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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

カテゴリ: 知的財産法

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1.リーチサイト「映画の無料動画で夢心地」が著作権法違反で立件
新聞報道によると、違法な海賊版映画がアップロードされたサイトに利用者を導く「リーチサイト」の「映画の無料動画で夢心地」について2023年5月8日、京都府警は著作権法違反の疑いで運営者を逮捕したとのことです。同リーチサイトは洋画、邦画やアニメなど約2万1800作品へのリンクを貼る、日本国内で運営されているものとして最大級のものであったそうです。

・違法アップロード映画に誘導 リーチサイト運営の疑い、京都府警逮捕|朝日新聞

2.海賊版サイト「漫画村」の問題とリーチサイト
このブログでもたびたび取り上げてきたとおり、漫画を中心に違法コピーしたコンテンツを掲載し、無料で閲覧可能にしたいわゆる「海賊版サイト」の「漫画村」などが2017年頃より大きな社会問題となりました。この海賊版サイト対策として政府は「サイト・ブロッキング」や「アクセス警告方式」、「侵害コンテンツのダウンロード違法化」などの検討や立法を行ってきましたが、著作権法改正によるリーチサイトおよびリーチアプリの違法化もその一環です。

3.改正著作権法によるリーチサイト・リーチアプリ対策
2020年の著作権法改正により、侵害著作物等へのリンク情報を集約し、利用者を侵害著作物等に誘導するウェブサイトや、これと同じ機能を有するプログラム・アプリの悪質な提供行為等が著作権を侵害する行為となりました(著作権法113条2項、3項)。

すなわち、「提供行為が違法となるリーチサイト・リーチアプリとは「公衆を侵害著作物等に殊更に誘導するもの」または「主として公衆による侵害著作物等の利用のために用いられるもの」に限定され(法113条2項1号、2号)、かつリンク先コンテンツが侵害著作物等であることについて故意または過失のある場合に限られる(法113条2項本文)」とされています(高林龍『標準著作権法 第5版』152頁)。

改正著作権法の概要
(2020年改正著作権法の概要(部分) 文化庁「令和2年通常国会 著作権法改正について」より)

・令和2年通常国会 著作権法改正について|文化庁

今回の「映画の無料動画で夢心地」は約2万1800作品へのリンクを貼る非常に大規模なものであったものであるそうで、著作権法113条2項違反の疑いがあるとして立件されたものであると思われます。

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■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密
・ネット上のマンガ海賊版サイト対策としてのアクセス警告方式を考える-通信の秘密



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1.はじめに
Twitterでツイートする際に他人のツイートのスクリーンショット(スクショ)画像を添付したことが 適法な「引用」ではないと判断された裁判例(東京地判令和4.2.10)が出され批判が大きいところ、今般別件で、ツイートに他人のツイートのスクショ画像を添付することは適法な引用であるとする興味深い知財高裁判決(知財高裁令和4.11.2)が出されていたので紹介します。

2.事案の概要
本件は、氏名不詳者によりTwitterにおいて、本件ツイート1および2が投稿されたことにより、同各ツイートに添付された本件投稿画像1または2に含まれる本件控訴人プロフィール画像に係る控訴人X1の著作権および控訴人X2の原著作者の権利が侵害されたこと並びに控訴人X1の名誉権が侵害されたとして、控訴人らが経由プロバイダである被控訴人に対して、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示を求めた事案である。

本件投稿画像1および2は、控訴人X1が投稿したツイートをそれぞれスクリーンショット(スクショ)により撮影したものであり、ツイートには投稿者を示すアイコンとして、控訴人X1のプロフィール画像が付されていた。本件控訴人プロフィール画像は、控訴人X1が自らのアカウントにおいてプロフィール画像として用いていたものであり、控訴人X2が撮影した控訴人X1の写真の顔部分に控訴人X1がイラストを付して加工したものであった。本知財高裁判決はスクショ画像の添付によるツイートを適法な引用と認めた。(ただし名誉棄損などを認定して発信者情報の開示を認めた。)

