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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

タグ:個人情報

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1.茨城県のコロナ接触確認システムに県民の登録が法的義務化!?
新聞報道などによると、茨城県は新型コロナに関する県独自の感染確認システム(「いばらきアマビエちゃん」)において、同県の事業者・店舗だけでなく、県民に対しても条例を制定し同システムへの登録を法的義務とする方針であるとのことです。住民・国民への法的義務付けはわが国初だそうです。
・【8月18日発表】「茨城県新型コロナウイルス感染症の発生の予防又はまん延の防止と社会経済活動との両立を図るための措置を定める条例」案について|茨城県
・「いばらきアマビエちゃん」について|茨城県

そこで、茨城県サイトをみると、同システムは個人のスマホ側でなく茨城県のシステム側に個人のメルアドを集めて管理する中央集権型システムのようです。

ところで、県サイトのQAをみると、「氏名、住所などは収集しない。」「位置情報は収集しない」となっています。

しかし、◯月◯日に登録した個人がどの企業・店舗にいたかとの位置情報は県システムは把握してるはずだが…?そうでないと通知のメールを登録をした県民に送れなくなってしまいます。

また、県サイト上の同条例案の説明資料を読むと、県民側の権利利益としては、「コロナ差別が問題となるが、それは本条例案で『コロナ差別禁止』条項を盛り込むので問題ない」、という整理になっているようです。県民の個人情報保護やプライバシー権・自己決定権などはスルーなのでしょうか…?

この点はまさか、茨城県としては、「氏名、住所などを県民に入力させていないから『個人情報』は収集していない。」という化石のような理解なのでしょうか!?もしそうなら唖然としてしまいますが。

世界の自由主義諸国の18世紀以降の近代憲法は、自由主義つまり国民の自由を最大限尊重することを理念とするものです。そして、国民の個人情報保護やプライバシー権・自己決定権は国民の精神的な人権の根本にかかわる基本的人権の問題です。とくに傷病に係る情報はセンシティブな個人情報です。

とはいえコロナの感染拡大は世界的に非常に深刻な問題です。そのため、両者のバランスをとるために、WHOなどは、”原則、コロナの接触確認アプリ等は、国が開発・運営し、インストールや利用はそれぞれの国民の任意に委ねるべき”との見解を出しており、また、それを受ける形で、GoogleやAppleもほぼ同様の考え方のもとに接触確認アプリのプラットフォームを提供しています。

県独自の取り組みとはいえ、茨城県も接触確認アプリ類似の制度として本システムを開発・運用しているのですから、本システムを開発・運用する上では、県民の個人情報やプライバシーについて十分検討を行った上で開発・運用を実施すべきです。

にもかかわらず、少なくとも県サイトに掲載されている資料上からは、そのような検討がまったくないままに県民への本システムへの強制が条例化されることには、大きな違和感があります。

2.県民の協力義務
また、本条例案は、「県民の協力義務」という条項がギラギラしています。感染や濃厚接触が県にばれたら、県職員などが県民の居宅や勤務先に乗り込んできて、身柄確保の上での取り調べや捜査・押収を始めるのでしょうか?

それはさすがに、憲法の定める令状主義(憲法31条、35条)や強制処分法定主義などの刑事訴訟法等に反してないかと不安になります。

戦前の治安維持法のようなノリと空気を感じますが、茨城県はいろいろと大丈夫なのでしょうか?


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2020年個人情報保護法改正と実務対応

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1.事案の概要
1か月以上たっても公表・通知などを実施していない?
「プレジデントオンライン」サイトの7月13日付の記事「人材派遣のアスカが最大3万件の個人情報を流出」などによると、人材派遣業の株式会社アスカは、自社システムに仮登録されていた派遣社員の個人情報が最大3万件分が本年5月中旬にサイバー攻撃により漏洩したにもかかわらず、1か月以上経過しても公表、被害者本人への連絡などを行っていないそうです(7月16日現在)。

取材に対して、アスカ側は「調査を行っている途中」などと回答しているそうですが、1か月以上も個人情報の大規模な漏洩事故があったのに公表などを行わないことは法的に許されるのかが問題となります。

・人材派遣のアスカが最大3万件の個人情報を流出…1カ月以上も周知せず|プレジデントオンライン

2.法的に考えてみる
(1)労働者派遣法
労働者派遣法24条の3は、派遣元事業者の個人情報保護について規定しています。そして、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成11年労働省告示第137号・平成30年厚生労働省告示第427号)の「11 個人情報等の保護」は、個人情報の収集、利用、保管、安全管理などともに、「(3)個人情報の保護に関する法律の遵守等」において、個人情報保護法「第4章第1節に規定する義務を遵守しなければならない」と規定しています。

