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カテゴリ: 憲法

内閣府(CIO)の新型コロナ感染追跡アプリ(COCOA・以下「感染追跡アプリ」)のシステム仕様書をざっと読んでみました(「接触確認アプリ及び関連システム仕様書(案)[概要])」)。
・接触確認アプリ及び関連システム仕様書(案)[概要]|内閣府 CIO

接触感染アプリの仕組み
(内閣府の仕様書より)

仕様書において、内閣府は一生懸命「個人情報やプライバシー的に問題ない!」と力説していますが、コロナ感染発覚の時点で保健所が「コロナ感染者把握・管理支援システム」に感染者の個人データを登録するから、はなから国民にプライバシーないのではないでしょうか?

コロナアプリ情報の流れ
(内閣府の仕様書より)

また仕様書によると、内閣府は「本アプリから生成され発信される識別符号は毎日変更されるから、個人情報上の問題はない!」などと主張しています。

しかし、生成したスマホアプリ自身からは当該識別符号から本人を特定できるはずです。つまり、それは、本人を容易に識別できるのから個人情報そのものです(個人情報保護法2条1項)。なのに、どこが個人情報保護法上あるいはプライバシー(憲法13条)上問題ないといえるのでしょうか。

政府は「個人情報保護法上あるいはプライバシー上の問題」を、「セキュリティ上の安全性がある程度高い」という問題にすり替えてるだけに思えます。

一方国民側は、建前上は「任意」といいつつ、微妙なアプリをスマホにインストールさせられて、何かあると自らの医療データに関するセンシティブな個人データをアプリに入力する手間が増えるだけで、国民側にはそれほどメリットがあるとは思えません。

結局、コロナ感染追跡アプリのメリットは、保健所のデータ入力の事務負荷が少し下がる程度なのではないでしょうか。

スマホアプリの新技術でこんなことできるたらいいなと漠然と官民が考えて、効果の過多もわからないまま、国民のセンシティブな個人情報を取得したり、プライバシー上妙なことをするのは、OECD8原則の「個人情報の必要最小限度の取得」の原則や、「個人情報の利用目的をできるだけ厳格化して国民本人の個人情報・プライバシーを守る」という個人情報保護法15条の趣旨に反するのではないでしょうか。

新聞記事などを読むと、このアプリおよびシステムが有効な効果をあげるためには、国民のおよそ3分の2がアプリをインストールする必要があるそうですが、先行事例のあの強権的国家のシンガポールでも、国民はプライバシー侵害をおそれてそのほんの数分の1程度しかアプリをインストールしていないといいます。この感染追跡アプリが日本で成功するとはとても思えません。

内閣府CIOの資料をみていると、官民のITオタク達が、「ボクたちの考えた最強のインターネット」を国の予算で作ってドヤ顔したいだけに見えます。

コロナ対策として効果が漠然としているのなら、日本は中国やシンガポールなどと違い、国民主権の自由主義国なのだから、そんなアプリよりも国はもっと国民個人のプライバシー権や個人情報を守るべきではないでしょうか。国民の個人情報やプライバシー侵害のおそれがあるにもかかわらず、本アプリの企画・開発に、通信傍受法などのような国会の立法手当てがないことには不安を感じます。

コロナ対策としては、妙なITに頼るのではなく、今までどおり、地域や拠点の病院での治療や物資・人員を充実させること、国民はマスクや手洗いの徹底などの取り組みを地道に行うのが早道なのではないでしょうか。

■追記(6月18日)
なお、内閣府CIOサイトの5月26日付の感染確認アプリに関する有識者検討会合「感染確認アプリ及び仕様書に対するプライバシーおよびセキュリティ上の評価およびシステム運用上の留意事項」2頁、3頁は、①厚労省の感染者システムから国民のスマホの本アプリに発行される「処理番号」と、②陽性者と紐付けられた本アプリが作成する識別符号である「診断キー」は、行政機関個人情報保護法および個人情報保護法における要配慮個人情報、つまりセンシティブな個人情報であると明記しています。
・資料2: 「接触確認アプリ及び関連システム仕様書」に対するプライバシー及びセキュリティ上の評価及びシステム運用留意事項|政府CIOポータルサイト