3.判決の判旨
『イ  本件では、本件ツイート1の投稿者が、本件アカウントにおいて、控訴人らの許諾を得ることなく本件ツイート1を投稿しており、これにより、本件控訴人プロフィール画像をツイッターのサーバに複製し、送信可能化したとい える。

ウ  被控訴人は、上記イの本件控訴人プロフィール画像の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。

エ(ア)  本件についてみると、本件ツイート1においては、「X1’ さん」「DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立てあげるのやめてくれませんかね?」との文言と共に本件投稿画像1が投稿されているところ、「X1’」は控訴人X1の旧姓であるから、同ツイートは、控訴人X1 が「DM画像を捏造した」という行為を批判するために、控訴人X1 が捏造した画像として、本件投稿画像1を合わせて示したものと推認され、本件投稿画像1を付した目的は、控訴人 X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートした行為を批評することにあると認められる。

(イ) 上記控訴人X1 の行為を批評するために、控訴人X1 のツイートに手を加えることなくそのまま示すことは、客観性が担保されているということができ、本件ツイート1の読者をして、批評の対象となったツイートが、誰の投稿によるものであるか、また、その内容を正確に理解することができるから、批評の妥当性を検討するために資するといえる。また、本件控訴人プロフィール画像は、ツイートにアイコンとして付されているものであるところ、本件ツイート1において、控訴人X1 のツイートをそのまま示す目的を超えて本件控訴人プロフィール画像が利用されているものではない。そうすると、控訴人X1 のツイートを、アイコン画像を含めてそのままスクリーンショットに撮影して示すことは、批評の目的上正当な範囲内での利用であるということができる。

(ウ) 次に、証拠によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められることに照らすと、本件ツイート1における本件控訴人プロフィール画像の利用は、公正な慣行に合致するものと認めるのが相当である。

オ(ア)  控訴人らは、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等であり、主従関係にないから、引用に当たらないと主張するが、仮に「引用」に該当するために主従関係があることを要すると解したとしても、主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断するべきである。本件では、本件投稿画像1ではなく、本件控訴人プロフィール画像と本件ツイート1の本文の分量を比較すべきである上、本件投稿画像1は、本件ツイート1の本文の内容を補足説明する性質を有するものとして利用されているといえることから、控訴人らの上記主張は採用できない。

(イ)  控訴人らは、引用リツイートではなくスクリーンショットによることは、ツイッター社の方針に反するものであって、公正な慣行に反すると主張する。しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない上、スクリーンショットの投稿がツイッターの利用規約に違反するなどの事情はうかがえない。

そして、批評対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる。(略)そうすると、スクリーンショットにより引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり、その余の本件に顕れた事情に照らしても公正な慣行に反するとはいえないから、控訴人らの上記主張は採用できない。』

4.検討
(1)「引用」 著作者の権利(著作権および著作者人格権)の享有にはいかなる方式の履行も要しないとされています(著作権法17条2項)。しかし著作権はさまざまな形で制約されます(法30条以下)。本件で問題となるのは「引用」です(法32条)。

著作権法
(引用)
第32条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

この著作権法32条1項の条文が示すように、適法な引用といえるためには、①公表されていること、②公正な慣行に合致すること、③報道、批評、研究その他の引用の正当な範囲内であること、が必要となります。ここで①は明確な要件ですが、②③は必ずしも明確ではないので、裁判例は判断基準として④明瞭区別性、⑤主従関係の要件をとることが一般的です(最高裁昭和55.3.28・パロディ=モンタージュ事件)。

(2)本判決の検討
(a)批評の引用の正当な範囲内であること
そこで本判決をみると、「エ(ア)」の部分で裁判所は、本件投稿画像(スクショ画像)の添付された本件ツイートは控訴人X1が「DM画像を捏造」してこれをツイートしたことを「批判」する目的のものであると認定しています。

