なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2019年04月

アクセス警告方式の図
(ACTIVEのアクセス警告方式のイメージ図。総務省サイトより。)

1.はじめに
出版業界からの強いロビー活動により、政府与党はネット上のマンガの海賊版対策を相次いで検討しているところですが、いわゆる「ブロッキング」、また著作権法の一部改正による「ダウンロード違法化対象拡大」などの案は、それぞれの問題点の大きさから頓挫してきました。そのようななか、政府は4月19日より総務省の検討委員会において、マンガの海賊版対策として、「アクセス警告方式」の検討を始めました。しかし、マンガの海賊版対策としてアクセス警告方式は妥当なものといえるのでしょうか?

2.アクセス警告方式
「アクセス警告方式」とは、「ユーザー(国民)の同意に基づき、インターネット接続サービスプロバイダ(ISP)において、ユーザーのネット上での全てのアクセス先をチェックし、特定の海賊版サイトへのアクセスを検知した場合、「本当に海賊版サイトにアクセスしますか? はい/いいえ」等の警告画面を表示させる仕組み」とされています(「総務省 資料1-5 アクセス抑止方策に係る検討の論点(案)」2頁より)。

・インターネット上の海賊版サイトへのアクセス抑止方策に関する検討会(第1回)配布資料|総務省

このアクセス警告方式は、サイバー攻撃に対応するためのACTIVE(Advanced Cyber Threats response InitiatiVE)という取り組みにおいて採用されているものを、2018年8月のブロッキングの是非が検討された「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議5回」において、憲法の宍戸常寿・東大教授がブロッキングに代わる案として提案したものです(2018年8月24日宍戸常寿「アクセス警告方式について」、2018年8月30日宍戸常寿「アクセス警告方式について(補足)」)。

宍戸教授はその提案書において、「通信の秘密の利益の放棄に係る「真性の同意」の条件につき、ACTIVEの整理を参考にすれば、一般的・類型的に見て通常の利用者による許諾が想定でき、オプトアウトを条件としつつ、以下の条件を満たせば、海賊版サイトについてもアクセス警告方式を導入することは可能ではないか」として、その条件を、「①静止画ダウンロードが違法化されること、②警告画面の対象となる海賊版サイトの基準が合理的かつ必要最小限度の範囲であること、③海賊版サイト該当性が公正に判断されていること」の3点としています。

すなわち、宍戸教授のアクセス警告方式をマンガ海賊版サイトに転用するという提案は、国会での審議を経た立法手当ではなく、民間企業たるISPにおける規約・約款的な措置で海賊版サイトへの対応を行ってしまおうというものです。

3.通信の秘密
この点、法令をみると、憲法21条2項が通信の秘密について定め、業法である電気通信事業法4条1項も通信の秘密を事業者に義務づけ、同179条は通信の秘密侵害に対する罰則を置いています。

憲法
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

電気通信事業法
第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

憲法21条2項後段が国民の基本的人権として、「通信の秘密」を保障しているのは、通信が表現行為の一つであるからだけでなく、通信の秘密が私生活の保護、すなわち憲法13条に基づくプライバシーの権利を保障の根本としているとされています(芦部信喜『憲法 第7版』230頁)。

そのため、通信の秘密の対象は、手紙やメールの本文、電話の通話内容などの通信の内容が含まれることは当然として、通信の宛先・住所、電話番号、メールアドレスなどの通信データ・メタデータなどの通信の外形的事項も含まれると判例・学説・実務上理解されています(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁)。

ところで、通信の秘密も基本的人権ではあるものの無制約ではなく、その規制の適法性は「必要最小限度」の制約であるか否かにより判断されます(長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕)。

この点、昨年8月に海賊版サイト対策にアクセス警告方式の転用を提案した宍戸教授が、その前提条件の一つとして「静止画ダウンロードが違法化されること」をあげているのは、この必要最小限度の要件をクリアするためであろうと思われます。

宍戸教授は、上であげた2018年8月30日付の「アクセス警告方式(補足)」において、この静止画ダウンロード違法化がなされないままアクセス警告方式が行われることの問題をつぎのように説明しています。

