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カテゴリ: 民法・民事訴訟法等

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1.はじめに
親族の添え手による補助を受けて作成された自筆証書遺言が無効と判断された裁判例が東京地裁で出されていました(東京地裁平成30年1月18日判決・請求棄却・確定、金融法務事情2107号86頁)。

2.事案の概要
被相続人である女性Aに対して、本件訴訟の原告X1は長女、X2は二男、被告Yは長男であった。Aの主な財産は、東京都内の宅地および4階建ての建物であった(「本件不動産」)。

Aは平成22年8月に公正証書遺言を作成した(「平成22年遺言」)。その内容は、本件不動産はYに相続させ、その他の財産はX1、X2およびYに均等に相続させるというものであった。

つぎにAは、平成24年12月に自筆証書遺言を作成した(「平成24年遺言」)。この内容は、すべての財産をX1、X2およびYに均等に相続させるというものであった。平成24年遺言の作成当時、Aは自書能力を失っており、平成24年遺言は親族がAの手に手を添えて書かれたものであり、その様子が動画として記録されていた。

平成27年6月にAが死亡した。Yは、平成22年遺言に基づいて本件不動産を自己名義に所有権移転登記を行った。

これに対して、X1およびX2が、本件24年遺言は有効であるとして、Yに対して本件不動産の所有権移転登記の更生手続きを求めたのが本件訴訟である。東京地裁はつぎのように判示してX1らの主張をしりぞけた。

3.判旨
『(ア) 運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が民法968条1項にいう「自書」の要件を充たすためには、遺言者が証書作成時に自書能力を有し、かつ、上記補助が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みに任されていて単に筆記を容易にするための支えを借りたにとどまるなど添え手をした他人の意思が運筆に介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できることを要するものと解され(昭和62年第一小法廷判決参照)、本件の平成24年遺言の効力の判断においてもこれと別異に解すべき理由は見当たらない。
(略)

(イ) 自筆証書遺言の方法として、遺言者自身が遺言書の全文、日付及び氏名を自書することを要することとされているのは(民法968条1項)、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の意思に出たものであることを保障することができるからにほかならず、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会いを要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐって紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とするというべきである。「自書」を要件とするこのような法の趣旨に照らすと、前記アのような条件の下でのみ「自書」の要件を充たすものと解するのが相当である(昭和62年第一小法廷判決参照)。

(ウ) Xらは動画によって本件遺言書の作成過程が記録されている点を強調するが、動画によって遺言書の作成過程が記録されたとしても、当該動画に記録された情報は遺言書そのものとは別個の媒体による情報であり、遺言書のみによって本人が書いたものであることを判定し、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができない以上、作成過程が動画に記録されていることをもって直ちに「自書」の要件を充たすものと解したり、当該遺言を自筆証書遺言又はこれに相当するものと解したりすることは、前記の法の趣旨に反するものといわざるを得ない。』

4.検討
民法の家族法の部分は遺言の方式について規定していますが、自筆証書遺言については、遺言者が全文、日付および氏名の自書と押印が必要としています(民法968条)。

この自筆証書遺言の「自書」の要件について、本件と同様に他人の添え手があった場合が争われ、本判決が指摘している最高裁昭和62年10月8日判決民集41巻7号1471頁は、本判決が説示するとおり、「他人の添え手による補助により作成された自筆証書遺言は、遺言者がその当時自書能力を有し、その補助が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みどおりで単に筆記を容易にするための支えを借りるだけであって、このように添え手による他人の意思の介入がなかったことが筆跡の上で判定できる場合に限り「自書」(民法968条)の要件をみたす」としています。

民法が自筆証書遺言に「自書」を求めているのは、遺言が遺言者の真意に基づくものであることを明らかにする趣旨であるとされています。つまり、自書であれば、筆跡によって本人が書いたものであることが判定できるので、それ自体で遺言者の真意に基づくものであることを保障できる点にあるとされています(魚住庸夫『最高裁判所判例解説民事編昭和62年度』613頁)。

