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タグ:表現の自由

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Ⅰ.はじめに
「漫画村」などの海賊版サイトへの対策のため、現在、文化庁がパブリックコメント(意見公募手続)を実施しています(2019年10月30日まで)。

・侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント|文化庁

私も一般人ながら、少し意見を提出しました。

(以下、①ダウンロード違法化の範囲拡大における要件について、②リーチサイト規制について、③海賊版サイトのブロッキングについて、④アクセス警告方式について、の4点について本パブコメの記述式の提出意見として提出したものです。趣旨・内容は、これまでのブログ記事とだいたい同じです。)

(なお、本パブコメが募集している論点は、①②についてですが、文化庁の検討委員会などの資料をみると、政府は数年内に①②③④をできるのもから随時実施する方針のようであり、つぎのパブコメがあるかも不明であるため、③④も提出しました。)

Ⅱ.提出意見
A.ダウンロード違法化の範囲拡大における要件について

〇著作権法30条1項3号の条文の、「著作権を侵害する自動公衆送信」の後に、「(原作のまま公衆送信されるものに限る。)」との文言を追記すべきである。

〇「著作権者の利益が不当に害される場合」という文言も追加すべきである。

(一般財団法人情報法制研究所「ダウンロード違法化の全著作物への拡大に対する懸念表明と提言」(平成31年2月8日)より)

B.リーチサイト規制について
1.リンクをはる行為の法的性質
ウェブサイトの作成・運営において、ハイパーリンク(リンク)をはる(設定する)行為は、リンク元からそのまますぐにリンク先のウェブサイトに移行し当該ウェブサイトを閲覧できるなど、従来の紙媒体にはない大きな利便性のある機能を有しており、リンクをはる行為は国内外の官民・個人のウェブサイト等において、広く日常的に行われている。

つまり、リンクをはる行為ないし機能は、ウェブサイト等を作成し公表する個人・法人の表現行為に資するものであり、表現の自由(憲法21条1項)の保障の下にある。(また、リンクをはって、ウェブサイト等を作成等する個人・法人が営利・営業を目的として表現行為を行うのであれば、それは表現の自由だけでなく、これも憲法の保障の下にもあることになる(憲法22条、29条)。さらに、ウェブサイト等を閲覧等する個人・法人の側からみれば、これは国民の知る権利に資するものであり、これも表現の自由の保障の下にある。

表現の自由は、個人の自己実現の価値と国民の自己統治の価値の二つの面を有するが、とくに後者はわが国の政治体制である民主主義の土台をなすものであり、この意味で、表現の自由は基本的人権のなかでも極めて重要な基本権である。そのため、表現の自由の一つである、リンクをはる行為への法律等による規制・制約は厳格に検討する必要がある。

2.違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となるのではないか?
(1)リンクをはる行為と名誉棄損など
従来、リンクをはる行為は、裁判例上、著作権法侵害とならないとされてきた(ロケットニュース24事件判決・大阪地裁平成25年6月29日)。 しかし近年、リンクをはる行為による名誉棄損が争われた裁判例においては、リンクをはる行為の違法性を名誉棄損などから認める事案が現れている(2ちゃんねる事件・東京高裁平成24年4月18日判決、プロバイダ責任制限法実務研究会『最新プロバイダ責任制限法判例集』125頁)

そして同様の趣旨の裁判例として、東京地裁平成16年6月18日判決、東京地裁平成27年12月21日判決、東京地裁平成27年1月29日判決などが存在する(プロバイダ責任制限法実務研究会・前掲126頁、また最高裁平成24年7月9日参照)。

これらの裁判例は、リンク先の記事・投稿をリンクをはった記事・投稿が「取り込んだ」「引用した」として、リンク先の投稿内容がリンク元の投稿の一部となり、リンク元がリンク先の違法を承継して取得するといったニュアンスが読み取れる。

また、昨年4月の知財高裁は、ツイッターのリツイート(いわゆる公式リツイート)について、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害を認定する判断を示している(知財高裁平成30年4月25日)。

(2)結論
このように、一般論としてはリンクをはる行為は違法ではないとしても、リンク先のウェブサイトが違法であり、リンクをはった者がそれを認識していた場合は、当該リンクをはる行為は違法と近時の裁判所に判断される可能性が高いと思われる。