そして「エ(イ)」の部分で裁判所は、X1のツイートを批評するためにスクショ画像でX1のツイートをそのまま示すことは、「客観性が担保」され、「誰の投稿によるものであるか明らか」であり、また「その内容を正確に理解できる」ので、「批評の妥当性を検討するに資する」と評価しています。そのため裁判所はスクショ画像をツイートに添付することは「批評の目的上正当な範囲内での利用ということができる」と結論付けています。

(b)公正な慣行・主従関係
また裁判所は「エ(ウ)」の部分で、「証拠によると、画像をキャプチャしてシェアするという手法が、情報を共有する際に一般に行われている手法であると認められていることに照らすと」、本件控訴人プロフィール画像の利用は「公正な慣行に合致」していると判断しています。

この点について控訴人は、本件投稿画像1の分量が本件ツイート1の本文の分量と同等であり主従関係にないと争っていますが、裁判所は、「主従関係の有無は分量のみをもって確定されるものではなく、分量や内容を総合的に考慮して判断すべきである」と判示し、控訴人らの主張を退けており注目されます。

(c)Twitterの利用規約-引用ツイートとスクショ・オーバーライド問題
さらに控訴人らは、Twitterの利用規約は他のツイートを引用する際には引用ツイートの手法のみを認めており、スクリーンショットによる手法を認めていないので、本件のスクショ画像は「公正な慣行」に反すると争っています。

この点に関しては、冒頭であげた東京地裁令和4.2.10は、スクショ画像の添付は"Twitterの利用規約に違反しており公正な慣行に合致しておらず適法な引用といえない"と判断してしまっておりますが、この東京地裁判決に対しては、「スクリーンショット画像の添付による引用がツイッター社の規約に違反するとしても、規約違反が「公正な慣行」という媒介を通じて直ちに32条1項の適法引用を否定することになるかについては、別個の検討が必要であろう(略)。さもなければ、SNS等のサービス運営者がその利用規約等をもって著作権法の定める適法引用要件を事実上修正できることになりかねない。」との批判(いわゆる「オーバーライド問題」への批判)がなされているところでした(小林利明「ツイッターにおけるスクリーンショット画像の添付と適法引用の成否」『ジュリスト』1572号9頁)。

これに対して本知財高裁判決は、「しかしながら、そもそもツイッターの運営者の方針によって直ちに引用の適法性が左右されるものではない」とし、さらに「批判対象となったツイートを示す手段として引用リツイートのみによったのでは、元のツイートが変更されたり削除された場合には、引用リツイートにおいて表示される内容も変更されたり削除されることから、読者をして、批評の妥当性を検討することができなくなるおそれがあるところ、スクリーンショットを添付することで、このような場合を回避することができる」と指摘し、その上で「そうすると、スクリーンショットによる引用をすることは、批評という引用の目的に照らし必要性があるというべきであり…公正な慣行に反するとはいえない」と結論付けています。

このように知財高裁が引用リツイートとスクショ画像とを比較検討し、スクショ画像のメリットを指摘し、その上でツイッター社の利用規約が引用リツイートしか認めていないからといってスクショ画像の添付が公正な慣行に反することにはならないと判示したことは極めて正当であると思われます。本知財高裁判決をもって、上述の東京地裁令和4.2.10の判旨は否定されたといえるのではないかと思われます。

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■参考文献
・知財高裁令和4年11月2日判決 令和4(ネ)10044 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求控訴事件|裁判所
・小林利明「ツイッターにおけるスクリーンショット画像の添付と適法引用の成否」『ジュリスト』1572号8頁
・中山信弘『著作権法 第2版』320頁
・高林龍『標準著作権法 第5版』181頁



