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カテゴリ: 会社法・商法

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1.はじめに
名古屋地裁で商品先物取引業の会社の代表取締役らについて内部統制システムの確立・整備義務違反があったとして損害賠償責任を認めた興味深い判決が出されています(名古屋地裁平成30年11月8日判決・一部認容・控訴、金融・商事判例1559号19頁・コムテックス事件)。

2.事案の概要
それまで商品先物取引を含む投資経験のなかった会社役員の30歳台の原告Xは、商品先物取引業を営む被告会社Y1の営業職員Y4らの勧誘により平成24年7月から11月にかけて124日間、金を対象とする商品先物取引を行ったが、約1700万円の損害が発生したとして、Y1、Y4および、取引期間中のY1の代表取締役であったY2およびY3に対して、不招請勧誘禁止違反、適合性原則違反、新規委託者保護義務違反などを理由として損害賠償請求訴訟を提起したのが本件訴訟である。

本件訴訟において、XはY2およびY3に対しては、Y1社における内部統制システム整備義務違反による会社法429条に基づく損害賠償責任を主張した。なお、Y1社は平成20年1月に商品先物取引法に基づき、農林水産省および経済産業省(主務省)より35日の業務停止処分および業務改善命令を受けていた(本件行政処分)。

3.判旨
請求一部認容。控訴。

判決はXの過失を4割と認定し、Y2およびY3に対してつぎのように判示して、Y1、Y2、Y3、Y4らに対して連帯して約1020万円の損害賠償の支払いを命じる判決をだしています。

『前記4(2)ア及びウ認定事実によれば、本件行政処分以後、Y1社においては、営業外務員に対する懲罰規程(略)、受託業務管理規則に係る勧誘規程(略)、社内監査規程(略)等の各種規程が改正策定され、従業員に対する研修や社内監査などを実施してきたこと、Y1社は、本件行政処分以後は行政処分を受けていないこと、平成23年1月に法第193条1項3号に基づく許可を受けていることなど、Y1社では、前記各規程等に沿い、法令等遵守体制や内部管理体制を構築しようとしてきたことが認められる。

 しかしながら、前記認定事実4(2)によれば、Y1社が、本件行政処分以前の平成13年頃から平成18年頃にかけて、顧客との間で多数の紛争を抱え、多数の訴訟を提起され、適合性原則違反、新規委託者保護義務違反、両建てによる特定売買などの違法行為を認める判決が出されていたこと、主務省から受託業務停止処分(35営業日)及び業務改善命令という極めて重い本件行政処分を受け、前記第2の2(2)のとおり、同処分の中で、本件の違法事由と同様に、商品取引市場における取引等につき、特定の上場商品構成物品等の売付け又は買付けその他これに準ずる取引等と対当する取引等であってこれらの取引と数量又は期限を同一にしないものの委託を、その取引等を理解していない顧客から受けていたことが指摘されていること、その後Y1社では、前記各種規程を改正策定していたが、その後も依然として顧客との間で多数の苦情、紛争、訴訟が発生し続けていたこと、実際に前記2認定説示のとおり、従前の訴訟や本件処分で指摘された事項と同様あるいは類似の事項について違法性が認められる。

そうすると、Y2及びY3においては、Y1らが主張する前記各種規程及び諸施策の実効性に疑問を持つべきであり、Y4らが本件のような違法な勧誘行為を行うことは予見可能というべきであるから、内部管理体制を確立・整備を怠ったことについて、重過失が認められるというべきである。
(略)

 したがって、Y2及びY3は、Xに対し、連帯して、会社法429条1項に基づく損害賠償責任を負うものというべきである(同法430条)。』

4.検討
(1)内部統制システム
内部統制システムまたはリスク管理体制とは、一定以上の規模の会社において、会社の計算および業務執行が適正かつ効率的に行われることを確保するため、取締役および各部署の長が業務執行の手順を設定するとともに、不祥事の兆候を早期に発見し是正できるように人的組織を組み立てることを指します(伊藤靖史ほか『LEGALQUEST会社法 第4版』181頁)。