本判決はこのような判例の流れに従う妥当な判決であると思われます。

裁判所が自筆証書遺言の「自書」の要件をこのように厳格に解し、それを満たさない遺言を無効としているスタンスを考えると、本判決の事例のように、添え手による自筆証書遺言の様子を動画で撮影し記録としたり、あるいは遺言者が遺言の内容を読み上げたものを録音として記録したものなどは、それだけでは自筆証書遺言の代用とはならないものと思われます。

なお、平成30年に成立した改正相続法は、その改正内容の一つに自筆証書遺言の方式の緩和を含んでいます(改正民法968条2項)。しかしこれは財産目録については自書ではないことを許容するにとどまり、自筆証書遺言の本文部分(「〇は△に相続させる」の部分)については依然として遺言者の自書を求めているので、上で見たような判例の自書に関する考え方は基本的には変わらないものと思われます。

■参考文献
・『金融法務事情』2107号86頁
・二宮周平『家族法 第4版』386頁
・中川善之助・加藤永一『新版注釈民法(28)』79頁
・金融取引法研究会『一問一答相続法改正と金融実務』114頁


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1.はじめに
生命保険契約の災害死亡保険金の支払いをめぐる裁判において、事実の確認(調査)があった場合の保険金支払時期を明確化する保険約款の変更の効力が争点となり、当該保険約款の変更を有効とする興味深い裁判例が出されていました(東京地裁平成29年10月23日・請求一部認容・控訴後和解)。

2.事案の概要
(1)保険契約・免責条項など
Aは平成6年7月にY生命保険会社(メットライフ生命保険)との間で生命保険契約を締結した。当該保険契約は、主契約として普通死亡保険金5000万円と、災害死亡給付特約による災害死亡保険金5000万円を保障するものであった。

災害死亡給付特約による災害死亡保険金は、不慮の事故による傷害を直接の原因として死亡したことを支払事由としており、免責条項として、被保険者の故意または重大な過失を免責とする条項を規定していた。

また、Y社は、本件普通保険約款において、保険金支払の際の事実の確認(調査)があった場合の保険金支払時期について、従来は「事実の確認その他の事由のため特に日時を要する場合のほかは、必要書類が会社の日本における主たる店舗に到達してから5日以内に支払う」旨を規定していた。

ところでY社は、平成22年の保険法施行にあわせて、既契約の保険約款条項の変更特約を付加する旨の通知をAを含む保険契約者に発送していた(本件変更特約)。本件変更特約は、保険金支払の際に事実の確認があった場合で、「医療機関または医師に対する照会のうち、書面の方法に限定される照会」のときの保険金支払時期は、必要書類がY社に到達した日の翌日から60日と規定していた。

(2)事故の状況など
A(事故当時61歳)は、10階建てマンションの8階のフロアに居住していたが、平成27年11月23日の午前9時頃、同マンション8階から吹き抜け部分の中2階に転落し死亡した。本件フロアの玄関ドア前ポーチ部分の北側の専有部分には、高さ1.12メートル程度のコンクリート製の壁の上部に1メートル四方の空洞部分があり、Aは本件空洞部分にラティス(フェンス)と突っ張り棒を設置していたところ、管理人が発見した際には、このラティスが壁に立てかけられており、本件専有部分に脚立が置かれていたことから、Aは本件空洞部分において、脚立を用いてラティスを外す等の作業を行う最中に転落したものと考えられた。

本件保険契約における保険金受取人のXら(Aの子供ら)は、Y社に対して保険金請求を行ったところ、Y社は普通死亡保険金5000万円は支払ったものの、災害死亡保険金については、本件転落事故はAの重過失によるものであるとして免責を主張し、災害死亡保険金の支払を拒む等したためXらが提訴したのが本件訴訟である。

3.判旨
(1)本件転落事故はAの重過失であるといえるか
本判決は、『当時のAの年齢や身体能力等を考慮しても、危険性が著しく高いとまではいえ(ない)』などと判示して、Aの重過失を否定し、Y社の免責の主張を退けています。

