なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年05月

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1.mineoが通信の最適化・帯域制御を実施していることが発覚
MVNOである、株式会社ケイ・オプティコムの”mineo”が、顧客に事前に周知することなく、「通信の最適化」や「帯域制御」などを実施している問題がネット上で話題となっています。

2.「通信の最適化」・「帯域制御」とは
「通信の最適化」とは、ケイ・オプティコムなどのIPS等が、通信のデータ量を減らすため、ユーザーの画像や動画等のデータを非可逆圧縮などの変換を行い画像データ等を劣化させることです。

また、「帯域制御」とは、一度に大量の通信が行われた場合に、回線が輻輳(ふくそう)して設備にトラブルが起こることを防ぐために通信量を制限することをいいます。

mineoは、「通信の最適化」を行うことができないHTTPS通信について、帯域制御を行っているとされています。

これらのIPS等の措置は、ユーザー・国民の「通信の秘密」を侵害していないかどうかが問題となります(電気通信事業者法3条、4条、憲法21条2項)。とくに電気通信事業者法3条、4条違反は同法179条で罰則の対象となり、また同法29条は総務大臣の行政処分の規定を置いていることから、この論点は刑事法とも関連することになります。

3.「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」
(1)帯域制御ガイドライン
この点、平成19年の総務省の「ネットワークの中立性に関する懇談会」報告書は、帯域制御について業界団体による具体的な運用ルールの策定が必要とし、それを受けて、電気通信事業者や日本インターネットプロバイダー協会などによる、「帯域制御の運用基準に関するガイドライン」が平成20年に策定されました(以下「帯域制御ガイドライン」という)。

・帯域制御の運用基準に関するガイドライン|JAIPA

そして、帯域制御ガイドラインは、通信の秘密の範囲について、個別の通信内容のほか、通信当事者の氏名、発信場所、日時、通信量やヘッダ情報等の構成要素、通信の存否の事実、通信の個数なども含まれるとし、また、「通信を侵害する行為」として、通信当事者以外の者が「通信の秘密」に該当する事項を知得しようとすること、通信当事者の意思に反して当該事項を自己または第三者の利益のために利用することが含まれると検討しています。

その上で、ISPなどが自己のネットワークを通過するパケットのヘッダやペイロード情報をチェックすることや、特定のアプリに係るパケットを検知すること、それを受けて制御を行うことは、それぞれが「通信の秘密」の侵害行為に該当するとしています。

そして、帯域制御ガイドラインは、「通信の秘密」侵害によりISPなどが刑事罰や行政処分を受けないためには、①利用者の「個別」かつ「明確」な同意の取り付け、または、②侵害行為が「正当業務行為」(刑法35条)に該当し違法性が阻却されること、のいずれか一つが必要であるとしています。

(2)利用者の「個別」かつ「明確」な同意の取り付け
この点に関して、帯域制御ガイドラインは、単に帯域制御を行う旨を約款に規定したり、あるいは帯域制御を実施する旨をホームページ上に掲載する等だけでは不十分としています。そして、新規のユーザーに対しては帯域制御に同意する旨の項目を契約書に明示的に設けること、すでに契約を締結しているユーザーに対しては、個別にメールを送信して帯域制御に同意する旨の返信を求めることが「個別」かつ「明確」な同意のためには必要としています。

mineoのウェブサイトをみると、一応、通信サービス契約約款が掲載されています。そして、同約款35条において、一応、帯域制御および通信の最適化に関する根拠規定を置いています。

(通信の利用を制限する措置)
第 35 条 前条の規定による場合のほか、当社または特定携帯電話事業者は、mineo契約者に事前に通知することなく次の通信利用の制限を行うことがあります。
(1)通信が著しくふくそうする場合に、通信時間または特定地域の契約者回線などへの通信の利用を制限すること。
(略)
 当社または特定携帯電話事業者は、前項の規定による場合のほか、当社または特定携帯電話事業者が別に定める形式のデータについて、圧縮その他mineo通信サービスの円滑な提供に必要な措置を行うことがあります。


・mineo通信 サービス契約約款|mineo

しかしウェブサイトの他の部分をみても、mineoが帯域制御などを行う注意喚起などがなされておらず、また契約締結にあたってもそれらの事項は明示されていないようです。

したがって、mineoは帯域制御などを実施するにあたり、「個別」かつ「明確」な同意をユーザーから得ていません。

(3)侵害行為が「正当業務行為」に該当し違法性が阻却されること(刑法35条)
つぎに、帯域制御ガイドラインは、「正当業務行為」に該当し違法性が阻却されるためには、①帯域制御を実施する目的がISP等の業務内容に照らして正当であること(目的の正当性)、②当該目的のために帯域制御を行う必要性があること(行為の必要性)、③帯域制御の方法が社会的に相当なものであること(手段の相当性)、の3点をあげています。

この点、mineoがHTTP通信に対して帯域制御を行っている目的は、HTTP通信と異なり画像データなどの劣化により通信データの削減を行えないHTTPS通信の通信量を少しでも減少させたいというのが目的であろうと思えます。

しかし、帯域制御ガイドラインは、「4.(1)基本的な考え方」において、

「トラフィックの増加に対しては、本来、ISP等はバックボーン回線等のネットワーク設備の増強によって対処すべきであり、帯域制御はあくまでも例外的な状況において実施すべきものである」


