なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年04月

1.財務省の事務次官が複数の女性記者にセクハラ
森友学園に係る決済文書の改ざんで炎上中の財務省で、今度はその官僚トップである福田淳一事務次官が、複数の女性記者にセクハラ発言を繰り返していたと、本年4月12日発売の週刊新潮がスクープしました。その後、週刊新潮は、「デイリー新潮」サイトの「「財務省トップ」福田淳一事務次官のセクハラ音源公開!」ページで音源の一部を公表しています。

これに対して、麻生財務大臣は、福田氏に対して懲戒処分を行わないことを表明しました。そして、4月16日に財務省は、福田事務次官からの聴取結果を発表しましたが、その内容は、「福田事務次官は「週刊誌報道で記載されているようなやりとりをしたことはなく、心当たりを問われても答えようがない」と事実関係を否定したという内容でした。さらに財務省は新潮社に対し、福田氏が名誉毀損で提訴を準備していることを明らかにしました。
(「財務省 福田次官、セクハラ否定「事実と相違、提訴準備」」毎日新聞より)


報道がなされているだけでなく、福田氏の音声データという証拠すら公表されたのに、この福田事務次官と麻生大臣、財務省の開き直りには驚いてしまいました。

2.取引先からのセクハラ
セクハラ(セクシャル・ハラスメント)とは、一般に、「相手方の意に反する性的言動」(人事院「セクシュアル・ハラスメントとは」)と定義されています。

今回の事例のように、複数の新聞社の複数の女性記者が福田事務次官からセクハラな発言などをなされた事案は、被害にあった女性記者が自分の会社の職場の同僚や上司などからセクハラを受けたような「職場のセクハラ」とは異なり、取材先=取引先である「取引先からのセクハラ」という事案にあたりますが、「取引先からのセクハラ」も「職場のセクハラ」と同様に、民事上は不法行為責任の問題(民法709条等)として処理されることになります。

取材のために財務省や、あるいは取材のために飲食店などに行き、そこで女性記者がセクハラを受けて精神的苦痛・肉体的苦痛を受けた場合は、被害者の記者は、福田事務次官に対して慰謝料として損害賠償を請求できます(民法709条)。とくに今回のように、音声データが残っている場合は、それが証拠として法廷に出された場合、その証拠能力は高いでしょう。

また、福田事務次官は財務省の職員であり、「事業の執行」において記者のセクハラを行った場合は、福田氏の雇用主である法人たる国・財務省は、被害者記者に対して使用者責任を負うことになります(民法709条、715条、国賠法1条)。

ここでいう「職場」とは、通常就業している場所に限られず、職務を遂行する場としての取引先、飲食店、出張先、車中や職務の延長としての宴会なども含まれるとする厚労省の通達が出されています(平成10年6月11日女発168号、人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)2条2号も同旨)。

そのため、福田事務次官が財務省の庁舎で職務中に取材に来た記者にセクハラをした場合だけでなく、取材に応じる目的で飲食店に行き、記者にセクハラを行った場合や、職務の延長線上の宴会において記者にセクハラを行った場合にも、不法行為は成立し、福田事務次官には損害賠償責任が発生するだけでなく、麻生大臣を長とする法人の財務省も使用者責任による損害賠償責任を負うのです。

とくに「デイリー新潮」サイトで公表されているセクハラの音声データは、次官室の職員が企画した「予算成立を受けた福田事務次官の慰労会」だそうであり、「職務の延長としての宴会」にそのまま当てはまります。

また、人事院の「セクシャル・ハラスメントとは何ですか」の「セクシャル・ハラスメントとは」は、セクハラについて、「職場で職員が職員に対して行うセクシュアル・ハラスメントはもちろん、行政サービスの相手方や委託契約などで働く人など職員以外の人とのセクシュアル・ハラスメントも防止等の対象となります。」と明記しています。

この点、人事院規則10―10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)2条1号は、「この条の第1号の「他の者を不快にさせる」とは、職員が他の職員を不快にさせること、職員がその職務に従事する際に接する職員以外の者を不快にさせること及び職員以外の者が職員を不快にさせることをいう。」と規定しています。

さらに、財務省は、聞き取り調査に対して、福田事務次官が「自分はセクハラをしていない」と発言したので、財務省としてはセクハラはなかったと判断しているようです。

しかし、セクハラの判断基準について、厚労省は、「男女の認識の違いにより生じている面があることを考慮すると、被害を受けた労働者が女性である場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を基準とするのが適当」としています(厚生労働省「セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ」より)。

すなわち、セクハラの成否の判断において重要なのは、被害にあった女性側がどう感じたかです。福田氏が自分の言動はセクハラに該当しないと考えていることは、セクハラの成否に関係がありません。この点も、財務省の対応には疑問を感じます。

・セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ|厚生労働省

3.刑事罰
なお、福田事務次官のセクハラがもし悪質であった場合は、名誉棄損罪(刑法230条)、侮辱罪(231条)、強制わいせつ罪(176条)などの刑事罰が科される可能性があります。

4.まとめ
このように、週刊誌記事だけでなく、セクハラの音声データも公表され、福田氏本人もそれを自分の声と認めている状況にあっては、加害者職員だけでなく、法人たる財務省そのものが損害賠償の法的リスクを負う状況です。リーダーたる麻生大臣も責任を問われることになります。