違法なリーチサイトに対しては、影響の大きい著作権法改正ではなく、漫画家や出版社などの権利者が損害賠償請求などの訴訟を提起すべきなのではないかと思われる。

3.著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能なのではないか?
著作権法112条は、著作権者などは著作権を侵害する者または侵害するおそれのある者に対して差止めを請求することができると規定している。この差止請求の対象となる者は直接の侵害主体(違法アップロードサイト、海賊版サイトなど)に限られるのか、あるいは幇助者などの間接侵害者をも含むのかについては論点として争いがある。

この点、裁判例は、肯定する裁判例も複数存在している(ヒットワン事件・大阪地裁平成15年2月13日、選撮見撮事件・大阪地裁平成17年10月24日、『エンターテインメント法務Q&A』258頁)。

4.まとめ
以上のように、現行法下においても、①違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となり、②著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能であると考えられる。

そのため、表現の自由や知る権利の制約となるおそれのある影響の大きな著作権法改正に対して、政府・国会は慎重であるべきと考える。

C.海賊版サイトのブロッキングについて
1.海賊版サイトのブロッキングと児童ポルノのブロッキング
今回の海賊版サイトの議論に先行する事例として、インターネット上の児童ポルノのブロッキングがある。この児童ポルノのブロッキングに関する、安心ネットづくり促進協議会は、2010年に「法的問題検討サブワーキング 報告書」を公表しているが、その中で、同協議会は、「マンガ等の違法な海賊版サイトによる著作権侵害とそのブロッキングについても、児童ポルノのブロッキングの考え方が妥当し得るか」という論点を検討し、結論として次のように、これを否定している(同報告書20頁)。

・「法的問題検討サブワーキング 報告書」|安心ネットづくり促進協議会

『【児童ポルノ以外の違法情報についても妥当し得るか】
インターネット上には、児童ポルノのほか、成人のわいせつ画像、著作権侵害情報、誹謗中傷やプライバシー侵害等様々な違法情報が存在する。これら児童ポルノ以外の違法情報についても同様に緊急避難としてブロッキングすることができるかどうかが問題となる。

(略)

著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)や検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

ブロッキングは、適切な内容を含む通信全般を監視し、不適当な内容の通信を遮断するというものであり、事実上の私的検閲行為であり、その実施対象については、児童ポルノに限定し、他に拡大することがあってはならないと考える。』
(安心ネットづくり促進協議会 「法的問題検討サブワーキング報告書」20頁より)

この 「法的問題検討サブワーキング報告書」20頁が述べるように、児童ポルノがインターネット上のアップロードされると、被害者の児童にとって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害が発生するのに対して、マンガ等が海賊版サイトにアップロードされることは、著作権という財産権の現在の危難が認められるにとどまる。

そのため、著作権侵害という財産権侵害にとどまる海賊版サイトについては、ネット上の児童ポルノに対するブロッキングを支えている考え方は応用・援用できないと考えるべきである。

すなわち、人格権の侵害は被害者(児童)において事後的には回復困難な重大な被害を発生させるのに対して、財産権の侵害は、それが金銭で計算できる以上、事後に金銭的に回復できる損害であるからである。

また、著作権侵害に対しては、被害者は加害者側に対して差止請求や損害賠償請求などの法的手段を行使することで、問題を解決することが可能である。少し前まで出版社・漫画家側は、「海賊版サイトの運営者やそのサーバーは海外に存在するのが通常であり、日本の警察・裁判所が対応できない」と主張してきた。しかし、2019年9月24日には「漫画村」の運営者が逮捕されたことを忘れてはならない。

このように各論点を検討すると、海賊版サイト対策としてブロッキングを行うことは法的に違法・不当である。

2.海賊版サイトのブロッキングと緊急避難
ブロッキングは、表現の自由(憲法21条1項)、知る権利(同21条1項)との関係で問題となるが、とくに通信の秘密(同21条2項)との関係で問題となる。つまり、ブロッキングは、プロバイダがあらかじめ用意したブロックするサイトのリストに基づき、利用者・国民がインターネット上でどのようなサイトにアクセスするかすべての挙動を24時間365日監視し、リストに該当するサイトに利用者がアクセスしようとしたら、それを遮断(ブロック)する手法であるからである(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』56頁)。

