1.はじめに
弁護士ドットコムニュースなどによると、自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPUを使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」を保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われたウェブデザイナーの男性の初公判が1月9日、横浜地裁で行われたとのことです。

・コインハイブ事件で初公判 「ウイルスではない」と無罪主張|弁護士ドットコムニュース

この問題はネット上で大きく注目されているだけでなく、刑法学者の方などの論文も法律雑誌などに掲載されています。

2.研究者の方などの論考
学習院大学の鎮目征樹教授は、『法学教室』2018年12月号の論文において、不正指令電磁的記録作成等罪の処罰対象となる不正プログラムが条文上、「不正な指令」とされているところ、立案担当者は「不正な」指令という文言から「社会的に許容しうるものを除外する趣旨の限定」、つまり「社会的許容性」の当否がその判断基準となるとしています。

そして、この社会的許容性の判断に関して、「情報セキュリティ上の脅威となる実体」がある場合を「不正」とする見解が注目されるとし、「データの損壊・流出のような情報セキュリティ上の脅威が認められる場合」や、「これらと同視しうる程度に「不正な」プログラムの動作内容を類型化してゆくというアプローチ」を提唱しておられます。

そのうえで鎮目教授は、「コインマイナーを設置したウェブサイトにアクセスした際に閲覧者のコンピュータの処理能力を用いてマイニングを行うもの」について、「仮にコインマイナーが、使用者の意図に反する動作をさせるプログラムであることが肯定されたとしても、コンピュータの処理能力の一部をひそかに借り受けるという動作内容が、はたして社会的に許容されないものといえるのかは問題として残る。コインマイナーは、コンピュータ使用者のデータを棄損したり、流出させることはないから、情報セキュリティに対する危害という意味での利益侵害性はない。もっともマイニングという意図に反する動作によって、コンピュータ使用者の電力消費量が意に反して増加し、その反面としてサイト使用者が利得するという関係性は認められる。しかしこのような点が、「不正」性の判断にとっていかなる意味をもつのかについては現在のところ明らかにされていない。」と解説しておられます(鎮目征樹「サイバー犯罪」『法学教室』2018年12月号109頁)。

また、コインマイナー・コインハイブの問題としばしば並べて論じられるのは、ウェブサイト上のバナー広告です。コインマイナーもバナー広告も、JavaScriptなどを用いてウェブサイトに設置され、閲覧者のコンピュータの処理能力の一部を借りて設置者が利得を得る点は同じです。しかしバナー広告が不正指令電磁的記録保管の罪に該当するという見解はないものと思われ、コインマイナーの方を違法とすることはバランスが悪いとも考えられます(『デジタル法務の実務Q&A』400頁)。

法学教室 2018年 12 月号 [雑誌]