なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2019年01月

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1.はじめに
1月26日付の毎日新聞に、子どもがインフルエンザに罹患した場合に、その親である労働者に対して会社が休業を命じることがあるが、ある社会保険労務士によると、この場合「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき賃金はゼロとなるとの記事が掲載されていました。
・「子供がインフル」ママパートに“休業命令”はあり?|毎日新聞

ネット上では「これはひどい」との声が大きくあがっていましたが、この場合、賃金はどうなるのでしょうか?

2.会社は労働者に休務を命じることができるのか
そもそも、会社(使用者)は労働者に休務を命じることができるのでしょうか。この点、会社は労働契約の範囲内であれば、どのような指示をするのかは、公序良俗に反しない限り自由にできると解されています。そのため、仕事にかえて自宅で待機するよう指示することも有効です(東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』352頁)。

会社(使用者)は労働者・職場に対して安全配慮義務や職場環境調整義務を負っているので、インフルエンザにかかった子どもの家庭の親などの労働者に休務を命じることは、合理性があるといえるので、その指示は有効であると考えられます。

3.休業手当
つぎに労働者が会社から休務(休業)を命じられた場合、その賃金はどのようになるのでしょうか。雇用契約は契約の一種ですが、契約・債権の総則規定を置いている民法のなかの、第536条2項はつぎのように規定しています。

民法

第536条 (略)
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後略)


つまり、債権者=会社の責めに帰すべき事由によって、債務者=労働者が債務(労働を提供する債務)をすることができなくなったときは、債務者=労働者は反対給付を受ける権利(賃金を受ける権利=休業手当)を失わないのです。

すなわち、民法536条2項によれば、会社の責めに帰すべき事由により労働者が休業を命じられた場合は、労働者は賃金を受ける権利を失わないので、労働者は100%の賃金を受け取ることができることになります。

ところで、雇用分野に関しては、民法に規定があるだけでなく、労働基準法や労働契約法などが制定されています。本事例のような休業手当に関して労働基準法はつぎのように規定しています。

労働基準法

(休業手当)
第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

(罰則)
第120条 次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 (略)第二十三条から第二十七条まで、(略)の規定に違反した者
(後略)


つまり、労働基準法は、会社がその責に帰すべき事由により労働者に休業を命じた場合、60%の賃金を支払えと規定しています。しかも、これに違反した場合は会社に罰則が科せられます。

民法536条2項が規定する「責に帰すべき事由」が原則として「故意・過失」であるのに対して、労働基準法26条の「責に帰すべき事由」はより広く、「経営上の障害」も含まれると解されています(菅野和夫『労働法 第11版補正版』439頁、ノース・ウエスト航空事件・最高裁昭和62年7月17日)。

4.いすゞ事件
このように、休業手当が支払われる場合には民法は賃金の100%、労働基準法は60%と規定しているわけですが、会社はどちらの規定に基づくべきなのでしょうか。

この点が争点となった、いすゞ事件(東京地裁平成24年4月16日)は、休業に対して60%の休業手当が支払われた有期雇用契約の従業員が100%が正当であるとして残りの40%の支払いを求めた訴訟ですが、裁判所は従業員側の主張を認め、残りの40%の支払いを命じる判決を出しています。これは、原告が有期雇用であったため、期間内の賃金支払いの期待が高いことが考慮されたものと解説されています(東京南部法律事務所・前掲149頁)。

5.まとめ
このように見てみると、会社がインフルエンザのおそれから職場を守るためという経営目的上の理由、すなわち会社の責めに帰すべき事由を理由として、従業員に休務を命じる場合には会社は休業手当を支払わなければなりません。そしてその金額は、有期雇用契約の従業員の場合は100%とする裁判例が存在します。少なくとも、60%の休業手当を支払わない場合、罰則規定がありますので、会社は労基署や労働局などから行政処分を受けるリスクがあります。

あるいは、毎日新聞の本事例の記事のような、「ノーワーク・ノーペイの原則に基づいて給料はゼロ円」という結論はあり得ないことになります。

■参考文献
・東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』149頁、352頁
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』439頁

労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)

新・労働契約Q&A 会社であなたをまもる10章

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1.はじめに
1月下旬より、各メディアが、およそ6000万人の顧客の個人情報を保有するTポイント事業を管理運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)が、2012年より警察から令状でなく任意の照会である捜査関係事項照会によりTポイントの顧客の購買履歴などの大量の個人情報の提供に応じていたことを報道しています。