まともな民間企業であったら、加害者の職員は直ちに懲戒解雇か、あるいは調査をさらに行うために人事部付の異動人事を行い、通常業務から外す事態です。職場外の女性記者にすらセクハラをするような福田事務次官は、財務省の職場においても大量の重大なセクハラやパワハラを行ってきたのではないでしょうか。財務省は詳しく調べるべきです。

ところが財務省や麻生大臣は、本人から話を聞く程度の調査しか行わず、懲戒処分を行わないそうであり、逆に福田事務次官は新潮社に対して名誉棄損の訴訟を提起するというのですから呆れてしまいます。

財務省といえば、かつての大蔵省であり、各中央官庁の予算を統括し、現在、金融庁が行っている金融機関の監督をも担い、わが国を焼け野原から高度成長へと導いた官庁のなかの官庁のはずなのに、決済文書の廃棄や改ざんなどだけでなく、今回の官僚トップのセクハラ発覚とは、一体どうなってしまったのかという感想を持ちます。ガバナンスの崩壊とともに、モラルハザードも起きているのではと思われます。

■追記・財務省が「被害にあった女性記者は調査のため出頭せよ」と主張していることについて
4月16日に財務省が発表した文書によると、今回の事件に関して、財務省は、「被害にあった女性記者は名乗り出て出頭せよ」という趣旨の主張を行っています。

・福田事務次官に関する報道に係る調査について|財務省
・(参考)福田事務次官に関する報道に係る調査への協力のお願い|財務省

しかし、財務省に記者を出入りさせ取材をさせている新聞各紙は、自社が労働者たる記者に対して安全配慮義務(労働契約法5条)を負い、セクハラに関してもより具体的に防止などを行うための体制整備義務(男女雇用機会均等法11条)を負っていることを今一度確認する必要があります。

この安全配慮義務および男女雇均法11条に基づく義務は、従業員が会社の職務を行っているのであれば、外出先、取材先などに従業員がいる場合にも当然におよびます。

取材源としてお得意様である財務省の意向を忖度するあまり、被害にあった記者の身柄を、セクハラ加害被疑者が幹部の財務省やその息のかかった弁護士事務所に引き渡すことは、今度は当該新聞社側が記者に対する安全配慮義務違反および男女雇均法違反として、当該記者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うリスクが極めて高くなります。

そもそも今回の事件は、おそらく福田氏からセクハラ被害にあった記者が複数おり、それらの記者が上司や社内のセクハラ窓口に相談したにもかかわらず、会社によりそれを握り潰され、結局、週刊新潮がそれをスクープした、各新聞社が従業員たる記者達を守り切れなかったことに端を発していることのように思えます。

各新聞社は今度こそは被害者の記者の安全を確保し、慎重に被害の聞き取り調査を行い、それを新聞協会などが報告書にまとめるなどして、被害者のプライバシーや人権に配慮しつつ、財務省を含む日本社会に広く報告すべきです。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』240頁、261頁

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1.「漫画村」が止めにくいとされる理由
漫画の海賊版サイト「漫画村」を出版社が止めることが難しいとされる理由は、主に2つあると思われます。一つは、①「漫画村」自体が著作権違反の漫画の画像を掲載しているのではなく、違法に漫画の画像ファイルを掲載している保存サイトにリンク(ハイパーリンク)を貼っているだけで、いってみればリンク集のようなサイトであること、二つ目は、②「漫画村」サイトが、ウクライナあるいはベトナムなど著作権法のない国のサーバーに設置されていることであると思われます。

2.リンク(ハイパーリンク)の問題
たしかに、リンクに関して、従来の伝統的な考え方は、ウェブサイトに別のサイトのリンク(URL)を貼ることは、リンク先をいわば「参照先」として提示しているにすぎないので、リンクを貼る行為が違法となることはないとする見解が主流でした。リンクは違法であるとする法律も存在しません。

しかし、近年、リンクを貼る行為が場合によっては違法になると判断する裁判例が出されています。

たとえば、掲示板「2ちゃんねる」において、「X(僧侶)のセクハラ」との記事に続き、別のサイトのURL(リンク)が貼られたことについて、Xがプロバイダ責任制限法に基づき発信者情報開示を求めた裁判において、東京高裁は、「本件記事3(=リンク先の記事)はハイパーリンクの設定により、本件各記事に取り込まれている」と判断し、名誉棄損を認定しました。つまり、リンク先が違法である場合、リンクを貼ったリンク元も違法と判断される余地があることになります(東京高裁平成24年4月18日判決・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』125頁)。

また、あるサイトにアップロードされた児童ポルノのURLの一部を英数字からカタカナに換えた文字列を自身のウェブサイトに掲載したことが、児童ポルノ公然陳列罪の正犯に該当するとした判例も出されています(最高裁平成24年7月9日判決)。

このように、近似の裁判例は、リンクを貼る行為について、もしリンク先が違法であった場合、リンク元のサイトもその内容を取り込んで違法性を帯びることがあると考えているように思われます。つまり、「リンクを貼っただけだから合法」とは考えていないのです。

ところで、「漫画村」がリンクにより掲載している海賊版の漫画は、6万2000件以上(2017年8月現在)であるとされています。そして、「漫画村」サイトの訪問者数は、月に1億6000万人を超えている(2018年4月現在)とのことです。

このように、「漫画村」サイトは、漫画の海賊版を保管サイトにアップロードしている者が、6万件以上も複製権侵害(著作権法21条)、翻案権侵害(27条)、公衆送信権侵害(23条)に該当していることは明らかであり、それらの海賊版のアップロードされた保管サイトに対して、「漫画村」サイトは多数の違法が存在する保管サイトであることを知りながら、そのような保管サイトのリンクを複数掲載しているような事案であり、意図的に当該サイトを閲覧する者が違法なコンテンツへ簡単にアクセスできるサイトを構築しており、リンク先の著作権侵害を幇助しているとして、違法性を帯びることになります(TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』15頁)。

