なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2018年10月

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1.政府がリーチサイト規制を法制化する方針を示す
新聞報道などによると、政府・文化庁はいわゆるリーチサイトを規制するために著作権法の一部改正を行う方針を固めたとのことです。

・<海賊版誘導>「リーチサイト」規制へ 運営者らに罰則|毎日新聞

たしかに海賊版サイトなどとともにリーチサイトによって著作者や出版社などが多額の経済的損失を負っていることは事実です。

しかし、ウェブサイトの作成などにおいて、「リンク(ハイパーリンク)をはる(設定する)」行為は、従来の紙媒体にはない大きな利便性を有するものであり、ネットの普及以来、国内外で一般に広く行われているところです。それは少し大きくいえば、ウェブサイトを読む国民の「知る権利」に奉仕し、またネット上の表現者による表現の自由に資するところが大きいと思われ(憲法21条)、リンクをはる行為を国が安易に規制してよいのかという疑問があります。

また、政府の方針は、リーチサイト運営者を規制するようでありますが、それらの条文の定義のあり方によっては、過大な負担をウェブサイト運営者やプロバイダなどに課すことになりかねず、影響が大きすぎるのではないかと思われます。

そこで、本ブログ記事では、現行法下においても、①違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となるのではないか、②リーチサイトは違法サイトの違法行為の共犯として責任を負うのではないか、③著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能なのではないか、という3点から、リーチサイト規制の法制化に対して疑問を示したいと思います。

2.違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となるのではないか?
(1)リンク
ウェブサイト運営者が自身のサイトにリンク(ハイパーリンク)をはる(設定する)行為は、リンク先サイトのURLの文字列をサイトに掲載しているだけにすぎないため、一般的にはそれだけでは複製権(著作権法21条)および自動公衆送信権(23条)との関係で違法とはならないと解されています。

この点が争点となったロケットニュース24事件判決(大阪地裁平成25年6月29日)は、動画共有サービス上で行われたライブストリーミング配信された動画を第三者が無断で動画共有サイトにアップロードしたところ、被告(ロケットニュース24)が当該アップロード先にリンクをはった事案において、

『本件動画は、著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが、その内容や体裁上明らかでない著作物である』

として、リンクをはった者の責任を否定しています(エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク『エンターテインメント法務Q&A』257頁)。

(2)リンクをはる行為と名誉棄損など
しかし近年、リンクをはる行為による名誉棄損が争われた裁判例においては、リンクをはる行為の違法性を認める事案が現れています。

例えば、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の掲示板に、「僧侶Xのセクハラ」との記載に続き、別の電子掲示板のXの社会的信用を低下させる記事(「本件記事3」)のURLが記載された投稿(「本件各記事」)について、Xが当該投稿が名誉棄損にあたるとして発信者情報の開示を求めて訴訟を提起したところ、第一審はこれを棄却したものの、第二審の東京高裁はつぎのように判示して、リンクをはる行為による名誉棄損を認定し、発信者情報の開示を命じています。

『本件各記事が社会通念上許される限度を超える名誉棄損又は侮辱行為であるか否かを判断するためには、本件各記事のみならず本件各記事を書き込んだ経緯等も考慮する必要がある。』『本件各記事を見る者がハイパーリンクをクリックして本件記事3を読むに至るであろうことは容易に想像できる。そして、本件各記事を書き込んだ者は、意図的に本件記事3に移行できるようにハイパーリンクを設定しているのであるから、本件記事3を本件各記事に取り込んでいると認めることができる。』『本件各記事は本件記事3を内容とするものと認められる。』(東京高裁平成24年4月18日判決、プロバイダ責任制限法実務研究会『最新プロバイダ責任制限法判例集』125頁)


そして同様の趣旨の裁判例として、東京地裁平成16年6月18日判決、東京地裁平成27年12月21日判決、東京地裁平成27年1月29日判決などが存在します(プロバイダ責任制限法実務研究会・前掲126頁、また最高裁平成24年7月9日参照)。