この点、本アプリについては、首相やコロナ担当大臣などが記者会見などで繰り返し「本アプリは個人情報をまったく収集しない安全なものなので、安心して利用してもらいたい」旨の説明を行っています。

しかし個人情報保護法17条などは、「偽りその他不正の手段」による個人情報の取得などを禁止しています。国は、国民・利用者を「偽り」、本アプリで傷病データや行動履歴、利用者の友人・知人とのつながりなどの個人情報を違法に取得しているのではないでしょうか。

国が本当に本アプリの目的・手段などが正当であると考えるなら、国民・利用者に対して、「本アプリは利用者の個人情報を取得・利用するが、それは目的のために必要最低限のものである」等と偽りでない正確な情報開示を行い、その上で本アプリをリリースして運用すべきではないでしょうか。


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個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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LINE厚労省コロナ

3月31日より、新型コロナウイルスに関して厚労省がLINEを使って情報収集していますが、法的に大丈夫なのか大いに疑問です。

・厚生労働省とLINEは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました|厚労省

健康状態や病気・ケガに関する情報・データは、個人情報のなかでもセンシティブで慎重な取り扱いが必要な要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項、行政機関個人情報保護法2条4項)。第三者提供等は原則禁止となっています(個人情報保護法23条)。また一般の個人情報よりも厳重な安全管理措置が事業者等に課されます。

ところが、このような厳重に取り扱われなければならない病歴などの個人データについて、厚労省やLINEは法的に検討することを止めてしまっているように思われます。

厚労省のウェブサイトには、今回のLINEとのコロナの件に関するプライバシーポリシーなどは全く掲載されていません。また、LINEのウェブサイトのプライバシーポリシーも19年5月改正版にとどまっています。

個人情報のなかでもセンシティブな医療データの収集という場面でありながら、取得された医療データがどんなことに使われるのか・何には使われないのかという個人情報の利用目的や、これらの個人情報がどんな団体に第三者提供・共有・委託されるのか等々が事前にLINEの利用者の国民に何も明示されていません。

医療情報がLINEや厚労省などにおいて、どのように利用されるのか利用目的がまったく特定されておらず、国民の個人情報がLINEや厚労省あるいはその他の民間企業などに好き放題に利活用されてしまうおそれが大いにあります。これは個人情報保護法15条に明らかに反しています。

これでは利用者・国民は個人としての、自分の医療情報・個人情報をLINEや厚労省などに提供するかどうかの十分な検討に基づく判断ができません。利用者からLINEに提供された個人情報がLINEから厚労省などに第三者提供される際の「本人の同意」が十分に得られておらず違法です(23条)。

これは個人情報の取得において、利用目的などを明確化せよと規定する個人情報保護法18条に抵触しています。

また、メディアの報道によると、厚労省などはLINEやヤフー等のプラットフォーム事業者から、利用者の病歴データだけでなく検索履歴や位置情報を徴収するとのことです。この点、個人情報保護法16条(目的制限)3項3号と23条(第三者提供)の1項3号は、個人情報の目的外利用と第三者提供が許されるのは、「公衆衛生の向上のため…特に必要」の場合としてることから、国がなんとなく見込み捜査的に要求しLINEが応じるのはやはり違法ではないかと思われます。法が許容するのは「特に必要」な場合であって、「漠然と必要」「何となく必要」では法の文言に抵触しているからです。

・LINE、新型コロナ調査結果を提出 厚労省に|日経新聞

さらに、利用者の何千万人分もの検索履歴などの個人データをLINEやヤフー等が国に提供することは、端的にプライバシー侵害なのではないでしょうか(憲法13条、民法709条)。新聞記事などによると、政府はヤフーから提供された検索履歴や位置情報から、検索内容によりコロナに感染している国民を割り出し対処を行うとしています。しかし法令に根拠がないのに、国が警察・検察の捜査のようなまねが法的に許容されるのでしょうか。