そのため、「リンクを貼っているだけだから合法」という「漫画村」の抗弁は意味を持たず、「漫画村」に対して、漫画家・出版社などの著作権者は、差止請求(著作権法112条)および損害賠償請求(民法709条)などを主張できることになります。また、著作権法119条1項(著作権等侵害罪)は、著作権等を侵害した者に対して、「10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金」の罰則を規定していますので、著作権者は警察などに対して刑事告訴することができます。

3.「漫画村」サイトが海外のサーバーに設置されているという問題
国外に違法なサイトがあるという今回の事案のような場合は、準拠法がどこの国のものとなるかが問題となりますが、この点は、基本的にベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約)および「法の適用に関する通則法」によることになります。

本事案のようにインターネット上の著作権侵害があった場合の準拠法について、学説は考え方が分かれていますが、裁判例にはつぎのようなものがあります。

これは、日本法人がウェブサイト上において、カナダにあるサーバーを介したP2Pファイル交換サービスを提供していたところ著作権侵害が争われた事案ですが、裁判所は、当該サービスに係るサイト、ソフトウェア等が日本語で記述され、当該サービスによるファイルの送受信のほとんどが日本国内で行われていた事実を重視し、サーバーがカナダにあるとしても、当該サービスに関する稼働等は、当該日本法人が決定できるものであるから、サーバーの所在にかかわらず、著作権侵害行為は実質的に日本国内で行われたものといえるとして、被侵害利益も日本の著作権法に基づくものであるとして、差止請求と日本の民法による損害賠償(709条)を認めた裁判です(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決、TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁)。

(なお、福井弁護士の記事などにある、ウクライナなどの東ヨーロッパ諸国の多くや、ベトナムなどのアジア諸国の多くは、文科省文化審議会著作権分科会の資料によると、2007年現在、ベルヌ条約に加盟しています。)

・ベルヌ条約加盟国 保護期間一覧|文科省

4.まとめ
今回の「漫画村」の事案も、6万件の漫画の海賊版のほとんどは日本のもののようであり、かつ、漫画村を閲覧しているユーザーもほとんどが日本国民であるようなので、出版社・漫画業界などの著作権者は、ファイルローグ事件に照らし、日本の著作権法および民法に基づき、「漫画村」に対して差止請求および損害賠償請求の訴訟を提起するとともに、日本の警察などに刑事告訴すべきと思われます。

このように、出版社・漫画家には、「漫画村」に対して差止をはじめとする複数の法的措置を取る手段があり、それが成功する見込みもあるのですから、いきなり政府に法令に基づかないブロッキングをISPに要請するというおかしな行動にでるのではなく、まずは差止および損害賠償を求める裁判を提起し、著作権等侵害罪について刑事告訴を行うべきです。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んで

■参考文献
・中山信弘『著作権法 第2版』597頁、627頁
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』15頁、569頁
・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新 プロバイダ責任制限法判例集』125頁

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1.はじめに
「漫画村」などの漫画の海賊版サイトにより、わが国の出版社・漫画家などが財産上の大きな被害を受けていることを受けて、政府が、「悪質な海賊版サイトに対して、『一時的な緊急措置』として、ISP(インターネット・サービス・プロバイダ)へ海外の海賊版サイトへの日本ユーザーからのアクセスをISPが遮断(ブロッキング)することを『要請』を検討している」と本年4月初めに新聞報道が行われました。

・漫画やアニメの海賊版サイト 政府、遮断要請へ|日経新聞

このような政府が海賊版サイトのブロッキングの「要請」をISPに行い、それを受けたそれぞれのISPが「任意」に海賊版サイトのブロッキングを実施するというスキームに対しては、ネット上では、憲法や電子通信事業法の定める「通信の秘密」や「表現の自由」規制を国会での立法審議なしに、政府の行政指導により行うもので、濫用のおそれが強く、「通信の秘密」・「表現の自由」が政府の恣意的判断により安易に侵害されるおそれがあると、批判的な意見が多く出されています。

・海賊版サイト「ブロッキング要請は法的に無理筋」東大・宍戸教授、立法を議論すべきと批判|弁護士ドットコム
・著作権侵害サイトのブロッキング要請に関する緊急提言の発表|一般財団法人 情報法制研究所

2.政府の要請に基づく海賊版サイトブロッキングの緊急措置に賛成の福井弁護士の論考
このようななか、4月10日には、政府の要請に基づく海賊版サイトの緊急措置としてのブロッキングに賛成とする趣旨の骨董通り法律事務所の福井健策弁護士の論考が、ITmediaNEWSに掲載され、注目を集めています。

・漫画の海賊版サイト、問題の深刻さとブロッキングの是非  福井弁護士の考え|ITmediaNEWS

福井弁護士の見解はごく大雑把に要約すると、①最も悪質な漫画専門サイトは、訪問者が月に1億6000万人を超えるなど、漫画業界の被害は重大であり、緊急性が高いこと、②そもそも「通信の秘密」とは電子メールが漏洩した場合など、第三者の存在を予定するもので、ユーザーからの海賊版サイトをみたいとアクセスしようとした際に、IPSのシステムが機械的にそれを拒否(ブロッキング)することは、第三者が登場しないで完結するので「通信の秘密」の侵害に該当しない、③「通信の秘密」の侵害であったか否かは緊急避難に該当するか否かであり、その要件の一つの「法益の均衡」については、一般の考えと異なり、「海賊版サイトを発表したいという運営者の表現の自由」と「海賊版サイトをみたいという国民の知る権利」の均衡と考えるべきであるが、どちらも法的価値が低いので問題とならず、緊急避難は成立する、④国家権力による濫用のおそれがあるので、立法を行うべきだが、法律ができるまでは政府の「要請」によりISPが任意でブロッキングを行うべきである、というものです。