一般的・類型的に見て通常の利用者による許諾を想定できるといえる典型的な状況が利用者本人にとっての不利益を回避する場合であり、利用者に違法行為をさせないという点で明確である。仮に、海賊版サイトの閲覧行為が利用者本人にとって法的に消極的に評価されることを明確化できないのであれば、海賊版サイトの閲覧行為がマルウェア感染等別の形で利用者本人の不利益になるおそれが一般的にあるかどうかによることになる(あるいは、そのようなおそれのある海賊版サイトに警告表示を限定する等の工夫が必要になる)。特段そのような事情がないにもかかわらず警告方式を用いようとすることは、約款による同意が通信の秘密の放棄と評価できないおそれがあるとともに、利用者に対する警告の感銘力も低下し、対策の実効性も低下する点にも注意が必要である。


このように、アクセス警告方式の提案者本人である宍戸教授ですら、静止画ダウンロード違法がなされないままのアクセス警告方式の導入は困難としているのですから、現段階でのアクセス警告方式の導入は通信の秘密に対する必要最小限度の制約を超えたものであり、法的に無理であるといえます。

また、かりに海賊版サイト対策のためにアクセス警告方式を導入すると、ISPはすべてのユーザー・国民のすべてのウェブサイトのアクセス先を24時間365日チェックし続けることになるわけですが、これも「必要最小限度」の度合いを超えており、通信の秘密の侵害となるのではないでしょうか。

総務省は、通信の秘密のうちアクセス先・URLなどの通信データ・メタデータを取得しているだけだから通信の秘密侵害にならないと主張するようですが、アクセス先・URLなどの通信データ・メタデータなどの外形的事項も通信の秘密の保障の範囲内であることは、憲法・情報法の判例・通説・実務がこれまで認めてきたところです(長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕、曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁、大阪高裁昭和41年2月26日判決)。

同時に、電気通信事業法3条は、電気通信事業者による検閲を禁止していますが、ISPによる24時間365日のユーザーのネット上の挙動のモニタリングは、この検閲に抵触しないのかも問題になると思われます。

4.約款論
さらに、宍戸教授および総務省は、「アクセス警告方式は、つぎの3要件を満たせば、通常緒の利用者であれば許諾すると想定されるので、約款に基づく事前の包括的同意であっても有効である」と主張しています。これは民法・商法の分野で議論されてきた、約款という制度を説明するための民法学者のとる意思推定理論にたっているものと思われます。

意思推定理論とは、「約款の開示とその内容に合理性があるならば、契約としての意思の合致を擬制してもよい」というものです(近江幸治『民法講義Ⅴ契約法[第3版]』24頁)。

この点、意思推定理論によると、約款には「合理性」が必要となります。しかし、静止画ダウンロードが違法化されていない現時点においては、海賊版サイトへのアクセスが別に違法でもなんでもないにもかかわらず、ISPが24時間365日、ユーザー・国民のネット上の挙動をモニタリングしつづけるという「約款」は、あまりにも国民の通信の秘密を侵害しており、当該約款には合理性が無く違法ということになるのではないでしょうか。

むしろ海賊版サイト対策のためにISPが24時間365日、ユーザー・国民のネット上の挙動をモニタリングしつづけることは、ユーザー・国民の法令上の権利を不当に制限する「不当条項」に該当するとして、消費者契約法10条、改正民法548条の2第2項に照らして無効と裁判所等に判断される可能性があるのではないでしょうか。

5.サイバー攻撃対策のアクセス警告方式を海賊版サイト対策に持ってくることの違和感
最後に、そもそも宍戸教授や総務省などが、サイバー攻撃対策のためのACTIVEのアクセス警告方式を海賊版サイト対策に持ってくることに、強い違和感というか、法的バランスの悪さを感じます。

ACTIVEのアクセス警告方式も24時間365日すべてのユーザーのすべてのネット上の挙動をモニタリングするという通信の秘密という基本的人権を侵害する制度なのですから、本来は通信傍受法などのように、国会での審議を経て立法手当をした上で行うべきです。

ただし、ACTIVEのアクセス警告方式は、サイバー攻撃から日本の個人・法人・国など社会全体のサイバーセキュリティを守るためという、刑法的にいえば社会的保護法益を守るという趣旨の制度であるがゆえに、かろうじて「アクセス警告方式=民間企業の約款」制度が不問にふされているだけであろうと思われます。

一方、今回問題となっている、マンガの海賊版サイトの件は、はっきり言ってしまえば、たかだか出版社と漫画家達の個人的・個社的な利益である財産的法益の侵害が問題となっているに過ぎません(漫画家の先生方には申し訳ございませんが)。社会全体のサイバーセキュリティの保護という社会的法益に比べれば非常に軽い保護法益です。