そして、この内部統制システムは取締役会で決定しなければなりません(会社法362条4項6号、会社法施行規則100条)。そのため、業務執行権限を有する代表取締役などの取締役は、内部統制システム構築義務を負い、また、各取締役は代表取締役等が内部統制システムを構築して運用する義務を履行しているか監視する義務を負います(神田秀樹『会社法 第21版』232頁)。

さらに、この内部統制システム構築義務に代表取締役等が違反した場合には、代表取締役は会社に対する任務懈怠責任(会社法423条)が問題となり、当該代表取締役は第三者に対する損害賠償責任(同429条)を負うことになります(野村修也「内部統制システム」『会社法判例百選 第3版』108頁)。

企業がどのような内部統制システムを構築するかについて、学説は、構築すべき最低水準のシステムを前提とした上で、その具体的な手段の選択と最低水準を超えてどこまで充実させるかは経営判断の原則に基づくとしています(野村・前掲108頁)。

この点、内部統制システムについて最高裁は、システム開発会社内の架空売上による不正経理の事案において、「通常想定される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制は整えられていた」とした上で、同社の代表取締役の責任を否定しています(最高裁平成21年7月9日判決・日本システム技術事件、判例時報2055号147頁)。

(2)本名古屋地裁判決について
本名古屋地裁判決は、Y1社は平成20年の行政処分以降、営業職員に対する懲戒規定、勧誘規定、社内監査規定など各種の社内規定の整備を行い、これらの社内規定に沿って内部統制システムを構築しようとしてきたと認定しつつも、その後も本件と同様の違法な取引が行われ、「依然として顧客との間で多数の苦情、紛争、訴訟が発生し続けていた」と認定し、結論としてY2およびY2は内部統制システムの確立・整備の義務に違反していたとして、会社法429条に基づく損害賠償責任を認定しています。

この本判決の考え方は、企業がどのような内部統制システムを構築するかについて、構築すべき最低水準のシステムを前提とした上で、その具体的な手段の選択と最低水準を超えてどこまで充実させるかは経営判断の原則に基づくとする学説・判例の考え方に沿うものであると考えられます。

■参考文献
・『金融・商事判例』1559号19頁
・神田秀樹『会社法 第21版』232頁
・伊藤靖史ほか『LEGAL QUEST 会社法 第4版』181頁
・野村修也「内部統制システム」『会社法判例百選 第3版』108頁

会社法 第21版 (法律学講座双書)

会社法 第4版 (LEGAL QUEST)

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パソコン

1.はじめに
最近、電子メールによる取締役会招集通知には法的に瑕疵があるとした興味深い裁判例が法律雑誌に掲載されていました。

2.東京地裁平成29年4月13日判決(棄却・控訴棄却)
(1)事案の概要
Y社(株式会社ロッテホールディングス)の創業者であるXはYの高齢の代表取締役であった。Xの息子AはY社の取締役であったが、総会決議により解任されて以来、Yの経営陣と対立していた。

2015年7月27日、AらはXとともにY社を訪れ、法令上の手続きを経ずにXを除くY社の取締役をすべて同日付で解任する人事発令をY社の社内ネットに掲載した。

これを受けて、Xを除く取締役は対応を協議し、同日午後11時23分に、全取締役および監査役の社内メールアドレス宛てに、同月28日午前9時30分から臨時取締役会を開催する旨の電子メールを送信した。

Y社の定款には、取締役会の招集期間を3日間とし、「緊急の必要があるときはこの期間を短縮することができる」旨の規定があった。

28日に開催された臨時取締役会においては、Xを代表取締役から解任する決議が取締役6名のうち5名の賛成により成立した。この解任決議の無効を確認する訴えをXが提起したのが本件訴訟である。

(2)判旨
『取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要すると解されるところ、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該通知が当該取締役に実際に了知されることまでは要しないものの、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)は要するものと解される(最高裁平成10年6月11日判決、最高裁昭和43年12月17日判決、最高裁昭和36年4月20日判決)。』

『これを本件についてみると、前期認定事実によれば、Xは、自らパソコンを操作することがなく、Y社内においてXのパソコンは、Xの秘書室において管理されていた(略)。YにおいてXに割り当てられたメールアドレスに電子メールが送信されたことがなく、秘書室においても、同アドレスの受信状況を確認していなかった(略)。