福井弁護士の主張の①には賛成できますが、②③④には全く賛成できません。これは法的にあまりに無理筋な議論です。

3.ネット上の児童ポルノのブロッキングについて
ブロッキングを行う場合、ISPは、あらかじめ遮断対象となるサイト等のURLをリスト化し、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータ等のURL等を検知し、当該リストと照合し、該当した場合にはその通信を遮断するものなので、通信の秘密を侵害するのではないかとの問題があります。

通信の秘密については憲法21条2項に「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」との規定があり、また、電気通信事業法4条1項にも「電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない」と規定があり、ISP等が同4条に違反した場合、3年以下の懲役又は200万円以下の罰金の罰則が科されることになります(同179条2項)。

ここで、「通信の秘密の範囲」が問題となりますが、電話等の通話内容、メールや手紙の本文などの「通信の内容」がこれに含まれるのは当然です。また、通信の送信者・受信者、宛先の住所・電話番号・メールアドレス・URL等、通信の個数や年月日などの「通信の外形的事項」も通信の秘密の範囲に含まれるとされています。なぜなら、通信の外形的事項により、通信の内容が推知され、本人のプライバシーの侵害が発生するおそれがあるからです。

つぎに、「通信の秘密の侵害」とはどのような事柄かというと、知得(通信当事者以外の第三者が知ろうとすること)・窃用(本人の意思に反して用いること)・漏えい(他人が知りうる状態におくこと)、の3類型があります(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁)。

そして、ユーザーがアクセスしようとする通信先のURL等は、通信の秘密の保護対象であり、また、ISPがブロッキングの目的で、ユーザーのアクセス先を探知し、これを利用する行為は、「知得」かつ「窃用」に該当するので、ブロッキングは通信の秘密を侵害することになります(田島正広『インターネット新時代の法律相談Q&A』344頁)。

この点、ISPの情報システムが自動的にサイトの遮断を行っているのだから通信の秘密の侵害はそもそも発生していないとする福井弁護士の主張は正しくありません。

実際にユーザーからのアクセスを遮断しているのはISPの情報システムであったりプログラムであったりしたとしても、あらかじめ遮断対象となるサイト等のURLをリスト化し、ユーザーが閲覧しようとするサイトやデータ等のURL等を検知し、当該リストと照合し、該当した場合にはその通信を遮断するように情報システム・プログラムを設定・運営するのは個々のISPとその従業員である技術者達であるからです。機械が勝手にやるわけではないのです。

とはいえ、通信の秘密も常に保護されるというわけにもいかず(「公共の福祉」・憲法12条、13条等)、法律がその例外規定をいくつか作っています。たとえば、刑事手続に基づいて郵便物が押収される場合(刑事訴訟法100条等)、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報が開示される場合、通信傍受法などです。

そして、海賊版サイトのブロッキングについて、リーディングケースとされているのが、ネット上の児童ポルノに対するブロッキングです。

このネット上の児童ポルノに対するブロッキングは、ネット上も対象とするために児童ポルノ法が平成16年に改正されて立法的な手当てがなされています。

その上で、警視庁や総務省における諮問委員会の検討を踏まえ、「安心ネットづくり促進協議会」(以下「安心協議会」とする)が作られ、法的問題の検討や、ISPのための基準やガイドラインなどが制定されています。

安心協議会は、2010年に、「法的問題検討サブワーキング 報告書」をサイトで公表しています。

・「法的問題検討サブワーキング 報告書」(PDF)|安心ネットづくり促進協議会

この報告書は、NTT脅迫電報事件(大阪地裁平成16年7月7日判決)などを検討し、ネット上の児童ポルノをISPがブロッキングすると通信の秘密の侵害に該当するとした上で、刑法上の緊急避難(刑法37条)の考え方により、ISPが違法性を阻却され罰則を科されないスキームを検討しています。

そして、緊急避難が成立するためには、①現在の危難の存在、②補充性(他に取りうる手段がないこと)、③法益均衡(避難行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えないこと)の3点をクリアする必要があります。

児童ポルノに関しては、安心協議会の上の報告書は、サーバーにアップロードされた段階で、「児童ポルノがウェブ上において流通し得る状態に置かれた段階で、当該児童の心身とその健全な成長への重大な影響が生ずるとともに、本来性欲の対象とされるべきでない段階で自己の意思に反して性欲の対象にされた性的虐待画像が公開されることにより特に保護を要する人格的利益に対する侵害が生じている」点を重視し、現在の危難の存在、法益均衡などの要件は満たされ、緊急避難は可能としています。

そして、緊急避難における法益均衡について、当該児童の被る重大で回復困難な人格権的利益の侵害と、通信の秘密との比較考量を行い、緊急避難もやむを得ないとしています。一方、福井弁護士は、上の論考において、法益均衡において、「「海賊版サイトを発表したいという運営者の表現の自由」と「海賊版サイトをみたいという国民の知る権利」の均衡」としているのは、非常にずれた主張であり、理解に苦しみます。