(2)個人情報保護法
個人情報保護法第4章第1節は、個人情報を取り扱う事業者の義務を定めていますが、同法20条から22条までは、事業者の安全管理措置、従業員への監督、委託先への監督を規定しています。そして、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドライン(通則編)は安全管理措置について規定しています。その上で、同委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」は、個人データの漏洩などの事故が発生した場合の対応についてつぎのように規定しています。

■個人データ漏洩事故が発覚した場合の対応(概要)
①事業者内部における報告及び被害の拡大防止
②事実関係の調査及び原因の究明
③影響範囲の特定
④再発防止策の検討及び実施
⑤影響を受ける可能性のある本人への連絡
漏えい等事案の内容等に応じて、二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、 事実関係等について、「速やかに」本人へ連絡し、又は本人が容易に知り得る状態に置く。
⑥事実関係及び再発防止策等の公表
漏えい等事案の内容等に応じて、二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、 事実関係及び再発防止策等について、「速やかに」公表する。
⑦個人情報保護委員会または監督官庁への報告
扱事業者は、漏えい等事案が発覚した場合は、その事実関係及び再発防止策等について、個人情報保護委員会等に対し、「速やかに」報告する
このように個人情報保護委員会の「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」は、個人データ漏洩事故が発生した場合には「速やかに」、⑤本人に連絡し、⑥事実関係などを自社サイトや記者会見などで公表し、⑦個人情報保護委員会や監督官庁に報告することを事業者に求めています。

ここで、「速やかに」の文言の意味が問題となりますが、多くの業法・行政法規が個人情報漏洩事故が発生した場合に、その発覚から1か月以内の報告を求めていることとの整合性から、少なくとも1か月以内に⑤本人に連絡し、⑥記者会見などで公表し、⑦個人情報保護委員会や監督官庁に報告しないと、事業者は同委員会の通達の趣旨に違反していることになると思われます(例えば保険業法127条など)。当該事業者は、個人情報保護法の趣旨に違反しているおそれがあることになります。

そもそも、このように個人情報漏洩事故が発生した場合にスピード感をもった本人への連絡や公表、監督官庁などへの報告の対応を事業者に法令が求めて趣旨・目的は、「二次被害の防止、類似事案の発生の防止」です。つまり例えば、顧客の個人情報が拡散してしまうことやクレジットカード情報などが第三者に利用されてしまうリスクの防止や、同じ業界で類似のサイバー犯罪が行われてしまうようなリスクの防止です。そうすると、個人情報漏洩事故が発覚したのに漫然と事業者が何週間も、あるいは何か月も対応を行わないことは、個人情報保護法の趣旨にも反しますし、顧客の信頼を裏切ることにもなります。

もし事業者が事実確認などに何週間もかかってしまうということになったら、当該事業者は「第一報」や「暫定版」などの連絡・報告・公表などを随時行うべきです(段階的な報告)。

こう考えると、個人情報漏洩事故が発覚してから1か月以上も顧客への連絡などを行っていない株式会社アスカは、個人情報保護法に違反しているおそれがあります。

(なお、EUのGDPR(一般データ保護規則)33条は、個人データ漏洩事故が発覚した事業者に対して72時間以内の個人データ保護当局への報告を義務付けています。EU国籍の顧客の個人データなどを取扱っている事業者はより迅速な対応が求められます。)

(3)個人情報保護法上の違反があった場合
上でみたように、労働者派遣法23条の3などは派遣元事業者に対して個人情報保護法上の事業者の義務を遵守することを求めています。

そして、同法などの違反があった場合について、労働者派遣法50条、51条は厚労大臣は派遣元事業者に対して報告徴求と立入検査を行う権限があることを定めています。さらに同法48条、49条は、厚労大臣は派遣元事業者に対して、指導・助言および改善命令・業務停止命令などを発出する権限があることを規定しています。 また、個人情報保護法も、同法40条以下において個人情報保護委員会は事業者に対して報告徴求、立入検査を行う権限があり、また個人情報保護に関して指導・助言を行う権限があることを規定しています。

(4)まとめ
つまり、個人情報漏洩事故を起こし、漫然と顧客への連絡や事実の公表などを1か月以上実施していない株式会社アスカは、監督官庁である厚労省だけでなく個人情報保護委員会から報告徴求、指導・助言などの行政指導等を受ける行政上の法的リスクが存在することになります。