以上のような諸事情を総合考慮すると、本件において、本件メールが上記アドレスに係るメールサーバーに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない(略)』

『加えて、本件メールの送信から本件取締役会までの間隔が非常に短く、かつ、深夜のメール送信であって、(略)実質的にみてもXに対し本件取締役会の招集通知がなされたと評価することは困難である。』

『したがって、本件取締役会についてXに対する招集通知がされたということはできず、(略)その招集手続には法令上の瑕疵があるというべきである。』

『取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集通知に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、上記瑕疵のある招集通知に基づいて開かれた取締役会の決議は無効となると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、上記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である(最高裁昭和44年12月2日判決)。』

(本件においては)『前期(略)の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、本件決議は有効になるというべきである。』

3.検討
会社法368条1項は、取締役会の招集についてつぎのように規定しています。

第368条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。


このように、会社法においては取締役会の招集の方法に規制はなく、また、招集期間も定款の定めにより短縮することができることになっています。

ところで、会社法に関する解説書においては、”民法上、隔地者に対する意思表示はその通知が相手方に到達したときからその効力を生ずるものとされるところ(民法97条1項)、取締役会の招集通知についても、民法の一般原則に従う”と解説されています(落合誠一『会社法コンメンタール8』274頁)。

この点、本判決も同様の考え方を採用しています。また、学説も、「物質の移動をともなわない電子メールによる通知の場合には、招集通知が取締役に了知可能な状況におかれたかどうかを判断するにあたり、到達した通知がおかれる物質的な環境が重要であるのではなく、株主総会の招集通知を電磁的方法により発するためには株主の承諾を得ること(だけ)が要求される(会社法299条3項、会社法施行令2条1項2号、会社法施行規則230条)のと同様に、そのメールアドレスに招集通知が送信される可能性について取締役の承諾(あるいは認識)があることが重要(または必要)である」と解説しています(鳥山恭一・判批『法学セミナー』2018年12月号767頁)。

そのため、社長以下の経営陣もバリバリとパソコンを使って業務を行っていることが公知となっているようなベンチャー系IT企業などでは、取締役会の招集通知を社内メールアドレスに電子メールで送信しても、当該通知が法令上の瑕疵をおびることはないと思われる一方で、「会長が初めて電子メールを送信した」ことが組織内で絶賛され社会的に大きな話題となる経団連のトップのような方々が経営陣を務めている伝統的で古めかしい大企業においては、電子メールによる招集通知は本件訴訟のように法令上の瑕疵があると判断されるおそれがあります。

■参考文献
・鳥山恭一「代表取締役への電子メールによる取締役会の招集通知およびその解職決議の効力」『法学セミナー』2018年12月号767頁
・『金融・商事判例』1535号56頁
・落合誠一『会社法コンメンタール8』274頁
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』418頁
・奥島孝康・落合誠一・浜田道代『新基本法コンメンタール会社法2 第2版』205頁

会社法コンメンタール〈8〉機関(2)

株式会社法 第7版

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1.はじめに
平成28年に、ホテル内のテナントのマッサージ店が利用者に施術のミスで重い障害を負わせたことにつき、マッサージ店だけでなくホテルに対しても名板貸の責任を認めた興味深い裁判例が出されていました(大阪高裁平成28年10月13日判決・確定)。

2.大阪高裁平成28年10月13日判決(確定)
(1)事案の概要
Xは、ホテルY1に宿泊して滞在中、Y1内のマッサージ店Y2でのマッサージ施術を受けたが、その施術過誤により両下肢の機能不全による身体障害4級の障害を負った。なお、マッサージ店Y2はY1との間の出店契約に基づいてホテル本館の男湯と女湯との中間に位置する賃貸部分で営業を行っていたが、入口に扉はなく、またその入口には屋号であるY2 の看板ないし表記はなかった。また、ホテル館内の館内案内板にも、Y2部分は「マッサージコーナー」と表記されているだけであった。

