なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2019年03月

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1.はじめに
本日の新聞報道などによると、仮想通貨「モネロ」の採掘(マイニング)のために他人のパソコンを無断で作動させるプログラム「コインハイブ」(Coinhive)をウェブサイト上に保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管罪に問われたウェブデザイナーの男性の刑事事件の判決が本日、3月27日に横浜地裁で出され、同判決は、「不正な指令を与えるプログラムに該当すると判断するには、合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡したとのことです。(求刑罰金10万円。)これはナイスな司法判断です。

2.横浜地裁判決の概要
本日の朝日新聞によると、横浜地裁判決の判旨はおおむねつぎのようであったそうです。

『判決は、コインハイブが閲覧者の同意を得ていないことなどから、「人の意図に反する動作をさせるプログラムだ」と認定した。一方で、①閲覧者のPCに与える消費電力の増加は広告と大きく変わらない②当時、コインハイブに対する意見が分かれており、捜査当局から注意喚起や警告もなかった――などと指摘。「社会的に許容されていなかったと断定できない」として、ウイルスには当たらないと結論づけた。』
(「コインハイブ裁判 無罪の男性「一安心という気持ち」朝日新聞2019年3月27日付より)

3.不正指令電磁的記録作成等罪
今回の事件で問題となった、不正指令電磁的記録作成等罪(刑法168条の2、168条の3)は、平成23年に新設された比較的新しい罪です。

(不正指令電磁的記録作成等)
第168条の2 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
二 (略)
(略)

(不正指令電磁的記録取得等)
第168条の3 正当な理由がないのに、前条第一項の目的で、同項各号に掲げる電磁的記録その他の記録を取得し、又は保管した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する

不正指令電磁的記録作成等罪が成立するためには、電子計算機(パソコン、携帯電話など)について、「意図に反する」(168条の2第1項1号)動作をさせる「不正な指令」(1項1号)を与える電磁的記録(コンピュータウイルス)を作成・提供・供用し(1項・2項)、あるいは取得・保管したこと(168条の3)が必要となります。

この点、「意図に反する」とは、当該コンピュータプログラムの機能が一般的・類型的な使用者の意図に反するものをいうとされています。

この「意図に反する」について、本横浜地裁判決は、「「コインハイブが閲覧者の同意を得ていないことなどから、「人の意図に反する動作をさせるプログラムだ」と認定した」点は、まあ常識的な判断かと思われます。

つぎに、この「不正な指令」にプログラムが該当するか否かについては、「そのプログラムの機能を考慮した場合に社会的に許容しうるものであるかという点が判断基準となる」と解されています。「たとえば、使用者のサイト閲覧の履歴から使用者の嗜好に応じたバナー広告を表示させるアドウェアなどは「不正な指令」からは除かれるが、詐欺目的のワンクリックウェアなどはこれに含まれる」とされています(西田典之『刑法各論 第7版』413頁)。

今回のコインハイブ事件は、コインハイブというプログラムが、「不正な指令」との関係で適法とされる「使用者のサイト閲覧の履歴から使用者の嗜好に応じたバナー広告を表示させるアドウェア」とどこが違うのかという点が大きな争点となりました。

この点、本横浜地裁判決は、「①閲覧者のPCに与える消費電力の増加は広告と大きく変わらない②当時、コインハイブに対する意見が分かれており、捜査当局から注意喚起や警告もなかった」と判断した上で、「「社会的に許容されていなかったと断定できない」として、ウイルスには当たらない」との無罪判決を出したことは極めて妥当な司法判断であったと思われます。

そもそも、この不正指令電磁的記録作成等罪については、構成要件の一つが「不正な指令」すなわち、「社会的に許容しうるものであるか」という非常に漠然としたものになっている点が罪刑法定主義の観点から学説より批判されています。