これらの裁判例は、リンク先の記事・投稿をリンクをはった記事・投稿が「取り込んだ」「引用した」として、リンク先の投稿内容がリンク元の投稿の一部となり、リンク元がリンク先の違法を承継して取得するといったニュアンスが読み取れます。

さらに、名誉権侵害のウェブサイトに対するリンク設定について、端的に「抗告人の人格権が侵害されていることは明らかである」として発信者情報開示請求を認容した裁判例も存在します(東京高裁平成27年5月27日決定、プロバイダ責任制限法実務研究会・前掲127頁))。

加えて、本年4月の知財高裁は、ツイッターのリツイート(いわゆる公式リツイート)について、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害を認定する判断を示しています(知財高裁平成30年4月25日・上告中)。この知財高裁も、上であげたリンクをはる行為と同様の考え方をとっているものと考えられます。

(3)小括
このように、一般論としてはリンクをはる行為は違法ではないとしても、リンク先のウェブサイトが違法であり、リンクをはった者がそれを認識していた場合は、当該リンクをはる行為は違法と近時の裁判所に判断される可能性が高いと思われます。

違法なリーチサイトに対しては、著作権法の改正ではなく、漫画家や出版社などの権利者が訴訟を提起すべきなのではないかと思われます。

3.リーチサイトは違法サイトの違法行為の共犯として責任を負うのではないか?
つぎに、リーチサイト運営者のように、海賊版サイトなどの違法サイトにリンクをはっている者は、違法にアップロードされた漫画等が違法に配信されるのを助けているといえます。

そのため、違法アップロードを知りながらリンクをはった者の行為が「幇助」であるとして、刑事上、著作権侵害罪の共犯であると評価される可能性があります(著作権法119条1項、刑法62条)。また、民事上も同様に、著作権侵害という不法行為を助けたとして、当該リンクをはった者は、これも不法行為責任を負う可能性があります。

さらに、リンクをはった者が実質的に違法な配信を行っている者と同一であると評価される場合には、当該リンクをはっている者は共犯ではなく正犯として刑事上・民事上の責任を負う可能性があります(雪丸真吾・福市航介・宮澤真志『コンテンツ別 ウェブサイトの著作権Q&A』109頁)。

したがって、この面でも、リーチサイトに大しては、わざわざ立法化をするまでもなく、端的に漫画家・出版社や音楽家などの権利者が警察当局と連携し、刑事・民事の訴訟を提起するなどして対応すべきではないかと思われます。

4.著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能なのではないか?
著作権法112条は、著作権者などは著作権を侵害する者または侵害するおそれのある者に対して差止めを請求することができると規定しています。この差止請求の対象となる者は直接の侵害主体(違法アップロードサイト、海賊版サイトなど)に限られるのか、あるいは幇助者などの間接侵害者をも含むのかについては論点として争いがあります。

この点、裁判例は、否定するもの(2ちゃんねる事件第一審・東京地裁平成16年3月11日)がある一方、肯定する裁判例も複数存在します(ヒットワン事件・大阪地裁平成15年2月13日、選撮見撮事件・大阪地裁平成17年10月24日、『エンターテインメント法務Q&A』258頁)。

そのため、この面においても、漫画家・出版社や音楽家などの権利者は、刑事告訴をするとともに民事でリーチサイトに対して損害賠償請求とセットで差止請求を行うべきなのではないかと思われます。

5.まとめ
以上のように、現行法下においても、①違法サイトにリンクをはった時点でリーチサイトは違法となり、②リーチサイトは違法サイトの違法行為の共犯として責任を負い、③著作権者などはリーチサイトに対して差止請求を行うことが可能であると考えられます。

そのため、表現の自由や知る権利の制約となるおそれのある著作権法改正に対して、政府は慎重であるべきです。また、漫画家や出版社などの権利者は、政府にロビー活動をする前に、海賊版サイトやリーチサイトなどに対して刑事・民事の法的措置をとるなど、それ相応の努力を行うべきです。民事法の「権利の上に眠る者は、これを保護せず」という法諺は、出版社などの権利者にあてはまるように思われます。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んで-通信の秘密