(2)本件変更特約による普通保険約款の変更は有効といえるか
『Yは、Aに対し、本件変更特約とその内容の具体的説明及び異議を述べることができることとその連絡先を記載した文書を送付し、ホームページ上にも文書を掲載した。Aは、遅くとも、平成22年1月25日までに、それらの文書を受領したが、その後、異議を述べずに、Yに対する保険料の支払を続けた。

 前提事実(略)のとおり、本件変更特約は、本件約款では単に「事実の確認その他の事由のため特に日時を要する場合」となっていた要件について、事実確認のために必要となる調査事由及び調査先の対応ごとに具体的に災害死亡保険金の支払期限を定めたものである。保険金の支払に際し、適切な調査の上、支払事由の有無の確認が必要とされるのは当然であるところ、調査事由及び調査先の対応ごとに具体的な支払期限を定め、明確化することは、契約者であるAにとっても利益があるといえる。

 上記のとおり、Aが本件変更約款付加についての異議を述べず、保険料の支払を続けていることに加え、本件変更特約新設の目的、本件変更特約の内容からして、変更の必要性、相当性が認められること及び適切な方法により周知が図られていることからすれば、YとAとの間には、本件変更特約により災害死亡保険金の支払期限を変更することについて、黙示の合意があったものと認めるのが相当である。』


このように本判決は判示し、災害死亡保険金の支払時期は、必要書類がY社に到達した翌日から起算して60日を経過する日と認定しています。

4.検討
(1)保険金支払の期限
保険金の支払期限について、平成22年に施行された保険法は第52条で、「保険給付を行う期限を定めた場合であっても、当該期限が、保険事故、保険者が免責される事由その他の保険給付を行うために確認をすることが生命保険契約上必要とされる事項の確認をするための相当の期間を経過する日後の日であるときは、当該期間を経過する日をもって保険給付を行う期限とする。」と規定しています。

この規定を受けて、生命保険各社は、本判決が述べるように、「約款の明確化」のために、「事実確認のために必要となる調査事由及び調査先の対応ごとに具体的に災害死亡保険金の支払期限を定め」ています。

(2)約款の変更
2020年4月から施行予定の改正民法(債権法)は定型約款の条文を新設しました(第548条の2~第548条の4)。そして同548条の4は、事業者は①定型約款の変更が相手方の一般の利益に適合するとき、②定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ変更の必要性、相当性、合理性があるとき、のいずれかに該当する場合は、相手方との個別の合意なしに、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなすことができると規定しています。

(定型約款の変更)
第548条の4
定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。

本判決は改正民法施行前のものですが、「保険金の支払に際し、適切な調査の上、支払事由の有無の確認が必要とされるのは当然であるところ、調査事由及び調査先の対応ごとに具体的な支払期限を定め、明確化することは、契約者であるAにとっても利益があるといえる。」と判示し、本件保険約款変更は①の類型に該当するとし、保険会社側があらかじめ約款変更の内容を通知する書面を保険契約者に送付していたこと、当該書面によれば保険契約者側は異議を述べることができたこと、一方、Aは異議を述べず保険料を支払い続けたこと、などの各事項を認定し、本件保険約款の変更は有効であると認定しています。

このように、本判決は保険会社にとって実務上参考になるだけでなく、商取引において普通約款を用いて事業を行っている民間企業の今後の約款変更に参考になるものと思われます。

■関連するブログ記事
・改正民法(債権法)における「定型約款」条項と生命保険の普通保険約款(追記有り)

■参考文献
・『判例タイムズ』1454号227頁
・山下友信『保険法(上)』184頁
・筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権法)改正』241頁
・法曹信和会『改正民法(債権法)の要点解説』108頁
・嶋寺基『最新保険事情』57頁

保険法(上)

一問一答 民法(債権関係)改正 (一問一答シリーズ)

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1.はじめに
1月26日付の毎日新聞に、子どもがインフルエンザに罹患した場合に、その親である労働者に対して会社が休業を命じることがあるが、ある社会保険労務士によると、この場合「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づき賃金はゼロとなるとの記事が掲載されていました。
・「子供がインフル」ママパートに“休業命令”はあり?|毎日新聞

ネット上では「これはひどい」との声が大きくあがっていましたが、この場合、賃金はどうなるのでしょうか?

