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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 保険法

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1.生命保険会社の保険(災害割増特約・傷害保険・災害入院特約など)
新型肺炎・新型コロナウイルス(COVID-19)も疾病・病気の一つであるため、被保険者の方が新型肺炎で病院に入院したり、死亡された場合は、免責条項に抵触していない限り、疾病入院給付金や一般の死亡保険金は支払いとなると思われます。

一方、少し前までの生命保険各社の終身保険などには、交通事故など事故を原因とした被保険者の方の死亡に対して割増の保障を提供する災害割増特約を販売されていました。また、傷害特約、災害入院特約なども、事故を原因とした入院などに対して保険金・給付金を支払う保険は現在も広く販売されています。

ところで、これらの災害割増特約など災害系の保険は、新型肺炎を原因とした入院・死亡などにおいて保険金・給付金が支払われるのかが問題となります。

2.災害系の保険・特約の支払事由・「対象となる感染症」
この点、例えば日本生命保険の「新傷害特約(H11)」の約款をみると、災害死亡保険金の支払事由は、「つぎのいずれかを直接の原因として(略)被保険者(略)がこの特約の保険期間中に死亡したとき」とされ、「②責任開始時以後に発病した感染症(別表11)」と規定されています。

そして、「別表11」はつぎのようになっています。

疾病傷害死亡分類提要
(日本生命保険サイトより)

つまり、感染症を原因とする死亡であっても、一定のものは災害保険金の支払い対象となるが、その感染症は、別表に掲げられている疾病のどれかである必要があります(厚労省の「疾病、傷害および死因統計分類提要ICD-10」により限定列挙されている)。

そして、別表11の感染症には、今回の新型肺炎に関連しそうなものとしては、「重症急性呼吸器症候群(SARS) U04」が含まれていますが、「(ただし、病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限ります。)」とのただし書があります。

また、厚労省はWHOが新型肺炎のICD-10上の分類等を、「2019 年新型コロナウイルス急性呼吸器疾患 U07.1」としたことを周知する通達をだしています。これを読むと、今回の新型肺炎と以前のSARSとは、感染症として別のものとなっています。

・世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスに関する「疾病、傷害及び死因の統計分類第10版(ICD-10)」における対応について|日本神経学会

3.まとめ
したがって、新型肺炎は生命保険各社の災害割増特約・傷害特約・災害入院特約などにおいては、保険金・給付金の支払い対象外となるように思われます。

*なお、保険会社各社で約款などの規定が異なることや、社内規定などが異なりますので、保険契約者・被保険者等の方は、加入なさっておられる保険会社にご相談をお願いいたします。

■関連するブログ記事
・傷害保険/ダニにかまれてダニ媒介性脳炎で死亡した場合に保険金は支払われるか?

■参考文献
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』238頁、245頁

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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1.はじめに
腰痛などで通算500日以上入院した患者による医療保険の入院給付金請求という典型的なモラルリスク事案に関する判決が出されていました。裁判所は患者側の請求を棄却しています(鹿児島地裁平成29年9月19日判決・請求棄却・確定、判例タイムズ1456号236頁)。

2.事案の概要
Xは平成17年10月に、損害保険会社Y(損保ジャパン日本興亜)との間で、ケガ・疾病による入院・手術などを保障する医療保険である、「新・長期医療保険」(Dr.ジャパン)の保険契約を締結した。入院給付金日額は1万円であった。

本件保険契約の約款上、入院給付金の支払事由としての「入院」とは、医師による治療が必要な場合であって、かつ、自宅等での治療が困難なため病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいうと規定されていた。

Xは平成23年2月ごろより腰痛を訴え整形外科病院に16日間入院をしたことを皮切りに、腰痛による入院や、不安感を訴え精神科病院への入院などを平成27年までに合計9回繰り返し、その入院日数は合計500日を超えた。

これらの入院に基づいてXがYに対して約462万円の入院給付金の支払いを請求したところ、Yが拒んだためXが提起したのが本件訴訟である。

3.判旨
本件保険契約における入院給付金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、前提事実(略)のとおりの本件保険契約における「入院」の定義(医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること)からしても、単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものと解される。
 なお、担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、上記の「入院」該当性の判断に際して一つの重要な事情とはなるものの、通常、医師の判断によらない入院を想定できないことからしても、医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえないというべきである。』