Tポイントは、ツタヤ、ファミリーマート、ヤフー、ガスト、ウェルシアなど各種の約100の事業者、全国約29万店舗で利用されている共通ポイントです(2014年12月現在)。たとえば書籍の購買履歴からは本人の思想・信条(憲法19条)が推知されるおそれがあります。また、ドラッグストアにおける医薬品の購買履歴からは本人の傷病などのセンシティブな個人情報が推知されるおそれがあります。さらに、いつ、どこで、何を購入したかという蓄積されたデータから、本人がどんな社会的属性の持ち主であるかなどのさまざまなプライバシー(憲法13条)が類推されてしまいます。加えて、CCCの子会社のツタヤはいわゆる「ツタヤ図書館」などを武雄市などで運営していますが、CCCのデータベースと直結された図書館サーバーから公共図書館の利用者の貸出履歴などが流出しているのではないかと常に疑問視されてきました。

2.捜査関係事項照会とは
今回の件で警察が利用しているのが捜査関係事項照会(刑事訴訟法197条2項)です。「公務所等に対する照会」とも呼ばれます。

刑事訴訟法

第197条2項
捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。

「公私の団体」とは、広く団体すべてを指すとされているため、CCCなどの民間企業もこの照会先に含まれます。また、この条文にあるとおり、捜査関係事項照会は、相手方に回答を強制する手段はとくに定められておらず、回答がない場合は、令状を得て捜索・差押をするしかないとされています(『新基本法コンメンタール刑事訴訟法第2版追補版』236頁)。

警察の捜査は原則として令状が必要な捜索・差押や逮捕などの強制捜査と任意捜査に分かれますが、捜査関係事項照会は任意捜査に分類されます。そして、任意捜査は任意であるから何をしても許されるわけではなく、当該捜査の①必要性、②緊急性、③手段の相当性、の3要件を満たしてはじめて適法となるとされています(最高裁昭和51年3月16日決定、田口守一『刑事訴訟法 第4版補正版』44頁)。

そこで今回のCCCの事例を考えると、新聞報道などによると、警察など捜査機関は、「とりあえず」といった感覚でCCCの本社機構に対して捜査関係事項照会を大量に網羅的に行ってきたようです。しかしそれが報道どおりであれば、上の①必要性、②緊急性の2要件を満たしていないと思われ、警察の同照会は適法ではなかったのではないかという疑問が残ります。6000万人の国民の個人情報ならびにプライバシーが不当に侵害されていたのではないかとの疑いが残ります。

3.CCCの捜査関係事項照会への対応について
CCCが1月20日に公表したプレスリリースによると、従来、CCCは警察からの要請があった場合、令状がある場合のみ「必要最小限」の回答をしてきたところ、2012年以降は、「個人情報保護法に従って対応」してきたと説明しています。

この点、個人情報保護法16条1項は、「事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、(略)利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。」と規定していますが、同16条3項各号はその例外を定めており、そのなかに「法令に基づく場合」が規定されています(1号)。

個人情報保護法

第16条 個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない。
2 (略)
3 前二項の規定は、次に掲げる場合については、適用しない。
一 法令に基づく場合
(後略)


そして、個人情報保護委員会の「個人情報保護ガイドライン(通則編)」20頁は、この「法令に基づく場合」に「事例 1)警察の捜査関係事項照会に対応する場合(刑事訴訟法(昭和 23 年法律第 131 号)第 197 条第 2 項)」として、捜査関係事項照会が含まれることを解説しています。そのため、CCCの捜査関係事項照会への対応は、個人情報保護法に関しては違法ではないということになります。

(なお、個人情報保護法23条1項は、事業者に対して、原則として本人の同意を得ないで個人情報を第三者に提供することを禁止していますが、同条同項各号はその例外規定を置いており、ここでも「法令に基づく場合」が規定されています(1号)。そして個人情報保護委員会の個人情報ガイドライン(通則編)45頁は、その具体例は同法16条と同様であるとしています。)

しかし、多くの民間企業は、顧客の個人情報について警察から捜査関係事項照会などを受けた場合、それがあくまでも司法判断を経ていない任意捜査であること、顧客のプライバシー権への考慮、場合によっては顧客から提訴される訴訟リスクなどを総合考慮して、外部からの照会に対し、重大な犯罪なのか否か、網羅的・全面的な開示要求でないか、回答するとしてどの部分まで回答するか、等などを個別に判断して慎重に回答を行うことが通常です。