そもそもこの財産的な損失は、出版社などが民事訴訟を海賊版サイトに提起するなどして自己責任で何とかすべき筋の話です。国がこうも出版業界のために様々な政策案を検討してあげているのも、何らかの薄ら暗いものを感じさせます。

秤にかけられている対立利益が国民の重要な精神的利益である通信の秘密・プライバシー権であることをも考えると、ACTIVEのアクセス警告方式をそのままマンガ海賊版サイト対策にもってくることは法的に無理筋すぎると感じます。

例えるならば、出版社などの財産的利益の侵害という「はえ」を倒すのに、ブロッキングと同レベルに国民の通信の秘密を侵害するアクセス警告方式という「大なた」を立法手当もないままに振り回す行為は、日本の個人にも国家にもよいことがないと思われます。

■関連するブログ記事
・漫画の海賊版サイトのブロッキングに関する福井弁護士の論考を読んでー通信の秘密

■参考文献
・芦部信喜『憲法 第7版』230頁
・長谷部恭男『註釈日本国憲法(2)』435頁〔阪口正二郎〕
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説』51頁
・近江幸治『民法講義Ⅴ契約法[第3版]』24頁


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キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」
(調布市役所サイトより)

1.はじめに
調布市役所から週一ペースで配信されてくる市のメールマガジンの項目のなかに、「キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」(白百合女子大学)(2019.04.08)」という項目がありぎょっとしました。調布市役所ウェブサイトにも宣伝の掲示があります。

・キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」(白百合女子大学)|調布市サイト

もちろん私立大学である白百合女子大学がこのような宗教講座の公開講座を行うことは自由であり、民間企業のマスメディアなどがこれを宣伝・報道することも自由です。しかし、公権力である調布市がこの宗教講座である市民公開講座を市民に告知・宣伝することは、憲法20条、89条が規定する政教分離原則の観点から許されるのでしょうか?

2.政教分離原則
憲法20条1項後段は、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」と規定し、同3項は、「国及びその他の機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と規定し、国から特権を受ける宗教を禁止し、国家の宗教的中立性を明示しています。そして、憲法89条は、財政的な観点から政教分離を規定しています。

憲法

第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

このように国家と宗教の分離の原則を政教分離の原則と呼びますが、これは戦前の日本の国家神道のように、国家と宗教の一致による弊害を避けることや、国民個人のそれぞれの信教の自由を保障するための原則です。

3.裁判例
この憲法20条、89条の政教分離原則が争点となったリーディングケースである津地鎮祭事件において、最高裁は、国・自治体についてその「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為」は憲法20条により禁止される宗教的行為であると判示し、いわゆる「目的・効果基準」を採用しました(津地鎮祭事件・最高裁昭和52年7月13日判決)。

また、その後の愛媛玉串料訴訟なども、この目的・効果基準を厳格に運用し、自治体の行為を違憲とする判断を示しています(愛媛玉串料事件・最高裁平成9年4月2日判決、芦部信喜『憲法 第7版』164頁)。

4.調布市役所の行為を考える
ここで調布市役所の今回の行為をみると、まず、白百合女子大学の当該講座は、調布市の告知のページにリンクが貼られた同大学サイトの説明によると、

「現代の日本でいちばん必要なことは、 このイエスのもたらした新しい創造、新しいいのちの経験です。イエスが教会に委ねた使命を、 私たちの一人ひとりが自分のこととして引き受け、自分の周りから始めることが必要です。そのためには、イエスの中にあった神のいのちをしっかりといただき直して、現代の日本に証しすることが不可欠でしょう。」

・宗教講座「創造への道」|白百合女子大学サイト

などと説明されており、これは一般市民向けの一般教養講座ではなく、完全にキリスト教の宗教教育講座です。

そのため、よくある地域の大学の一般教養講座ではなく、白百合女子大学の今回の宗教教育講座を市の公式ウェブサイトを使って宣伝し、市公式メールマガジンでも配信・宣伝している調布市役所の行為は「目的として宗教的意義を持つ」と言わざるを得ません。

また、この調布市サイトの告知・宣伝を見た多くの調布市民は、「調布市においては行政からキリスト教が優遇されているのか」と感じるでしょう。つまり調布市の行為は、「効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進」にあたるといえます。

調布市の担当者の方々や、白百合大学の担当者の方々は「そんな大げさな」と言うかもしれません。しかし今回問題になっているのが、もしミッション系の私立大学のキリスト教に関する宗教教育講座ではなく、かりに例えば布田天神や日本青年会議所などが主催する「神道を学ぶ講座」「靖国神社を学ぶ講座」などであったらどう感じるのでしょうか?

