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1.はじめに
被告人らが国立大学の学生証、危険物取扱者免状、運転免許証などを偽造し、建物損壊3件および非現住建物等放火1件の犯行におよんだ事件の捜査において、警官らがリモートアクセスのための検証許可令状を裁判所から得ずにパソコンからネット経由でメールサーバーからメールの送受信歴および内容を保存した行為が令状主義に反し違法とされた興味深い裁判例がだされていました(東京高裁平成28年12月7日判決、判例時報2367号107頁)。

2.東京高裁平成28年12月7日判決(控訴棄却・上告)
(1)事案の概要
被告人Xは、平成23年より平成24年5月にかけて、国立大学の学生証、私立大学の学生証、危険物取扱者免状、運転免許証などを偽造した。Xは平成24年8月3日から4日にかけて共犯者2名と共謀し、東京都町田市内の建物の窓をバールで破壊するなどし、また別のビルの地下1階にガソリンをまき火を点けるなどした。

神奈川県警の警察官は、刑訴法218条2項のいわゆるリモートアクセスによる複写の処分が許可された捜索差押許可状に基づき、X方を捜索し、本件パソコンを差し押さえた。しかしその際、本件パソコンのログインパスワードが不明であったため、リモートアクセスによる処分を行わなかった。

後日、警察官は、本件パソコンを検証すべき物とする検証許可状の発布を受けた(本件検証許可状にはリモートアクセスの許可は含まれていなかった)。警察官は本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットにアクセスし、本件パソコンからのアクセス履歴が認められたメールアカウントのメールサーバーにアクセスし、メールの送受信履歴およびメールの内容をダウンロードし保存した。

裁判において、弁護人は、本件パソコンの検証には重大な違法があるとして、違法収集証拠排除を主張したのに対して、検察側は、本件検証におけるリモートアクセスは、検証のために必要な処分(刑訴法222条、129条)として許容されると主張した。

第1審は、本件検証におけるリモートアクセスを違法と認定し、リモートアクセスにより得られた証拠の証拠能力を否定した。しかし、それ以外の証拠の証拠能力を認め、Xを有罪としたためXが控訴。

(2)判旨
『本件検証は、本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットに接続してメールサーバーにアクセスし、メール等を閲覧、保存したものであるが、本件検証許可状に基づいて行うことができない強制処分を行ったものである。しかも、そのサーバーが外国にある可能性があったのであるから、捜査機関としては、国際捜査共助等の操作方法を取るべきであったといえる。

そうすると、本件パソコンに対する検証許可状の発布は得ており、被告人に対する権利侵害の点については司法審査を経ていること、本件パソコンを差し押さえた本件捜索差押許可状には、本件検証で閲覧、保存したメール等について、リモートアクセスによる複写の処分が許可されていたことなどを考慮しても、本件検証の違法の程度は重大なものといえ、このことなどからすると、本件検証の結果である検証調書及び捜査報告書について、証拠能力を否定した原判決の判断は正当である。』

このように判示し、本高裁判決は第一審の判断を支持しています。

3.検討・解説
平成23年の刑事訴訟法改正(「情報処理の高度化等に対応するための刑法等の一部を改正する法律」)によって、いわゆるリモートアクセスによる複写の処分(刑訴法99条2項、218条2項)が導入されました。

リモートアクセスとは、例えば、捜索現場に所在する被疑者等のパソコン等が差し押さえるべきものであるときに、そのパソコンを用いてアクセスすることができる外部メディア上のデータを、現場にあるパソコン等にダウンロードした上でそのパソコン等を差し押さえるものです(笹倉宏紀「サイバー空間の捜査」『法学教室』446号31頁)。

しかしこのリモートアクセスによる複写の処分は、あくまでもパソコン等の差押を行う場合に、付加的に認められた処分であり、パソコン等の差押後に行うことは想定されていません。また、検証(刑訴法128条、218条1項)には、平成23年の法改正においても、リモートアクセスを許す条文は新設されませんでした。

このようななかで、本判決は、本件パソコンを検証すべき物とした検証許可状によりリモートアクセスを行った本件検証を令状主義に反する違法なものと判断した重要な裁判例といえます。

(なお、検証対象をパソコンだけでなく、そのアクセス先の記録媒体等と指定した検証許可状によるリモートアクセス捜査の当否については、今後の裁判例の判断が待たれます。)

ただ、近年はいわゆるクラウド・サービス等が普及しつつあり、本判決に違和感を持つ方々もおられると思われます。この点については、法制審議会がこの法改正の原案を答申したのは2003年(平成15年)であり、それから法改正まで9年もの歳月を要したため、スマートフォンやクラウドサービスが普及し、パソコンよりむしろクラウド環境のほうにデータが集積されつつある現代との齟齬が生まれてしまっていると解説されています(笹倉・前掲446号32頁)。

(なお、本検証は違法ではないとして本判決に疑問を示す評釈として、宇藤祟「差押たパソコンに対する検証許可状によりサーバにアクセスしメール等を閲覧・保存することの適否」『法学教室』445号152頁がある。)

■参考文献
・『判例時報』2367号107頁
・笹倉宏紀「サイバー空間の捜査」『法学教室』446号31頁
・宇藤祟「差押えたパソコンに対する検証許可状によりサーバにアクセスしメール等を閲覧・保存することの適否」『法学教室』445号152頁
・白取祐司『刑事訴訟法 第9版』137頁
・栗木傑など『新基本法コンメンタール刑事訴訟法 第3版』278頁、138頁


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