4.ネット上の児童ポルノのブロッキングの考え方は著作権侵害などにも応用できるか?
ところで、この安心協議会の報告書20頁以下は、ネット上の児童ポルノと、今回問題となっている海賊版サイトによる著作権侵害等に関して興味深い検討を行っています。

【児童ポルノ以外の違法情報についても妥当し得るか】
インターネット上には、児童ポルノのほか、成人のわいせつ画像、著作権侵害情報、誹謗中傷やプライバシー侵害等様々な違法情報が存在する。これら児童ポルノ以外の違法情報についても同様に緊急避難としてブロッキングすることができるかどうかが問題となる。

前記のとおり、児童ポルノについては、ウェブ上において流通し得る状態に置かれた段階で児童の権利等に対する重大かつ深刻な法益侵害の蓋然性があると言えることから、この段階で危難の存在を肯定できるものと解されるが、これはあくまでもウェブ上で児童ポルノが流通することの重大性や深刻性に鑑みてのことであって、直ちに他の違法有害情報一般に妥当するものではなく、安易に応用が許されるものではないと考えるべきである。
(略)
著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

ブロッキングは、適切な内容を含む通信全般を監視し、不適当な内容の通信を遮断するというものであり、事実上の私的検閲行為であり、その実施対象については、児童ポルノに限定し、他に拡大することがあってはならないと考える。
(安心ネットづくり促進協議会 「法的問題検討サブワーキング 報告書」20頁より)

このように、安心協議会の報告書は、児童ポルノの被害が人格権上の重大な侵害であるのに対して、著作権侵害の被害は多大な被害がでたとしてもそれは財産権上のものであり、被害のレベルが下がるので緊急性の要件を満たさないこと、そして財産上の損害である以上は金銭で填補できる問題なので補充性の要件も満たさないこと、最後に、財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないとして、法益権衡の要件も満たさないとして、著作権侵害の事案に対しては緊急避難は成立せず、児童ポルトへのブロッキングの考え方を著作権侵害の事案に応用することはできないと結論づけています。

また、この報告書が述べるとおり、ISPによるブロッキングは、事実上の私的検閲行為です。ですから、ISPやそれに指示を出す国の恣意的な運用により、わが国の国民の通信の秘密や表現の自由などが侵害されないよう、慎重な検討と対応を行う必要があります。

とくに表現の自由は、民主政の土台をなすものです。もし今回の漫画の海賊版サイトのブロッキングを立法によらない政府の「要請」(行政指導)で実施することが許されてしまったら、最悪、名誉棄損やプライバシー侵害などを名目として、政府からの恣意的な「要請」により、例えば原発問題、安保法制問題などについて、政府与党を批判するウェブサイトやブログ、SNSにおける投稿などが安易に恣意的なブロッキングが許されてしまう危険があります。それは治安維持法等で日本社会を厳しく言論統制した戦前の日本の政府・軍部と同じやり口です。

そのため、上であげた記事で宍戸教授が述べておられるとおり、児童ポルノや通信傍受などのように、まずは国会で議論を行い、それに基づいて海賊版サイトのブロッキングの立法が本当に必要であれば、立法を行うべきでしょう。

また、出版社や漫画家の方々は、まずは政府に妙なロビー活動をする前に、海賊版サイトに対して差止や損害賠償請求などを求める訴訟を提起し、警察などへの刑事告訴を行うべきです。音楽教室が著作権の問題に関してJASRACに対して大規模な集団訴訟を行っているのに、出版業界・漫画業界が「漫画村」などに対して同様の訴訟活動・法的措置をしているというニュースがまったくないのはおかしな話です。

たしかに海賊版サイトのサーバーが海外にあるような事案の訴訟は、準拠法や裁判管轄などの面で悩ましいものがありますが、日本国内の被害者側を勝訴とした裁判例も出されています(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決など、TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁)。

出版社の役職員の方々や漫画家の方々は、相当な知識人がそろっているはずなのに、ご自身を含む国民の通信の秘密や表現の自由、民主主義などをとても軽くみているのは不思議なことに思えます。

■関連するブログ記事
・出版社等は海賊版サイト「漫画村」に対して法的措置を講じることはできないのか?
・JASRACと音楽教室との著作権使用料訴訟-「公衆」への演奏にあたるか?

■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁、239頁
・田島正広『インターネット新時代の法律相談Q&A 第2版』344頁
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』569頁
・中山信弘『著作権法 第2版』616頁
・宇賀克也・長谷部恭男『情報法』67頁
・芦部信喜『憲法 第6版』175頁

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金融庁プレート

1.ソニー生命で詐欺事件
新聞記事などによると、ソニー生命保険の高松支社の営業職員が、個人年金保険等の契約を装い、顧客から合計約1億3000万円を詐取していたことが、2017年4月に発覚したそうです。この詐欺事件は2009年から2017年まで行われ、6人の顧客が被害にあったそうです。この営業職員は、高松支社の第一営業所長であり、16人の営業職員の長の立場であったとのことです。

このような不祥事件が発生した場合、保険会社は顧客に対しても、監督官庁に対しても、迅速な対応が求められます。しかし、ソニー生命はこの詐欺事件を起こした営業職員を事件発覚後も5月まで同営業所長の業務を続けさせ、また同社がこの事件について同社ウェブサイト上でプレスリリースを行ったのは約3か月後の7月18日、お詫びの文書を同社の保険契約者約230万人に郵送したのは9月であったそうです。