したがって、調布市が白百合女子大学の宗教教育講座「キリスト教的視点に基づく講座「創造への道」について市公式ウェブサイトやメールマガジンなどで宣伝などを行っている行為は、憲法21条、89条の定める政教分離原則に照らして違法であるといえます。

もちろん、調布市が自治体として地元の各大学と相互友好協力協定を締結している趣旨はわかります。しかし、市は自由な活動が許される民間企業等ではないのですから、各大学の公開講座を宣伝する際にも、憲法や各種の法令に抵触しない範囲で宣伝などを行うべきと思われます。

もし調布市が憲法その他の法令を無視した行政運営を行うのであれば、それは地元住民からの住民監査請求、住民訴訟の提起などの法的リスクをはらむものになるでしょう(地方自治法242条、242条の2)。


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1.はじめに
親族の添え手による補助を受けて作成された自筆証書遺言が無効と判断された裁判例が東京地裁で出されていました(東京地裁平成30年1月18日判決・請求棄却・確定、金融法務事情2107号86頁)。

2.事案の概要
被相続人である女性Aに対して、本件訴訟の原告X1は長女、X2は二男、被告Yは長男であった。Aの主な財産は、東京都内の宅地および4階建ての建物であった(「本件不動産」)。

Aは平成22年8月に公正証書遺言を作成した(「平成22年遺言」)。その内容は、本件不動産はYに相続させ、その他の財産はX1、X2およびYに均等に相続させるというものであった。

つぎにAは、平成24年12月に自筆証書遺言を作成した(「平成24年遺言」)。この内容は、すべての財産をX1、X2およびYに均等に相続させるというものであった。平成24年遺言の作成当時、Aは自書能力を失っており、平成24年遺言は親族がAの手に手を添えて書かれたものであり、その様子が動画として記録されていた。

平成27年6月にAが死亡した。Yは、平成22年遺言に基づいて本件不動産を自己名義に所有権移転登記を行った。

これに対して、X1およびX2が、本件24年遺言は有効であるとして、Yに対して本件不動産の所有権移転登記の更生手続きを求めたのが本件訴訟である。東京地裁はつぎのように判示してX1らの主張をしりぞけた。

3.判旨
『(ア) 運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が民法968条1項にいう「自書」の要件を充たすためには、遺言者が証書作成時に自書能力を有し、かつ、上記補助が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みに任されていて単に筆記を容易にするための支えを借りたにとどまるなど添え手をした他人の意思が運筆に介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できることを要するものと解され(昭和62年第一小法廷判決参照)、本件の平成24年遺言の効力の判断においてもこれと別異に解すべき理由は見当たらない。
(略)

(イ) 自筆証書遺言の方法として、遺言者自身が遺言書の全文、日付及び氏名を自書することを要することとされているのは(民法968条1項)、筆跡によって本人が書いたものであることを判定でき、それ自体で遺言が遺言者の意思に出たものであることを保障することができるからにほかならず、自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり証人や立会人の立会いを要しないなど、最も簡易な方式の遺言であるが、それだけに偽造、変造の危険が最も大きく、遺言者の真意に出たものであるか否かをめぐって紛争の生じやすい遺言方式であるといえるから、自筆証書遺言の本質的要件ともいうべき「自書」の要件については厳格な解釈を必要とするというべきである。「自書」を要件とするこのような法の趣旨に照らすと、前記アのような条件の下でのみ「自書」の要件を充たすものと解するのが相当である(昭和62年第一小法廷判決参照)。

(ウ) Xらは動画によって本件遺言書の作成過程が記録されている点を強調するが、動画によって遺言書の作成過程が記録されたとしても、当該動画に記録された情報は遺言書そのものとは別個の媒体による情報であり、遺言書のみによって本人が書いたものであることを判定し、それ自体で遺言が遺言者の真意に出たものであることを保障することができない以上、作成過程が動画に記録されていることをもって直ちに「自書」の要件を充たすものと解したり、当該遺言を自筆証書遺言又はこれに相当するものと解したりすることは、前記の法の趣旨に反するものといわざるを得ない。』