2.会社は労働者に休務を命じることができるのか
そもそも、会社(使用者)は労働者に休務を命じることができるのでしょうか。この点、会社は労働契約の範囲内であれば、どのような指示をするのかは、公序良俗に反しない限り自由にできると解されています。そのため、仕事にかえて自宅で待機するよう指示することも有効です(東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』352頁)。

会社(使用者)は労働者・職場に対して安全配慮義務や職場環境調整義務を負っているので、インフルエンザにかかった子どもの家庭の親などの労働者に休務を命じることは、合理性があるといえるので、その指示は有効であると考えられます。

3.休業手当
つぎに労働者が会社から休務(休業)を命じられた場合、その賃金はどのようになるのでしょうか。雇用契約は契約の一種ですが、契約・債権の総則規定を置いている民法のなかの、第536条2項はつぎのように規定しています。

民法

第536条 (略)
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。(後略)


つまり、債権者=会社の責めに帰すべき事由によって、債務者=労働者が債務(労働を提供する債務)をすることができなくなったときは、債務者=労働者は反対給付を受ける権利(賃金を受ける権利=休業手当)を失わないのです。

すなわち、民法536条2項によれば、会社の責めに帰すべき事由により労働者が休業を命じられた場合は、労働者は賃金を受ける権利を失わないので、労働者は100%の賃金を受け取ることができることになります。

ところで、雇用分野に関しては、民法に規定があるだけでなく、労働基準法や労働契約法などが制定されています。本事例のような休業手当に関して労働基準法はつぎのように規定しています。

労働基準法

(休業手当)
第26条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

(罰則)
第120条 次の各号の一に該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 (略)第二十三条から第二十七条まで、(略)の規定に違反した者
(後略)


つまり、労働基準法は、会社がその責に帰すべき事由により労働者に休業を命じた場合、60%の賃金を支払えと規定しています。しかも、これに違反した場合は会社に罰則が科せられます。

民法536条2項が規定する「責に帰すべき事由」が原則として「故意・過失」であるのに対して、労働基準法26条の「責に帰すべき事由」はより広く、「経営上の障害」も含まれると解されています(菅野和夫『労働法 第11版補正版』439頁、ノース・ウエスト航空事件・最高裁昭和62年7月17日)。

4.いすゞ事件
このように、休業手当が支払われる場合には民法は賃金の100%、労働基準法は60%と規定しているわけですが、会社はどちらの規定に基づくべきなのでしょうか。

この点が争点となった、いすゞ事件(東京地裁平成24年4月16日)は、休業に対して60%の休業手当が支払われた有期雇用契約の従業員が100%が正当であるとして残りの40%の支払いを求めた訴訟ですが、裁判所は従業員側の主張を認め、残りの40%の支払いを命じる判決を出しています。これは、原告が有期雇用であったため、期間内の賃金支払いの期待が高いことが考慮されたものと解説されています(東京南部法律事務所・前掲149頁)。

5.まとめ
このように見てみると、会社がインフルエンザのおそれから職場を守るためという経営目的上の理由、すなわち会社の責めに帰すべき事由を理由として、従業員に休務を命じる場合には会社は休業手当を支払わなければなりません。そしてその金額は、有期雇用契約の従業員の場合は100%とする裁判例が存在します。少なくとも、60%の休業手当を支払わない場合、罰則規定がありますので、会社は労基署や労働局などから行政処分を受けるリスクがあります。

あるいは、毎日新聞の本事例の記事のような、「ノーワーク・ノーペイの原則に基づいて給料はゼロ円」という結論はあり得ないことになります。

■参考文献
・東京南部法律事務所『新・労働契約Q&A』149頁、352頁
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』439頁

労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)

新・労働契約Q&A 会社であなたをまもる10章

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1.自筆証書遺言の保管申請
(1)保管の申請
遺言をする者(遺言者)は、遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を所轄する法務局に対して遺言の保管の申請を行うことができます(遺言書保管制度)。