また、刑事法の大原則は、「疑わしきは被告人の利益に」であって、「疑わしきは警察・検察の利益に」ではありません。コインハイブの事例に関しては、警察・検察当局は、グレーな問題であるから立件して処罰してしまえという非常に前のめりなスタンスをとっています。しかしグレーな分野は大原則に立ち戻って、「疑わしきは被告人の利益に」と考えるべきです。

そして国会は今回の横浜地裁判決を受けて、不正指令電磁的記録作成等罪の構成要件の明確化などの刑法の一部改正の活動をすみやかに行うべきです。

■関連するブログ記事
・サイト等にCoinhive等の仮想通貨マイニングのプログラムを設置するとウイルス作成罪(不正指令電磁的記録作成罪)が成立するのか?
・ウェブサイトに仮想通貨のマイニングのソフトウェアやコードを埋め込む行為は犯罪か?

■参考文献
・西田典之『刑法各論 第7版』413頁
・渡邊卓也『ネットワーク犯罪と刑法理論』263頁
・鎮目征樹「サイバー犯罪」『法学教室』2018年12月号109頁


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刑法各論 <第7版> (法律学講座双書)

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1.はじめに
腰痛などで通算500日以上入院した患者による医療保険の入院給付金請求という典型的なモラルリスク事案に関する判決が出されていました。裁判所は患者側の請求を棄却しています(鹿児島地裁平成29年9月19日判決・請求棄却・確定、判例タイムズ1456号236頁)。

2.事案の概要
Xは平成17年10月に、損害保険会社Y(損保ジャパン日本興亜)との間で、ケガ・疾病による入院・手術などを保障する医療保険である、「新・長期医療保険」(Dr.ジャパン)の保険契約を締結した。入院給付金日額は1万円であった。

本件保険契約の約款上、入院給付金の支払事由としての「入院」とは、医師による治療が必要な場合であって、かつ、自宅等での治療が困難なため病院または診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念することをいうと規定されていた。

Xは平成23年2月ごろより腰痛を訴え整形外科病院に16日間入院をしたことを皮切りに、腰痛による入院や、不安感を訴え精神科病院への入院などを平成27年までに合計9回繰り返し、その入院日数は合計500日を超えた。

これらの入院に基づいてXがYに対して約462万円の入院給付金の支払いを請求したところ、Yが拒んだためXが提起したのが本件訴訟である。

3.判旨
本件保険契約における入院給付金の支払事由としての「入院」に該当するか否かの判断は、契約上の要件の該当性の判断であり、前提事実(略)のとおりの本件保険契約における「入院」の定義(医師による治療が必要であり、かつ自宅等での治療が困難なため、病院又は診療所に入り、常に医師の管理下において治療に専念すること)からしても、単に当該入院が医師の判断によるということにとどまらず、同判断に客観的な合理性があるか、すなわち、患者の症状等に照らし、病院に入り常に医師の管理下において治療に専念しなければならないほどの医師による治療の必要性や自宅等での治療の困難性が客観的に認められるかという観点から判断されるべきものと解される。
 なお、担当医師による判断の具体的な内容やその医学的な根拠は、上記の「入院」該当性の判断に際して一つの重要な事情とはなるものの、通常、医師の判断によらない入院を想定できないことからしても、医師による判断の存在という外形的な事情のみからは、直ちに「入院」該当性が推認されるとまではいえないというべきである。』

『ア 本件入院1
 入院時の検査所見は、入院の必要性を基礎付けるものであるとはいえず(略)、入院日である平成23年2月1日において、Xは、腰を押さえながらも独歩は可能だったのであり、翌2日にも喫煙のため独歩で移動し、同月11日にはほぼ終日外出し、その後も頻繁に外出・外泊していることからすれば、Xの症状が自宅等での治療が困難であるほどの重いものであったとはいえない。(略)これらのXの症状やその後の治療内容等に照らせば、本件入院1においては、(略)客観的な契約上の要件である「入院」該当性の根拠とすることはできないというべきである。』