あるいは、利用者本人のほとんどは、LINEなどに対して、友人・知人との会話・通話などを目的として、安心して会話等を行い、あらかじめ自らの個人情報などプライバシー情報をLINE等に提供しています。まさかそのLINE等が自分の同意を得ることなく勝手に自らのプライバシー情報を国に第三者提供されるとか予見できない状況です。これは、いずれも事業者・大学側がプライバシー侵害として違法と判断された、早大名簿提出事件(最高裁平成15年9月12日)やベネッセ事件(最高裁平成29年10月23日)と同じ状況であると思われます。

最後に、厚労省などがLINE等から利用者の病歴データや検索履歴を徴収するということは、利用者の内心や私的領域のデリケートな情報を大規模かつ網羅的に国が取得するということです。すなわち、憲法21条2項、電気通信事業者法4条などの定める、検閲禁止や通信の秘密の漏洩禁止に違反しているのではないかという問題があります。通信傍受法などと異なりコロナの件では根拠法もなく、政府からの「要請=任意のお願い」で何千万人分の膨大なデータをLINEやヤフーなどが政府に提供することは、正当業務行為や緊急避難で説明することは無理筋であると思われます。

厚労省とLINEは、個人情報保護法や憲法などをまるで無視して暴走しているようですが、これではもはや日本は法治国家や文明国家とは言えません。国民の一人として、私も一日も早い新型コロナウイルスの収束を強く願っています。とはいえ、わが国が民主主義国家である以上、政府は国民から信託を受けたサービス機関として、できるだけ法令を遵守し、もしこの世界的な危機時に法令では対応が追い付かない場合は、せめて国民に対して誠実な説明や情報開示を行うべきであると思われます。

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1.香川県ネット・ゲーム依存症対策(規制)条例素案
社会的に大きな批判を集めている、香川県議会の、県の子どもをネット・ゲーム依存症から守るためにネット・ゲームに大幅な規制を行おうとする、「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例素案」が、1月23日よりパブリックコメントが開始されています。(2月6日まで)

・香川県ネット・ゲーム依存症対策条例(仮称)素案(pdf)|香川県サイト

2.公権力の家庭への介入?
この香川県議会ネット・ゲーム依存症対策条例案(以下「本条例案」とする)、ざっと読んだだけでもなかなかすごいものがあります。

香川県親01
(香川県サイトより)
本条例案は、幼児を育てる保護者(親など)に対して、時間をとって幼児の親への「安定した愛着」を育む義務や屋外で遊ばせる努力義務を課しています(本条例案6条2項)。

また、本条例案は、保護者が子ども対してスマホ等の利用にあたって、フィルタリンソフトなどを設定し、子どものスマホ利用を管理することを法的義務としています(本条例案6条3項)。

わが国が自由主義国家である以上、子どもを含む個人がプライベートな私的領域における時間・場所に何をするかについては、本人の判断の判断にゆだねられるべきものです。親などの保護者が家庭内において子どもにどのような指導や教育を行うかについても、保護者の家族に関する自己決定権にゆだねられるべきものです(自己決定権・憲法13条)。国や自治体が法律や条例で介入するべきものとは思われません。

発育の途中であり判断能力が十分でない子どもに対して、国などが例えば、飲酒・喫煙などを一定の範囲で規制する「パターナリスティックな制約」という子どもの自己決定権への介入を行うことはあります。しかし、香川県の本条例案のように、子どもの年齢や社会的属性などをまったく考慮せず一律に「ゲームは1日60分、スマホは午後9時まで」と規制するやり方は、規制が一律かつ広範囲すぎるものであり、パターナリスティックな制約では説明がつかない違法・不当なものと思われます。