この遺言書保管制度による保管の対象となるのは自筆証書遺言に限られます(遺言書保管法1条)。また、遺言書の保管の申請は、遺言者が所轄の法務局に自ら出頭して行う必要があり、その際には法務局の遺言書保管官(法務事務官)は、申請人が本人であることの確認を行います(同4条6項、5条)。

(2)遺言書の保管
保管の申請を受けた法務局(遺言書保管官)は、遺言書の原本を法務局の施設内で保管します(同6条1項)。また、法務局は、つぎの事項を記録した「遺言書保管ファイル」により遺言書の情報を管理します。

①遺言書の画像情報
②遺言書に記載されている作成の年月日
③遺言者の氏名、生年月日、住所および本籍(外国人の場合は国籍)
④遺言書に受遺者・遺言執行者の記載があるときは、その氏名・名称、住所
⑤遺言書の保管を開始した年月日
⑥遺言書が保管されている法務局の名称および保管番号

2.保管された自筆証書遺言についての相続人による確認など
(1)遺言書情報証明書
遺言者の死亡後、相続人はどの法務局(遺言書保管官)に対しても「遺言書保管ファイル」に記録されている事項を証明した書面(「遺言書情報証明書」)の交付を申請し、遺言の画像情報などを確認することができます。この遺言書情報証明書には、つぎの事項が記録されています(遺言書保管法9条1項、7条2項)。

①遺言書の画像情報
②遺言書に記載されている作成年月日、遺言者の氏名・生年月日・住所および本籍(外国人は国籍)
③受遺者や遺言執行者がいる場合にはその氏名・名称および住所
④遺言書の保管を開始した年月日
⑤遺言書が保管されている法務局の名称および保管番号

なお、相続人はどの法務局においても遺言書情報証明書を取得することができるため、最寄りの法務局で証明書を取得することができます。

(2)自筆証書遺言の原本の閲覧
相続人は、遺言者の死亡後、遺言者が作成した自筆証書遺言を現に保管する法務局に対しては、当該遺言の原本の閲覧を請求できます(遺言保管法9条3項)。

(3)他の相続人への通知
上の遺言書情報証明書の交付や自筆証書遺言の原本の閲覧が行われた場合、法務局から他の相続人に対して、当該自筆証書遺言を保管している旨の通知が行われます(遺言保管法9条5項)。

(4)自筆証書遺言の原本の取り扱い
相続人は、遺言者の作成した自筆証書遺言の原本の返還を受けることはできません。これは、複数の相続人からの返還の申し出が競合した場合、対応が困難なことや、特定の相続人が遺言書原本の返還を受けた後にこれを隠匿するおそれがある等のためです。また、相続人による遺言書情報証明書の請求や自筆証書遺言の原本の閲覧は、遺言者が死亡した場合に限って行うことができます。

3.法務局に保管された自筆証書遺言の検認の要否
(1)現行の制度
現行民法は、遺言者が自筆証書遺言を作成しており相続の開始があった場合には、当該遺言書は、家庭裁判所による検認を経る必要があります(民法1004条1項)。これは遺言書の偽造や変造を防ぐためです。

(2)遺言書保管制度による自筆証書遺言
一方、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言においては、法務局(遺言者保管官)が家庭裁判所の検認手続きと同様の機能を果たすため、家庭裁判所による検認は不要となります(遺言書保管法11条)。

(3)金融実務への影響
現行制度においては、金融機関が預金の払い戻しや保険金支払い等を行うにあたっては、自筆証書遺言が検認を経ているかチェックする必要があります。しかし、遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言に関し、相続人から預金の払い出しなどを行うにあたっては、相続人が所持しているのは遺言書情報証明書だけであり、その提示を受けて払戻しなどを判断することになります。検認を経ていることのチェックは不要となります。

■参考文献
・『一問一答相続法改正と金融実務』126頁
・『金融機関のための相続法改正Q&A』30頁

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1.はじめに
最近、裁判所が自動車保険の請求代理制度と生命保険の指定代理人制度の異同について論じためずらしい判決が法律雑誌に掲載されていました。