(5)個人情報漏洩の場合の対応の法的義務化
なお、7月15日付の日経新聞によると、政府は2022年にも一定規模以上の個人情報漏洩事故が発生した場合に、事業者に対して顧客への連絡・通知を行うことを義務付ける方針であるとのことです(日経新聞「サイバー被害、全員に通知 個人情報漏洩で企業に義務」2020年7月15日付)。

■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』235頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』106頁

個人情報保護法〔第3版〕

概説GDPR

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1.はじめに
最近の日経新聞によると、日立の子会社「ハピネスプラネット」は、新しい「ハピネス事業」において、従業員の「幸福」度を向上させ、職場・会社の業務の改善を行うという目的のために、日立は従業員にスマホの各種センサー類を活用するスマホアプリを導入させて、常時、広範な個人データを網羅的に取得し、それらの個人データをコンピュータ等で分析し、従業員の幸福度のモニタリングを実施しているようです。

・日立、幸福度を測るアプリ提供で新会社|日経新聞
・幸せの見える化技術で新たな産業創生をめざす「出島」としての新会社を設立|日立製作所

この日立の取り組みに対しては、そもそもの「幸福度」、「ハピネス度」などの概念への疑問や、そもそも会社が従業員に会社が考える「ハピネス」「幸福」を押し付けてよいのかという問題や、会社が従業員をスマホアプリにより常時網羅的にモニタリングするというやり方に手段に相当性があるのかなど多くの疑問がSNSなどのネット上に投稿されています。

2.プライバシー権・自己決定権・人格権と指揮命令権
何が自分にとって「幸福」かについては、従業員(国民)個人個人の内心の自由の問題(憲法19条)であり、第三者や使用者たる企業等や国が安易に介入を許されない、従業員・国民の私的領域のプライバシーや自己決定権・人格権の問題です(憲法13条)。

しかしその一方で、会社等で働く従業員は使用者たる会社と労働契約を締結している関係にあり、この労働契約に付随して使用者たる会社は条業員に対する指揮命令権をもっています。そのため、一般的に会社の上司などが、従業員に対して指示・監督などを行うために観察などを行うことは、原則としては許容されるとされています。

3.日立・ハピネスプラネットの業務は法的に問題はないのか
とはいえ、日立の新しい「ハピネス事業」においては、従業員の「幸福」度を向上させ、職場・会社の業務の改善を行うという目的のために、日立は従業員に本件スマホアプリにより、スマホのセンサーを使って常時、広範な個人データを取得を網羅的に取得し、それらの個人データをコンピュータ等で分析し、従業員の幸福度のモニタリングを実施しているようです。このような日立の従業員に対する新しいモニタリング手法は法令上問題がないのでしょうか。

4.使用者は従業員の私的領域にどこまで侵入できるか
(1)西日本鉄道事件
この点に関しては、従業員が退社する際に会社が所持品検査を行うことが許されるかどうかが争われた事件において、最高裁(西日本鉄道事件・最高裁昭和43年8月2日判決)は、「使用者が従業員に対して行う所持品検査は、これは被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上、常に人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえそれが企業の経営・維持にとって必要かつ効果的な措置(略)であったとしても、そのことをもって当然に適法視されるものではない」とのスタンスを示した上で、所持品検査が適法となるための要件として、

①検査を必要とする合理的な理由のあること
②一般的に妥当な方法と程度であること
③職場従業員に画一的に実施されていること
④就業規則その他の規定に明示の根拠があること
の4要件をあげています。

(2)検討
ここで日立とハピネスプラネットの新事業をみると、①冒頭でもみたように、「なにが自分にとっての幸福か」とは、国民個人個人が自己の内面(私的領域)において考えるべき事柄であり、企業(あるいは国)が安易に介入すべきものではありません。そのため、合理的理由があるとはいえません。また、②本記事などを読む限り、本アプリは従業員のごく微細な動きなどのデータから本人の内心を読み取るなど、性格検査あるいはうそ発見器など装置・アプリであり、そのような機微な個人データを大量に常時モニタリングを行うことは、社会一般から見て妥当な方法と程度であるとはとてもいえません。

(3)結論
このように上の最高裁判決が示した4要件のうち、少なくとも2つを満たしていないので、日立とハピネスプラネットのこの新ビジネスは違法のおそれがあると思われます。