そうしたなか、同年9月に広島県でもソニー生命関係者が同様の手口で複数の顧客から数千万円の金銭をだまし取っていたことも発覚しました(2018年1月に逮捕)。同月、金融庁はソニー生命に対する立入検査を開始し、現在も検査中であるそうです。記事によると、金融庁は5月に業務改善命令などの行政処分を発出する予定とのことです。

・金融庁、ソニー生命に立ち入り検査 架空契約被害で「完全歩合制」問題視|産経新聞
・ソニー生命、元所長の1億円超詐取で露呈した残念すぎる体質|週刊ダイヤモンド

2.スピード感が求められる-不祥事件の届出
このように一連の経緯をみると、なぜ今回のソニー生命の不祥事件対応はこんなに遅いのだろうかと疑問を感じます。

上でも記したとおり、このような重大な保険募集上の事故(不祥事件)が発覚した場合、保険会社は迅速な対応を要求されます。つまり、営業職員などが保険会社の業務において詐欺・横領・背任などの犯罪行為があった場合、保険業法300条が定める保険募集上の禁止行為があった場合などを不祥事件と呼びます(保険業法施行規則85条1項17号、5項)。

そして、保険会社において不祥事件が発覚した場合は、①本社管理部門などへの迅速な報告およびコンプライアンス規程に基づいた取締役会等への報告、②刑事法に抵触しているおそれのある事実については警察等の関係機関に通報、③事件とは独立した部署での事件の調査解明の実施、を行い、迅速に金融庁または事件が起きた場所を管轄する財務局に「第一報」を行わなければなりません。

そして、当該保険会社は、不祥事件の発生を知った日から30日以内に不祥事件届出書を金融庁に提出しなければなりません(施行規則85条6項、監督指針Ⅲ-2-15(2)①)。かりに保険会社が不祥事件の届出を怠った場合、100万円以下の過料に処されます(保険業法333条43号)。そして、この届出を受けて、金融庁は必要に応じて報告を徴求し資料の提出を求め(法128条)、今回のように立入検査を行い(法129条)、必要に応じて、業務改善命令・業務停止命令などの行政処分を発出します(法132条以下)。

このように、保険業法などは、保険会社において不祥事件が発覚したら、本社関連部門と取締役会に報告し、事件の発生した部署への調査が開始されたら、迅速に金融庁に第一報を行い、そして発覚から30日以内に事件の概要、関係者の処分、被害者への対応、事件の公表、再発防止策などを記載した不祥事件届出書を金融庁に提出することを求めており、不祥事件を起こした保険会社の関係部署や取締役会にはとにかくスピード感が求められます。にもかかわらず、今回、ソニー生命が非常に緩慢な対応をしているようにみえるのは意外です。

また、今回の事件は典型的な刑事被疑事件であるので、保険会社は警察などに通報するとともに、証拠が隠滅されたり、他の新たな案件が勃発する前に、できるだけ早期の段階で損害の拡大を食い止める措置を講じることが求められます(中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』345頁)。にもかかわらず、記事などによると、ソニー生命は事故を起こした営業職員に事件発覚後も1か月以上も業務を続けさせたそうであり、この点は、金融庁から厳しく説明が求められると思われます。

3.コンプライアンス部門や取締役会は何をしていたのか
(1)コンプライアンス部門が2つあるのだろうか
ソニー生命の、「ディスクロージャー誌 2017」65頁以下の「コンプライアンス態勢」の部分を読むと、取締役会の下部組織の「経営会議」に「コンプライアンス委員会」を置き、「全社的なコンプライアンスを統括する部門として「コンプライアンス統括部」を設置」しているとあります。ところがさらに、「営業活動におけるコンプライアンス態勢の強化を目的として「MCC(マーケットコンダクト・コンプライアンス)委員会」を設置し、営業活動におけるコンプライアンス統括のために「業務管理部」を設置しているとあります。

ソニーコンプラ部図
(ソニー生命「ディスクロージャー誌 2017」65頁より)

率直なところ、一つの生命保険会社に、コンプライアンス委員会が二つあり、その傘下にそれぞれコンプライアンス部門が合計2つ存在するというのは、意外な感があります。コンプライアンス統括部が全社を「ゆるく」統括し、保険募集上の事故が起こりやすい支社や代理店部門などの営業部門は、業務管理部が「厳格に」統括するというのなら、まだわかります。(とはいえ、営業部門以外にも、保険金支払査定部門の事務リスク、情報システム部門におけるシステム上のリスク、全社における個人情報漏洩リスクなど、リスクは全社的に存在するので、これもどうかと思われます。)

しかし今回の約10年にもおよぶ被害額1億円超の保険料詐欺事件と、その発覚後のスローモーな事故対応をみると、ひょっとして、ソニー生命社内では、コンプライアンス統括部が主に本社保険事務部門や管理部門を「厳格に」統括する一方で、業務管理部が、営業現場の専門部門であるがゆえに、現場に対して「甘い」対応をしてしまったのではないでしょうか。

(なお、他の生命保険会社にも「募集管理部」という部署はありますが、営業職員等が保険募集の際に使うパンフレットなどの募集資料の作成やチェックなどを行う部署であることが一般的と思われます。)

(2)コンプライアンス委員会が取締役会に直結していない
また、ソニー生命の、「ディスクロージャー誌 2017」89頁の組織図の各委員会をみると、取締役会に直結している委員会は、コーポレートガバナンス委員会など3つのみで、今回の不祥事件対応で主に活動すべきコンプライアンス委員会およびMCC委員会が、取締役会に直結せず、取締役会の下部組織の経営会議に接続されているのも意外な感があります。また社内のほぼすべての部・支社などは、取締役会でなく、経営会議の下におかれています。