2.札幌高裁平成28年7月15日判決(控訴棄却・上告、判例タイムズ1435号159頁)
(1)事案の概要
昭和43年生まれの控訴人Xは、本件原付バイクをバイク店(保険代理店・保険契約者)より借り、本件バイクの運転者を被保険者とする自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。保険者は被控訴人のY保険会社)に被保険者として加入していた。

本件保険契約の保険約款の基本条項20条3項、4項にはつぎのような規定が置かれていた。

(3) 被保険者に保険金を請求できない事情がある場合で、かつ、保険金の支払を受けるべき被保険者の代理人がいないときは、次のいずれかに該当する者がその事情を示す書類をもってその旨を当会社に申し出て、当会社の承認を得たうえで、被保険者の代理人として保険金を請求することができます。
① 被保険者と同居または生計を共にする配偶者
② ①に規定する者がいない場合または①に規定する者に保険金を請求できない事情がある場合は、被保険者と同居または生計を共にする親族のうち3親等内の者
③ ①および②に規定する者がいない場合または①および②に規定する者に保険金を請求できない事情がある場合は、①以外の配偶者または②以外の親族のうち3親等内の者

(4)(3)の規定による被保険者の代理人からの保険金の請求に対して、当会社が保険金を支払った後に、重複して保険金の請求を受けた場合であっても、当会社は、保険金を支払いません。

平成21年11月9日にXは、原動機付自転車(本件バイク)で青信号の道路を走行していたところ十字路で左前方の路地から侵入してきた自転車と正面衝突する交通事故に遭った。

この交通事故により、Xは外傷性くも膜下出血、脳挫傷、器質性精神障害などを受傷し、交通外傷後高次脳機能障害の後遺障害(見当識障害、注意障害、記銘力障害、幻視、易怒性など)を負い、平成24年7月20日に労災保険法施行規則に定める障害等級2級と認定された。

Y保険会社の本件事故の担当者Bは、事故から約1年後の平成22年2月12日に、保険契約者であるバイク店より本件事故の第一報を受けた。Bは保険金請求の案内はがきを出したり、電話をかけるなどを行ったがXと連絡がとれなかった。

平成23年11月29日にバイク店からの連絡でBはAの連絡先を知り、同年12月1日および2日に電話にてXの保険金請求の案内を行ったところ、Aは、本件事故によりXは重度の後遺障害を負っているので本人に連絡しないでほしい趣旨の意向を伝えた。平成24年7月30日に、BはAより保険金請求書、医療記録に関する同意書、印鑑証明書、念書などの必要書類を受領した。

平成24年7月30日、YにXより電話があったため、Bが折り返し電話を掛けたところ、Xは診断書を提出するので保険金を支払ってほしいとの趣旨であったため、Bは返信用の封筒をX宛に郵送したが、診断書は送られてこなかった。

平成24年9月10日、Xより年金証書がFAXでYに送付された。また調査担当者によりYは病院から診断書などを受領し、保険金支払い査定を行い、Xは後遺障害等級3級3号に該当し、自損事故特約保険金(後遺障害)など、合計約1260万円が支払いの対象となると判断した。

平成24年9月24日、BはAに対して上の保険金が支払いとなる旨を伝えたところ、Aは、Xは浪費等の問題があるとして、保険金156万円のみをXの口座に支払い、残りの約1110万円はAの口座に支払うよう要請し、Yはそれに従ってそれぞれ保険金を支払った。Aは平成25年7月25日に死亡した。事情を知ったXが本件訴訟を提起。

Xは、Yには被保険者であるXに対して保険金を支払う義務があったにもかかわらず、父親であるAが無権限であることを知りながら、同人名義の銀行口座に保険金合計1264万円を支払い、Xに損害を与えたなどと主張し、本件保険契約上の付随義務違反に基づき, 1264万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