『ア 本件入院1
 入院時の検査所見は、入院の必要性を基礎付けるものであるとはいえず(略)、入院日である平成23年2月1日において、Xは、腰を押さえながらも独歩は可能だったのであり、翌2日にも喫煙のため独歩で移動し、同月11日にはほぼ終日外出し、その後も頻繁に外出・外泊していることからすれば、Xの症状が自宅等での治療が困難であるほどの重いものであったとはいえない。(略)これらのXの症状やその後の治療内容等に照らせば、本件入院1においては、(略)客観的な契約上の要件である「入院」該当性の根拠とすることはできないというべきである。』

このように判示し、本判決はXのすべての入院は医療保険契約上の「入院」に該当しないとしてXの請求を退けています。

4.検討
医療保険、入院特約などにおける入院給付金の支払い要件の一つである「入院」の該当性について、実務書は、医師の判断とあわせて、「保険制度の基本である収支相当の原則および給付反対給付均等の原則からみて、その支払要件を合理的・画一的・公平に規制する必要があり、それに合致した保険事故に対してのみ給付されるのが当然の前提とされていること、入院当時の一般的な医学上の水準によるべき」と解説しています(長谷川仁彦など『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』249頁)。

裁判例も、「本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容に鑑みると、本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、(略)客観的、合理的に行われるべきである。このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても妥当である。」と判示するものがあります(札幌高裁平成13年6月13日判決・生命保険判例集13巻499頁)。

本判決はこのような保険会社の実務・裁判例に沿う考え方をとった妥当な判決であると思われます。

なお、最近の本判決に類似した事案として、ケガを理由とする不必要な通院給付金請求というモラルリスク事案が争われたつぎの裁判例が存在します(東京地裁平成29年4月24日判決)。

・総合格闘技選手の練習によるケガは傷害共済の「不慮の事故」に該当するか?(東京地裁平成29・4・24)-モラルリスク・不必要な通院

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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1.はじめに
喧嘩による受傷・後遺症について、自動車保険の闘争行為免責が認められためずらしい裁判例が神戸地裁で出されていました(神戸地裁平成30年5月10日判決、金融・商事判例1556号32頁)。

2.事案の概要
(1)事案
平成25年7月10日午後5時ごろ、神戸市のAパチンコ店(本件パチンコ店)の駐車場(本件駐車場)の出入り口付近において、Y1(被告)は、X(原告)の運転する自動車がY1の自動車(Y1車)と衝突しそうになったことに立腹し、Xの運転する自動車の前にY1車を停止させ、X・Y1はそれぞれその場で自動車を降りて口論となった。

その後、Y1は「もうええわ」とその場を立ち去ろうとY1車に乗り発進させようとしたところ、XはY1を追いかけて解放された状態のY1車の運転席ドアの内側に入り、エンジンキーを取ろうとしてY1とXはもみあい状態となった。さらにその後、Xの知人Bが本件駐車場に来てXの加勢をしようとY1車に近づいてきたのをみたY1は、XがY1の左肩の襟の辺りをつかみ、Y1を助手席に押し込もうとしていたところ、その場を逃走したいと考え、Y1車の前に別の自動車が停止していたため、Y1車を後方に発進させた。

このY1車の後方発進により、Xは約5m引きずられ、顔面、右肩、左胸、両手、右膝、右足を負傷する本件事故が発生した。Xは整形外科で頸椎捻挫、右腋穿挫傷と診断され、通院治療を受け、後遺症を負った。

(2)保険契約の状況
Y1の妻Bは、損害保険会社Y2との間で、対象となる車をY1車、被保険者をY2とする任意自動車保険契約を締結していた。当該自動車保険の普通保険約款には、保険契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の免責条項(故意免責条項)が規定されていた。

また、Xは損害保険会社Y3との間で、被保険者をXの妻Cとする自動車保険契約を締結していたところ、同保険契約には無保険車傷害特約が付加されていた。同特約の約款条項には、被保険者等の闘争行為によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の免責条項(闘争免責条項)が規定されていた。

(3)訴訟提起
XはY1に対して不法行為に基づく損害賠償として約1345万円の支払いを、Y2損害保険会社に対しては約1345万円の支払いを、Y3損害保険会社に対しては約1079万円の支払いを求めて提訴した。