■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・柴田昌裕『情報法概説』227頁
・エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク『エンターテインメント法務Q&A』257頁
・プロバイダ責任制限法実務研究会『最新プロバイダ責任制限法判例集』125頁
・雪丸真吾・福市航介・宮澤真志『コンテンツ別 ウェブサイトの著作権Q&A』109頁

エンターテインメント法務Q&A―権利・契約・トラブル対応・関係法律・海外取引

コンテンツ別 ウェブサイトの著作権Q&A

最新 プロバイダ責任制限法判例集

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本日のネット上のニュースによると、本日17日付で、ツイッターでのツイートに関して最高裁大法廷で分限裁判が行われていた岡口基一裁判官に対して戒告処分が科されたとのことです。これは非常に残念な判断です。

・岡口判事を戒告=不適切ツイートで初の懲戒-最高裁|時事

■以前のブログ記事
・裁判官はツイッターの投稿内容で懲戒処分を受けるのか?-岡口基一裁判官の分限裁判

まず、裁判官の独立(憲法76条3項)はどうしたのかという問題があります。公平な裁判、少数者の人権に配慮した裁判を行うために、憲法は明文規定を置いているのですが、それは、「裁判の一方当事者が感情を害されたというクレーム」によりあっさりと侵害されてしまうような軽々しい価値なのでしょうか?

それでは今後は、裁判所は政府や政治家や暴力団などを一方当事者とする裁判においては、政府や首相などのご意向を忖度するあまり、公平な裁判を行えなくなってしまうのではないでしょうか。しかしそれでは裁判所・最高裁の職務放棄です。大津事件の大審院長とやっていることが同じです。公平で迅速な裁判を受ける権利は国民の基本的人権であるのにです(34条、37条)。

また、例えば最高裁の調査官(裁判官)は、今後の裁判のために、いわゆる「調査官解説」という判例評釈を執筆しています。同時に、学者・研究者や弁護士等は、法律学の研究・学問活動の重要な活動の一環として、裁判所の出す判決を研究し、判例評釈などを法律雑誌や大学などの紀要に発表しています。

しかし、裁判官の裁判に関するツイートが、「当事者の感情を傷つけた」という理由により当該裁判官が懲戒処分を受けるということは、明治時代より脈々と行われてきたこれらの裁判官や研究者等による判例評釈などの研究活動が今後、違法とされるリスクがあるという信じられない展開をもたらしかねません。研究者が「裁判の当事者のご意向に忖度した学問研究しかできない」ということは、学問の自由・表現の自由の侵害に直結します(憲法23条、21条)。

さらに、今回の懲戒処分は最高裁大法廷が出したものとして重大な先例としての意味を持ちます。民間企業や官庁などの従業員・職員のネット上での表現活動が委縮するおそれがあります。

このように、さまざまな面で、今回の最高裁大法廷の懲戒処分には大いに疑問を感じます。

憲法 第六版

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1.東京地裁が米クラウドフレア(Cloudflare)へのファイル削除等を認める判断を示す
本日付の弁護士ドットコムニュースによると、

『東京地裁は10月9日、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)などのサービスを提供する米クラウドフレア(Cloudflare, Inc.)に対して、キャッシュファイル削除と発信者情報開示を命じる仮処分を決定した。』


と東京地裁が画期的な判断を示したとのことです。

弁護士ドットコムニュースは、

『クラフドフレアが裁判外での削除や開示をもとめる請求に応じない中、(本件事件を担当する)山岡裕明弁護士は今年7月、クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目して、東京地裁に仮処分を申し立てた。』