ソニー組織図
(ソニー生命「ディスクロージャー誌 2017」89頁より)

そして、経営会議は、ディスクロージャー誌によると、取締役会から選任された執行役員で構成された会議と記載されています。もちろん、代表取締役社長らもこの経営会議のメンバーとなっていますが、多くの執行役員は取締役ではなく従業員のようです。

取締役会は、それぞれの取締役の職務の執行の監督を行い(会社法362条2項2号)、社内を上から下に監督することにより、社内に違法や不正がないかチェックしコントロールしています。しかし、取締役会と経営会議という二重の組織構造をとることにより、取締役会による社内の監督が阻害されていたのではないかというおそれがあります。

このような本社経営部門の二重の組織構造と、コンプライアンス委員会・コンプライアンス部門が2つ存在するということも、今回のような本来、危急の対応を行わなければならない大事件において、ソニー生命が会社として迅速で機動的な運営が行えなかった要因であったかもしれません。

4.まとめ
保険業法は主に法300条で保険募集上の禁止事項を列挙し、個々の営業職員に対して、保険募集上のルールを定めています。そしてさらに、法100条の2は、「保険会社は、その業務に関し、(略)当該業務の的確な遂行その他の健全かつ適切な運営を確保するための措置を講じなければならない」と規定し、法人としての保険会社に、「業務運営のための体制整備義務」を課しています。

今回の不祥事件においては、詐欺をはたらいた営業職員が悪いのはもちろんですが、しかしそれを防止あるいは早期に発見できず、事故が発覚しても迅速な対応を行えなかったソニー生命全体、とくに経営陣と管理部門の体制整備義務違反の程度は軽くないと思われます。

■参考文献
・中原健夫・山本啓太・関秀忠・岡本大毅『保険業務のコンプライアンス 第3版』340頁、345頁

■関連するブログ記事
・ジブラルタ生命の営業職員が契約を偽り顧客から約2億円を詐取/営業職員の契約締結権・告知受領権

保険業務のコンプライアンス(第3版)

保険法(上)

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1.はじめに
少し前ですが、『判例タイムズ』1425号(2016年8月号)318頁に、新宿区のあるアパート(と思われる)のある住人が、その共有部分の屋根の支柱などにカメラを設置したところ、近隣住民からそのカメラの撤去等を求める訴訟が提起され、その一部を認容する興味深い裁判例(東京地裁平成27年11月5日判決)が掲載されていました。

2.事案の概要
本事件は、新宿区のある町の住民である原告X1ら4名が、同じく住民である被告が共有する区分所有建物(アパートと思われる)の共用部分の屋根の支柱などにカメラ4台(以下「本件カメラ」という)を設置し、原告らのプライバシー権を侵害しているとして、不法行為に基づき被告に対して、①本件カメラ4台すべての撤去および、②損害賠償を請求した事件です。

裁判所は、判決において、肖像権に関する京都府学連事件などの判例を引用した上で、本件カメラ1から4の設置状況や、これらのカメラにより原告らの居宅や生活道路などがどのように撮影されているかを個別に検討しています。その上で、本件カメラ1は、原告らの玄関・勝手口や生活道路を通行する様子が常時撮影され、原告らの日常生活が被告に常に把握されており、原告らの社会生活上受忍すべき限度を超えるとして、プライバシー侵害を認定し、①本件カメラ1の撤去と、②損害賠償の支払い、を命じる判決を出しています。(本件カメラ2から4までの撤去の請求は認めなかった。)

3.判旨(東京地裁平成27年11月5日判決・控訴)
『1 争点1(本件全カメラの設置に伴う原告らのプライバシー侵害の有無)について
(1)肖像権について
 人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同44年12月24日大法廷判決・刑集23巻12号1625頁、最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷・民集59巻9号2428頁参照)。もっとも、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,撮影の場所,撮影の範囲,撮影の態様,撮影の目的、撮影の必要性、撮影された画像の管理方法等諸般の事情を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきであると解する。


(2)本件カメラ1による原告らのプライバシー侵害の有無について
ア (略)
 しかるところ, 原告らが本件カメラ1の上記仕様と同等の撮影素子が「1/4インチ SHARP製CCD」、水平解像度 「420TV本」、レンズが「3.6mm」の小型カラーカメラ(以下「実験用カメラ」 という。)を用いて、本件カメラ1の設置位置と類似する場所(原告X3宅玄関入口まで、約11.6m、原告X2宅通用口まで約22.3mの距離の地点)から上記の本件カメラ1の撮影方向に向けて撮影実験を行った結果(証拠略)によると、①被告所有建物の1階居室南側窓及び同窓付近が映ること、②原告X3宅玄関入口付近に立っている人は、顔を識別できるほどではないもののかなり鮮明に映ること(証拠略)、③原告X4が原告X4宅玄関入口付近に立っている人は、顔を識別できるほどではないものの本件カメラ1に人の出入りがはっきりと分かる程度に映ること(証拠略)、④原告X2宅通用口の前付近においても 上記②及び③ほどは鮮明ではないものの、少なくとも人が通過していることは映像上認識することが可能であること(証拠略)、⑤本件道路を通行している人については、終始撮影されていること(証拠略)が認められる。
 以上のような事情からすると、本件カメラ1は、少なくとも本件訴状送達までの間は、本件道路のほか、原告X3宅玄関入口、原告X4宅の玄関付近及び原告2宅通用口付近を撮影していたものと推認することができる。』
(略)