(4)主な争点
争点①
対人・対物賠償保険における故意免責の適否
争点②
無保険車傷害特約における闘争行為免責の適否

3.判旨(一部認容・一部棄却、控訴後取下げ)
判決はY1に対する約130万円の支払いを命じたものの、Y2およびY3に対する請求は棄却。

(1)争点① 対人・対物賠償保険における故意免責の適否
『そうすると、Y1は、Xと至近距離にあり、現にXに身体を掴まれていたのであるから、Y1車を後退させる際、Xが運転席ドアの内側におり、Y1を掴んでいたことを認識していたと認めるのが相当であり、そのような認識である以上、Y1は、そのような状態でY1車を後退させれば、重量がある金属製のY1車と生身のXが接触し、これによりXが転倒するなどして負傷するという結果を認識・認容していたとみるのが自然であるから、Y1に傷害の確定的故意を認めるのが相当である。
(略)

したがって、被保険者であるY1は、Y1車の後退からXの傷害が発生することを認識しながら、Y1車を後退させ、Xを負傷させたと認めるのが相当であるから、対物の関係も含めて、Y2に故意による免責が認められ、Y2は、Xに対し、対人・対物賠償保険金の支払義務を負わないと認めるのが相当である。』


(2)争点② 無保険車傷害特約における闘争行為免責の適否
『保険約款における闘争行為とは、被保険者の任意の意思をもってする闘争を意味し、車内での被保険者相互のけんかや、自動車同士のぶつかり合い等がこれにあたるが、正当防衛の範囲内の行為は含まれないと解される(証拠略)。
(略)

以上に(略)照らすと、被保険者であるXは、任意の意思をもって、Y1に暴行(有形力の行使)を加えるなど一連の闘争を行い、その結果、その場から逃げようとしたY1によるY1車の後退を誘発し、これにより負傷したことが認められる一方、XにY1車の後退から身を守るための正当防衛や正当行為を認めることはできないから、Xは、任意の意思をもって、闘争を行い、これにより本件事故が発生し、Xが負傷したと認めるのが相当である。

したがって、Y3に闘争行為による免責が認められ、Y3は、Xに対し、無保険車傷害特約に基づく保険金の支払義務を負わないと認めるのが相当である。』


4.闘争行為免責条項について
保険約款がけんかなどの闘争行為を免責とする趣旨について、学説は、「闘争行為…は、傷害の発生の危険を著しく高める行為であるし、また、…被保険者の故意による傷害の惹起に準ずる非難可能性のつよい行為であるということにより保険会社免責とする趣旨である」とする見解(西島梅治『註釈自動車保険約款』228頁)、「保険の倫理性ないし信義則」に求める見解(梅津昭彦「闘争行為免責」『損害保険判例百選 第2版』176頁)、「受傷自体が偶然性を欠くこと、及び自らの意思で受傷の機会を作り出しておきながら保険金請求をすることが信義則に反すること」とする見解(大澤康孝「傷害保険約款中の闘争行為免責の適用事例」『ジュリスト』997号98頁)としています。

裁判例は闘争行為免責の趣旨について、「被保険者にとって、闘争という第三者とお互いに有形力を行使して争う過程に身を置く以上、相手方の攻撃により自分が受傷することは当然予測できるから、受傷自体が偶然性を欠くといえるし、また、被保険者が、自らの意思で闘争行為を開始して受傷の機会を作り出しておきながら、その結果として生じた受傷につき保険金の請求をすることが、信義誠実の原則に反するからである」と判示するものがあります(大阪高裁昭和62年4月30日判決、判例時報1243号、梅津・前掲176頁)。

本件事件のパチンコ店の駐車場におけるXとY1との一連の喧嘩の状況をみると、「闘争という第三者とお互いに有形力を行使して争う過程」に該当するうえに、正当防衛・正当行為と評価することは難しく、本判決が保険会社を闘争行為免責条項により保険金支払義務なしと判断したことはやむを得ないのではないかと思われます。

本件訴訟に類似する事例としては、損害保険のものとして、東京地裁平成12年7月26日判決(ウエストロー・ジャパン2000WLJPCA07260009)、大阪地裁平成26年6月10日判決(ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA06106001)が存在します。

また、生命保険の故意・重過失に関するものとして、大阪高裁平成2年1月17日判決(判例タイムズ721号227頁)、大阪地裁平成元年3月15日判決(判例タイムズ712号237頁)が存在します(長谷川仁彦・潘阿憲ほか『生命保険・傷害疾病定額保険契約法 実務判例集成(下)』150頁)。

■参考文献
・『金融・商事判例』1556号32頁
・『判例時報』1243号120頁
・鴻常夫『註釈自動車保険約款』〔西島梅治〕228頁
・梅津昭彦「闘争行為免責」『損害保険判例百選 第2版』176頁
・大澤康孝「傷害保険約款中の闘争行為免責の適用事例」『ジュリスト』997号98頁
・長谷川仁彦・潘阿憲ほか『生命保険・傷害疾病定額保険契約法 実務判例集成(下)』150頁