そこでXは、Y2には施術において被施術者の生命・身体を侵襲しないよう注意して施術を行うべき契約上の不随義務および施術者としての注意義務に違反したとして、Y2に対して債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、Y1に対しては会社法9条の類推適用による名板貸の責任を主張して損害賠償の請求を求めたのが本件訴訟である。原審および本高裁判決はXの主張を認めた(確定)。

(2)判旨
『本件マッサージ店にはY1のロゴが記載されていたタオルが常備されていたが、本件マッサージ店の屋号を記載したタオルは置かれておらず…本件マッサージ店の経営主体がY1以外であることを積極的に示す表示はなく、むしろ、Y1の一コーナーとしてY1が経営主体であるかのような誤認を利用者に生じさせる外観が存在していたものと認められる。』

『本件施術が行われた当時、本件マッサージ店の営業主体がY1であると誤認混同させる外観が存在したと認められる。そして、そのような外観の存在を基礎づける要素のうち、本件イラストマップ、本件案内図などの記載は、Y1自身が作出したものであり、また、本件マッサージ店の看板、張り紙等については、本件協定書の合意に基づいて、Y1がY2に是正を求めることができたものである。(略)また、(略)看板内での配置などに照らし、Xがこれを見落としたことについて重大な過失があると認めることはできない。』

このように判示し、本高裁判決はY1の名板貸の責任に関するXの主張を認めました。

3.検討・解説
会社法9条が規定する名板貸の責任は、「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社」に生じる責任です。例えば、甲商店を営む甲が、乙に対して自己の営業の一部であるかのように甲商店神田支店の商号のもとで営業をすることを認めるような場合です(近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁)。営業主体を誤認させる外観の存在、名板貸人の帰責性、取引の相手方の誤認が責任要件です。

また、取引の相手方保護の見地からは、この規定は商号の使用を許諾した場合だけでなく、商標等の使用を許諾した場合にも類推されると解すべきとされています(神田秀樹『会社法 第20版』14頁)。

判例は、商号だけでなく、広く自己の氏、氏名の使用許諾も名板貸責任の枠組みで規律していた旧商法23条のもと、「商号を使用して営業を行うことを許諾」するという要件が満たされていない事案においても、それでも営業主体を誤認させる外観の存在と当該外観作出に対する責任主体の関与が認められる場合は同法が類推適用されるとして、ペット店をテナントに入れていたスーパーにペット店の名板貸責任の類推適用を認めたものがあります(最高裁平成7年11月30日判決)。

本判決は、この平成7年最高裁判決に沿って、外観の存在を認定し、名板貸人側の帰責性を認め、類推適用を認めたもので、現行法においても平成7年最高裁判決が妥当することを示したことに意義があります。

なお、本判決を消費者保護の観点から出された判決とする見解が一部にありますが(弥永真生『ジュリスト』1508号2頁)、会社法9条の趣旨はあくまでも権利外観法理であると思われます(神田・前掲15頁、土岐孝宏『法学セミナー』752号107頁)。

4.まとめ
本判決や平成7年最高裁判決の事例のように、ホテル、スーパーなどでテナントに別法人の店舗が入っている事業者等は、本判決等を参考に、テナントの店舗がホテル・スーパーと同一法人であるかのような外観を作出していなか等を改めてチェックする必要があるといえます。また、このことはインターネット上で商取引のプラットフォームを提供し、”店子”のテナント事業者にBtoCの取引を行わせている、例えば楽天市場、ヤフーショッピング、アマゾンなどのIT企業においても同様と思われます。

■参考文献
・土岐孝宏「テナント営業に対するホテル主の名板貸責任(類推)」『法学セミナー』752号107頁
・『金融・商事判例』1512号8頁
・弥永真生『ジュリスト』1508号2頁
・神田秀樹『会社法 第20版』14頁
・近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁

会社法 <第20版> (法律学講座双書)

商法総則・商行為法 第7版 (有斐閣法律学叢書)

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金融庁プレート

1.はじめに
平成29年9月に東京高裁で、ノンバンクからの債権買取に関する日本振興銀行の取締役会決議に賛成した取締役の善管注意義務違反を認める判決がだされました(東京高裁平成29年9月27日判決・上告中)。本判決は、近年の判例にしたがい、一般の株式会社の取締役よりも銀行の取締役の善管注意義務のレベルは高いとした点が注目されます。