『日常生活において、原告X1、原告X4、原告X3は、本件道路を、それぞれの居宅から公道に至る通路として使用しており、また、原告X2は、原告X2宅通用口から出入りするときに使用していると認められる(証拠略)。』

『以上の各事実によれば、上記アのとおり、本件カメラ1の撮影場所は屋外であるものの、撮影の範囲は、本件道路のほか、原告X3宅玄関入口付近、原告X4宅の玄関付近及び原告X2宅通用口付近にまで及んでいる。このような場所は、日常生活を営む上で必要不可欠な場所ということができるところ、本件カメラ1は、原告X3、原告X4及び原告X2が日常生活においてこれらの場所を利用する際に常に撮影対象となるものであって、上記原告らの外出や帰宅等という生活状況が把握されることとなっているものであり、結果として、少なくとも原告X3、原告X4及び原告X2については、この範囲を撮影されることによるプライバシー侵害の程度は大きいというべきである。』
(略)

このように、本件カメラ1の撮影が、常に行われており、原告らの外出や帰宅等という日常生活が常に把握されるという原告らのプライバシー侵害としては看過できない結果となっていること、(略)その他上記の種々の事情を考慮すると、本件カメラ1の設置及びこれによる撮影に伴う原告らのプライバシーの侵害は社会生活上受忍すべき限度を超えているというべきである。
 以上から、本件カメラ1の設置及びこれによる撮影は、原告らのプライバシーを違法に侵害するものといえる。


このように裁判所は判示し、被告に対し、①本件カメラ1の撤去、②原告X1ら4名に対してそれぞれ10万円の損害賠償の支払いを命じる、原告一部勝訴の判決を出しました。

4.検討
(1)肖像権
本地裁判決が引用している京都府学連事件(最高裁昭和44年12月24日判決)は肖像権を認めた判決ですが、肖像権を「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態を撮影されない自由」とし、この自由は憲法13条により保障されるとしています。そしてこの肖像権は、プライバシー権の一つとされます(芦部信喜『憲法 第6版』120頁)。

(2)プライバシー権
プライバシー権も人格権の一環として憲法13条により保障されますが、かつては、「ひとりでいさせてもらう権利」あるいは、「私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利」(「宴のあと」事件・東京地裁昭和39年9月28日)ととらえられてきました。

しかしその後、ITなどの急速な発達による情報化社会の時代になると、むしろ公権力や大組織が個人に関する情報を収集・保管することこそが、保護されるべき個人の秘密にとって脅威となるとの認識が高まっています。

そこで、現在では、プライバシーの権利は、「自己に関する情報をコントロールする権利」として積極的にとらえる見解が通説的となっています。もともと個人の尊重の原理から要求されるものは、個人の自律的な社会関係の形成を尊重することです。そして、自律的に形成される領域は、本来公権力や第三者によって干渉されてはならない領域であるから、それらがその領域の情報に立ち入ることを許さないということになります。

すなわち、プライバシーの権利とは、①個人として秘密にしておきたいという主観的感情の保護を自由権的・消極的に要求するにとどまるものではなく、②個人が自律領域の保護を請求権的・積極的に要求するものでもあるということになります。(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』275頁)

(3)プライバシー権・肖像権と個人情報保護法等との関係
そして、プライバシーの権利を自己情報コントロール権ととらえると、個人が自律領域の保護を公権力に対して請求権的・積極的に要求するためには、それらは、憲法上はいまだ抽象的な権利といえるので、まずは個人情報保護法などの法律や条例等に基づくことになります。

一方、個人として秘密にしておきたいという面の保護を自由権的・消極的に主張するには、それらは前述の京都府学連事件などの判例により、憲法13条から導き出される具体的権利として判例・通説上認められているため、個人情報保護法など法律に個別の条文がなくても、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求や差止請求・撤去請求などの請求ができることになります。今回取り上げた東京地裁の事案はまさにこの後者に該当します。

本東京地裁判決を読むと、防犯カメラを設置した被告側は、①「防犯カメラ作動中」というプラスチックのステッカーを表示していたこと、②当該防犯カメラは2週間の使用でデータが上書きされるので取得している情報は少ない、などの個人情報保護法を意識した反論を行っていますが、東京地裁は結論として、常時、原告らの日常生活の状況が被告により把握されてしまっているとして、本件カメラ1による近隣住民である原告らのプライバシー権侵害の程度は社会生活上受忍すべき限度を超えて違法と判断して、本件カメラ1の撤去と損害賠償の支払いを命じる判決を出しています。

なお、本事件に類似し、近隣住民側が勝訴となった事案として、東京地裁平成21年5月11日判決(判例時報2055号85頁)などがあるようです。

■追記
本事例のような防犯カメラで取得された個人情報やプライバシーなどの問題に関しては、憲法学者の石村修・専修大学名誉教授のつぎの論文が大変参考になります。
・石村修「コンビニ店舗内で撮影されたビデオ記録の警察への提供とプライバシー : 損害賠償請求控訴事件」『専修ロージャーナル』3号19頁|専修大学

■参考文献
・『判例タイムズ』1425号(2016年8月号)318頁
・芦部信喜『憲法 第6版』120頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』275頁
・棟居快行「講演会参加者リストの提出とプライバシー侵害」『憲法判例百選Ⅰ 第6版』44頁









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