保険法 第3版補訂版 (有斐閣アルマ)

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1.はじめに
生命保険契約の災害死亡保険金の支払いをめぐる裁判において、事実の確認(調査)があった場合の保険金支払時期を明確化する保険約款の変更の効力が争点となり、当該保険約款の変更を有効とする興味深い裁判例が出されていました(東京地裁平成29年10月23日・請求一部認容・控訴後和解)。

2.事案の概要
(1)保険契約・免責条項など
Aは平成6年7月にY生命保険会社(メットライフ生命保険)との間で生命保険契約を締結した。当該保険契約は、主契約として普通死亡保険金5000万円と、災害死亡給付特約による災害死亡保険金5000万円を保障するものであった。

災害死亡給付特約による災害死亡保険金は、不慮の事故による傷害を直接の原因として死亡したことを支払事由としており、免責条項として、被保険者の故意または重大な過失を免責とする条項を規定していた。

また、Y社は、本件普通保険約款において、保険金支払の際の事実の確認(調査)があった場合の保険金支払時期について、従来は「事実の確認その他の事由のため特に日時を要する場合のほかは、必要書類が会社の日本における主たる店舗に到達してから5日以内に支払う」旨を規定していた。

ところでY社は、平成22年の保険法施行にあわせて、既契約の保険約款条項の変更特約を付加する旨の通知をAを含む保険契約者に発送していた(本件変更特約)。本件変更特約は、保険金支払の際に事実の確認があった場合で、「医療機関または医師に対する照会のうち、書面の方法に限定される照会」のときの保険金支払時期は、必要書類がY社に到達した日の翌日から60日と規定していた。

(2)事故の状況など
A(事故当時61歳)は、10階建てマンションの8階のフロアに居住していたが、平成27年11月23日の午前9時頃、同マンション8階から吹き抜け部分の中2階に転落し死亡した。本件フロアの玄関ドア前ポーチ部分の北側の専有部分には、高さ1.12メートル程度のコンクリート製の壁の上部に1メートル四方の空洞部分があり、Aは本件空洞部分にラティス(フェンス)と突っ張り棒を設置していたところ、管理人が発見した際には、このラティスが壁に立てかけられており、本件専有部分に脚立が置かれていたことから、Aは本件空洞部分において、脚立を用いてラティスを外す等の作業を行う最中に転落したものと考えられた。

本件保険契約における保険金受取人のXら(Aの子供ら)は、Y社に対して保険金請求を行ったところ、Y社は普通死亡保険金5000万円は支払ったものの、災害死亡保険金については、本件転落事故はAの重過失によるものであるとして免責を主張し、災害死亡保険金の支払を拒む等したためXらが提訴したのが本件訴訟である。

3.判旨
(1)本件転落事故はAの重過失であるといえるか
本判決は、『当時のAの年齢や身体能力等を考慮しても、危険性が著しく高いとまではいえ(ない)』などと判示して、Aの重過失を否定し、Y社の免責の主張を退けています。

(2)本件変更特約による普通保険約款の変更は有効といえるか
『Yは、Aに対し、本件変更特約とその内容の具体的説明及び異議を述べることができることとその連絡先を記載した文書を送付し、ホームページ上にも文書を掲載した。Aは、遅くとも、平成22年1月25日までに、それらの文書を受領したが、その後、異議を述べずに、Yに対する保険料の支払を続けた。

 前提事実(略)のとおり、本件変更特約は、本件約款では単に「事実の確認その他の事由のため特に日時を要する場合」となっていた要件について、事実確認のために必要となる調査事由及び調査先の対応ごとに具体的に災害死亡保険金の支払期限を定めたものである。保険金の支払に際し、適切な調査の上、支払事由の有無の確認が必要とされるのは当然であるところ、調査事由及び調査先の対応ごとに具体的な支払期限を定め、明確化することは、契約者であるAにとっても利益があるといえる。

 上記のとおり、Aが本件変更約款付加についての異議を述べず、保険料の支払を続けていることに加え、本件変更特約新設の目的、本件変更特約の内容からして、変更の必要性、相当性が認められること及び適切な方法により周知が図られていることからすれば、YとAとの間には、本件変更特約により災害死亡保険金の支払期限を変更することについて、黙示の合意があったものと認めるのが相当である。』