ところが新聞報道やCCCのプレスリリースなどによると、CCCは個人情報保護法が「ザル法」であることをいいことに、警察の言うがままに顧客の個人情報を提供し続けていたように思われます。このようなCCCの雑な実務は、顧客に対して民事上の損害賠償責任を構成する余地はないのでしょうか。

この点、CCCは6000万件という大規模な個人情報データベースを管理している運営主体として、個人情報の適切管理義務をつくしていたかどうかが問題となります。

大規模な個人情報データベースの運営主体が個人情報を漏えいした事件(Yahoo!BB事件)について、裁判所は個人情報の適切管理義務違反を認定し、損害賠償責任(民法709条)を認めています(大阪地裁平成18年5月19日)。

また、Yahoo!BB事件における事業者は電気通信事業者ですが、一般の事業者のベネッセ個人情報漏洩事件においても最高裁は、顧客個人情報の漏洩によるプライバシー侵害を認めています(最高裁平成29年10月23日)。

『本件個人情報は、上告人らのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)、上記事実関係によれば、本件漏えいによって、上告人は、そのプライバシーを侵害されたといえる。
 しかるに、原審は上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無およびその程度について十分に審理(していない。)』

さらに、事業者が外部からの照会(弁護士会照会)に対して、形式的には法令を遵守していたとしても実質的には漫然と照会に応じていた場合にプライバシー侵害を認め不法行為責任を認めた判例も存在します(前科照会事件・最高裁昭和56年4月14日)。

個人情報保護法の解説書も、
『(「法令に基づく場合」)に該当する場合でも、(略)他の法令等によって目的外の取扱いが違法となるか争いがある場合がある。そのような場合は、ある取扱いが特定の法令に基づき形式的には是認されているように見えても、当該法令よりも優先適用されるべき他の法令等が存在していることにより、結局のところ全体としての法秩序全体系の中では違法であると評価される』(岡村久道『個人情報保護法 第3版』184頁)

と解説しています。

そこで今回の事例を考えると、CCCは警察からの大量の網羅的な照会に対して、それを必要最小限となるよう配慮することなく、漫然と機械的に全面的に回答していたように思われます。それは個人情報保護法は形式的にクリアするとしても、大規模な個人情報データベースの運営主体としての、個人情報の適切管理義務をつくしておらず、顧客のプライバシー権を侵害しており、これは6000万人の顧客に対して違法なものであって、不法行為を構成するのではないかと思われます。

なお、個人情報保護法40条は、個人情報保護委員会は事業者に対して、個人情報の取扱に関して報告の徴求や立入検査を行うことができると規定しています。また、同41条、42条は、個人情報保護委員会は事業者に対して助言・指導や勧告などを行うことができると規定しています。

事業者の「個人情報の利活用」しか頭にないような個人情報保護委員会ですが、少しは国民の「個人の人格尊重の理念」のためにも働いてもらいたいものだと思われます。

■関連するブログ記事
・ツタヤ図書館から個人情報は洩れていないのか?
・CCCがT会員6千万人の購買履歴等を利用してDDDを行うことを個人情報保護法的に考える
・ジュンク堂書店が防犯カメラで来店者の顔認証データを撮っていることについて

■追記
本事例のように店舗等で取得された顧客情報と顧客のプライバシー、そして小売業者など私人からの警察など公権力への情報提供と顧客のプライバシー権などの問題に関しては、憲法学者の石村修・専修大学名誉教授のつぎの論文が大変参考になります。
・石村修「コンビニ店舗内で撮影されたビデオ 記録の警察への提供とプライバシー」(PDF)|専修大学

■参考文献
・三井誠他『新基本法コンメンタール刑事訴訟法 第2版追補版』236頁
・田口守一『刑事訴訟法 第4版補正版』44頁
・宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第6版』138頁
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』184頁
・宍戸常寿『新・判例ハンドブック 情報法』95頁、196頁
・日経コンピュータ『あなたのデータ、「お金」に換えてもいいですか?』78頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』48頁


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個人情報保護法〔第3版〕

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1.はじめに
数日前のNHKニュースに大阪地裁の興味深い判決が掲載されていました。