3.国・病院・IT企業・学校の協力義務
また、本条例案11条の事業者の責務の条文をみると、ゲームソフト会社・プロバイダ・キャリア・携帯代理店などの事業者に対して、子どもがゲーム依存症にならないようにする責務規定であるとか、あるいは、「エロ」・「暴力」表現を自主規制しろという表現の自由(憲法21条1項)を規制する内容の条文も盛り込まれています。香川県議会やりたい放題です。

香川県11条
(香川県サイトより)

香川県はゲーム依存症について正確な情報に基づいて指導・啓発してやるから子ども・保護者・学校は従えとの上から目線的な考え方も目につきます。病院・医療機関・ゲーム会社・IT企業・プロバイダ等は県への「協力義務」をおうとも強調されています。さらに、県や市に協力する「県民の義務」などの文言もあちこちに散見されます。加えて、「香川県は国に対して、ゲーム依存症対策のための立法措置や指針の制定を求める」という趣旨の条文も存在します。

香川県は国民・住民主権の自由主義・民主主義の国ではなく、戦前の日本のような国家主権国家なのでしょうか?

4.ネット依存症・ゲーム依存症とは-国立久里浜病院のネット依存症治療部門
そもそも、ゲーム依存症・ネット依存症などは新しい疾病ですが、香川県は正確な情報を持ったうえで本条例案を制定しようとしているのでしょうか。

この点、わが国の依存症治療の先駆的な拠点の一つである、国立久里浜病院(久里浜医療センター)のネット依存・オンラインゲーム依存に対応するインターネット依存症治療部門 (TIAR)のウェブサイトによると、ネット依存について、

「インターネットに過度に没入してしまうあまり、コンピューターや携帯が使用できないと何らかの情緒的苛立ちを感じること、また実生活における人間関係を煩わしく感じたり、通常の対人関係や日常生活の心身状態に弊害が生じているにも関わらず、インターネットに精神的に嗜癖してしまう状態」との定義が紹介されています。

・インターネット依存症治療部門 (TIAR)|久里浜医療センター

そして、同サイトはネット依存症・ゲーム依存症の治療について、「インターネット嗜癖そのものには確立された治療法はありません。また、重症の嗜癖の場合には、背景に躁鬱病や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題を抱えており、そこからの逃避の場合もあります。」と解説しています。

そして、同病院では、
ネット依存症・ゲーム依存症の患者に対して、

1.バトミントンや卓球などの運動、美術等、インターネットや機械を使用せず、みんなで行うゲーム
2.医師や看護師、栄養士、作業療法士等による睡眠、運動、栄養、依存、健康問題等についてのレクチャー
3.ネット依存を様々な角度から話し合う小ミーティング
4.希望者には、臨床心理士による対人関係に関する訓練

などの医療プログラムが提供されているそうです。

このように久里浜病院によると、ネット依存症・ゲーム依存症は、背景に躁鬱病や発達障害といった精神疾患がある場合や、実生活において人間関係上や経済上深刻な問題が背景となっている場合が多いのであり、同病院の治療は、スポーツで体を動かすトレーニングから、病気の授業、当事者のミーティング、心理的なカウンセリングなど多岐にわたっています。

それに対して、香川県の本条例案は、ネット・ゲーム依存症への対策として「子どもはゲーム60分、スマホは午後9時まで」と一律の禁止規定をおき、「屋外で遊ぶこと」を奨励するのみです。本条例案の目的・趣旨がネット・ゲーム依存症対策であるとしても、香川県議会がネット・ゲーム依存症に関する正しい知識・理解に基づいて条例案を作成しているとは思われません。

5.条例の限界-景表法・青少年ネット条例・憲法94条
1月27日付の「ねとらぼ」は、香川県の本条例案の作成者の一人である社民党系の高田よしのり議員の記事を掲載しています。