このように本判決は判示し、災害死亡保険金の支払時期は、必要書類がY社に到達した翌日から起算して60日を経過する日と認定しています。

4.検討
(1)保険金支払の期限
保険金の支払期限について、平成22年に施行された保険法は第52条で、「保険給付を行う期限を定めた場合であっても、当該期限が、保険事故、保険者が免責される事由その他の保険給付を行うために確認をすることが生命保険契約上必要とされる事項の確認をするための相当の期間を経過する日後の日であるときは、当該期間を経過する日をもって保険給付を行う期限とする。」と規定しています。

この規定を受けて、生命保険各社は、本判決が述べるように、「約款の明確化」のために、「事実確認のために必要となる調査事由及び調査先の対応ごとに具体的に災害死亡保険金の支払期限を定め」ています。

(2)約款の変更
2020年4月から施行予定の改正民法(債権法)は定型約款の条文を新設しました(第548条の2~第548条の4)。そして同548条の4は、事業者は①定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するとき、②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ変更の必要性、相当性、合理性があるとき、のいずれかに該当する場合は、相手方との個別の合意なしに、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなすことができると規定しています。

(定型約款の変更)
第548条の4
定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

本判決は改正民法施行前のものですが、「保険金の支払に際し、適切な調査の上、支払事由の有無の確認が必要とされるのは当然であるところ、調査事由及び調査先の対応ごとに具体的な支払期限を定め、明確化することは、契約者であるAにとっても利益があるといえる。」と判示し、本件保険約款変更は①の類型に該当するとし、保険会社側があらかじめ約款変更の内容を通知する書面を保険契約者に送付していたこと、当該書面によれば保険契約者側は異議を述べることができたこと、一方、Aは異議を述べず保険料を支払い続けたこと、などの各事項を認定し、本件保険約款の変更は有効であると認定しています。

このように、本判決は保険会社にとって実務上参考になるだけでなく、商取引において普通約款を用いて事業を行っている民間企業の今後の約款変更に参考になるものと思われます。

■関連するブログ記事
・改正民法(債権法)における「定型約款」条項と生命保険の普通保険約款(追記有り)

■参考文献
・『判例タイムズ』1454号227頁
・山下友信『保険法(上)』184頁
・筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権法)改正』241頁
・法曹信和会『改正民法(債権法)の要点解説』108頁
・嶋寺基『最新保険事情』57頁

保険法(上)

一問一答 民法(債権関係)改正 (一問一答シリーズ)

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1.はじめに
生命保険に関する裁判例のなかでも一般の個人年金保険に関するものはややマニアックですが、年金支払い開始日以降の保証期間中に年金受取人兼被保険者が死亡した場合の未払い年金原価の支払先に関するめずらしい裁判例が出されていました。本裁判は、未払い年金原価の支払先は、被保険者死亡時の被保険者の法定相続人であるとする保険約款を有効とする判断を示しています(東京地判平成27年・4・20棄却、東京高判平成27・11・12控訴棄却、上告不受理決定・【確定】)

2.事案の概要
男性Aは生命保険会社Y(第一生命保険)との間で、昭和60年および平成6年に合計2件の10年保証期間付終身年金保険契約を締結していた。保険契約者・被保険者・保険金受取人はAであった。基本年金額はそれぞれ60万円・65万円であった(以下、本件各契約とする)。

保証期間付終身年金とは、年金支給開始時点から一定の保証期間については被保険者の生死にかかわらず給付が保証され、保証期間終了後は生存している限り生涯にわたって支給される年金であり、被保険者が保証期間内に死亡した場合は、保証期間のうち残りの期間について遺族に年金が支給されるものです。

この点、本件各契約の普通保険約款4条は、「被保険者が年金支払開始日以後、保証期間中の最後の年金支払日前に死亡したとき」は未払い年金原価の「死亡給付金」を支払うと規定し、同5条2項は、「前条の規定により、未払年金の原価を支払う場合には、被保険者の死亡時の法定相続人に支払います。」と規定していました(本件約款)。

Aは平成23年より本件各契約の年金の支払いが開始されたところ、約2年後の平成25年に死亡した。Aは公正証書遺言を作成していたが、それはAの相続開始時にAが有するすべての財産をAの妻Xに相続させるというものであった(本件遺言)。A死亡時の法定相続人は、X、Aの姉であるB、Bの子C・Dの4人であった。

XはYに対して本件遺言をもとに本件各契約に基づく未払年金原価の全額(約756万円)を支払うよう請求したが、Yは本件約款4条、5条2項を根拠にその支払を拒み、未払い年金原価の全額を法務局に供託したためXが提起したのが本件訴訟である。