大阪市営地下鉄(現在の大阪メトロ)の運転士らがひげを生やして勤務していることを理由に、最低の人事評価にされたのは不当だと訴えた裁判で、大阪地方裁判所は1月16日に「ひげを生やすかどうかは個人の自由で、人格的な利益を侵害し違法だ」として、大阪市に40万円余りの賠償を命じました。
(「「ひげ生やすのは個人の自由」人事の低評価に賠償命令」NHKニュース2019年1月16日付より)


大阪市交通局は2012年に男性職員にひげをそるよう求める「身だしなみ基準」を設けており、裁判ではこの基準の妥当性などが争点となったそうです。

16日の判決は、

「清潔感を欠くとか、威圧的な印象を与えるなどの理由から地下鉄の乗務員らにひげをそった状態を理想的な身だしなみとする基準を設けることには必要性や合理性があるが、この基準はあくまで職員に任意の協力を求めるものだ」

「ひげを生やすかどうかは個人の自由で、ひげを理由にした人事評価は人格的な利益を侵害し違法」
(「「ひげ生やすのは個人の自由」人事の低評価に賠償命令」NHKニュース2019年1月16日付より)


として、大阪市に慰謝料として40万円余りを支払うよう命じたとのことです。

私はこれはごく常識的な妥当な判決だと思うのですが、維新の会の吉村洋文・大阪市長はツイッター上で、「なんだこの判決」「公務員組織だ。お客様の料金で成り立ち、トンネルには税金も入っている。」と大変お怒りのようで、大阪市は控訴する方針とのことです。

吉村市長
(吉村市長のツイート)

しかし高裁でこの事件が争われたとして、結論はくつがえるのでしょうか?

2.服務規律・企業秩序の限界
一般的な事業者においては、たとえば入退館に関する規律、遅刻・早退・欠勤・休暇などの手続き、服装規定、上司の指示・命令への服従義務、職場秩序の保持、などの服務規律が定められています。

また、事業者が経営目的を遂行する組織体として必要とし実施する、構成員に対する統制の全般を意味する企業秩序という概念も存在します。

しかし、企業秩序は労働契約に根拠づけられて存在するものであるため限界が存在するとされています。つまり、労働者は事業者および労働契約の目的上必要かつ合理的なかぎりでのみ企業秩序に服するのであり、「企業の一般的な支配に服するものではない」のです(最高裁昭和52年12月13日判決)。

具体的には、企業秩序において定立される規則や発せられる命令は、事業者の円滑な運営上必要かつ合理的なものであることが求められ、たとえば、労働者の私生活上の行為は、実質的にみて企業秩序に関連性のある限度においてのみその規制の対象となるとされています。

3.運転手の口ひげに関する裁判例
この点、今回の大阪の事例に類似するものとして、ハイヤー運転手の口ひげが、「ハイヤー乗組員勤務要領」中の身だしなみ規則の「ヒゲをそり頭髪は綺麗に櫛をかける」に違反するかどうかについて、同規定で禁止されたヒゲは、「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」のみを指し、格別の不快感や反発感を生じしめない口ひげはそれに該当しないと判断した裁判例があります(イースタン・エアポートモータース事件・東京地裁昭和55年12月15日判決)。

また、郵便局職員について、「労働者の服装や髪形等の身だしなみは、もともとは労働者個人が自己の外観をいかに表現するかという労働者の個人的自由に属する事柄であり、髪形やひげに関する服務中の規律は、勤務関係または労働契約の拘束を離れた私生活にも及び得るものであることから、そのような服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力を認められる」と判示する裁判例も存在します(郵政事業事件・神戸地裁平成22年3月26日判決)。

4.まとめ
このように、服務規律・企業秩序は事業者の運営のために重要なものではありますが、それは一般的・網羅的に労働者におよぶのではありません。髪形・服装などの身だしなみは憲法13条が定める幸福追求権から認められる自己決定権の一つをなす基本的人権です。髪形・服装・ひげなどに対する服務規律は、事業遂行上の必要性と合理性が認められるものに限定され、就業規則などの口ヒゲ禁止の規定があったとしても、それは「無精ひげ」や「異様、奇異なひげ」など業務に支障のあるものに限定されるべきです。

先例となる裁判例に照らし合わせても、今回の大阪地裁の判断は妥当なものであるといえます。高裁で争われたとしても、結論はあまり変わらないのではないかと思われます。

5.公務員とは
ところで、冒頭であげたとおり、維新の吉村市長のツイートにおける公務員へのコメントはなかなか刺激的です。「公務員組織だ。お客様の料金で成り立ち、トンネルには税金も入っている。」とのことです。

