などの観点により国会の立法により達成されるべきであると考えられています。

今回問題となっている東京医科大学の件は大学入試、しかも一般入試にかかわるものです。大学入試とは試験問題に対する受験生の回答により採点を行い、その結果により合否を決する、つまり人の差異を一切捨象して点数のみで一律平等に合否を決める(受験機会の平等)、形式的平等の適用されるべき典型的な場面です。

そのような大学入試の場面に、かりに将来の大学の系列病院の運営など他の要請のために、女性受験生にのみ一律に点数を減点するということは、大学入試の受験機会の平等という形式的平等の要請に明らかに反しています。

私立である東京医科大学は民間法人ですが、民間部門において判例は昭和56年(1981年)に、男子55歳、女子50歳を定年とする企業の就業規則の規定は合理性のない差別的取り扱いであり無効とする判断を出しています(日産自動車事件・最高裁昭和56年3月24日判決)。

4.まとめ
したがって、日産自動車事件判決に照らしても、今回発覚した東京医大の大学入試における女性のみ点数を一律に引き下げて合格者を減らす取扱いは、不合理な差別的取り扱いであり、憲法や教育基本法などの各法令に違反し、無効な取り扱いであると考えられます。

なお、東京医科大学の経営陣は、それでは系列病院の運営がなりたたないと主張するかもしれません。しかしそれは個々の系列病院の経営陣がそもそも人事・労務管理の問題として、女性の医師に働きやすい環境を調整する義務を負っている事柄であって(安全配慮義務、職場環境調整義務)、教育機関である大学の入試とは別の問題です。

東京医科大学の明治時代に戻ってしまったかのような時代錯誤な社会認識や実務は、男女雇用機会均等法など労働法の趣旨をも潜脱しているように思われます。少なくとも同大学の校是である「正義・友愛・奉仕」の精神に反していることは間違いありません。

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』282頁、295頁
・芦部信喜『憲法 第6版』127頁


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