smartphone_screen_sns_enjou
1.はじめに
少し前、くら寿司のあるアルバイトが店舗で悪ふざけを行い、その様子をSNSに投稿したところ、その投稿が「炎上」したことが大きく社会の耳目を集めました。くら寿司本社は、当該アルバイトを懲戒解雇するだけでなく、当該社員に対して民事上・刑事上の責任も追及する厳しい方針で臨むとのことです。同時期に、ファミリーマートなどでも同様の事件が発生しました。

ところでこのような事件の契機はSNSへの投稿という従業員の私的な行為であるところ、当該従業員に対して懲戒解雇の処分を課してよいのか、そして刑事上・民事上の責任を追及することが許されるのかどうかが問題となります。

2.就業規則の規定はあるか
使用者が懲戒処分を行い、それが有効となるためには、まずは労働契約法15条の「使用者が労働者を懲戒することができる場合」に該当しなくてはなりません。つまり、就業規則に懲戒事由、懲戒の種類・程度が明記されている必要があります。

この点、懲戒事由については、多くの会社の就業規則には、「不名誉な行為をして会社の体面を汚したとき」等という条項(体面汚損条項)があるのが普通であり、この条項を根拠に懲戒処分が行われることになります。

3.従業員の私生活上の行為
しかし、労働契約に基づく服務規律は、労働者の私生活に対して一般的な支配をおよぼすものではなく、会社の業務活動を円滑に遂行するのに必要かつ合理性がある範囲でのみおよぶとするのが判例の考え方です(国鉄中国支社事件・最高裁昭和49年2月28日判決)。そのため、懲戒処分が裁判で争われた場合、就業規則の規定などは限定的に解釈されることになります。

4.客観的・合理的な理由はあるか
つぎに、懲戒処分が有効となるためには、労働契約法15条の「客観的に合理的な理由」があることが必要です。つまり、客観的・合理的な理由として、労働者に非行があることが必要です。

5.あてはめ
そこで今回の事案を検討する前に、かりに炎上したのが、従業員の個人的なSNSやブログなどであり、その内容も職場とは無関係なものであった場合は、その炎上により職場の業務運営に支障がでたとしても、それをもって安易に非行にあたるとして懲戒処分を行うべきではないと考えられています。なぜなら労働者が業務時間外に私的な表現行為を行うことは、労働者の私生活上の自由(憲法13条)、とりわけ表現の自由(憲法21条)に属する事柄であり、会社が安易に懲戒処分をもって介入すべきではないからです(労働行政研究所『新・労働法実務相談 第2版』194頁)。

その一方、職場の業務内容に関することであったり、その表現内容が非常に悪質な場合、あるいは勤務先などを明らかにして表現行為を行うことにより、会社の社会的信用が棄損されるような場合には、体面汚損条項により懲戒処分を課す場合もあると考えられます(労働行政研究所・前掲)。

この点、今回のくら寿司のアルバイトの投稿は、私的な投稿ではありますが、当該アルバイトが職場の制服を着て、職場内で撮影したものであり、その表現内容も顧客に食の安全性に不安を持たせるかなり悪質なものです。この投稿により、くら寿司の社会的信用は大きく棄損されたものと思われ、したがって、体面汚損条項により懲戒処分を課すことも許容されると思われます。

6.民事上・刑事上の責任追及
会社が非行により民事上の損害賠償を労働者に請求することはできるのでしょうか(民法709条)。この点、原則として、私的なSNS等の投稿の炎上が、勤務先の職場におよび、苦情などが職場の業務運営に影響を与えるということは、通常は予見できないため、損害賠償請求は認められないことが一般的ではないかと思われます。

損害賠償請求が認められるのは、投稿した表現内容が著しく不適切で、職場の業務運営を困難にさせることが容易に予見できる場合に限られるものと考えられます(労働行政研究所・前掲)。

しかし、今回のくら寿司の事件は、アルバイトの投稿した表現内容が著しく不適切で、会社の業務運営を著しく困難にすることが容易に予見できる場合にあたるといえるので、民事上の損害賠償請求を行うことは可能であると考えられます。

また、くら寿司は刑事告訴も行う方針とのことですが、この場合、くら寿司は信用棄損罪(刑法233条)または業務妨害罪(同234条)を検討することになると思われます。

7.会社側が取り組むべきこと
なお、このような不祥事を未然に防止するために、会社はSNS規定、SNSガイドラインなどの制定を行い、就業規則にもSNSに関する事項を条文化し、さらに社内において定期的に社員教育を行うことなどが必要です(東京弁護士会インターネット法律研究部『Q&Aインターネットの法的論点と実務対応 第2版』198頁)。

■参考文献
・労働行政研究所『新・労働法実務相談 第2版』193頁
・東京弁護士会インターネット法律研究部『Q&Aインターネットの法的論点と実務対応 第2版』198頁、217頁
・高井・岡芹法律事務所『SNSをめぐるトラブルと労務管理』43頁

新版 新・労働法実務相談(第2版) (労政時報選書)

Q&A インターネットの法的論点と実務対応 第2版

SNSをめぐるトラブルと労務管理―事前予防と事後対策・書式付き