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1.はじめに
新聞社の新聞記事を鉄道会社が社内イントラネットで許諾なく共有していたことが著作権侵害として損害賠償が認められた裁判例(東京地裁令和4.10.6判決)が出されています。新聞記事などを企業等が承諾なく内部で共有することが著作権法上許されるかどうかについては著作権法の教科書には載っている論点ですが、公開されている裁判例は少ないようなので見てみたいと思います。

・東京地裁令和4年10月6日・令和2(ワ)3931・著作権・損害賠償請求事件|裁判所

2.事案の概要
鉄道会社である被告Y(首都圏新都市鉄道株式会社)は、原告X(株式会社中日新聞社)の新聞記事のうちY社に関わるものや沿線に係るもの約130件を承諾なくスキャンして画像データを作成し社内イントラネットに保存し役職員(約500名)が当該画像データを閲覧できるようにしていた。XがYの当該行為は複製権および公衆送信権の侵害であると訴訟を提起したのに対して、裁判所はこれを認め、約190万円の損害賠償の支払いをYに命じた。

本件訴訟の主な争点は、①本件新聞記事は著作物であるといえるか、②Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)、③損害の程度について、であった。(③については本記事では割愛。)

3.判旨
(1)争点①:本件新聞記事は著作物であるといえるか
『(Yは本件記事は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」にあたると主張するが)、(本件)記事は、事故に関する記事や、新しい機器やシステムの導入、物品販売、施策の紹介、イベントや企画の紹介、事業等に関する計画、駅の名称、列車接近メロディー、制服の変更等の出来事に関する記事である。そのうち、事故に関する記事については、相当量の情報について、読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されるなどされており、表現上の工夫がされている。また、それ以外の記事については、いずれも、当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせたり、関係者のインタビューや供述等を、適宜、取捨選択したり要約するなどの表現上の工夫をして記事を作成している。したがって、(本件)記事は、いずれも創作的な表現であり、著作物であると認められる。』

(2)争点②:Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
(Xの個別規定には「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があり、Yはその規定の適用があると主張している点について)『しかし、株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。』

このように判示し、裁判所はYの複製権および公衆送信権の侵害を認定し、約190万円の損害賠償の支払いを命じた。

3.検討
(1)新聞記事は著作権法上の「著作物」といえるか
著作権法による保護を受けるためには、創作したものが「著作物」である必要性があります。この点、著作権法上の「著作物」は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定されています(著作権法2条1項1号)。

一方、著作権法10条2項は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、…著作物に該当しない。」と規定しています。これは思想や感情を創作的に表現したものとはいえないものは著作物に該当しないことを注意的に規定したものです。そのため、新聞記事におけるある人物の死亡や地域の事故・火事等を伝える簡単な記事等(いわゆるベタ記事など)は「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に該当し著作物性が否定されます。しかし一般的な新聞記事や雑誌記事などは著作物であると解されています。

この点、2.(1)でみたように、本判決は新聞記事が「相当量の情報について読者に分かりやすく伝わるよう、順序等を整えて記載されており表現上の工夫がされている」場合や、「当該記事のテーマに関する直接的な事実関係に加えて、当該テーマに関連する相当数の事項を適宜の順序、形式で記事に組み合わせ…表現上の工夫をして記事を作成している」場合には、「当該記事は創作的な表現であり、著格物であると認められる」としている点は妥当であると思われます。

(2)Yの本件行為は「非営利で公共性のある場合」であるといえるか(私的複製であるといえるか)
著作権法30条は「個人的に又は家庭内その他これに準じる限られた範囲内において使用すること」(私的使用)を目的とする複製をとくに許容しています。この規定の趣旨は、家庭内における零細な複製を許容することにあるとされています。

法30条の「個人的な」使用とは、職業上の利用でなく、個人が趣味や教養を深めるために使用することを指すとされています。また「家庭内」とは、同一家計で同居している家族に使用させるために複製を許す趣旨であり、「非営利目的」の意味合いを含むと解されています。さらに「これに準ずる限られた範囲内」とは、同好会やサークルなどのように10人あるいは4~5人のグループが想定されており、特定かつ少数により公正される範囲を指すと解されています。