通信の秘密は、憲法に規定があるだけでなく、プロバイダなどを規制する電気通信事業法も規定を置いている。すなわち、同法4条は通信の秘密の不可侵を定め、同4条違反には罰則があり(同179条・通信の秘密侵害罪)、また、総務省による業務改善命令の規定も置かれている(同29条1項1号)。

ここで、通信の秘密侵害について考えると、ブロッキングは利用者・国民のアクセス先を「知得」し、アクセスを遮断する目的でアクセスのデータを「窃用」しているので、通信の秘密侵害罪の構成要件に該当する。その上で、ブロッキングは違法性阻却事由との関係で、緊急避難(刑法37条1項)に該当するとされている。

緊急避難は、①現在の危険の存在、②補充性(「やむを得ずにした行為」)、③法益均衡、の3要件を満たしてはじめて該当する。

ここで、海賊版サイトのブロッキングを考えると、上でみたように海外にサーバーなどがあったとしても、漫画村の運営者を逮捕することは可能であった。つまり警察・裁判所などは漫画村に対して有効な防御であった。(受益者負担の原則からは、出版社・漫画家等はこれまで以上に海賊版サイトに対して差止請求・損害賠償請求、警察への相談・協力などを国任せでなく自己の問題として行うことが期待される。)すなわち、出版社・漫画家などには問題解決のための有効な法的手段が数多く存在するのであるから、②補充性の要件は満たされていないと考えるべきである。

また、これも上でみたとおり、海賊版サイトで侵害されているのはあくまでも著作権、つまり財産権にすぎないのであるから、これは後日、金銭的に解決可能であるので、①現在の危機の存在、の要件も満たしていない。

さらに、ブロッキングは表現の自由・知る権利や通信の秘密など、人権のなかでもとくに重要な基本的人権と衝突するものである。出版社・漫画家等の著作権上の経済的な損害と、わが国の多数のインターネットを利用する国民の知る権利・表現の自由・通信の秘密という極めて重要な精神的自由(人権)とを比較考量(法益均衡)し、慎重にも慎重な検討が必要であるが、精神的人権が一度破壊されてしまうと民主制の過程で回復が困難であること等を考えると、出版社・漫画家等の経済的人権よりも、多くの国民の精神的人権のほうが重要であると考えられる。

したがって、③法益均衡、の要件も満たされていない。そのため、海賊版のブロッキングという手法は、緊急避難に該当せず、違法性は阻却されない。つまり、海賊版サイトに対するブロッキングには、通信の秘密侵害罪(電気通信事業法4条、179条、憲法21条2項)が成立することになる。

このように、海賊版サイトにブロッキングを行うことは違法であるので、政府・国会(あるいは政府から要請を受けたプロバイダ等)はこれを行うべきではない。

D.アクセス警告方式について
1.アクセス警告方式
通信の秘密は基本的人権ではあるものの無制約ではなく、その規制の適法性は「必要最小限度」の制約であるか否かにより判断される(長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕)。

この点、2018年8月に総務省の検討委員会において、海賊版サイト対策にアクセス警告方式の転用を提案された宍戸常寿教授が、その前提条件の一つとして「静止画ダウンロードが違法化されること」をあげているのは、この必要最小限度の要件をクリアするためであろうと思われる。

宍戸教授は、2018年8月30日付「アクセス警告方式(補足)」において、この静止画ダウンロード違法化がなされないままアクセス警告方式が行われることの問題をつぎのように説明している。

・「アクセス警告方式(補足)」|宍戸常寿教授

「一般的・類型的に見て通常の利用者による許諾を想定できるといえる典型的な状況が利用者本人にとっての不利益を回避する場合であり、利用者に違法行為をさせないという点で明確である。仮に、海賊版サイトの閲覧行為が利用者本人にとって法的に消極的に評価されることを明確化できないのであれば、海賊版サイトの閲覧行為がマルウェア感染等別の形で利用者本人の不利益になるおそれが一般的にあるかどうかによることになる(あるいは、そのようなおそれのある海賊版サイトに警告表示を限定する等の工夫が必要になる)。特段そのような事情がないにもかかわらず警告方式を用いようとすることは、約款による同意が通信の秘密の放棄と評価できないおそれがあるとともに、利用者に対する警告の感銘力も低下し、対策の実効性も低下する点にも注意が必要である。」