2.事案の概要
(1)概要
本件は、破綻した日本振興銀行の取締役に対する損害賠償請求等に関する事案である。日本振興銀行(以下「A銀行」という)は、中小企業向け融資と預金の受け入れを主な事業とする銀行であったが、平成22年9月13日付で民事再生法に基づく再生手続開始決定を受けて破綻した。

株式会社債権回収機構(原告、以下「X」という)は、A銀行から取締役に対する善管注意義務を理由とする損害賠償請求権を譲り受けた。YはA銀行の取締役であった。XはYに対して、A銀行の取締役会で、のちに破綻したノンバンクのSFCG(旧・商工ファンド)から中小企業向けローン債権の買い取りを承認したことが取締役の善管注意義務違反に該当するとして、会社法423条1項の損害賠償請求権に基づき、注意義務違反によりA銀行に生じた損害の一部である50億円の支払いを求めた。(なお、本事件ではYがその妻らに金銭を贈与したことが通謀虚偽表示にあたるか否かも争点となっているが省略する。)

(2)事実関係
A銀行は、Yを含む取締役全員の賛成により、平成20年10月28日および同年11月17日の取締役会において、SFCGから合計上限460億円のローン債権を買取ることを承諾する旨の取締役会決議を行った。そして同年10月29日および11月21日にSFCGからA銀行への合計約460億円分のローン債権の債権譲渡が行われた。

なお、本件各ローン債権買取契約は、当該各債権の弁済可能性にかかわりなくすべて額面金額で買い取るものであり、SFCGは、本件ローン債務をすべて連帯保証し、また、SFCGは時価約23億円の不動産に抵当権を設定し担保とした。

その後、SFCGは、過払金請求の増加や金融危機の影響などにより、遅くとも平成20年10月末には支払不能の状態に陥り、平成21年2月24日に再生手続開始決定を受け、さらに同年4月21日に破産開始決定を受けて倒産した。

そして、A銀行は、平成22年5月に、同年3月期の決算において赤字に転落したことを発表し、金融庁から業務停止命令を受けた。その後、A銀行は同年9月10日、再生手続開始の申立てを行い、それを受けて金融庁は預金保険機構を金融管財人に選任し、同月13日にA銀行は再生手続開始決定を受けた。

A銀行は、平成23年4月に、Xに対して取締役らに対する損害賠償請求権を譲渡した。XがYに対して、取締役としての善管注意義務違反によりA銀行に生じた損害の一部である50億円の支払いを求めたのが本件訴訟である。

第1審(東京地裁平成28年9月29日判決)は、Xの請求を一部認容したため、Yが控訴。

3.判旨(東京高裁平成29年9月27日判決・上告中)
(1)経営判断の原則について
本高裁判決は、銀行の取締役の経営判断の原則に関するYの主張について、つぎのように判示しました。

「銀行の取締役に対しても、一般の株式会社の取締役と同様、いわゆる経営判断の原則が通用される余地はあるが、銀行業が広く預金者から資金を集め、これを原資として企業等に融資することを本質とする免許事業であること、銀行の取締役は金融取引の専門家であり、その知識経験を活用して融資業務を行うことが期待されていること、万一、銀行経営が破綻し、あるいは危機に瀕した場合には、預金者及び融資先を始めとして社会一般に広範かつ深刻な混乱を生じさせることなどを考慮すると、融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は、一般の株式会社の取締役の場合に比べ、相当程度高い水準のものであると解するのが相当であり、銀行の取締役のいわゆる経営判断の原則が適用されると解されるとしても、その余地はその分だけ限定的なものにとどまるものというべきである」。

「本件各債権買取りは、直接的には融資業務に当たらないとしても、広く預金者から集めた資金を投じた上で、本件買取債権の債務者又はSFCGからその回収を図る必要があるものであるから、Yが本件各債権買取りの可否・当否を決定するに当たっては、一般の株式会社の取締役の場合に比べ相当程度高い水準の注意義務が課せられていたと解するのが相当である」。(そのため)「本件各債権買取りの背景に顧客基盤の拡充というA銀行の経営戦略があったとしても、そのことから直ちに、取締役に広汎な裁量が認められたり、求められる注意義務の程度が軽減されたりするものとは解されない」