とも解説しています。

・クラウドフレアに「発信者情報開示」命令、海賊版サイト「ブロッキング」に影響も|弁護士ドットコムニュース

2.インターネット上の著作権の準拠法と裁判管轄
(1)準拠法と裁判管轄
国をまたぐ法的紛争が発生した場合、どの国の法律が適用されるのか(準拠法の問題)、また、どの国の裁判所で争うことができるのか(裁判管轄の問題)の2点が問題となります。

(2)準拠法
著作権など知的財産権侵害という権利侵害に基づく損害賠償請求の法的性質は不法行為であり、これについては通則法(「法の適用に関する通則法)17条により、原則として、「加害行為の結果が発生した地」の法律が準拠法になるとされています。

この「加害行為の結果が発生した地」について、裁判例はP2Pファイル交換サービスにおける著作権侵害が争われた事案において、サーバー自体はカナダにあったものの、ウェブサイトなどが日本語で書かれ、当該サービスによるファイルの送受信のほとんどが日本国内で行われていたとして、旧通則法11条(現17条)および条理により、不法行為および差止請求権は日本の著作権法が準拠法となると判断したものがあります(ファイルローグ事件・東京高裁平成17年3月31日判決)。(TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』568頁(佐藤力哉))

(3)裁判管轄
つぎに、インターネット上で著作権が侵害されている場面など、当事者間が契約関係になく、当事者間に裁判に関する管轄の合意がない場合の裁判管轄について、民事訴訟法はつぎのように規定しています。

①被告の住所等による管轄
被告が法人である場合、その主たる事務所または営業所が日本にある場合、日本の裁判管轄が認められます。(民事訴訟法3条の2第3項)

②日本で事業を営む外国法人
日本で事業を営む外国法人に対する訴訟においては、当該訴えが「その者の日本における業務に関するものであるとき」は日本の裁判管轄が認められると規定されています。(同3条の3第5号)

③不法行為
不法行為については、「不法行為地が日本国内にあるとき」には、日本の裁判管轄が認められると規定されています(同3条の3第8号)。この「不法行為地が日本国内にあるとき」については、不法行為の行為地または結果発生地が日本国内にある場合を含むとされています。(TMI・前掲571頁(太田知成))


(4)クラウドフレアの事案について
本日、弁護士ドットコムで報道された内容によると、本件訴訟の山岡弁護士は「クラウドフレアの配信設備が国内にあることに着目」して申立てを裁判所に行ったとされており、本件東京地裁もファイルローグ事件同様に、準拠法を日本の著作権と認め、また、(3)の①から③までのいずれかの条文を適用して日本の裁判管轄を認めたものと思われます。

3.海賊版サイトのブロッキングの議論への影響
「漫画村」などの漫画の違法な海賊版サイトは、クラウドフレア社のようなCDNサービスを利用しているものが多いとされています。そして同社などが日本の権利者などからの権利侵害解消のための申し出に応じないことから、カドカワの川上量生氏など海賊版サイトのブロッキングに賛成する論者は、ブロッキングの立法化は不可欠であると主張してきたところです。

■参考
・カドカワ川上量生氏、クラウドフレア社は法的措置では対応できないという見解を示す|Yahoo!(山本一郎)

しかし、本日の東京地裁はクラウドフレアへのキャッシュファイルの削除、発信者情報の開示などを認め、日本の法令と日本の裁判所がインターネット上での著作権などの紛争に有効であることを示しました。これはファイルローグ事件などとともに、海賊版サイトのブロッキングの推進派の主張の前提を覆すものです。

今回の東京地裁の判断は、現在、国の知的財産戦略本部の審議会で議論が行われている、海賊版のブロッキングの立法化の是非の議論に影響するところが大きいと思われます。

■参考文献
・TMI総合法律事務所『IT・インターネットの法律相談』568頁、571頁
・清水陽平・神田知宏・中澤佑一『ケーススタディ ネット権利侵害対応の実務』83頁、44頁

IT・インターネットの法律相談 (最新青林法律相談)

ケース・スタディ ネット権利侵害対応の実務-発信者情報開示請求と削除請求-

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