4.検討
民法の家族法の部分は遺言の方式について規定していますが、自筆証書遺言については、遺言者が全文、日付および氏名の自書と押印が必要としています(民法968条)。

この自筆証書遺言の「自書」の要件について、本件と同様に他人の添え手があった場合が争われ、本判決が指摘している最高裁昭和62年10月8日判決民集41巻7号1471頁は、本判決が説示するとおり、「他人の添え手による補助により作成された自筆証書遺言は、遺言者がその当時自書能力を有し、その補助が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、遺言者の手の動きが遺言者の望みどおりで単に筆記を容易にするための支えを借りるだけであって、このように添え手による他人の意思の介入がなかったことが筆跡の上で判定できる場合に限り「自書」(民法968条)の要件をみたす」としています。

民法が自筆証書遺言に「自書」を求めているのは、遺言が遺言者の真意に基づくものであることを明らかにする趣旨であるとされています。つまり、自書であれば、筆跡によって本人が書いたものであることが判定できるので、それ自体で遺言者の真意に基づくものであることを保障できる点にあるとされています(魚住庸夫『最高裁判所判例解説民事編昭和62年度』613頁)。

本判決はこのような判例の流れに従う妥当な判決であると思われます。

裁判所が自筆証書遺言の「自書」の要件をこのように厳格に解し、それを満たさない遺言を無効としているスタンスを考えると、本判決の事例のように、添え手による自筆証書遺言の様子を動画で撮影し記録としたり、あるいは遺言者が遺言の内容を読み上げたものを録音として記録したものなどは、それだけでは自筆証書遺言の代用とはならないものと思われます。

なお、平成30年に成立した改正相続法は、その改正内容の一つに自筆証書遺言の方式の緩和を含んでいます(改正民法968条2項)。しかしこれは財産目録については自書ではないことを許容するにとどまり、自筆証書遺言の本文部分(「〇は△に相続させる」の部分)については依然として遺言者の自書を求めているので、上で見たような判例の自書に関する考え方は基本的には変わらないものと思われます。

■参考文献
・『金融法務事情』2107号86頁
・二宮周平『家族法 第4版』386頁
・中川善之助・加藤永一『新版注釈民法(28)』79頁
・金融取引法研究会『一問一答相続法改正と金融実務』114頁


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一問一答 相続法改正と金融実務

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この週末に、三鷹市の国立天文台に桜を見に行ってきました。 IMG_2196

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守衛室の青い屋根が美しい。ここで我々、見学者は氏名などを書類に書いて受付をします。

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天文台内の地図。赤い部分が一般の見学者が通常、見学できる場所。

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まず見えてきたのが、「第一赤道儀室」(太陽観測用20cm屈折赤道儀)。
この三鷹の天文台で最も古く、大正時代の1921年のものだそうです。

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現在でも稼働しているのがすごい。

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近くの桜も満開でした。
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つぎに見えてきたのが、65センチ屈折望遠鏡が収まっている「大赤道儀室」。でかい。
現在は「天文台歴史館」として資料室となっています。

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内部の望遠鏡。

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内部には、精密復元されたガリレオの望遠鏡などが展示されていました。

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どちらの方向を見ても桜の巨木が満開でした。

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瀟洒な旧図書館。

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「ゴーチェ午環室」。なんだかRPGゲームに出てきそうな建物です。

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ゴーチェ午環室の近くには、巨大な電波望遠鏡(?)がありました。4、5年前にはなかったような。
「ミリ波用6m高精度アンテナ」だそうです。

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ひときわ大きな桜の大木が見事でした。

なお、「西棟(展示室)」では、すばる望遠鏡やアルマ望遠鏡などの大きな模型や展示を見学することができます。

■国立天文台ウェブサイト
・見学案内 | 国立天文台(NAOJ)









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今年も撮影用照明機材の株式会社アーク・システム様による、調布市佐須町付近の野川のライトアップが行われたので行ってきました。 IMG_2086

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ところで、毎年、観客の人込みがすごくなってきますが、今年はひときわ混んでいる感じでした。野川の両側の歩道は人込みでいっぱいでまったく歩けません。もはや地元住民のささやかな楽しみのイベントではなくなっているように思われます。

調布・府中・深大寺 (散歩の達人handy)

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