したがって、会社などの企業内における内部的利用のための複製は、一般的にかつ少数により構成された範囲でも複製とはいえず、また、当該複製は営利を目的とするものなので、非営利的目的を前提とする法30条の私的利用のための複製としては許容されないと解されています(辻田芳幸「団体内部の複製(舞台装置設計図事件)」『著作権判例百選 第4版』116頁、東京地裁昭和52年7月22日判決)。

この点、本判決のXの個別規定に「非営利で公共性のある場合には無料」との規定があることは、著作権法30条を前提としていると思われるところ、本判決が「株式会社であるYにこれらの規定が適用されたかは明らかではなく、また、上記で定められている取扱いをしなければならないことが一般的であったことを認めるに足りる証拠はない。」と判示していることは妥当であると思われます。

(3)まとめ
このように企業内などで新聞記事や雑誌記事などをコピーをとるなどして複製して利用することは、かりにそれが社内研修などが目的であるとしても営利活動であるとみなされ著作権法30条の私的利用の適用対象外となると思われます。そのため、企業の実務担当者は新聞記事などをコピーなどして利用するにあたっては、新聞社などにあらかじめ許諾をとり、必要に応じて使用料を支払った上で利用することが望まれます。

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■参考文献
・中山信弘『著作権法 第3版』352頁
・辻田芳幸「団体内部の複製」『著作権判例百選 第4版』116頁



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1.はじめに
1月28日深夜頃よりツイッター上などにおいて、三井住友銀行(SMBC)、NTTデータ、NEC、警察当局などの情報システムのソースコードの一部が、ソフト開発のプラットフォームであるGitHub上で公開されていたことが発覚して大きく注目されています。

ソースコードの一部をGitHub上で公開した人物は、ツイッター上でのやり取りをみると、SMBCなどの勘定系システムの一部の作成を行ったプログラマのようであり、「転職系サイトに年収査定を試算してもらうために自分がPCに持っていたソースコードをGitHub上で公開した」とのことのようです。

さぶれ氏ツイート
(プログラマのツイートより)

ところでこのプログラマはのんびりした性格の方のようで、ツイッター上でも、”GitHub上にソースコードをアップしたが、デフォルトで公開の設定となっていることは知らなかった。自分は別に商業利用に転用していないので著作権法上は問題ないと思っている。もしSMBCから言われたら対応を考える。”等とかなりのんびりとした認識のようです。

2.ソースコード作成者のプログラマの問題
(1)プログラムの著作物
著作権法10条1項は著作物を例示していますが、その中の9号は、「プログラムの著作物」をあげています。また、定義規定である同法2条の10の2号は、プログラムについて「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」と規定しており、この、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたもの」にソースコードは該当します。したがって、極端に短いものなど創作性がないとされる以外のソースコードは、著作権法上保護の対象となる著作物であることは間違いありません。

(2)著作権者は誰か?
つぎに、このプログラマがこのSMBCの勘定系システムの一部のソースコードの作成者であるとしても、一般論としては、当該ソースコードの著作権者はこの作成者であるプログラマではなく、SMBCなど(あるいはこのプログラマの所属するシステム開発会社)である可能性が高いと思われます。著作権法15条にいわゆる法人著作(職務著作)の規定があるからです。プログラムに関しては同法同条2項が問題となります。

(職務上作成する著作物の著作者)
第15条
1 (略)
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

銀行の勘定系システムの開発は、プログラマの思い付きではなく、「法人等の発意」に基づき作成されるのが通常であると思われますし、「職務上作成するプログラム」であると思われます。この「職務上作成する」は、勤務時間中に作成したものだけでなく、自宅等で作成したものも含まれるとされています。「契約、勤務規則その他に別段の定め」がある場合には、ソースコードの著作者はプログラム作成者となりますが、一般的には、別段の定めがない場合が通常ではないかと思われます。

