HOTEL86_kuturogeruwashitu20150124151633_TP_V4

1.はじめに
平成28年に、ホテル内のテナントのマッサージ店が利用者に施術のミスで重い障害を負わせたことにつき、マッサージ店だけでなくホテルに対しても名板貸の責任を認めた興味深い裁判例が出されていました(大阪高裁平成28年10月13日判決・確定)。

2.大阪高裁平成28年10月13日判決(確定)
(1)事案の概要
Xは、ホテルY1に宿泊して滞在中、Y1内のマッサージ店Y2でのマッサージ施術を受けたが、その施術過誤により両下肢の機能不全による身体障害4級の障害を負った。なお、マッサージ店Y2はY1との間の出店契約に基づいてホテル本館の男湯と女湯との中間に位置する賃貸部分で営業を行っていたが、入口に扉はなく、またその入口には屋号であるY2 の看板ないし表記はなかった。また、ホテル館内の館内案内板にも、Y2部分は「マッサージコーナー」と表記されているだけであった。

そこでXは、Y2には施術において被施術者の生命・身体を侵襲しないよう注意して施術を行うべき契約上の不随義務および施術者としての注意義務に違反したとして、Y2に対して債務不履行に基づく損害賠償を求めるとともに、Y1に対しては会社法9条の類推適用による名板貸の責任を主張して損害賠償の請求を求めたのが本件訴訟である。原審および本高裁判決はXの主張を認めた(確定)。

(2)判旨
『本件マッサージ店にはY1のロゴが記載されていたタオルが常備されていたが、本件マッサージ店の屋号を記載したタオルは置かれておらず…本件マッサージ店の経営主体がY1以外であることを積極的に示す表示はなく、むしろ、Y1の一コーナーとしてY1が経営主体であるかのような誤認を利用者に生じさせる外観が存在していたものと認められる。』

『本件施術が行われた当時、本件マッサージ店の営業主体がY1であると誤認混同させる外観が存在したと認められる。そして、そのような外観の存在を基礎づける要素のうち、本件イラストマップ、本件案内図などの記載は、Y1自身が作出したものであり、また、本件マッサージ店の看板、張り紙等については、本件協定書の合意に基づいて、Y1がY2に是正を求めることができたものである。(略)また、(略)看板内での配置などに照らし、Xがこれを見落としたことについて重大な過失があると認めることはできない。』

このように判示し、本高裁判決はY1の名板貸の責任に関するXの主張を認めました。

3.検討・解説
会社法9条が規定する名板貸の責任は、「自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社」に生じる責任です。例えば、甲商店を営む甲が、乙に対して自己の営業の一部であるかのように甲商店神田支店の商号のもとで営業をすることを認めるような場合です(近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁)。営業主体を誤認させる外観の存在、名板貸人の帰責性、取引の相手方の誤認が責任要件です。

また、取引の相手方保護の見地からは、この規定は商号の使用を許諾した場合だけでなく、商標等の使用を許諾した場合にも類推されると解すべきとされています(神田秀樹『会社法 第20版』14頁)。

判例は、商号だけでなく、広く自己の氏、氏名の使用許諾も名板貸責任の枠組みで規律していた旧商法23条のもと、「商号を使用して営業を行うことを許諾」するという要件が満たされていない事案においても、それでも営業主体を誤認させる外観の存在と当該外観作出に対する責任主体の関与が認められる場合は同法が類推適用されるとして、ペット店をテナントに入れていたスーパーにペット店の名板貸責任の類推適用を認めたものがあります(最高裁平成7年11月30日判決)。

本判決は、この平成7年最高裁判決に沿って、外観の存在を認定し、名板貸人側の帰責性を認め、類推適用を認めたもので、現行法においても平成7年最高裁判決が妥当することを示したことに意義があります。

なお、本判決を消費者保護の観点から出された判決とする見解が一部にありますが(弥永真生『ジュリスト』1508号2頁)、会社法9条の趣旨はあくまでも権利外観法理であると思われます(神田・前掲15頁、土岐孝宏『法学セミナー』752号107頁)。

4.まとめ
本判決や平成7年最高裁判決の事例のように、ホテル、スーパーなどでテナントに別法人の店舗が入っている事業者等は、本判決等を参考に、テナントの店舗がホテル・スーパーと同一法人であるかのような外観を作出していなか等を改めてチェックする必要があるといえます。また、このことはインターネット上で商取引のプラットフォームを提供し、”店子”のテナント事業者にBtoCの取引を行わせている、例えば楽天市場、ヤフーショッピング、アマゾンなどのIT企業においても同様と思われます。

■参考文献
・土岐孝宏「テナント営業に対するホテル主の名板貸責任(類推)」『法学セミナー』752号107頁
・『金融・商事判例』1512号8頁
・弥永真生『ジュリスト』1508号2頁
・神田秀樹『会社法 第20版』14頁
・近藤光男『商法総則・商行為法 第5版補訂版』59頁