これに対し、Yは、本件保険契約については、その保険約款(以下「本件約款」という)において、「代理請求制度」が規定されているところ、①被保険者であるXは、障害等級2級に該当する交通外傷後高次脳機能障害に罹患しており、保険請求の能力を欠いているから、本件約款款が規定する「被保険者に保険金を請求できない事情がある場合」に当り、②AはXの父として、本件約款の規定する「被保険者の代理人」に該当することから、Aの代理請求制度に基づく保険金の請求に応じてAに保険金を支払ったYは、本件約款の規定により免責されるなどと主張して争ったものである。

原審(札幌地裁平成28年2月17日判決)は、Yの上記主張に理由があるなどとして、Xの請求を棄却したところ、Xがこれを不服として控訴したが、控訴審も同様の理由により控訴を棄却した。

(2)判旨
『Xは、指定代理請求制度が被保険者の同意を得て予め指定した代理人により保険請求ができるという制度であり、当然に、一般的な代理権を基礎づけるものではなく、また、仮に、Aが代理請求人であったとしても、例外的な制度である指定代理人請求制度がA名義のゆうちょ銀の口座に被保険者の保険金を送金する代理権までを認めるものではない旨主張する。

 しかし、そもそも、本件約款が規定し、Aが利用した制度は代理請求制度であって、指定代理請制度ではないところ、代理請求制度は、代理人に対して、保険金を請求し受領する権限を与えるものであると解される。したがって、Aには、本件保険金を受領する権限が認められているのであるから、本件保険金をA名義の口座に送金させこれを受領することは,その権限内の行為であって、Aに対する本件保険金の支払は有効である。したがって、Xの上記主張は理由がない。


このように判示して、本件高裁判決は、YのAへの代理請求制度による保険金支払いは正当であり、Yは再度Xに対して保険金を二重払いする義務を免責されるとしました。

3.分析・解説
(1)損保の代理請求制度と生保の指定代理制度
うえの2.(1)でみたように、自動車保険などの保険約款には保険金支払いの例外的な場合として、「代理請求制度」が一般に規定されています。

この損害保険の代理請求制度とは、「被保険者が保険金受取人である契約において、被保険者自身が保険金を請求できない事情がある場合で、かつ、被保険者の代理人がいないときに、所定の方が被保険者の代理請求人として、保険金を請求することができる制度です」と解説されています(損害保険総合研究所「損害保険Q&A」問78)。

そして、この定義中の「被保険者自身が保険金を請求できない事情」について、同Q&Aは、「意識不明の状態など被保険者に意思能力がない場合(診断書や医師の見解を確認することなどによって、慎重に判断されます。)」と解説しています。

一方、生命保険の指定代理請求制度とは、「被保険者が保険金受取人で、保険事故発生の時点で、被保険者自身が重篤で意思能力がない状態であったり、被保険者本人が「余命6ヶ月以内」という余命告知を受けていなかったりする理由等で自ら保険金の請求手続きを行えない状態の際に、一定の要件を満たす被保険者の家族など(指定代理人)から保険金支払の請求ができるよう創設された制度」です。そして、指定代理人は、「被保険者の同意のもと、 契約者によってあらかじめ指定されている特別の代理人」であり、実務取扱い上は、生命保険契約の申込の際に保険契約者・被保険者に指定していただくのが通常です(長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』252頁)。

このように、損害保険における代理請求制度と生命保険における指定代理制度は似た制度ですが、生命保険の指定代理制度は指定代理人について被保険者があらかじめ同意しているのに対して、損害保険における代理請求制度は代理請求人を被保険者があらかじめ同意していない点が異なります。

(2)Xの代理人弁護士の重大なミス
このように、損保の代理請求制度と生保の指定代理制度は似て非なる制度であるにもかかわらず、本件訴訟の地裁・高裁判決を読むと、Xの代理人弁護士は損保の代理人請求制度を生保の指定代理制度と誤解し、指定請求制度に照らしてYの対応はおかしいととんでもない主張を行っています。また、判決文によると、Xの代理人弁護士は、「保険は民法の第三者のためにする契約であるから被保険者は保険会社の約款に拘束されない」旨の無茶苦茶な主張も行っています。このような弁護士の度重なるオウンゴールにより、本件訴訟は、裁判所が「本件は代理請求制度が適用されるべき場面であり、指定管理制度と主張するXの主張は失当」という趣旨の請求棄却をあっさり出して終わっています。

