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1.はじめに
政府の漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する「緊急決定」を受けて、4月23日に、NTTコムやNTTドコモなどNTTグループは、政府の決定に応じて、ブロッキングを行う旨を記者会見で発表しました。

・報道発表資料 インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について|NTTドコモ

このようなNTTグループの対応に対しては、ネット上などで多くの学識者の方々から、通信の秘密を定める憲法21条2項や電気通信法4条に抵触するとの批判が出されています。(同法4条に電気通信事業に従事する者が違反した場合、同法179条2項により、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処される可能性があります。)

そして、ツイッターなどSNSにおいては、NTTグループの従業員のSEと思われる方の「自分はこのブロッキングは違法なものと考えるが、もし上司からそれを実施せよと指示されたとき、それを断ることはできないのだろうか?」との趣旨の悩みも表明されるに至っています。

これが本当にNTTグループの従業員の方の悩みであったとして、従業員は指示された業務が違法であることを理由として、当該業務を断ることができるのでしょうか?

2.使用者の指揮命令の限界
使用者(企業)と労働者が労働契約(雇用契約)を締結することにより、その使用者と労働者は雇用の関係になります(労基法2条、労働契約法3条)。そして、労働契約に基づいて、使用者は労働者に対する指揮命令権(業務命令権)や指揮監督権を持つことになり、一方、労働契約に基づいて、労働者は労務提供義務(労働義務)、業務を誠実に行う誠実義務などを負うことになります。そして、使用者側が具体的にどのような指揮命令を行えるかについては、労働契約の内容と、就業規則によることになります。

そのため、この使用者側の指揮命令権や、労働者側の労務提供義務や誠実義務があることにより、原則として、労働者はその上司らから業務命令を受けた場合、それを拒否することはできません。それを理由なく拒否した場合は、その労働者は懲戒処分に科されるおそれがあります。しかし、上司の業務命令も無制限に何でも許されるわけではなく、限界があります。

この点、使用者は、労働契約の内容や就業規則の内容を超える指揮命令を出すことはできません。労働契約の内容を超える指揮命令は無効であり、使用者は労働者の指揮命令違反を理由として懲戒や賃金カットなどを行うことはできません。同様に、労働協約や労使慣行に反する指揮命令も許されません。

3.憲法・法律に違反する指揮命令の効果
また、同様に、使用者は憲法や労基法に違反する指揮命令を出すこともできません(西日本鉄道事件・最高裁昭和43年8月2日判決)。さらに、使用者は労働者の人格権や権利を不当に侵害するような指揮命令を出すこともできません(民法90条)。このような指揮命令は違法なものと評価され、労働者はその指揮命令に従う義務はありません(東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』265頁)。

4.労働者側の取りうる対応
とはいえ実際の問題として、上司や経営陣がある業務を行えと従業員に命令するとき、経営陣や上司はその業務命令は「適法・妥当」であると考え、かりに労働者側が当該業務命令が違法・違憲であると考えたとしても、議論したとしてもそれは平行線に終わるでしょう。

そのため、経営陣や上司の出す業務命令が違法であるか適法であるかは、終局的には裁判により司法判断により決せられることになります。

しかし今回の事案のように、まさにNTTグループの経営陣がブロッキングの命令を出そうとしているときに、労働者は裁判の判決を待っているわけにもゆきません。また、裁判までして会社側と徹底抗戦したいと思う労働者も多くはないでしょう。

このような場合、労働者側としては、まずは社内の内部通報窓口に、何らかの手段でブロッキングは違憲・違法のおそれが高いことを通報すべきと思われます。公益通報者保護法は、内部通報者(公益通報者)に対して使用者側が、内部通報をしたことを理由として解雇やその他の不利益処分を当該内部通報者に科すことを禁止しています(3条、5条)。なお、会社側は、かりに内部通報が匿名によりなされたものであっても、社内の不祥事などを防止する観点から、できる限りの対応を行うべきです(消費者庁「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」Ⅲ.1.(3))。 

また、内部通報を行っても会社側が動かない場合、内部通報者は監督官庁などに内部通報を行うことができます。上と同じく、会社側はこの内部通報を理由として解雇その他の不利益処分を科すことは禁止されています(法3条2号、5条)。

さらに、労働者は、違法な指揮命令が行われている旨を、所轄の都道府県労働局や労基署などに申告することができます。労働局などは、会社側に対して、個別紛争解決促進法4条などに基づいて、助言・指導を行うことができます。

*なお、詳細につきましては、もよりの弁護士事務所などにご相談ください。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』149頁
・東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』265頁
・西村あさひ法律事務所『実例解説 企業不祥事対応』122頁

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