このように、アクセス警告方式の提案者ご本人である宍戸教授ですら、静止画ダウンロード違法がなされないままのアクセス警告方式の導入は困難としているのであるから、現段階でのアクセス警告方式の導入は通信の秘密に対する必要最小限度の制約を超えたものであり、法的に無理であるといえる。

また、かりに海賊版サイト対策のためにアクセス警告方式を導入すると、プロバイダ(ISP)はすべてのユーザー・国民のすべてのウェブサイトのアクセス先を24時間365日チェックし続けることになるが、これも「必要最小限度」の度合いを明らかに超えており、通信の秘密の侵害となる。

総務省は、通信の秘密のうちアクセス先・URLなどの通信データ・メタデータを取得しているだけだから通信の秘密侵害にならないと主張するようだが、アクセス先・URLなどの通信データ・メタデータなどの外形的事項も通信の秘密の保障の範囲内であることは、憲法・情報法の判例・通説・実務がこれまで認めてきたところである( 大阪高裁昭和41年2月26日判決、長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕、曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁)。

同時に、電気通信事業法3条は、電気通信事業者による検閲を禁止しているが、ISPによる24時間365日のユーザーのネット上の挙動のモニタリングは、この検閲に抵触しないのかも問題になるであろう。

2.約款論
さらに、宍戸教授および総務省は、「アクセス警告方式は、つぎの3要件を満たせば、通常の利用者であれば許諾すると想定されるので、約款に基づく事前の包括的同意であっても有効である」と主張している。これは民法・商法の分野で議論されてきた、約款という制度を説明するための民法学者のとる意思推定理論にたっているものと思われる。

意思推定理論とは、「約款の開示とその内容に合理性があるならば、契約としての意思の合致を擬制してもよい」という理論である(近江幸治『民法講義Ⅴ契約法[第3版]』24頁)。

この点、意思推定理論によると、約款には「合理性」が必要となる。しかし、静止画ダウンロードが違法化されていない現時点においては、海賊版サイトへのアクセスが別に違法でもなんでもないにもかかわらず、ISPが24時間365日、ユーザー・国民のネット上の挙動をモニタリングしつづけるという「約款」は、あまりにも国民の通信の秘密を侵害しており、当該約款には合理性が無く違法ということになるのではないか。

むしろ海賊版サイト対策のためにISPが24時間365日、ユーザー・国民のネット上の挙動をモニタリングしつづけることは、ユーザー・国民の法令上の権利を不当に制限する「不当条項」に該当するとして、消費者契約法10条、改正民法548条の2第2項に照らして無効と裁判所等に判断される可能性がある。

3.サイバー攻撃対策のアクセス警告方式を海賊版サイト対策に持ってくることの違和感
最後に、そもそも宍戸教授や総務省などが、サイバー攻撃対策のためのACTIVEのアクセス警告方式を海賊版サイト対策に持ってくることに、強い違和感あるいは法的バランスの悪さを感じる。

ACTIVEのアクセス警告方式も24時間365日すべてのユーザーのすべてのネット上の挙動をモニタリングするという通信の秘密という基本的人権を侵害する制度なのだから、本来は通信傍受法などのように、国会での審議を経て立法手当をした上で行うべきである。

ただし、ACTIVEのアクセス警告方式は、サイバー攻撃から日本の個人・法人・国など社会全体のサイバーセキュリティを守るためという、刑法的にいえば社会的保護法益を守るという趣旨の制度であるがゆえに、かろうじて「アクセス警告方式=民間企業の約款」制度が不問にふされているだけであろうと思われる。

一方、今回問題となっている、海賊版サイトの件は、はっきり言ってしまえば、たかだか出版社と漫画家達の個人的・個社的な財産的法益の侵害が問題となっているに過ぎない。社会全体のサイバーセキュリティの保護という社会的法益に比べれば非常に軽い保護法益である。

そもそもこの財産的な損失は、受益者負担の原則の観点から、出版社などが民事訴訟を海賊版サイトに提起するなどして自助努力、自己責任で何とかすべき筋の話である。国がこうも出版業界のために手取り足取りと様々な政策案を検討してあげているのも、国民からみて何らかの薄ら暗いものを感じさせる。国が出版社・漫画家等という特定の業界の援助にばかり時間・予算・人材を割くことは、公務員および国・行政は「全体の奉仕者であって一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項、国家公務員法96条1項等)という国の大原則にすら抵触しているように考えられる。