・香川のゲーム依存症対策条例、本当の狙いは「ガチャ規制」? 検討委員が「理解してもらえない。残念」とブログで語る|ねとらぼ

同記事によると、本条例案の真のねらい・目的は、スマホゲームのなかでもとくに「ガチャ規制」であるそうです。

しかし、本条例案には、「ガチャを規制する」などの文言は存在しません。とはいえ、かりに本当に本条例案の目的が「ガチャ規制」であるならば、すでに国がガチャ規制の条文を盛り込んでいる景品表示法と本条例案との関係が問題となります。

憲法は、「地方公共団体は、(略)法律の範囲内で条例を制定することができる。」(94条)と規定しており、この「法律の範囲内」の意味が問題となります。

この点について裁判所は、
『条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾牴触があるかどうかによってこれを決しなければならない。

例えば、(略)両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾牴触はな(い)』(徳島市公安条例事件・最高裁昭和50年9月10日判決)

と判断しています。

ここでガチャ規制に関する景表法2条・4条と同告示をみると、法規制の対象はあくまでもゲーム事業者であり、利用者・ユーザー側の子ども等は対象となっていません。これは、景表法はガチャを規制するにあたり、ゲーム会社など事業者側を規制すれば十分であり、利用者の子どもなど国民のゲーム時間など私的領域には踏み込むべきではないと考えたものと思われます。それに対して、香川県の本条例案は、ガチャ規制という目的のために、事業者への義務を課すと同時に利用者である子どもやその親にも私的領域に係る法的義務を課しており、これは「法律の範囲内」を超えるものであり、違憲・違法のおそれがあります(憲法94条)。

(なお、青少年ネット規制法も本条例案との関係で問題となると思われますが、青少年ネット規制法はネット上の有害な情報から子どもを守るために、主にフィルタリングを利用することを子ども等に奨励する法律であり、「ゲームは60分、スマホは午後9時まで」と子どもの権利利益を厳しく規制する本条例案は、この法律との関係でも「法律の範囲内」を踏み越えており、違法と考えられます。)

あるいは、私的領域のプライベートな時間・場所におけるネットやゲームという精神的活動や、親の子育ての在り方に自治体が規制を行うという本条例案は、県民の権利利益への規制というよりは、日本全体の全国民の基本的人権への公権力からの規制の在り方として検討が行われるべきです(憲法41条、芦部信喜『憲法[第6版]』371頁)。つまり、県議会で条例として審議するだけでは足りず、国会で慎重に審議を行い、必要であれば法律を作って対応すべきです。

香川県議会の本条例案の制定の動きは、非常に前のめりで軽率であるといえます。


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憲法 第七版

情報法概説 第2版

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kojinjouhou_rouei_businessman
個人情報保護委員会が、「個人情報保護法いわゆる3年ごと見直し制度改正大綱のパブリックコメント」を行っています。(2020年1月14日まで)

・「個⼈情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」の公表及び同大綱に対する意見募集|個人情報保護委員会

そこで、「公共目的のための個人情報の本人同意のない目的外利用・第三者提供」の部分などについて、少し提出意見を作成し提出してみました。

1.公共目的のための個人情報の本人同意のない目的外利用・第三者提供の運用の明確化(大綱22ページ)
(1)「公益目的」のための本人同意のない個人情報の目的外利用・本人同意のない第三者提供の運用拡大に反対
 「公益目的」とは、医療・医的サービスの向上のためとのことであるが、現実には医師会や製薬会社などの経済的利益のためのものなのではないか。
 個人情報保護法は、個人情報の有用性に資するだけでなく、国民の権利利益の保護を目的としている(個人情報保護法1条、3条)。この国民の権利利益とは具体的には憲法13条以下の規定する個人の人格権・プライバシー権などの基本的人権の精神的利益である。
 ところで、わが国の憲法の規定にある「公共の福祉」とは、基本的に、ある個人の基本的人権と別の個人の基本的人権とが衝突する際の調整を指すのであって、本大綱のように「医療の進歩」や「地域創生」を指すのではない。わが国の憲法その他の法令に根拠のない「公益目的」を立法機関でなく行政機関の個人情報保護委員会が持ち出すことは権限踰越のおそれがある。
 個人情報保護委員会は、Society5.0との概念・理念により「公的目的」を正当化するようであるが、Society5.0は経済界の一部や経産省等の主張する考え方に留まり、国民代表である国会の審議・議決を経た法律や考え方ではなく、国民一般の合意を得たものではない。また経済界・医療業界・製薬業界等の利益イコール国民・患者の利益では必ずしもない。
 したがって、行政の一部である個人情報保護委員会が安易に「公益目的」というあいまい・漠然とした概念を用いて国民個人の基本的人権を制約する改正大綱・改正法案・ガイドライン等を制定することには慎重であるべきである。

