三郷市図書館
(media.housecomより)

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■追記2(2018.07.18)
つぎのブログ記事を書きました。
・学校図書館の貸出記録を学校が読書指導等に利用することはできるか-埼玉県三郷市小学校図書館

■追記1(2018.07.03)
本日、つぎのニュース記事に接しました。
・三郷市の小学校の読書促進策に批判殺到「担任が児童の読んだ本を把握し個別指導」って本当? 学校「誤解を招いて申し訳ない」|キャリコネニュース

しかし、ツイッター上では、media.housecomのライターと思われる人物が、「録音をとってインタビューしたので記事に間違いはない」旨の反論を行っており、混沌とした状況です。
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この週末あたりから、あるウェブサイトで紹介されている、埼玉県三郷市の市立彦郷小学校図書館の取り組みがひどいとネット上で話題になっています。

「前述の三郷市立彦郷小学校の鈴木勉校長によると、データベース化を行うことによって、児童ごとの読書傾向を学校側が把握できるようになり、今どんな本を読んでいるのか、あるいは1ヶ月で何冊の本を読んでいるかなどを的確に把握できると言います。」
(media.housecom「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校「社会問題の根幹にあるのは読書不足」」より)

・「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校「社会問題の根幹にあるのは読書不足」」|media.housecom

たしかに市や小学校が生徒の読書の推進に取り組み、成果を出していることはすばらしいことであると思います。しかしその方法として、図書館の貸出履歴を、図書の貸出管理だけでなく、個々の生徒の読書傾向などを教師等が把握するためにコンピュータでデータベース化し、その情報を司書や教師らが共有することは、生徒の個人情報保護やプライバシー保護の観点から許容されるのでしょうか?

図書館の貸出履歴は、それにより利用者本人の趣味・嗜好や思想・信条などが推知されてしまう、デリケートな個人情報であることから、その取り扱いが問題となります。

この三郷市立小学校図書館について考えるに、まず、図書館法に関する解説書は、”学校図書館も公立図書館と同様に個人情報保護法制、プロフェッショナルコードである「図書館の自由に関する宣言」に従う”としています(塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』82頁、坂東司朗・羽成守『<新版>学校生活の法律相談』346頁)。

また、この図書館は市立小学校なので、図書館職員は地方公務員法34条の守秘義務も負うことになります。

三郷市の図書館に関する条例をみると、個人情報保護に関する個別の条文はないので、やはり三郷市個人情報保護条例に準拠して考えることになります。同条例3条2項は守秘義務を定め、同35条、36条は懲役刑を含む罰則を定めています。同7条1号は、「思想・信条」に関する情報の収集の原則禁止を定めています。同10条は「適正管理」(=安全管理措置)を定めています。

・三郷市個人情報保護条例|三郷市

ところで、同15条は、目的外利用の制限を規定していますが、同2項4号は、“審議会の意見を聞き市長がとくに必要と認めるときは本人の同意なしに個人情報の目的外利用が可能”となっています。この条文で三郷市は生徒の読書履歴や読書傾向のコンピュータによるデータベース管理を正当化しているのでしょうか?

個人情報保護委員会の「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」は、”図書館の貸出履歴等は要配慮個人情報(センシティブ情報)ではない”としてしまいました(12頁)。しかし、図書館の貸出記録は個人情報およびそのデータベースである個人情報ファイル(条例2条1号、4号)や利用者の内心に関するプライバシー(憲法13条)に係る情報であることは間違いありません。

同条例は、9条1項で「実施機関は、個人情報を収集するときは、収集の目的を明らかにして、当該個人情報によって識別される特定の個人(以下「本人」という。)から直接これを収集しなければならない。」と規定しています。

三郷市の小学校が図書館利用にあたり、生徒に対して書面やウェブサイトなどにより、「図書館の貸出履歴は図書の管理だけでなく、生徒の読書傾向の分析やその後の教員等による指導等に利用する」旨の利用目的を通知・公表していれば問題は少ないですが、三郷市の小学校はこれを実施しているのでしょうか。

もしそのような実務取扱いを行っていないのであれば、個人情報保護に関する一般法である個人情報保護法18条4項4号の「取得の状況からみて利用目的が明らかであると認められる場合(には利用目的の通知・公表は不要)」の条文でその実務の当否を考えることになります。

しかし図書館利用者たる生徒が図書館の窓口で図書の貸出を願い出る際に、「図書館の貸出履歴は図書の管理のために個人情報を利用する」ことは利用目的が明らかといえますが、「生徒の読書傾向の分析やその後の教員等による指導等に利用する」ことは利用目的から明らかとはいえないのではないでしょうか。

そのため、図書館職員らは地方公務員法34条および同条例3条、9条により、図書の管理以外の目的で貸出履歴や読書傾向を分析する目的で情報システムを設置運用し、担任教諭などにその個人情報ファイルのコピー等を提供することは許されないのではないでしょうか。

そもそもこのような取り組みは、戦前の国や図書館等による「思想善導への反省」を明記し「図書館は利用者の秘密を守る」と規定し、図書館利用者に積極的には働きかけないスタンスを示す図書館の自由に関する宣言にも抵触しているのではないでしょうか(宣言前文4項、宣言3条)。

・図書館の自由に関する宣言|日本図書館協会

(なお、このサイトの後半には、「ビンゴゲーム」などを用いて、図書館や学校が生徒の読書傾向の「ゆがみ」を”矯正”する手法も掲載されています。)

■参考文献
・塩見昇・山口源治郎『新図書館法と現代の図書館』82頁
・鑓水三千男『図書館と法』183頁
・宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第3版』144頁
・坂東司朗・羽成守『<新版>学校生活の法律相談』346頁

新図書館法と現代の図書館

個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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