秤にかけられている対立利益が国民の重要な精神的利益である通信の秘密・プライバシー権であることをも考えると、ACTIVEのアクセス警告方式をそのままマンガ海賊版サイト対策にもってくることは法的に無理筋すぎと考えられる。

4.まとめ
このように、海賊版サイト対策でアクセス警告方式を導入することは違法・不当であると考えられる。政府・国会は海賊版サイト対策でアクセス警告方式を導入することを止めるべきである。


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情報法概説 第2版

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1.はじめに
2014年6月に、さいたま市立三橋公民館が、憲法9条のデモを詠んだ住民の俳句を公民館だよりに掲載拒否した事件は、当時の各新聞紙において大きく取り上げられました。この事件にかかわる判決(さいたま地裁平成29年10月13日判決)が『法学セミナー』757号、758号などで取り上げられていました。

■追記
2018年5月18日の新聞各紙の報道によると、この事件の二審の同日の東京高裁も、原審を支持し、住民側勝訴の判決を出したとのことです。

・「九条守れ」の俳句掲載拒否、市に賠償命令 東京高裁|朝日新聞

2.さいたま地裁平成29年10月13日判決
(1)事案の概要
原告Xが所属する句会(俳句サークル、以下「本件句会」という)は、さいたま市立三橋公民館(以下「本件公民館」という)で活動を行い、本件公民館の主幹との合意により、2010年11月から3年以上にわたり、本件句会が秀句として提出した俳句を「公民館だより」(以下「本件たより」とする)に掲載してきた。

しかし、2014年6月にXが詠んだ「梅雨空に『九条守れ』の女性デモ」の俳句が秀句として本件公民館に提出されたところ、館長は、「世論を二分するテーマであり、中立であるべき公民館の刊行物にふさわしくない」として掲載を拒否した。

そこで、本件句会は、以後、秀句の提出を取りやめた。そして、Xは、さいたま市(Y)を被告とし、①本件俳句の本件たよりへの掲載請求、②掲載拒否による学習権・表現の自由・人格権等の侵害を理由とする国家賠償法に基づく損害賠償(慰謝料)請求の訴訟を提起した。

さいたま地裁は、①については棄却したが、②について5万円の損害賠償を認めた。

(2)争点
公民館だよりへの俳句掲載拒否が、Xの①学習権、②表現の自由、③人格権侵害を構成するか。

(3)判旨
一部認容。
① 「大人についても、憲法上、学習権が保障される」。しかし「学習成果の発表の自由は、学習権の一部として」ではなく「表現の自由として保障されるものと解するのが相当である」。

② Xには「本件たより」における俳句の掲載請求権はなく、「本件たより」がパプリック・フォーラムに該当するともいえない。「本件たより」が、句会会員らに表現の場を提供する助成であったということもできない。以上によれば、本件俳句の不掲載がXの表現の自由を侵害したとはいえない。

③ 会での秀句が継続して「本件たより」に掲載されてきたことからすると、Xの俳句も掲載されると期待するのは当然である。この「期待は、著作者の思想の自由、表現の自由が憲法により保障された基本的人権であることにもかんがみると、法的保護に値する人格的利益であると解するのが相当であり、公務員である・・・公民館の職員らが、著作者である原告の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いをした場合、同取扱いは、国家賠償法上違法となる」(船橋市立図書館事件最一小判平成17・7・14民集59巻6号1569頁参照)。

④ 「本件たより」に掲載される俳句に句会の名称・作者名が明示されることからすれば、本件俳句の掲載が公民館の中立性、公平性・公正性を直ちに害するとはいえず、むしろ、本件不掲載により公民館が集団的自衛権許容の立場と捉えられる可能性もあるが、これについて公民館職員らは何ら検討していない。「九条守れ」の文言が直ちに世論をニ分するものといえるかにも疑問の余地があり、公民館職員らがこの点を検討した形跡はない。以上によれば、本件不掲載に正当な理由はなく、公民館職員らは、Xが「憲法9条は集団的自衛権の行使を許容するものと解釈すべきでないという思想や信条を有しているものと認識し、これを理由として不公平な取扱いをしたというべきである。」

このように判示し、裁判所は本件俳句の「本件たより」への掲載は認めませんでしたが、Xの慰謝料請求(5万円)を認めました。

3.検討
(1)船橋市立図書館事件最高裁判決
本判決は、船橋市立図書館事件の最高裁判決(最高裁平成17年7月14日判決)を参照し、公民館だよりへの俳句掲載の期待を著作者の「人格的利益」ととらえ、本件公民館による本件俳句の掲載拒否を国賠法上の違法と判断しました。