思うに、本件訴訟のX側の弁護士は保険金請求訴訟に関してド素人のようで驚いてしまいます。素人なら素人なりに文献を調査して訴訟を行うべきなのではないでしょうか。本件訴訟はXの弁護過誤レベルに思えます。Xはこの弁護士を名宛人として損害賠償訴訟を提起しても許されるレベルに思えます。

(3)Y損害保険会社の金融機関としての注意義務は尽くされているか
本件訴訟においてはY保険会社はX側の弁護士の「自爆」によって勝訴していますが、判決文を読んでいて、Y(とくにB)の保険金支払い業務が適切であったのかは疑問を感じます。判決文を読むと、Bは何度もXの父Aと面会を繰り返し、保険金支払いの準備を進めています。しかしBは肝心の被保険者(保険金受取人)本人であるXとは一回も面談していません。唯一BがXとやり取りしたのは、平成24年7月30日にXがY社に電話をしてきたので折り返し電話をした際のみです。

しかもこの際にBはXから保険金請求をしたいとの申し出を受けたにもかかわらず、診断書を送るよう答えて封筒を送るだけで、保険金請求書類を送っていません。

うえでみた損保総研のQ&Aによると、代理請求制度の適用が可能となるのは、被保険者本人が意思能力を失った場合など例外的な場合に限られるはずです。

たしかに交通事故により重篤な外傷を罹患した後遺障害で、Xは判断能力・事理弁識能力が大きく低下してしまっているようですが、警察に相談などして、Y保険会社に電話をして自分の保険金を支払ってほしいと請求を行っているのです。Xの状況が意思能力を失った状況とは思えません。B(Y)はAへの保険金支払いありきではなく、AとXのどちらに保険金を支払うべきか、もっと慎重な対応が必要だったのではないでしょうか。少なくともBあるいはY社が委託した保険調査員が自宅を訪問し、Xと直に面談を行い、Xの意思能力・判断能力をチェックすべきだったのではないでしょうか。Y社は本件の保険金支払いにあたり、金融機関としての注意義務を尽くしていたといえるか疑問です。(私は生保の人間なので、損保の実務はよく存じ上げないのですが、元保険金支払査定部門の人間としてはYの大雑把な業務には疑問を感じます。)

(4)金融機関の注意義務(民法478条)
民法478条は本事案のように金融機関が金銭を二重払いするリスクを負う場面でしばしば問題となります。つまり、保険会社は保険金受取人らしく思われる人間(債権の準占有者)に対して保険金を支払った場合は、当該保険会社が保険金支払いにあたり善意・無過失であった場合に限り、後日、真の保険金受取人から支払いの請求を受けたときにその二重払いを免れるのです。

そして、ここでいう金融機関の善意・無過失とは、「金融機関としての注意義務を尽くしていたこと」が必要であるとされています(最高裁昭和48年3月27日判決、保険会社に関するものとして最高裁平成9年4月24日判決)。

しかしうえでみたように、BおよびY社は、最初からAへの保険金支払いありきのようであり、真の保険金受取人であるXとはまともにやり取りをしていません。

4.まとめ
この点、本件訴訟においては、Xの代理人弁護士は、生保の指定代理制度を持ち出したり、あるいは「保険契約に不随する注意義務」などのトリッキーな珍理論によりXへの保険金支払いを主張するのではなく、王道である、保険金支払いにおける民法478条による金融機関として尽くすべき注意義務をYは尽くしているのかという点を主な争点にすえるべきだったのではないかと思われます。

■参考文献
・『判例タイムズ』1435号159頁
・長谷川仁彦・竹山拓・岡田洋介『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』252頁
・山下友信『保険法』537頁
・近江幸治『民法講義Ⅳ 第3版』298頁
・損害保険総合研究所「損害保険Q&A」問78

保険法

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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