という基本原則を示しています。この基本原則に照らすと、mineoの帯域制御は本末転倒です。

また、「通信の最適化」についてもこの正当業務行為の考え方を援用するならば、①ユーザーの画像等のデータを劣化させて通信量全体を削減させようというmineoの侵害行為の目的は不当であり、また、顧客であるユーザーの通信の内容そのものである画像や動画データを劣化させる行為は通信の秘密の侵害そのものの行為であり、社会的相当性にあまりに欠けています。

したがって、mineoの侵害行為は正当業務行為によっても違法性が阻却されません。

4.まとめ
以上のように、mineoの行っている帯域制御および「通信の最適化」は、帯域制御ガイドラインに照らすと、電気通信事業法4条違反です。

総務省からの業務改善命令を待つまでもなく、mineoはすみやかに違法状態を解消すべきであろうと思われます。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密

■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』53頁
・大塚仁『刑法概説(総論)第4版』413頁

情報法概説

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1.「百合展2018」の開催を池袋マルイが拒否
少し前ですが、本年春に「百合展2018」が開催される予定であったところ、その会場であったファッションビルなど小売業の池袋マルイがこれを拒否し、同展の東京での開催が一時宙に浮くという事態が発生し、ネット上で話題となりました。

ネット記事などによると、「百合展」とは女性同士の友情や愛情をテーマに、漫画家・イラストレーターや写真家が出展するというイベントです。ところが、池袋マルイは、本展示に先立って同店で3月9日より開催予定だった、「ふともも写真の世界展 2018 in 池袋マルイ」も諸事情を理由として突如中止し話題となっていました。そして池袋マルイは、「ふともも写真の世界展 2018」に出展予定だった作家と同じ作家が参加予定であることを理由として、「百合展2018」の開催も拒否したとのことです。

・池袋マルイで開催予定だった「百合展2018」が中止に|ねとらぼ

しかし、少し前に展示を拒否した展示と同じ作家が含まれているという漠然とした理由で、別の展示も拒否するということは、池袋マルイが民間企業であることを差し引いても許容されるのでしょうか?

2.民間施設における集会の自由・表現の自由-プリンスホテル事件
(1)公の施設の場合
従来、ある施設における表現の自由・集会の自由(憲法21条1項)への制約は、自治体の公民館などの「公の施設」を舞台として裁判において争われてきました。

そのようななか、泉佐野市民会館事件(最高裁平成7年3月7日判決)は、自治体が住民からの集会の申請を拒否できるのは、「集会の自由の保障の重要性よりも…集会が開かれることによって人の生命、身体または財産が侵害され、公共の安全が損なわれる危険を回避し防止する必要性が優越する場合に限られる」とし、その危険性の程度は、「明らかな差し迫った危険の発生が具体的に予見されること」と厳格な判断を示しました。(ただし判決は住民側の敗訴。)

このように、裁判所は、表現の自由・集会の自由が自己実現・自己統治のためにとりわけ重要な基本的人権であることを重視し、表現の自由・集会の自由への制約には厳しいハードルを課しています。そして泉佐野市民会館事件のあと、上尾市福祉会館事件においても同様の判断が示されています(最高裁平成8年3月15日判決)。

(2)民間施設の場合-プリンスホテル事件(東京高裁平成22年11月25日判決・確定) そのようななか、平成22年には、民間企業であるプリンスホテルに関しても、上の判例の考え方を維持した判決が出され注目されました。

この事件は、日教組が全国大会を開くため、プリンスホテルと、ホールと客室を借りる契約を締結していたところ、プリンスホテルが「他のお客様にご迷惑となる言動」との同社の会場利用規約の条項を理由として、日教組との契約を解除したため訴訟となったものです。

本高裁判決は、

「本件使用拒否は、…本件各集会の中止を余儀なくさせるものであって…違法であることは明白であり、かつその違法性は著しく、不法行為にも当たる」とし、また、「規約に定める「他のお客様のご迷惑となる言動」とは、法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為であると解するのが相当…本件各集会を開催したとしても、そのような程度の不利益が他の利用客に生じると認めるに足りる的確な証拠はない

と判示し、プリンスホテル側の主張を退けました。

このように、自治体の公民館などのような公の施設だけでなく、民間企業のホールなどの利用においても、裁判所が集会の自由・表現の自由を重視していることが注目されます。

3.まとめ
本高裁判決に照らしても、池袋マルイは、「百合展」が開催されることにより「法令又は公序良俗に違反する行為に準ずる程度の不利益をほかの利用客に与える行為」が発生するという証拠を示せない限りは、その開催拒否は債務不履行(民法415条)だけでなく不法行為(709条)に該当することになります。

そのため、「以前拒否した展示と同じ作家が参加している」という漠然とした理由で池袋マルイが「百合展」を拒否したことは、作家達の集会の自由・表現の自由を不当に軽んじる、 債務不履行または不法行為に該当する違法な対応であるといえます。

また、最近は、渋谷区や世田谷区など全国で、同性パートナーシップ協定条約が相次いで制定されるなど、同性パートナーやLGBTの問題についても、社会の理解が進みつつあります。そのようななかファッション小売業などを営むマルイが、このような社会の変化に鈍感な経営判断を行ったことは、残念な事例であると思われます。

■関連するブログ記事
・集会の自由 プリンスホテル日教組会場使用拒否事件(東京高裁平成22年11月25日)
・渋谷区、世田谷区でパートナーシップ証明条例等が成立

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第4版』349頁
・松田浩「プリンスホテル日教組大会会場使用拒否事件控訴審判決」『平成23年重要判例解説』24頁











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