この結論を出すにあたり、本判決は、本件公民館の判断過程において、Xの思想・信条を理由として俳句掲載の可否につき十分な検討が行われていなかったと認定し、これが不公平な取り扱いに該当するとしました(判旨③)。

しかし、船橋市立図書館事件は、すでに全国で販売され、船橋市立図書館を含む全国の公立図書館ですでに閲覧に供されていた図書を、図書館職員が自分の信条に合わないと勝手に廃棄していた事案であり、本判決のようにこれから本件たよりに掲載され、世に出ようとする表現物を公権力が掲載拒否した事案に援用してよいのかという疑問が残ります。

本事件は、端的に憲法19条(思想・信条の自由)、14条(平等原則)が公権力により侵害された事案として判断されるべきであったとも思われます(濱口晶子「公民館だよりへの俳句掲載拒否と学習権・表現の自由」『法学セミナー』757号118頁)。

あるいは、公民館などが館内での特定の集会や表現行為の使用を拒否した事案に関する泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)、上尾市福祉会館事件(最高裁平成8年3月15日判決)、プリンスホテル事件(東京高裁平成22年11月25日判決)などのような、集会の自由・表現の自由の観点から本事件を検討することも可能だったのではないかと思われます。

(2)公民館など公の施設における「政治的に中立でない」集会や表現行為
また、本判決が、「公務員である(略)公民館の職員らが、著作者である原告の思想や信条を理由とするなど不公正な取扱いをした場合、同取扱いは、国家賠償法上違法となる」と判示したことは非常に重要であると思われます。つまり、近年、日本の多くの自治体で「政治的に中立でない集会や表現は、公民館など自治体の公の施設の「中立性」を侵害するので、そのような集会や表現は拒否する」という実務が急速に広まっていますが、そのような自治体・公の施設の実務は国賠法上違法であり、国・自治体は損害賠償責任を負うことを本判決は明らかにしたものです。

(なおこの点、川崎市などは、ヘイトスピーチの問題に関し、ヘイトスピーチ団体による川崎市の公民館などの公の施設の使用をより拒否しやすくするため、泉佐野市民会館事件の基準より大幅にレベルを下げたガイドラインを策定しているようですが、本判決は川崎市などの一部自治体の行為に警鐘を鳴らしていると思われます。)

(3)社会教育法20条、22条、12条
また、公民館は、「住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行」う施設であり(社会教育法20条)、その事業の一環として、「討論会、講習会、講演会、実習会、展示会等を開催すること」が規定されています(同22条2号)。本件句会の活動は、「教育、学術及び文化」に関する活動であり、本件たよりが、その成果として の意味を持つなら、法令に反しない限り、本件のXの掲載請求は認められるべきだったのではないかと思われます。本判決は、本件俳句が違法ではないと判断しておりますので。

さらに、本判決ではあまり争われていないものの、本件公民館が本件俳句を掲載拒否したことは、本件句会に対する、社会教育法12条が禁止する「社会教育関係団体に対する」「不当(な)統制的支配」又は「その事業に干渉を加えてはならない」にも抵触しており、これも国賠法上違法と思われます(人見剛「憲法9条やデモに関する俳句の公民館だよりへの掲載拒否が違法とされた事例」『法学セミナー』758号95頁)。そして、公民館・自治体が本件俳句を政治的であることを理由に掲載拒否を行うことは、本件句会およびXに対する、事実上の表現の自由の侵害に該当すると思われます(濱口・前掲118頁)。

■参考文献
・濱口晶子「公民館だよりへの俳句掲載拒否と学習権・表現の自由」『法学セミナー』757号118頁
・人見剛「憲法9条やデモに関する俳句の公民館だよりへの掲載拒否が違法とされた事例」『法学セミナー』758号95頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法1 第5版』354頁
・中村暁生『憲法判例百選Ⅰ 第6版』158頁
・荒牧重人・小川正人・窪田眞二・西原博史『新基本法コンメンタール教育関係法』378頁、384頁

憲法1 第5版

新基本法コンメンタール 教育関係法 (別冊法学セミナー)