このように判示し、本判決はXのすべての入院は医療保険契約上の「入院」に該当しないとしてXの請求を退けています。

4.検討
医療保険、入院特約などにおける入院給付金の支払い要件の一つである「入院」の該当性について、実務書は、医師の判断とあわせて、「保険制度の基本である収支相当の原則および給付反対給付均等の原則からみて、その支払要件を合理的・画一的・公平に規制する必要があり、それに合致した保険事故に対してのみ給付されるのが当然の前提とされていること、入院当時の一般的な医学上の水準によるべき」と解説しています(長谷川仁彦など『生命・傷害疾病保険法の基礎知識』249頁)。

裁判例も、「本件保険特約が設けられている趣旨およびその内容に鑑みると、本件入院要件の有無の判断は、通常は医師の判断を尊重して決定されるであろうが、いかなる場合においても、一旦なされた医師の判断を無条件に尊重して決定されなければならないというものではなく、(略)客観的、合理的に行われるべきである。このように解することは、保険契約が有する射幸性による弊害を防止し、保険契約者一般の公平を守るという点に照らしても妥当である。」と判示するものがあります(札幌高裁平成13年6月13日判決・生命保険判例集13巻499頁)。

本判決はこのような保険会社の実務・裁判例に沿う考え方をとった妥当な判決であると思われます。

なお、最近の本判決に類似した事案として、ケガを理由とする不必要な通院給付金請求というモラルリスク事案が争われたつぎの裁判例が存在します(東京地裁平成29年4月24日判決)。

・総合格闘技選手の練習によるケガは傷害共済の「不慮の事故」に該当するか?(東京地裁平成29・4・24)-モラルリスク・不必要な通院

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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1.はじめに
親会社が自社および子会社を含むグループ会社においてコンプライアンス(法令遵守)のための相談窓口制度を整備した場合、一定の場合には当該親会社が子会社の従業員など、労働契約関係にない者にも適切に対応すべき信義則上の義務を負うとする注目すべき初の最高裁判決が平成30年2月に出されました(最高裁平成30年2月15日第一小法廷判決・イビデン事件)。

2.事案の概要
Y社(イビデン株式会社)はA社、B社など子会社をグループ会社とする親会社であり、自社およびグループ会社に対して、コンプライアンス(法令遵守)のための体制(本件法令順守体制)を整備し従業員に対するコンプライアンス相談窓口制度(本件相談窓口)を設置していた。

XはA社の契約社員として雇用され、Y社の事業所内にある工場(本件工場)においてA社がY社から請け負っている業務に従事していた。

Xは平成21年11月頃から、B社の管理職Cと交際をはじめたが、しだいに関係が疎遠となり、平成22年7月頃にはXはCに対して別れたい旨の手紙を手交するなどした。しかし、同年8月以降、本件工場において、Cは就業時間中にXに対して復縁を求める発言を複数回行い、またCはXの自宅に押しかける等の行為を行った(本件行為1)。

このようなCの言動を受け、Xは体調を崩し、本件行為1について直属の上司に相談したが、直属上司は事実確認などの対応を行わなかった。そのため平成22年10月にXはA社を退職した。その後、同年同月、Xは派遣会社を介してY社の別の事業所内における業務に従事するようになった。

ところが、CはXのA社退職後から再就職までの期間や、平成23年1月頃にもXの自宅付近で複数回、Cの自動車を停止させるなどの行為を行った(本件行為2)。

Xの元同僚であるDは、XからCの本件行為2を聞き、平成23年10月、Xのために本件相談窓口に対してCがXの自宅近くに来ているようなので、Xに対する事実確認等の対応をしてほしい旨の申出を行った(本件申出)。

本件申出を受けたY社は、A社およびB社に依頼してCその他の関係者に対して聞き取り調査などを行った。しかしA社およびB社から、本件申出に係る事実は存在しない旨の報告があったため、Y社はXに対する事実確認は行わず、平成23年11月、Dに対して本件申出に係る事実は確認できなかったと回答した。