5.個人情報保護法の観点から
なおNHKの記事によると、日立は従業員のプライバシー・個人情報について、「計測されるのはあくまで本人も気付かないような体の細かな動きで、プライバシーに関わるようなものが取得されるわけではありません。」と主張しているようです。

・幸せって測れるの?サクサク経済Q&A|NHK

しかし、本人も気づかないような細かな体の動きも「動作」であり、個人情報保護法2条1項1号は「動作」も個人情報の一類型と例示しているので、日立がこれをデータとして収集したものは個人データです。



したがって、日立などは「動作」の個人データを収集・利用などしてこの新事業を行うためには、本人たる従業員に、個人情報の利用目的などを定めて(15条)、通知し(18条)、利用目的の範囲内でしか原則として利用できません。当然、それらの個人データには安全管理措置を講じなければなりません(20条)し、第三者提供も原則として従業員本人の同意が必要となります(23条)。日立がこのような各法的義務を履行しているのか気になるところです。

*注
はてなブックマークのコメント欄で、ごくわずかな「動作」は個人情報ではないとのご意見をいただいたようです。この点、個人情報保護法2条1項1号は、

個人情報を「氏名、生年月日その他の記述等(文書、図画もしくは電磁的記録(略))に記載され、若しくは記録され、又は音声、動作その他の方法を用いて表された一切の事項(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)

と定義しています。つまり、氏名、住所、生年月日などだけにとどまらず、「特定の個人を識別」できる一切の事項が個人情報です。日立の新事業においても、ある従業員・被験者個人個人の「幸福度」「ハピネス度」を測定するためにスマホやウェアラブル端末を利用して当該従業員・被験者個人個人の「ごくわずかな動作」などを測定しているので、この動作も特定の個人を識別できる情報であるため、やはり個人情報となります。


6.GDPRと旧労働省の個人情報保護に関する行動指針
EU憲法(EU基本権憲章)8条は、「すべての者は、それぞれ自らに関する個人データの保護の権利を有する」と個人データ保護が基本的人権(基本権)であることを明示しています。これを受け、2018年5月に欧州では、GDPR(一般データ保護規則)が施行されています。そしてGDPR22条は、「コンピュータ等による個人データの自動処理の結果のみによる評価に服さない権利」を定めています。

スマホとスマホアプリで個人データを収集して自動処理を行う日立の「ハピネス」事業は、もろにDGPR22条の適用範囲に入っているように思われます。日本に対して十分性認定を行ったEUの個人データ保護当局がこの日立の取り組みをどう考えているのかは非常に興味があるところです。また、これまで日立が実施した本事業の被検査者に、EU国籍の人間がいなかったのかどうかも気になるところです。

なお、日本も欧米の個人情報保護法制の動きを参考にしつつ立法等を行ってきた経緯から、例えば2000年の旧・労働省の「労働者に関する個人情報の保護に関する行動指針」6(6)は、「使用者は、原則として、個人情報のコンピュータ等による自動処理又はビデオ等によるモニタリングの結果のみに基づいて労働者に対する評価又は雇用上の決定を行ってはならない。」と、GDPR22条を先取りしたような規定が置かれていました。

このような個人データ・プライバシーの保護により国民の基本的人権や幸せを守ろうとする世界的な流れに対して、日立の新事業は真っ向から逆行しているように思われます。

■参考文献
・菅野和夫「労働法 第12版」262頁
・労務行政研究所「新・労働法実務相談 第2版」549頁
・堀部政男「プライバシー・個人情報保護の新課題」163頁(高野一彦)


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労働法 (法律学講座双書)

第3版 新版 新・労働法実務相談 (労政時報選書)

AIと憲法

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内閣府(CIO)の新型コロナ感染追跡アプリ(COCOA・以下「感染追跡アプリ」)のシステム仕様書をざっと読んでみました(「接触確認アプリ及び関連システム仕様書(案)[概要])」)。
・接触確認アプリ及び関連システム仕様書(案)[概要]|内閣府 CIO

接触感染アプリの仕組み
(内閣府の仕様書より)

仕様書において、内閣府は一生懸命「個人情報やプライバシー的に問題ない!」と力説していますが、コロナ感染発覚の時点で保健所が「コロナ感染者把握・管理支援システム」に感染者の個人データを登録するから、はなから国民にプライバシーないのではないでしょうか?