(2)善管注意義務について
本高裁判決は、取締役の善管注意義務について、つぎのように判示しています。

「Yに善管注意義務違反が認められるか否かは、(ⅰ)本件買取債権自体(本件買取債権の債務者の経営状況や資産状態等)を調査するとともに、その信用力に依拠するSFCGの経営状況等をも調査し、その安全性を確認して本件各債権買取りを決定したか否か、(ⅱ)確実な担保を徴求するなど、相当の措置が講じられたか否かを踏まえ、銀行の取締役として求められる水準に照らし、Yが本件取締役会決議において本件各債権買取りを承認したことが合理性を有するものであったか否かにより判断すべきである」。

(その上で、)「本件買取債権はその回収可能性に相当程度疑念を生じさせる状況にあったにもかかわらす、A銀行のしたデューデリジェンスは名ばかりで、本件買取債権の調査は甚だ不十分であり、同債権を買い取ると決断するに当たっての安全性の確認も十分とはいえないこと、その信用力に依拠することを企図したSFCGの経営状態は極めて危険な状態にあり、Yはそのことを十分認識していたこと、それにもかかわらず、A銀行がSFCGから徴求した担保は甚だ不十分であるというほかなく、A銀行が相当な措置を講じていたという ことは到底できないこと、Yはこうした状況の下にありながら、 短期的な収益の確保ないし危殆状況下における投下資金の回収等のために本件各債権買取りの承認決議に賛同したというべきであることが認められるから、YにはA銀行の取締役としての善管注意義務違反があったというべきである」


4.検討
(1)取締役の善管注意義務
取締役はその職務を善良な管理者の注意をもって行わなければなりません(善管注意義務・会社法330条、民法644条)。また、取締役は法令・定款ならびに株主総会決議を順守し、会社のために忠実にその職務を行わなければなりません(忠実義務・会社法355条)。判例上、この忠実義務は、善管注意義務を敷衍して一層明確化したものであるとされています(最高裁昭和45年6月24日判決)。(伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征『LEGAL QUEST会社法 第3版』217頁、神田秀樹『会社法 第18版』197頁)

判例において、銀行の取締役の融資判断に関する善管注意義務違反を認めたものとして、①最高裁平成21年11月27日判決(四国銀行事件)、②最高裁平成20年1月28日判決(北海道拓殖銀行事件)、③最高裁平成21年11月9日判決(拓銀刑事事件)などが存在しますが、最高裁は銀行の取締役の融資実行判断が著しく合理性を欠くものであったか否かを検討していますが、その合理性をゆるやかには判断していません。

(2)経営判断の原則
裁判で取締役の善管注意義務が争点となるとき、経営判断の原則が問題となることがあります。つまり、企業の経営判断については、取締役等に裁量が認められ、判断の過程・内容に著しく不合理な点がない限り善管注意義務違反とならないとする原則です。どの程度の情報収集や意思決定の慎重さが求められるのか、また、取締役等に認められる裁量の幅は、取締役等が判断を求められる事柄の性質により異なるとされています(伊藤・大杉・田中・松井・前掲232頁、神田・前掲197頁)。

この点、本高裁判決は、銀行業務の公共性や、万一銀行が破綻した際に社会に与える影響の大きさなどから、「融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は、一般の株式会社の取締役の場合に比べ、相当程度高い水準のものであると解するのが相当であり、銀行の取締役のいわゆる経営判断の原則が適用されると解されるとしても、その余地はその分だけ限定的なものにとどまるものというべきである」。と判示している点が注目されます。

■参考文献
・『金融・商事判例』1528号8頁
・須藤克己「銀行の取締役に課せられた善管注意義務と経営判断原則-東京高判平29.9.27を題材として-」『金融法務事情』2083号16頁
・伊藤靖史・大杉謙一・田中亘・松井秀征『LEGAL QUEST会社法 第3版』217頁、232頁
・神田秀樹『会社法 第18版』197頁

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