あるいは、従来より維新の政治家達は大阪の公務員を敵に仕立て上げ、バッシングを繰り広げることにより支持を伸ばしてきたようです。大阪市の職員に対する旧ソ連の秘密警察じみた「思想調査」も行われました。

維新の政治家によれば、公務員は国民の出資により成り立っているのだから、公務員は二級国民だ、国民に奉仕する奴隷だとでもいいたいようです。

しかしそのような考え方は妥当なのでしょうか。そもそも公務員も国民のひとりのはずです。基本的人権がないかのような考え方は今どきどうなのでしょうか。

たとえば国家公務員法・地方公務員法は公務員に政治的中立を求める規定を設けています。このような公務員の人権制約の問題について、大昔の判例は、憲法15条の「全体の奉仕者」の文言を根拠とし、公務員は24時間365日公務員であるとでもいうがごとき考え方をしていました(猿払事件・最高裁昭和49年11月6日判決)。

しかし近年出された同じく公務員の政治的中立の問題について、最高裁は、問題となった公務員が幹部職員であるか否かで判断を分けるなど、比較考量論をとり、できるだけ公務員の人権制約をゆるめようとしています(堀越事件・最高裁平成平成24年12月7日判決)。

日本で一番頭が固いと思われる最高裁ですら、公務員に関する考え方をこのように変更しているのに、「改革」が売り文句の維新の政治家の方が、昭和40年代の判例のような古臭い考え方を引きずっているのはいかがなものでしょうか。今回の大阪地裁の判決をもとに、「身を切る改革」の精神で意識改革をなさってはと思われます。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』649頁、653頁
・東京南部法律事務所『新労働契約Q&A』269頁
・芦部信喜『憲法 第6版』108頁、126頁

労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)

新・労働契約Q&A 会社であなたをまもる10章

憲法 第六版

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1.自筆証書遺言の保管申請
(1)保管の申請
遺言をする者(遺言者)は、遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を所轄する法務局に対して遺言の保管の申請を行うことができます(遺言書保管制度)。

この遺言書保管制度による保管の対象となるのは自筆証書遺言に限られます(遺言書保管法1条)。また、遺言書の保管の申請は、遺言者が所轄の法務局に自ら出頭して行う必要があり、その際には法務局の遺言書保管官(法務事務官)は、申請人が本人であることの確認を行います(同4条6項、5条)。

(2)遺言書の保管
保管の申請を受けた法務局(遺言書保管官)は、遺言書の原本を法務局の施設内で保管します(同6条1項)。また、法務局は、つぎの事項を記録した「遺言書保管ファイル」により遺言書の情報を管理します。

①遺言書の画像情報
②遺言書に記載されている作成の年月日
③遺言者の氏名、生年月日、住所および本籍(外国人の場合は国籍)
④遺言書に受遺者・遺言執行者の記載があるときは、その氏名・名称、住所
⑤遺言書の保管を開始した年月日
⑥遺言書が保管されている法務局の名称および保管番号

2.保管された自筆証書遺言についての相続人による確認など
(1)遺言書情報証明書
遺言者の死亡後、相続人はどの法務局(遺言書保管官)に対しても「遺言書保管ファイル」に記録されている事項を証明した書面(「遺言書情報証明書」)の交付を申請し、遺言の画像情報などを確認することができます。この遺言書情報証明書には、つぎの事項が記録されています(遺言書保管法9条1項、7条2項)。

①遺言書の画像情報
②遺言書に記載されている作成年月日、遺言者の氏名・生年月日・住所および本籍(外国人は国籍)
③受遺者や遺言執行者がいる場合にはその氏名・名称および住所
④遺言書の保管を開始した年月日
⑤遺言書が保管されている法務局の名称および保管番号

なお、相続人はどの法務局においても遺言書情報証明書を取得することができるため、最寄りの法務局で証明書を取得することができます。

(2)自筆証書遺言の原本の閲覧
相続人は、遺言者の死亡後、遺言者が作成した自筆証書遺言を現に保管する法務局に対しては、当該遺言の原本の閲覧を請求できます(遺言保管法9条3項)。

(3)他の相続人への通知
上の遺言書情報証明書の交付や自筆証書遺言の原本の閲覧が行われた場合、法務局から他の相続人に対して、当該自筆証書遺言を保管している旨の通知が行われます(遺言保管法9条5項)。