これに対して、XがY社に対して、Y社はグループ会社に対するコンプライアンス体制を整備していたのであるから、同体制を整備したことによる相応の措置を講じるなどの信義則上の義務に違反したとして、債務不履行または不法行為による損害賠償を求めたのが本件訴訟である。

3.判旨
判旨1
Yは、本件当時、(略)本件法令遵守体制を整備していたものの、Xに対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか、Xから実質的に労務の提供を受ける関係にあったとみるべき事情はないというべきである。また、Yにおいて整備した本件法令順守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY自らが履行し又はYの直接間接の指揮監督の下で勤務先企業に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。以上によれば、(略)YのXに対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない。』

判旨2
(ア)もっとも、Yは、(略)本件相談窓口を設け、(略)周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。(略)これらのことに照らすと、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、Yは、相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ、上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。

(イ)これを本件についてみると、Xが本件行為1について本件相談窓口に対する相談の申出をしたなどの事情がうかがわれないことに照らすと、Yは、(略)上記アの義務を負うものではない。

(ウ)また、Yは(略)DからXのためとして本件行為2に関する相談の申出を受け(たが)、(略)本件法令順守体制の仕組みの具体的内容が、Yにおいて本件相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。本件申出に係る相談の内容も、Xが退職した後に本件グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、Cの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。しかも、本件申出の当時、Xは、既にCと同じ職場では就労しておらず、本件行為2が行われてから8か月以上経過していた。』

このように判示して、本判決はXのYに対する請求を斥けました。
(なお、高裁段階でXのCに対する損害賠償請求は認容されています。)

4.検討
(1)セクハラ・安全配慮義務
X側は本件訴訟において、使用者は従業員に対して安全配慮義務を負うのであるから、男女雇用機会均等法上、安全配慮義務の一内容として、セクハラ行為に対する措置義務を負うと主張していました。

使用者がセクハラ(セクシュアル・ハラスメント)に関して適切な対応を怠った場合について裁判例は、労働契約上の職場環境配慮義務違反であるとして使用者の債務不履行責任あるいは使用者責任を認めるものがあり(三重県厚生農協連合会事件・津地裁平成9年11月5日、株式会社丙企画事件・福岡地裁平成4年4月16日など)、学説もこれを支持しています(菅野和夫『労働法 第11版補正版』263頁、土田道夫『労働契約法 第2版』132頁)。

しかし上記の裁判例は、被害者の従業員が使用者に直接雇用されていた事案であり、本件の事例のように直接雇用されていない場合が問題となります。

この点、最高裁は、直接の労働契約関係にない当事者間において安全配慮義務が認められるかについて、“両者間に労務提供の場における指揮監督・使用従属の関係が存在するかという実態”に着目し、「雇用契約に準ずる法律関係上の債務不履行」として認める考え方をとっています(最高裁昭和55年12月18日、最高裁平成3年4月11日)。そして学説も、労務の管理支配性・実質的指揮監督関係があること等、労働契約と同視できるような関係がある場合には安全配慮義務を認める考え方をとっています(土田・前掲550頁)。

(なお、男女雇用機会均等法は使用者に対するセクハラ防止規定などを設けていますが、これらの規定は被害者の従業員に対して作為・不作為の請求権や損害賠償請求権を与えるような私法上の効力はないと解されています(菅野・前掲262頁)。そのため被害者の労働者は従来どおり、加害者や使用者に対して債務不履行または不法行為による損害賠償責任を争うことになります。)