コロナアプリ情報の流れ
(内閣府の仕様書より)

また仕様書によると、内閣府は「本アプリから生成され発信される識別符号は毎日変更されるから、個人情報上の問題はない!」などと主張しています。

しかし、生成したスマホアプリ自身からは当該識別符号から本人を特定できるはずです。つまり、それは、本人を容易に識別できるのから個人情報そのものです(個人情報保護法2条1項)。なのに、どこが個人情報保護法上あるいはプライバシー(憲法13条)上問題ないといえるのでしょうか。

政府は「個人情報保護法上あるいはプライバシー上の問題」を、「セキュリティ上の安全性がある程度高い」という問題にすり替えてるだけに思えます。

一方国民側は、建前上は「任意」といいつつ、微妙なアプリをスマホにインストールさせられて、何かあると自らの医療データに関するセンシティブな個人データをアプリに入力する手間が増えるだけで、国民側にはそれほどメリットがあるとは思えません。

結局、コロナ感染追跡アプリのメリットは、保健所のデータ入力の事務負荷が少し下がる程度なのではないでしょうか。

スマホアプリの新技術でこんなことできるたらいいなと漠然と官民が考えて、効果の過多もわからないまま、国民のセンシティブな個人情報を取得したり、プライバシー上妙なことをするのは、OECD8原則の「個人情報の必要最小限度の取得」の原則や、「個人情報の利用目的をできるだけ厳格化して国民本人の個人情報・プライバシーを守る」という個人情報保護法15条の趣旨に反するのではないでしょうか。

新聞記事などを読むと、このアプリおよびシステムが有効な効果をあげるためには、国民のおよそ3分の2がアプリをインストールする必要があるそうですが、先行事例のあの強権的国家のシンガポールでも、国民はプライバシー侵害をおそれてそのほんの数分の1程度しかアプリをインストールしていないといいます。この感染追跡アプリが日本で成功するとはとても思えません。

内閣府CIOの資料をみていると、官民のITオタク達が、「ボクたちの考えた最強のインターネット」を国の予算で作ってドヤ顔したいだけに見えます。

コロナ対策として効果が漠然としているのなら、日本は中国やシンガポールなどと違い、国民主権の自由主義国なのだから、そんなアプリよりも国はもっと国民個人のプライバシー権や個人情報を守るべきではないでしょうか。国民の個人情報やプライバシー侵害のおそれがあるにもかかわらず、本アプリの企画・開発に、通信傍受法などのような国会の立法手当てがないことには不安を感じます。

コロナ対策としては、妙なITに頼るのではなく、今までどおり、地域や拠点の病院での治療や物資・人員を充実させること、国民はマスクや手洗いの徹底などの取り組みを地道に行うのが早道なのではないでしょうか。

■追記(6月18日)
なお、内閣府CIOサイトの5月26日付の感染確認アプリに関する有識者検討会合「感染確認アプリ及び仕様書に対するプライバシーおよびセキュリティ上の評価およびシステム運用上の留意事項」2頁、3頁は、①厚労省の感染者システムから国民のスマホの本アプリに発行される「処理番号」と、②陽性者と紐付けられた本アプリが作成する識別符号である「診断キー」は、行政機関個人情報保護法および個人情報保護法における要配慮個人情報、つまりセンシティブな個人情報であると明記しています。
・資料2: 「接触確認アプリ及び関連システム仕様書」に対するプライバシー及びセキュリティ上の評価及びシステム運用留意事項|政府CIOポータルサイト

この点、本アプリについては、首相やコロナ担当大臣などが記者会見などで繰り返し「本アプリは個人情報をまったく収集しない安全なものなので、安心して利用してもらいたい」旨の説明を行っています。

しかし個人情報保護法17条などは、「偽りその他不正の手段」による個人情報の取得などを禁止しています。国は、国民・利用者を「偽り」、本アプリで傷病データや行動履歴、利用者の友人・知人とのつながりなどの個人情報を違法に取得しているのではないでしょうか。

国が本当に本アプリの目的・手段などが正当であると考えるなら、国民・利用者に対して、「本アプリは利用者の個人情報を取得・利用するが、それは目的のために必要最低限のものである」等と偽りでない正確な情報開示を行い、その上で本アプリをリリースして運用すべきではないでしょうか。


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個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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LINE厚労省コロナ

3月31日より、新型コロナウイルスに関して厚労省がLINEを使って情報収集していますが、法的に大丈夫なのか大いに疑問です。

・厚生労働省とLINEは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました|厚労省

健康状態や病気・ケガに関する情報・データは、個人情報のなかでもセンシティブで慎重な取り扱いが必要な要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項、行政機関個人情報保護法2条4項)。第三者提供等は原則禁止となっています(個人情報保護法23条)。また一般の個人情報よりも厳重な安全管理措置が事業者等に課されます。