(4)自筆証書遺言の原本の取り扱い
相続人は、遺言者の作成した自筆証書遺言の原本の返還を受けることはできません。これは、複数の相続人からの返還の申し出が競合した場合、対応が困難なことや、特定の相続人が遺言書原本の返還を受けた後にこれを隠匿するおそれがある等のためです。また、相続人による遺言書情報証明書の請求や自筆証書遺言の原本の閲覧は、遺言者が死亡した場合に限って行うことができます。

3.法務局に保管された自筆証書遺言の検認の要否
(1)現行の制度
現行民法は、遺言者が自筆証書遺言を作成しており相続の開始があった場合には、当該遺言書は、家庭裁判所による検認を経る必要があります(民法1004条1項)。これは遺言書の偽造や変造を防ぐためです。

(2)遺言書保管制度による自筆証書遺言
一方、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言においては、法務局(遺言者保管官)が家庭裁判所の検認手続きと同様の機能を果たすため、家庭裁判所による検認は不要となります(遺言書保管法11条)。

(3)金融実務への影響
現行制度においては、金融機関が預金の払い戻しや保険金支払い等を行うにあたっては、自筆証書遺言が検認を経ているかチェックする必要があります。しかし、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言に関し、相続人から預金の払い出しなどを行うにあたっては、相続人が所持しているのは遺言書情報証明書だけであり、その提示を受けて払戻しなどを判断することになります。検認を経ていることのチェックは不要となります。

■参考文献
・『一問一答相続法改正と金融実務』126頁
・『金融機関のための相続法改正Q&A』30頁

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1.はじめに
弁護士ドットコムニュースなどによると、自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPUを使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」を保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われたウェブデザイナーの男性の初公判が1月9日、横浜地裁で行われたとのことです。

・コインハイブ事件で初公判 「ウイルスではない」と無罪主張|弁護士ドットコムニュース

この問題はネット上で大きく注目されているだけでなく、刑法学者の方などの論文も法律雑誌などに掲載されています。

2.研究者の方などの論考
学習院大学の鎮目征樹教授は、『法学教室』2018年12月号の論文において、不正指令電磁的記録作成等罪の処罰対象となる不正プログラムが条文上、「不正な指令」とされているところ、立案担当者は「不正な」指令という文言から「社会的に許容しうるものを除外する趣旨の限定」、つまり「社会的許容性」の当否がその判断基準となるとしています。

そして、この社会的許容性の判断に関して、「情報セキュリティ上の脅威となる実体」がある場合を「不正」とする見解が注目されるとし、「データの損壊・流出のような情報セキュリティ上の脅威が認められる場合」や、「これらと同視しうる程度に「不正な」プログラムの動作内容を類型化してゆくというアプローチ」を提唱しておられます。

そのうえで鎮目教授は、「コインマイナーを設置したウェブサイトにアクセスした際に閲覧者のコンピュータの処理能力を用いてマイニングを行うもの」について、「仮にコインマイナーが、使用者の意図に反する動作をさせるプログラムであることが肯定されたとしても、コンピュータの処理能力の一部をひそかに借り受けるという動作内容が、はたして社会的に許容されないものといえるのかは問題として残る。コインマイナーは、コンピュータ使用者のデータを棄損したり、流出させることはないから、情報セキュリティに対する危害という意味での利益侵害性はない。もっともマイニングという意図に反する動作によって、コンピュータ使用者の電力消費量が意に反して増加し、その反面としてサイト使用者が利得するという関係性は認められる。しかしこのような点が、「不正」性の判断にとっていかなる意味をもつのかについては現在のところ明らかにされていない。」と解説しておられます(鎮目征樹「サイバー犯罪」『法学教室』2018年12月号109頁)。

また、コインマイナー・コインハイブの問題としばしば並べて論じられるのは、ウェブサイト上のバナー広告です。コインマイナーもバナー広告も、JavaScriptなどを用いてウェブサイトに設置され、閲覧者のコンピュータの処理能力の一部を借りて設置者が利得を得る点は同じです。しかしバナー広告が不正指令電磁的記録保管の罪に該当するという見解はないものと思われ、コインマイナーの方を違法とすることはバランスが悪いとも考えられます(『デジタル法務の実務Q&A』400頁)。

法学教室 2018年 12 月号 [雑誌]

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