このような判例・学説をもとに本件事案を考えると、XはA社の契約社員であり、Y社の事業所内にある本件工場においてA社がY社から請け負っている業務に従事し、その後、Xは派遣会社を介してY社の別の事業所内における業務にしており、裁判所が認定した事実による限り、Yは「Xに対しその指揮監督権を行使する立場」になく、またYは「Xから実質的に労務の提供を受ける関係」にもなく、さらにYには「Yにおいて整備した本件法令順守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY自らが履行し又はYの直接間接の指揮監督の下で勤務先企業に履行させるものであったとみるべき事情」もなかったようであり、最高裁の判旨1はやむを得ないように思われます。

(2)親会社がグループ会社に労働者に対する法令遵守に関する相談体制を整備した場合、信義則上の対応義務を負うのか
つぎに、本最高裁判決は、判旨2において、Yは本件相談窓口制度を設け、周知、対応等しており、その趣旨がグループ会社の業務に関する法令等違反行為の予防、対処にあることに照らして、「本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、Yは相応の対応をするよう努めることが想定されて」いたとし、一定の場合には、Yのような立場にある主体がグループ子会社の従業員等、労働契約関係にない者の相談に適切に対応すべき信義則上の義務を負うと判示しており、注目されます(竹内(奥野)寿「グループ会社の就労者に対する相談体制と信義則上の対応義務」『ジュリスト』1517号4頁)。

そして同じく判旨2は、その一定の場合とは、「①上記申出の具体的状況いかん」、「②体制として整備された仕組みの内容」、「③当該申出に係る相談の内容等」の3点の観点から判断されるとしています。

その上で、最高裁は、本件事案はこの①~③の観点からみて、Yが信義則上、対応を行う義務を負う場面ではなかったとして、結論としてXのYへの請求を退けています。

とはいえ、本最高裁判決は、親会社がグループ会社全体に対してコンプライアンス体制を整備し相談窓口制度を設置した場合、一定の場合には直接の労働契約関係にない者の相談にも適切に対応すべき信義則上の義務を負うと判断を示したものであり、従来の判断をよりも親会社等が負う相談制度における対応義務の範囲を広げていると考えられます。傘下にグループ企業を持つ親会社の管理部門、法務・コンプライアンス部門は、グループ企業における相談体制の対応に漏れや抜けがないか今一度確認が必要であろうと思われます。

■参考文献
・『判例時報』2383号15頁
・竹内(奥野)寿「グループ会社の就労者に対する相談体制と信義則上の対応義務」『ジュリスト』1517号4頁
・菅野和夫『労働法 第11版補正版』263頁
・土田道夫『労働契約法 第2版』132頁
・竹林竜太郎・津田洋一郎「イビデン判決で見直すグループ内通報」『NBL』1119号20頁

労働法 第11版補正版 (法律学講座双書)

労働契約法 第2版

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ITパスポートの試験を受けてきたのですが、公式サイトで自分の成績をみると、なんとか7割を取れていたようで、合格したようでした。

試験は紙の問題冊子とマークシートではなく、パソコンで行うCBT方式です。試験中は、はっきり正解できたと感じる問題が少なく、手ごたえのないまま全100問を解くという感じでしたが、だらだらやっても意味がないので、約60分で解き終えました。

試験前は約1か月ほど、土日に問題集を中心に勉強しました。ネット上のまとめサイトなどを参考に、間久保恭子『かんたん合格ITパスポート過去問題集』を購入し、この問題集の前半部分の、「よく出る問題集」の部分(274問、約170頁)を3周ほどして、試験前日に自分が間違った部分を読み直しました。時間がとれなかったので過去問を解くことができなかったのですが、何とか合格できたようです。

会社員経験のある方は、職務上の知識・経験から、問題文を読めば常識で何とかなる問題も少なからずあると思われます。

また、マネジメント系・テクノロジ系は、例えば、WBSのような英字の3文字略語がでてきて最初は面食らいますが、問題集の解説部分にある、その略語の正式名称(Work Breakdown Structureなど)のスペルを読むと、知識として頭に定着しやすいと思われます。