なお、「法人等の業務に従事する者」とは、典型的には法人等と雇用契約にある従業員が当てはまりますが、実質的な指揮監督関係が認められる場合には、委託先、請負先の社員などもこれに含まれるとされています。

ツイッター上のやり取りをみると、このプログラマは、SMBC等の委託先のシステム会社のプログラマのようであり、したがって、一般論としては著作権法15条2項により、SMBCなどのソースコードの著作権者は、プログラマではなくSMBC等ということになりそうです。

(3)著作権のまとめ
そのため、ソースコード作成者のプログラマが、著作権者であるSMBC等の許諾なく、ソースコードを転職系サイトに年収査定の試算をしてもらうためにGitHub上で公開することは、やはり一般論としては、SMBC等の著作権を侵害しているということになりそうです。そのため、SMBC等としては、許諾なくソースコードを公表したプログラマとその所属するシステム会社に対して、損害賠償請求(民法709条、715条)、不当利得返還請求権(民法703条)、差止請求権(著作権法112条、116条)、名誉回復措置請求(著作権法115条)を主張することになります。また、著作権侵害に対しては刑事罰も用意されています(著作権法119条以下)。

(4)営業秘密など
なお、システム開発の委託元と、委託先のシステム開発会社との間においては、通常は、システム開発の業務委託契約書等が締結され、そのなかに秘密保持条項が盛り込まれています。就業規則や雇用契約書等にも秘密保持条項が規定されているのが通常です。

この点、不正競争防止法は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性、の3要件を満たすものを営業秘密としており、営業秘密の社外への持出しや開示は同法違反となる可能性があります(不正競争防止法2条1項4号以下)。

この場合、営業秘密を開示等された法人等は、損害賠償請求(4条)、差止請求(3号)などを主張することができます。また、不正競争防止法違反には刑事罰の規定も用意されています(21条以下)。2014年に発覚したベネッセ個人情報漏洩事件においては、個人情報を持ち出したSEがこの営業秘密の開示等の罪に問われ、裁判所はこれを認める判断を示しています(東京高裁平成29年3月21日判決)。

2.三井住友銀行等の問題
今回の事件では、SMBC、NTTデータ、NEC、警察当局などの情報システムのソースコードの一部が公開されたようですが、とくに大手金融機関のSMBCの基幹システムの一部のソースコードが漏洩したことが気になります。

個人情報保護法20条は、事業者に対して「データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の(略)安全管理のために必要かつ適切な措置」(安全管理措置)を講じることを規定し、事業者に従業員等を監督し(同21条)、業務委託をする場合はその委託先への管理・監督を行うこと(同22条)も安全管理措置の一環として要求しています。

これを受けて、金融庁および個人情報保護委員会は、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」および「金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針」を策定しています。

このガイドラインおよび実務指針においては、社内規定の整備・社内の監督体制の整備などの組織的安全管理措置、従業員等への教育などの人的安全管理措置、データのアクセス権限の管理・設定や漏洩防止策の実施などの技術的安全管理措置などを金融機関が実施することが求められています。

SMBCはメガバンクですので、一般論としては、システム開発の職員が開発ための社屋や部屋に入る入退室は社員証などでアクセス管理をされていたはずであり、また、自分のPCやスマホなども容易に持ち込み・持ち出しなどができないようになっていたであろうと思われ、そのような技術的安全管理措置がどう突破されてしまったのか疑問が残ります。

ベネッセ個人情報漏洩事件は、委託先のSEが刑事責任を問われただけでなく、ベネッセも安全管理措置に疎漏があったとして、ベネッセ側の民事上の損害賠償責任を認める最高裁判決が出されています(最高裁平成29年9月29日判決)。また、ベネッセに対しては株主代表訴訟も提起されています。