3.地裁判決の判旨(東京地判平成27年・4・20・請求棄却)
『本件各契約における年金受取人が被保険者である場合の未払年金原価の請求権は、年金受取人である被保険者の死亡により発生することから、更にその受取人を定める必要があるところ、本件各契約約款5条2項は、年金受取人の財産を法定相続人が相続することが一般的であることから、未払年金原価の受取人を被保険者の死亡時の法定相続人としたものであって、その内容は合理性を有するというべきである。

この点に関し、同項の定めによれば、未払年金原価の請求権はX以外のAの法定相続人にも帰属することになり、このことは、夫婦の老後の生活保障のために本件各契約を締結したAの生前の意向に沿わないものとみられ(証拠略)、子のいない保険契約者の場合には類似の事態が生ずることも考えられるものの、そうであるからといって、未払年金原価の受取人を法定相続人と定めることが不合理であるとか、不意打ちとなるということはできない』

このように判示し、東京地裁がXの請求を棄却したためXが控訴。

4.高裁判決の判旨(東京高判平成27・11・12控訴棄却、上告不受理決定・【確定】)
『本件各契約における年金請求権は、年金支払開始日以後、被保険者が生存していることを事由として発生する生存保険であるのに対し、未払年金原価の請求権は、本件各契約における最後の年金支払日前に被保険者が死亡したことを事由として発生する死亡保険であるから、年金請求権と未払年金原価の請求権とは保険事故を異にする別個の請求権ということになり、年金受給中に年金受取人が死亡したときには年金請求権が消滅し、年金請求権とは法的性質を異にする未払年金原価の請求権が新たに発生することになるというべきである。』

『受取人条項では、年金受取人が被保険者であり未払年金原価を支払う場合には、被保険者の死亡時の法定相続人に支払うと定められており、それ以外の者を未払年金原価の受取人とすることはできないのであるから、保険契約者が被保険者以外の者を未払年金原価の受取人とするとの遺言をしたとしても、遺言の効力はなく、その者を未払年金原価の受取人とすることはできないというべきである。』

『受取人条項は、年金受取人が被保険者であり未払年金原価を支払う場合には、被保険者の死亡時の法定相続人が受取人となると定めているが、原判決が「事実及び理由」(略)で説示するとおり、未払年金原価の受取人を被保険者の死亡時の法定相続人と定める受取人条項の内容は合理性を有するというべきであるから、受取人条項は、保険契約者が受取人を明確に指定していない場合に限定的、補充的に適用されるものと解釈して初めて合理性が認められ、その場合には遺言が優先されるとのXの上記主張も採用することはできない。』

このように判示し、東京高裁判決もXの主張を斥けています。

5.検討
学説は、つぎのように解説して、本判決および生命保険実務に賛成しています。

「年金支払原価は保険契約者が年金支払開始日までに支払われた保険料総額を原資とするものであるが、それを単に死亡した年金受取人の相続財産として返却するものであれば、それは保険ではなく貯蓄という性質のものになってしまう。そのため、別途、約款上の手当により、保証期間中に被保険者兼年金受取人が死亡した場合には、未払年金原価請求権を、死亡保険金として、年金受取人の法定相続人が原始取得できるようにしたものと考えられる。

 そうなると、本件判旨が述べるとおり、約款上は給付事由が異なり、それぞれの法的性質は異なると解釈するしかない。年金保険は、年金受取人の老後の生活保障において公的年金を補完する役割とともに年金受取人の親族の生活保障を補完する役割も有すると考えられる。そうであれば、未払年金原価請求権を年金受取人の法定相続人を受取人とする第三者のためにする死亡保険契約と解し、当該法定相続人が自己固有の権利として未払年金原価請求権を取得することは一定の合理性があると考えられる。」(山下典孝・判批『法律のひろば』2018年12月号62頁)

また、山下教授は前掲の論文において、近年、第一生命などの一部保険会社が年金支払開始後の死亡保険金の遺言などによる受取人変更を認める保険約款を作成している例があることから、今後、生命保険各社が改正民法の定型約款の改正条項を用いて同様の約款改正を行うことを提言しておられます。

■参考文献
・『金融法務事情』2033号86頁
・山下友信『保険法(上)』40頁
・山下典孝・判批『法律のひろば』2018年12月号62頁

保険法(上)

法律のひろば 2018年 12 月号 [雑誌]

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