gengou_calender_reiwa
1.はじめに
天皇陛下の一連の代替わりの儀式などが行われたことを受け、ネットのニュース記事などによると、天皇制を批判する集会やデモ行進などがいくつか5日1日に行われたそうです。

朝日新聞の記事によると、「小森陽一・明治学院大学教授(日本近代文学)は、代替わりで「三種の神器」が引き継がれたことを挙げ、「近代の国家権力と結びついた万世一系の天皇神話を実体化するための儀式。憲法違反の宗教儀式だった」と批判した」とのことです(「代替わり「憲法違反の宗教儀式だ」天皇制反対の講演会」朝日新聞5月2日付)。

・代替わり「憲法違反の宗教儀式だ」天皇制反対の講演会|朝日新聞

クリスマスなどの行事が好きであるとともに、平凡な日本人として天皇陛下を敬愛している私としては、いきなり「憲法違反」というのはやや乱暴な議論に思えますが、わが国の憲法学はこの天皇の代替わりについてどう考えているのでしょうか。

2.政教分離・天皇の国事行為
憲法は20条1項後段・同3項に政教分離原則の規定を置いています。

憲法
第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2 (略)
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

政教分離原則とは、戦前の日本のように、国と国家神道が一体化することにより、国および宗教に弊害が発生しないように、国(政府)と宗教とを分離する原則です。また、政教分離原則は、国と宗教とを分離することにより、国民一人一人の信教の自由も保障するものです。憲法89条は、国の財政面の観点から政教分離原則を規定しています。

ところで、天皇主権であった明治憲法とは異なり、国民主権の現行憲法においては天皇は政治的権能を持ちませんが(憲法4条1項)、内閣の助言と承認のもとに、憲法6条、7条が規定する儀礼的行為・象徴的行為を行うとされています。「内閣の助言と承認」とは、つまり、それらの天皇の行為については内閣がすべての政治的責任を負うという意味です。

憲法
第7条 天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。
(略)
十 儀式を行ふこと。

この天皇の国事行為としての「儀式」(憲法7条10号)について、憲法学の通説は、「天皇が主宰して儀式を行うこと」を指すとしています。本号により行われる儀式としては、「即位の礼」「大喪の礼」があげられています。そして、「これらは国家の儀式であるから、およそ宗教性を帯びた儀式ではあってはならない(憲法20条1項、3項)し、政治的中立性確保の観点から、天皇に特定党派や特定の政治勢力の主張に肩入れする内容の儀式を挙行させてはならない」と解説されています(芹沢斉・市川正人・阪口正二郎『新基本法コンメンタール憲法』43頁)。

また、憲法学の解説書はこの「儀式」(憲法7条10号)に関連し、昭和から平成への代替わりについてつぎのように解説しています。

「昭和天皇の逝去に伴って挙行された即位の礼と大喪の礼は宗教的性格の切断が十分ではなく、政教分離の原則から問題を残した。」(野中俊彦・中村睦男・高橋 和之・高見勝利『憲法1 第5版』132頁)


つまり、代替わりの式典が国家的行為として行われるためには、宗教色を帯びたものであってはならず、また、政治的中立性が確保されたものでなければならないことになります。

3.今回の代替わりの儀式・式典を振り返る
ここで今回の代替わりの儀式・式典を振り返ると、三種の神器の引継ぎ等を行う「剣璽等承継の儀」と、新しい天皇が首相などと初めて会見する「即位後朝見の儀」などが一体となって施行されたように思われます。

この点、首相官邸サイトの「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典準備委員会」が公表している「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針について(平成30年4月3日閣議決定)(PDF)」をみると、「即位の礼」においては、「1 剣璽等承継の儀」、「2 即位後朝見の儀」、「3 即位礼正殿の儀」、「4 祝賀御列の儀」、「5 饗宴の儀」、「6 内閣総理大臣夫妻主催晩餐会」等を行うと明記されています。

・天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針について|首相官邸

しかし、天皇の行う国事行為(国家行為)としての「儀式」は、宗教色を帯びたものであってはならず、政治的中立性が要請されることを考えると、「即位の礼」においては、宗教色を帯びる「剣璽等承継の儀」は天皇と皇室の方々のプライベートな儀式として行っていただき、「剣璽等承継の儀」は「即位の礼」から除外し、残りの「即位後朝見の儀」、「即位礼正殿の儀」、「祝賀御列の儀」、「饗宴の儀」、「内閣総理大臣夫妻主催晩餐会」等だけを国家行事である「即位の礼」として行うべきだったように思われます。

そういった点で、即位の礼などの運営主体である天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う式典準備委員会および首相官邸・内閣府の判断・行為は政教分離原則(憲法20条1項・3項)から問題であり、また政治的中立性からも問題をはらむものであったと考えられます。

つまり、「代替わりの儀式は憲法違反」と主張する人たちの意見は憲法学の観点から正しくありませんが、しかし、「剣璽等承継の儀」など宗教色を帯びた儀式をも「即位の礼」に含めて一体として儀式・式典を施行した内閣・国の行為は憲法上問題であったといえます。


法律・法学ランキング

憲法1 第5版

新基本法コンメンタール憲法―平成22年までの法改正に対応 (別冊法学セミナー no. 210)