(2)「本人の同意を得ることが困難な場合」の厳格な運用を
 現在、大企業など事業者の実務において、法15条、23条における「本人の同意を得ることが困難な場合」の「困難な場合」があまりにも広範に解釈され運用されている。
 たとえば顧客・契約者の人数が多いため、事業者・企業が本人同意をとることが手間がかかり面倒である際に、それを「困難な場合」と解釈するような場合である。
 (例えばある大手生命保険会社は、自社が保有する保険契約者・被保険者の医療データを、保険契約者等の本人の同意を得ることなく、禁煙・禁煙等を研究する研究機関に目的外利用・第三者提供している。)

 しかし、このような場合は本人から同意を取得することが「手間がかかる」「面倒である」という場合であって、「困難」という法律の文言から解釈することは不可能である。
 個人情報保護法が事業者の個人情報の利用だけでなく、本人個人の権利利益の保護を目的とするものである。わが国は国民主権国家であり、まずは国民・個人の尊重のための政体をとっている以上、本人同意のない目的外利用・第三者提供はあくまでも例外的な場合にとどまるべきである。
 (例えば、急病人が病院に搬送され当該急病人に意識がないような場面で例外的に本人の同意なく個人情報を目的外利用・第三者提供する場合に限定するなど。)

 上であげた生命保険会社の事例のような場合については、あくまでも保険会社から保険契約者等本人の同意の取得を徹底させるか、あるいは法23条2項のようなオプトアウト手続きを保険契約者等に準備するなどして、個人情報の主体たる本人の権利利益の保護を徹底すべきである。

2.事業者の適正な利用義務の明確化(大綱16ページ)
(1)官民の防犯カメラ・顔認証システムの防犯目的の利用に立法手当を
 民間企業などにおける店舗等におけるカメラ・顔認証システムのマーケティングなど商用利用については、経産省などが事業者が遵守すべきガイドラインを制定している(「カメラ画像利活用ガイドブック」)。
 また、防犯目的の防犯カメラ・顔認証システムなどの運用については貴委員会が個人情報ガイドラインQ&Aにおいて対応している。
 しかし、現在も防犯カメラの利用目的などを明示してない企業も多く、また書店などの小売業がいわゆる万引き犯予備軍について個人データを取得し、本来司法が行うべき判断を勝手に行い、当該データを業者間あるいは業界間で提供しあうなど、個人情報保護法の趣旨あるいは法治国家の趣旨を逸脱し、人権侵害のおそれのある運用が行われている。
 そのため、防犯目的の官民の防犯カメラ・顔認証システムの運用について、立法または貴委員会のガイドラインなどで規制を行う必要があると考えられる。

(2)コンピュータ等による労働者・求職者の個人データの自動処理の結果のみによる人事上の決定の禁止の明確化を
 昨年のリクナビ事件などのような個人データを個人情報保護法の趣旨を逸脱するような方向での事業者による利用・提供などを規制する必要があるため。


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個人情報保護法〔第3版〕

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1.職場でメガネ禁止?
昨日ごろより、「#メガネ禁止」などの単語がツイッター上でトレンド入りしています。これは、最近、会社の窓口部門や秘書部門などの女性職員が、「メガネ禁止」などの趣旨の指導・指示を受けるケースがあるという話題です。ねとらぼもつぎのような記事を作成しています。労働法的にはこれはどうなのでしょうか。

