1.はじめに
SKE48の松村香織さんが過去にアルバイトとして働いていたメイドカフェが、松村さんが約12年前に履歴書に書いた内容の一部をTwitterに投稿し、ネット上で物議をかもしています。
松村さんの抗議に対して、メイドカフェ側は、「芸能人については引退するまでは、プライバシー権については、ほぼ存在しない 文句を言うのは自由だけど、何も悪いことをしていないし、法律にも違反していないよ」などと反論したそうですが、これらの主張は正しいのでしょうか?
2.個人情報保護法制から考える
雇用分野に関する個人情報保護法制については、職業安定法5条の4が条文を置いており、そして同条を受けて、厚生労働省は事業者が守るべき通達を発出しています(平成11年労働省告示141号、最終改正 平成29年厚労省232号)。
また、「2 個人情報の適正な管理」の(1)以下は、事業者が従業員などの個人情報を安全に管理するため行うべき措置を列記していますが、そのなかの二は、「収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置」を定めています。
12年前のアルバイトの採用の際の履歴書はこの二の条文に照らして、廃棄すべきであったはずです。この点でも本件メイドカフェは、厚労省の通達に違反、すなわち職業安定法および個人情報保護法に違反しています。
したがって、「法律に違反していない」というこのメイドカフェの反論は正しくありません。
3.プライバシー権から考える
つぎに、メイドカフェ側の「芸能人については引退するまでは、プライバシー権については、ほぼ存在しない」という主張はただしいのでしょうか?
この点、当時の著名な政治家をモデル小説とした「宴のあと」が当該政治家のプライバシーを侵害するか争われた訴訟において、裁判所は、「私生活をみだりに公開されない自由」を個人の尊厳(憲法13条)から導き出し、プライバシー侵害を認めています(「宴のあと事件」、東京地裁昭和39年9月28日判決)。
また、より近年のものとして、芸能人(女優)の私生活について大手週刊誌が報道したことが名誉棄損やプライバシー権侵害にあたるとして争われた訴訟においては、裁判所は、不法行為を認定し、約1000万円の慰謝料の支払いを週刊誌側に命じています(東京高裁平成13年7月5日判決、宍戸常寿『新・判例ハンドブック情報法』78頁)。
この芸能人とプライバシーに関しても、裁判例に照らし、本件メイドカフェ側の主張は正しくありません。
4.まとめ
このように、採用の際に求職者から提供された履歴書などの個人情報を事業者が勝手にネットに公開することは、やはりとんでもない法令違反であり、また、芸能人にはプライバシー権もないという主張も正しくありません。
SKE48の松村香織さんが過去にアルバイトとして働いていたメイドカフェが、松村さんが約12年前に履歴書に書いた内容の一部をTwitterに投稿し、ネット上で物議をかもしています。
松村さんの抗議に対して、メイドカフェ側は、「芸能人については引退するまでは、プライバシー権については、ほぼ存在しない 文句を言うのは自由だけど、何も悪いことをしていないし、法律にも違反していないよ」などと反論したそうですが、これらの主張は正しいのでしょうか?
2.個人情報保護法制から考える
雇用分野に関する個人情報保護法制については、職業安定法5条の4が条文を置いており、そして同条を受けて、厚生労働省は事業者が守るべき通達を発出しています(平成11年労働省告示141号、最終改正 平成29年厚労省232号)。
第4 法第5条の4に関する事項(求職者等の個人情報の取扱い)このように、第4以下は、事業者は、求職者から個人情報を収集するにあたっては、その収集や利用は取得目的の範囲に限られると規定しています。取得目的は事業を運営するための目的ですが、ツイッターに履歴情報をツイートすることは、事業目的から明らかにはずれており、本件メイドカフェは厚労省の通達に違反しています。
1 個人情報の収集、保管及び使用
(1)~(3)略
(4) 個人情報の保管又は使用は、収集目的の範囲に限られること。ただし、他の保管若しくは使用の目的を示して本人の同意を得た場合又は他の法律に定めのある場合はこの限りでないこと。
2 個人情報の適正な管理
(1) 職業紹介事業者等は、その保管又は使用に係る個人情報に関し、次の事項に係る措置を講ずるとともに、求職者等からの求めに応じ、当該措置の内容を説明しなければならないこと。
イ 個人情報を目的に応じ必要な範囲において正確かつ最新のものに保つための措置
ロ 個人情報の紛失、破壊、改ざんを防止するための措置
ハ 正当な権限を有しない者による個人情報へのアクセスを防止するための措置
ニ 収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置
また、「2 個人情報の適正な管理」の(1)以下は、事業者が従業員などの個人情報を安全に管理するため行うべき措置を列記していますが、そのなかの二は、「収集目的に照らして保管する必要がなくなった個人情報を破棄又は削除するための措置」を定めています。
12年前のアルバイトの採用の際の履歴書はこの二の条文に照らして、廃棄すべきであったはずです。この点でも本件メイドカフェは、厚労省の通達に違反、すなわち職業安定法および個人情報保護法に違反しています。
したがって、「法律に違反していない」というこのメイドカフェの反論は正しくありません。
3.プライバシー権から考える
つぎに、メイドカフェ側の「芸能人については引退するまでは、プライバシー権については、ほぼ存在しない」という主張はただしいのでしょうか?
この点、当時の著名な政治家をモデル小説とした「宴のあと」が当該政治家のプライバシーを侵害するか争われた訴訟において、裁判所は、「私生活をみだりに公開されない自由」を個人の尊厳(憲法13条)から導き出し、プライバシー侵害を認めています(「宴のあと事件」、東京地裁昭和39年9月28日判決)。
また、より近年のものとして、芸能人(女優)の私生活について大手週刊誌が報道したことが名誉棄損やプライバシー権侵害にあたるとして争われた訴訟においては、裁判所は、不法行為を認定し、約1000万円の慰謝料の支払いを週刊誌側に命じています(東京高裁平成13年7月5日判決、宍戸常寿『新・判例ハンドブック情報法』78頁)。
この芸能人とプライバシーに関しても、裁判例に照らし、本件メイドカフェ側の主張は正しくありません。
4.まとめ
このように、採用の際に求職者から提供された履歴書などの個人情報を事業者が勝手にネットに公開することは、やはりとんでもない法令違反であり、また、芸能人にはプライバシー権もないという主張も正しくありません。
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