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1.はじめに
最近、電子メールによる取締役会招集通知には法的に瑕疵があるとした興味深い裁判例が法律雑誌に掲載されていました。

2.東京地裁平成29年4月13日判決(棄却・控訴棄却)
(1)事案の概要
Y社(株式会社ロッテホールディングス)の創業者であるXはYの高齢の代表取締役であった。Xの息子AはY社の取締役であったが、総会決議により解任されて以来、Yの経営陣と対立していた。

2015年7月27日、AらはXとともにY社を訪れ、法令上の手続きを経ずにXを除くY社の取締役をすべて同日付で解任する人事発令をY社の社内ネットに掲載した。

これを受けて、Xを除く取締役は対応を協議し、同日午後11時23分に、全取締役および監査役の社内メールアドレス宛てに、同月28日午前9時30分から臨時取締役会を開催する旨の電子メールを送信した。

Y社の定款には、取締役会の招集期間を3日間とし、「緊急の必要があるときはこの期間を短縮することができる」旨の規定があった。

28日に開催された臨時取締役会においては、Xを代表取締役から解任する決議が取締役6名のうち5名の賛成により成立した。この解任決議の無効を確認する訴えをXが提起したのが本件訴訟である。

(2)判旨
『取締役会の招集通知は、各取締役に到達することを要すると解されるところ、招集通知が各取締役に到達したというためには、当該通知が当該取締役に実際に了知されることまでは要しないものの、当該取締役の了知可能な状態に置かれること(いわゆる支配圏内に置かれること)は要するものと解される(最高裁平成10年6月11日判決、最高裁昭和43年12月17日判決、最高裁昭和36年4月20日判決)。』

『これを本件についてみると、前期認定事実によれば、Xは、自らパソコンを操作することがなく、Y社内においてXのパソコンは、Xの秘書室において管理されていた(略)。YにおいてXに割り当てられたメールアドレスに電子メールが送信されたことがなく、秘書室においても、同アドレスの受信状況を確認していなかった(略)。

以上のような諸事情を総合考慮すると、本件において、本件メールが上記アドレスに係るメールサーバーに記録されたことをもって、Xの了知可能な状態に置かれた(支配圏内に置かれた)ということはできない(略)』

『加えて、本件メールの送信から本件取締役会までの間隔が非常に短く、かつ、深夜のメール送信であって、(略)実質的にみてもXに対し本件取締役会の招集通知がなされたと評価することは困難である。』

『したがって、本件取締役会についてXに対する招集通知がされたということはできず、(略)その招集手続には法令上の瑕疵があるというべきである。』

『取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集通知に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、上記瑕疵のある招集通知に基づいて開かれた取締役会の決議は無効となると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、上記瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である(最高裁昭和44年12月2日判決)。』

(本件においては)『前期(略)の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、本件決議は有効になるというべきである。』

3.検討
会社法368条1項は、取締役会の招集についてつぎのように規定しています。

第368条 取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対してその通知を発しなければならない。


このように、会社法においては取締役会の招集の方法に規制はなく、また、招集期間も定款の定めにより短縮することができることになっています。

ところで、会社法に関する解説書においては、”民法上、隔地者に対する意思表示はその通知が相手方に到達したときからその効力を生ずるものとされるところ(民法97条1項)、取締役会の招集通知についても、民法の一般原則に従う”と解説されています(落合誠一『会社法コンメンタール8』274頁)。

この点、本判決も同様の考え方を採用しています。また、学説も、「物質の移動をともなわない電子メールによる通知の場合には、招集通知が取締役に了知可能な状況におかれたかどうかを判断するにあたり、到達した通知がおかれる物質的な環境が重要であるのではなく、株主総会の招集通知を電磁的方法により発するためには株主の承諾を得ること(だけ)が要求される(会社法299条3項、会社法施行令2条1項2号、会社法施行規則230条)のと同様に、そのメールアドレスに招集通知が送信される可能性について取締役の承諾(あるいは認識)があることが重要(または必要)である」と解説しています(鳥山恭一・判批『法学セミナー』2018年12月号767頁)。

そのため、社長以下の経営陣もバリバリとパソコンを使って業務を行っていることが公知となっているようなベンチャー系IT企業などでは、取締役会の招集通知を社内メールアドレスに電子メールで送信しても、当該通知が法令上の瑕疵をおびることはないと思われる一方で、「会長が初めて電子メールを送信した」ことが組織内で絶賛され社会的に大きな話題となる経団連のトップのような方々が経営陣を務めている伝統的で古めかしい大企業においては、電子メールによる招集通知は本件訴訟のように法令上の瑕疵があると判断されるおそれがあります。

■参考文献
・鳥山恭一「代表取締役への電子メールによる取締役会の招集通知およびその解職決議の効力」『法学セミナー』2018年12月号767頁
・『金融・商事判例』1535号56頁
・落合誠一『会社法コンメンタール8』274頁
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』418頁
・奥島孝康・落合誠一・浜田道代『新基本法コンメンタール会社法2 第2版』205頁