このように、ベネッセ事件に照らしても、情報システムに関する個人情報あるいは営業秘密の流出・漏えいは、企業のコンプライアンスと共にガバナンスの問題でもあります。SMBCはメディアの取材に対して、「セキュリティ上の問題はない」などと回答しているようですが、今回の基幹システム等のソースコードの流出事故は、メガバンク等における重大なインシデントではないかと思われます。SMBC等は、従業員や委託先などの監督に関する安全管理措置の法的義務違反の責任を厳しく問われるのではないかと思われます。

(なお、このようなGitHubやSNSなどによる転職や年収査定をうたう、Findy、LAPRASなどの最近のネット系人材紹介会社は、今回のような流出事故について、何等かの責任を負うのか否かについても、個人的には関心のあるところです。)

■関連するブログ記事
・AI人材紹介会社LAPRAS(ラプラス)の個人情報の収集等について法的に考える









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2019年の9月30日から10月30日まで実施された、海賊版サイトについての「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブコメ」の結果などの資料を、文化庁がこっそりとようやく、「侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会(第1回・11月27日)」の資料の一部として公開しています。
・侵害コンテンツのダウンロード違法化の制度設計等に関する検討会(第1回)|文化庁

資料3-1のパブコメ結果全体像によると、団体の提出意見は約50件となっています。個人の提出意見は実に約4300件となっています。
そして、個人の意見のうち、「侵害コンテンツのダウンロード違法化について」は、回答した個人4274人のうち、約89%にあたる3792名が「反対またはどちらかといえば反対」との意見を表明しているとのことです。(団体は、連名の個人を含む。)

文化庁は、3-1以下の資料において、個人の意見を分析した内容、代表的な意見を要約して引用していますが、4000件という多さか、あるいは国民の提出意見に価値を見出していないのか、要約などがやや雑に思われます。

その一方で、出版社や映画会社、漫画家などの提出意見については、おそらく全文をそっくりそのまま会議の資料としてコピペした分厚いものを検討会に持ち込んでおり、文化庁の姿勢は漫画家や出版業界・映画業界などに偏りすぎているのではないかと思われます。

ただ、団体の提出意見についての資料をみると、知財法の重鎮である明治大の中山信弘教授らの提出意見も掲載されていました。さすがの文化庁も中山先生を無視するわけにはいかなかったのでしょうか。

ところで、このパブコメ結果などは、パブコメ募集や結果公表などの際に中央官庁に利用されている、総務省の電子政府窓口(e-Gov)に公開されていません。

また、今回のパブコメは、官庁の施行令・施行規則・通達などを定める場合ではなく法案に関するものであるため、パブコメ手続きを定める行政手続法は直接適用ではなく準用のレベルではありますが、文化庁はパブコメ募集の際に、前回没になった著作権法改正法案等の資料をそのまま添付するのみであり、今回の著作権法改正案はまったく示しておらず、「具体的かつ明確な内容の案」をあらかじめ明示してパブコメを行わなければならないと規定する行政手続法39条2項に反しています。

なお、行政手続法は、行政はパブコメ手続を行った場合は、国民の提出意見を「十分に考慮」しなければならないと規定していますが、本検討会の第一回の議事録を読むと、本検討会のメンバーは、「漫画家・出版社・映画会社のエラい人々とそのお友達の御用学者・弁護士」ばかりのようであり心配です。

漫画家や出版社などの経済的利益の保護も重要ではありますが、しかしそれは、国民の知る権利・表現の自由(憲法21条1項)の規制と裏腹の関係にあります。本検討会や文化庁は、国民の基本的人権に十分配慮した慎重な議論を行っていただきたいと、一国民としては思います。

■関連するブログ記事
・文化庁の海賊版サイトに係る侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブコメへの提出意見-ダウンロード違法化・リーチサイト


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