ところが、このような厳重に取り扱われなければならない病歴などの個人データについて、厚労省やLINEは法的に検討することを止めてしまっているように思われます。

厚労省のウェブサイトには、今回のLINEとのコロナの件に関するプライバシーポリシーなどは全く掲載されていません。また、LINEのウェブサイトのプライバシーポリシーも19年5月改正版にとどまっています。

個人情報のなかでもセンシティブな医療データの収集という場面でありながら、取得された医療データがどんなことに使われるのか・何には使われないのかという個人情報の利用目的や、これらの個人情報がどんな団体に第三者提供・共有・委託されるのか等々が事前にLINEの利用者の国民に何も明示されていません。

医療情報がLINEや厚労省などにおいて、どのように利用されるのか利用目的がまったく特定されておらず、国民の個人情報がLINEや厚労省あるいはその他の民間企業などに好き放題に利活用されてしまうおそれが大いにあります。これは個人情報保護法15条に明らかに反しています。

これでは利用者・国民は個人としての、自分の医療情報・個人情報をLINEや厚労省などに提供するかどうかの十分な検討に基づく判断ができません。利用者からLINEに提供された個人情報がLINEから厚労省などに第三者提供される際の「本人の同意」が十分に得られておらず違法です(23条)。

これは個人情報の取得において、利用目的などを明確化せよと規定する個人情報保護法18条に抵触しています。

また、メディアの報道によると、厚労省などはLINEやヤフー等のプラットフォーム事業者から、利用者の病歴データだけでなく検索履歴や位置情報を徴収するとのことです。この点、個人情報保護法16条(目的制限)3項3号と23条(第三者提供)の1項3号は、個人情報の目的外利用と第三者提供が許されるのは、「公衆衛生の向上のため…特に必要」の場合としてることから、国がなんとなく見込み捜査的に要求しLINEが応じるのはやはり違法ではないかと思われます。法が許容するのは「特に必要」な場合であって、「漠然と必要」「何となく必要」では法の文言に抵触しているからです。

・LINE、新型コロナ調査結果を提出 厚労省に|日経新聞

さらに、利用者の何千万人分もの検索履歴などの個人データをLINEやヤフー等が国に提供することは、端的にプライバシー侵害なのではないでしょうか(憲法13条、民法709条)。新聞記事などによると、政府はヤフーから提供された検索履歴や位置情報から、検索内容によりコロナに感染している国民を割り出し対処を行うとしています。しかし法令に根拠がないのに、国が警察・検察の捜査のようなまねが法的に許容されるのでしょうか。

あるいは、利用者本人のほとんどは、LINEなどに対して、友人・知人との会話・通話などを目的として、安心して会話等を行い、あらかじめ自らの個人情報などプライバシー情報をLINE等に提供しています。まさかそのLINE等が自分の同意を得ることなく勝手に自らのプライバシー情報を国に第三者提供されるとか予見できない状況です。これは、いずれも事業者・大学側がプライバシー侵害として違法と判断された、早大名簿提出事件(最高裁平成15年9月12日)やベネッセ事件(最高裁平成29年10月23日)と同じ状況であると思われます。

最後に、厚労省などがLINE等から利用者の病歴データや検索履歴を徴収するということは、利用者の内心や私的領域のデリケートな情報を大規模かつ網羅的に国が取得するということです。すなわち、憲法21条2項、電気通信事業者法4条などの定める、検閲禁止や通信の秘密の漏洩禁止に違反しているのではないかという問題があります。通信傍受法などと異なりコロナの件では根拠法もなく、政府からの「要請=任意のお願い」で何千万人分の膨大なデータをLINEやヤフーなどが政府に提供することは、正当業務行為や緊急避難で説明することは無理筋であると思われます。

厚労省とLINEは、個人情報保護法や憲法などをまるで無視して暴走しているようですが、これではもはや日本は法治国家や文明国家とは言えません。国民の一人として、私も一日も早い新型コロナウイルスの収束を強く願っています。とはいえ、わが国が民主主義国家である以上、政府は国民から信託を受けたサービス機関として、できるだけ法令を遵守し、もしこの世界的な危機時に法令では対応が追い付かない場合は、せめて国民に対して誠実な説明や情報開示を行うべきであると思われます。

個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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