なお、この試験は3分野とも一定程度は計算問題が出題されるのですが、私は勉強時間がとれなかったため、見切りをつけて計算問題は勉強しませんでした。最初から勉強する部分と捨てる部分を考えることも試験対策上、有効かもしれません。

(全文PDF・単語帳アプリ付)かんたん合格 ITパスポート過去問題集 2019年度 春期

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1.はじめに
喧嘩による受傷・後遺症について、自動車保険の闘争行為免責が認められためずらしい裁判例が神戸地裁で出されていました(神戸地裁平成30年5月10日判決、金融・商事判例1556号32頁)。

2.事案の概要
(1)事案
平成25年7月10日午後5時ごろ、神戸市のAパチンコ店(本件パチンコ店)の駐車場(本件駐車場)の出入り口付近において、Y1(被告)は、X(原告)の運転する自動車がY1の自動車(Y1車)と衝突しそうになったことに立腹し、Xの運転する自動車の前にY1車を停止させ、X・Y1はそれぞれその場で自動車を降りて口論となった。

その後、Y1は「もうええわ」とその場を立ち去ろうとY1車に乗り発進させようとしたところ、XはY1を追いかけて解放された状態のY1車の運転席ドアの内側に入り、エンジンキーを取ろうとしてY1とXはもみあい状態となった。さらにその後、Xの知人Bが本件駐車場に来てXの加勢をしようとY1車に近づいてきたのをみたY1は、XがY1の左肩の襟の辺りをつかみ、Y1を助手席に押し込もうとしていたところ、その場を逃走したいと考え、Y1車の前に別の自動車が停止していたため、Y1車を後方に発進させた。

このY1車の後方発進により、Xは約5m引きずられ、顔面、右肩、左胸、両手、右膝、右足を負傷する本件事故が発生した。Xは整形外科で頸椎捻挫、右腋穿挫傷と診断され、通院治療を受け、後遺症を負った。

(2)保険契約の状況
Y1の妻Bは、損害保険会社Y2との間で、対象となる車をY1車、被保険者をY2とする任意自動車保険契約を締結していた。当該自動車保険の普通保険約款には、保険契約者、被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の免責条項(故意免責条項)が規定されていた。

また、Xは損害保険会社Y3との間で、被保険者をXの妻Cとする自動車保険契約を締結していたところ、同保険契約には無保険車傷害特約が付加されていた。同特約の約款条項には、被保険者等の闘争行為によって生じた損害に対しては保険金を支払わない旨の免責条項(闘争免責条項)が規定されていた。

(3)訴訟提起
XはY1に対して不法行為に基づく損害賠償として約1345万円の支払いを、Y2損害保険会社に対しては約1345万円の支払いを、Y3損害保険会社に対しては約1079万円の支払いを求めて提訴した。

(4)主な争点
争点①
対人・対物賠償保険における故意免責の適否
争点②
無保険車傷害特約における闘争行為免責の適否

3.判旨(一部認容・一部棄却、控訴後取下げ)
判決はY1に対する約130万円の支払いを命じたものの、Y2およびY3に対する請求は棄却。

(1)争点① 対人・対物賠償保険における故意免責の適否
『そうすると、Y1は、Xと至近距離にあり、現にXに身体を掴まれていたのであるから、Y1車を後退させる際、Xが運転席ドアの内側におり、Y1を掴んでいたことを認識していたと認めるのが相当であり、そのような認識である以上、Y1は、そのような状態でY1車を後退させれば、重量がある金属製のY1車と生身のXが接触し、これによりXが転倒するなどして負傷するという結果を認識・認容していたとみるのが自然であるから、Y1に傷害の確定的故意を認めるのが相当である。
(略)

したがって、被保険者であるY1は、Y1車の後退からXの傷害が発生することを認識しながら、Y1車を後退させ、Xを負傷させたと認めるのが相当であるから、対物の関係も含めて、Y2に故意による免責が認められ、Y2は、Xに対し、対人・対物賠償保険金の支払義務を負わないと認めるのが相当である。』