・「女性はメガネ着用禁止」の職場に批判の声多数 「ハラスメントだ」「なぜ女性だけ?」|ねとらぼ

2.会社の服務規律などの限界
視力に問題のある労働者がメガネをかけるのか、かけるとしてどのようなメガネをかけるのか等は、個人の身じまいに関する事柄であり、基本的には労働者の自己決定権・人格権に属することがらです(憲法13条)。

ところで、事業者(=企業)においては、たとえば入退館に関する規律、遅刻・早退・欠勤・休暇などの手続き、服装規定、上司の指示・命令への服従義務、職場秩序の保持、などの服務規律が定められています。

しかし、労働者は事業者および労働契約の目的上必要かつ合理的なかぎりでのみ服務規律等に服するのであり、「企業の一般的(=包括的な)な支配に服するものではない」のです(最高裁昭和52年12月13日判決)。

具体的には、事業者・企業において制定される規則や、発せられる命令等は、事業者の円滑な運営上必要かつ合理的なものであることが求められ、たとえば、労働者の私生活上の行為は、実質的にみて企業秩序に関連性のある限度においてのみその規制の対象となるとされています。(菅野和夫『労働法 第11版補訂版』653頁)

3.メガネ・ひげ
つまり、例えばモデルなど外観を条件として雇用契約が締結されたような例外的な場合は別として、一般的な労働者が普通の職場でメガネをかけることは個人の自己決定に属することであり、企業側が「メガネをかけないで」と指示するためには、その命令に「事業の運営上必要かつ合理的」な理由が必要であり、これはなかなか難しいのではないかと思われます。

この点、ハイヤー運転手の口ヒゲが問題となった事例では、裁判所は、「ハイヤー乗務員要綱」が禁止するヒゲとは、「無精ひげ、異様、奇異なひげ」などに限定されるとした裁判例も存在します(イースタン・エアポートモータース事件・東京地裁昭和55年12月15日)。

そのため一般的には、女性職員のメガネが「異様、奇異」なものではない限りは、企業側は、これをかけるなと職員に命じることは困難なのではないかと思われます。

そもそも事業者側は労働者に対して、職務において安全で仕事ができるよう配慮する安全配慮義務などを負っており(労働契約法5条)、視力に問題のある職員に「メガネをかけるな」と命令することはこの義務からも困難と思われます。

なお、今回のメガネの件については、「われわれはマネキン扱いなのか」という声もツイッター上にあがっています。

この点、近年、性同一性障害者の別姓容姿を理由としてなされた職場からの懲戒解雇を無効とした裁判例も出されています(S社事件・東京高裁平成14年6月20日、菅野・同前)。

4.まとめ
このように、労働法の裁判例は、労働者の人格権や自由(思想信条の自由、容貌に関する表現の自由を含む)の保護の見地から、企業の服務規律上の権限を限定する立場をとっています。

したがって、ツイッターで話題になるように、もし多くの企業・官庁などの職場で、漫然と労働者に対して「メガネをかけるな」との指示・命令が出されているとしたら、労働法的に問題があります。

cf.
なお、もし「メガネをかけるな」という命令が、女性という理由だけで出されているとしたら、それは男女雇用機会均等法や職業安定法などが定める男女平等原則に抵触する可能性があります。

さらに、上でみたように、メガネをかけるか、どのようなメガネをかけるか等は個人のプライベートな領域の問題ですので、もし職場の上司などが、それをかけるな等と強く指示するようなことがあった場合、これはパワーハラスメントの6類型のなかの「個の侵害」あるいは「精神的な攻撃」に該当する可能性もあるかもしれません。

■関連するブログ記事
・大阪市営地下鉄の運転士はひげを生やすことができないのか?-髪形・服装・服務規律・公務員


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