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1.「百合展2018」の開催を池袋マルイが拒否
少し前ですが、本年春に「百合展2018」が開催される予定であったところ、その会場であったファッションビルなど小売業の池袋マルイがこれを拒否し、同展の東京での開催が一時宙に浮くという事態が発生し、ネット上で話題となりました。

ネット記事などによると、「百合展」とは女性同士の友情や愛情をテーマに、漫画家・イラストレーターや写真家が出展するというイベントです。ところが、池袋マルイは、本展示に先立って同店で3月9日より開催予定だった、「ふともも写真の世界展 2018 in 池袋マルイ」も諸事情を理由として突如中止し話題となっていました。そして池袋マルイは、「ふともも写真の世界展 2018」に出展予定だった作家と同じ作家が参加予定であることを理由として、「百合展2018」の開催も拒否したとのことです。

・池袋マルイで開催予定だった「百合展2018」が中止に|ねとらぼ

しかし、少し前に展示を拒否した展示と同じ作家が含まれているという漠然とした理由で、別の展示も拒否するということは、池袋マルイが民間企業であることを差し引いても許容されるのでしょうか?

2.民間施設における集会の自由・表現の自由-プリンスホテル事件
(1)公の施設の場合
従来、ある施設における表現の自由・集会の自由(憲法21条1項)への制約は、自治体の公民館などの「公の施設」を舞台として裁判において争われてきました。

そのようななか、泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)は、自治体が住民からの集会の申請を拒否できるのは、「集会の自由の保障の重要性よりも…集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止する必要性が優越する場合に限られる」とし、その危険性の程度は、「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」と厳格な判断を示しました。(ただし判決は住民側の敗訴。)

このように、裁判所は、表現の自由・集会の自由が自己実現・自己統治のためにとりわけ重要な基本的人権であることを重視し、表現の自由・集会の自由への制約には厳しいハードルを課しています。そして泉佐野市民会館事件のあと、上尾市福祉会館事件においても同様の判断が示されています(最高裁平成8年3月15日判決)。

(2)民間施設の場合-プリンスホテル事件(東京高裁平成22年11月25日判決・確定) そのようななか、平成22年には、民間企業であるプリンスホテルに関しても、上の判例の考え方を維持した判決が出され注目されました。

この事件は、日教組が全国大会を開くため、プリンスホテルと、ホールと客室を借りる契約を締結していたところ、プリンスホテルが「他のお客様にご迷惑となる言動」との同社の会場利用規約の条項を理由として、日教組との契約を解除したため訴訟となったものです。

本高裁判決は、

「本件使用拒否は、…本件各集会の中止を余儀なくさせるものであって…違法であることは明白であり、かつその違法性は著しく、不法行為にも当たる」とし、また、「規約に定める「他のお客様のご迷惑となる言動」とは、法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為であると解するのが相当…本件各集会を開催したとしても、そのような程度の不利益が他の利用客に生じると認めるに足りる的確な証拠はない

と判示し、プリンスホテル側の主張を退けました。

このように、自治体の公民館などのような公の施設だけでなく、民間企業のホールなどの利用においても、裁判所が集会の自由・表現の自由を重視していることが注目されます。

3.まとめ
本高裁判決に照らしても、池袋マルイは、「百合展」が開催されることにより「法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為」が発生するという証拠を示せない限りは、その開催拒否は債務不履行(民法415条)だけでなく不法行為(709条)に該当することになります。

そのため、「以前拒否した展示と同じ作家が参加している」という漠然とした理由で池袋マルイが「百合展」を拒否したことは、作家達の集会の自由・表現の自由を不当に軽んじる、 債務不履行または不法行為に該当する違法な対応であるといえます。

また、最近は、渋谷区や世田谷区など全国で、同性パートナーシップ協定条約が相次いで制定されるなど、同性パートナーやLGBTの問題についても、社会の理解が進みつつあります。そのようななかファッション小売業などを営むマルイが、このような社会の変化に鈍感な経営判断を行ったことは、残念な事例であると思われます。

■関連するブログ記事
・集会の自由 プリンスホテル日教組会場使用拒否事件(東京高裁平成22年11月25日)
・渋谷区、世田谷区でパートナーシップ証明条例等が成立

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第4版』349頁
・松田浩「プリンスホテル日教組大会会場使用拒否事件控訴審判決」『平成23年重要判例解説』24頁
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