(2)争点② 無保険車傷害特約における闘争行為免責の適否
『保険約款における闘争行為とは、被保険者の任意の意思をもってする闘争を意味し、車内での被保険者相互のけんかや、自動車同士のぶつかり合い等がこれにあたるが、正当防衛の範囲内の行為は含まれないと解される(証拠略)。
(略)

以上に(略)照らすと、被保険者であるXは、任意の意思をもって、Y1に暴行(有形力の行使)を加えるなど一連の闘争を行い、その結果、その場から逃げようとしたY1によるY1車の後退を誘発し、これにより負傷したことが認められる一方、XにY1車の後退から身を守るための正当防衛や正当行為を認めることはできないから、Xは、任意の意思をもって、闘争を行い、これにより本件事故が発生し、Xが負傷したと認めるのが相当である。

したがって、Y3に闘争行為による免責が認められ、Y3は、Xに対し、無保険車傷害特約に基づく保険金の支払義務を負わないと認めるのが相当である。』


4.闘争行為免責条項について
保険約款がけんかなどの闘争行為を免責とする趣旨について、学説は、「闘争行為…は、傷害の発生の危険を著しく高める行為であるし、また、…被保険者の故意による傷害の惹起に準ずる非難可能性のつよい行為であるということにより保険会社免責とする趣旨である」とする見解(西島梅治『註釈自動車保険約款』228頁)、「保険の倫理性ないし信義則」に求める見解(梅津昭彦「闘争行為免責」『損害保険判例百選 第2版』176頁)、「受傷自体が偶然性を欠くこと、及び自らの意思で受傷の機会を作り出しておきながら保険金請求をすることが信義則に反すること」とする見解(大澤康孝「傷害保険約款中の闘争行為免責の適用事例」『ジュリスト』997号98頁)としています。

裁判例は闘争行為免責の趣旨について、「被保険者にとって、闘争という第三者とお互いに有形力を行使して争う過程に身を置く以上、相手方の攻撃により自分が受傷することは当然予測できるから、受傷自体が偶然性を欠くといえるし、また、被保険者が、自らの意思で闘争行為を開始して受傷の機会を作り出しておきながら、その結果として生じた受傷につき保険金の請求をすることが、信義誠実の原則に反するからである」と判示するものがあります(大阪高裁昭和62年4月30日判決、判例時報1243号、梅津・前掲176頁)。

本件事件のパチンコ店の駐車場におけるXとY1との一連の喧嘩の状況をみると、「闘争という第三者とお互いに有形力を行使して争う過程」に該当するうえに、正当防衛・正当行為と評価することは難しく、本判決が保険会社を闘争行為免責条項により保険金支払義務なしと判断したことはやむを得ないのではないかと思われます。

本件訴訟に類似する事例としては、損害保険のものとして、東京地裁平成12年7月26日判決(ウエストロー・ジャパン2000WLJPCA07260009)、大阪地裁平成26年6月10日判決(ウエストロー・ジャパン2014WLJPCA06106001)が存在します。

また、生命保険の故意・重過失に関するものとして、大阪高裁平成2年1月17日判決(判例タイムズ721号227頁)、大阪地裁平成元年3月15日判決(判例タイムズ712号237頁)が存在します(長谷川仁彦・潘阿憲ほか『生命保険・傷害疾病定額保険契約法 実務判例集成(下)』150頁)。

■参考文献
・『金融・商事判例』1556号32頁
・『判例時報』1243号120頁
・鴻常夫『註釈自動車保険約款』〔西島梅治〕228頁
・梅津昭彦「闘争行為免責」『損害保険判例百選 第2版』176頁
・大澤康孝「傷害保険約款中の闘争行為免責の適用事例」『ジュリスト』997号98頁
・長谷川仁彦・潘阿憲ほか『生命保険・傷害疾病定額保険契約法 実務判例集成(下)』150頁











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