なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2020年03月

LINE厚労省コロナ

3月31日より、新型コロナウイルスに関して厚労省がLINEを使って情報収集していますが、法的に大丈夫なのか大いに疑問です。

・厚生労働省とLINEは「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結しました|厚労省

健康状態や病気・ケガに関する情報・データは、個人情報のなかでもセンシティブで慎重な取り扱いが必要な要配慮個人情報です(個人情報保護法2条3項、行政機関個人情報保護法2条4項)。第三者提供等は原則禁止となっています(個人情報保護法23条)。また一般の個人情報よりも厳重な安全管理措置が事業者等に課されます。

ところが、このような厳重に取り扱われなければならない病歴などの個人データについて、厚労省やLINEは法的に検討することを止めてしまっているように思われます。

厚労省のウェブサイトには、今回のLINEとのコロナの件に関するプライバシーポリシーなどは全く掲載されていません。また、LINEのウェブサイトのプライバシーポリシーも19年5月改正版にとどまっています。

個人情報のなかでもセンシティブな医療データの収集という場面でありながら、取得された医療データがどんなことに使われるのか・何には使われないのかという個人情報の利用目的や、これらの個人情報がどんな団体に第三者提供・共有・委託されるのか等々が事前にLINEの利用者の国民に何も明示されていません。

医療情報がLINEや厚労省などにおいて、どのように利用されるのか利用目的がまったく特定されておらず、国民の個人情報がLINEや厚労省あるいはその他の民間企業などに好き放題に利活用されてしまうおそれが大いにあります。これは個人情報保護法15条に明らかに反しています。

これでは利用者・国民は個人としての、自分の医療情報・個人情報をLINEや厚労省などに提供するかどうかの十分な検討に基づく判断ができません。利用者からLINEに提供された個人情報がLINEから厚労省などに第三者提供される際の「本人の同意」が十分に得られておらず違法です(23条)。

これは個人情報の取得において、利用目的などを明確化せよと規定する個人情報保護法18条に抵触しています。

また、メディアの報道によると、厚労省などはLINEやヤフー等のプラットフォーム事業者から、利用者の病歴データだけでなく検索履歴や位置情報を徴収するとのことです。この点、個人情報保護法16条(目的制限)3項3号と23条(第三者提供)の1項3号は、個人情報の目的外利用と第三者提供が許されるのは、「公衆衛生の向上のため…特に必要」の場合としてることから、国がなんとなく見込み捜査的に要求しLINEが応じるのはやはり違法ではないかと思われます。法が許容するのは「特に必要」な場合であって、「漠然と必要」「何となく必要」では法の文言に抵触しているからです。

・LINE、新型コロナ調査結果を提出 厚労省に|日経新聞

さらに、利用者の何千万人分もの検索履歴などの個人データをLINEやヤフー等が国に提供することは、端的にプライバシー侵害なのではないでしょうか(憲法13条、民法709条)。新聞記事などによると、政府はヤフーから提供された検索履歴や位置情報から、検索内容によりコロナに感染している国民を割り出し対処を行うとしています。しかし法令に根拠がないのに、国が警察・検察の捜査のようなまねが法的に許容されるのでしょうか。

あるいは、利用者本人のほとんどは、LINEなどに対して、友人・知人との会話・通話などを目的として、安心して会話等を行い、あらかじめ自らの個人情報などプライバシー情報をLINE等に提供しています。まさかそのLINE等が自分の同意を得ることなく勝手に自らのプライバシー情報を国に第三者提供されるとか予見できない状況です。これは、いずれも事業者・大学側がプライバシー侵害として違法と判断された、早大名簿提出事件(最高裁平成15年9月12日)やベネッセ事件(最高裁平成29年10月23日)と同じ状況であると思われます。

最後に、厚労省などがLINE等から利用者の病歴データや検索履歴を徴収するということは、利用者の内心や私的領域のデリケートな情報を大規模かつ網羅的に国が取得するということです。すなわち、憲法21条2項、電気通信事業者法4条などの定める、検閲禁止や通信の秘密の漏洩禁止に違反しているのではないかという問題があります。通信傍受法などと異なりコロナの件では根拠法もなく、政府からの「要請=任意のお願い」で何千万人分の膨大なデータをLINEやヤフーなどが政府に提供することは、正当業務行為や緊急避難で説明することは無理筋であると思われます。

厚労省とLINEは、個人情報保護法や憲法などをまるで無視して暴走しているようですが、これではもはや日本は法治国家や文明国家とは言えません。国民の一人として、私も一日も早い新型コロナウイルスの収束を強く願っています。とはいえ、わが国が民主主義国家である以上、政府は国民から信託を受けたサービス機関として、できるだけ法令を遵守し、もしこの世界的な危機時に法令では対応が追い付かない場合は、せめて国民に対して誠実な説明や情報開示を行うべきであると思われます。

個人情報保護法の逐条解説--個人情報保護法・行政機関個人情報保護法・独立行政法人等個人情報保護法 第6版

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1.生命保険会社の保険(災害割増特約・傷害保険・災害入院特約など)
新型肺炎・新型コロナウイルス(COVID-19)も疾病・病気の一つであるため、被保険者の方が新型肺炎で病院に入院したり、死亡された場合は、免責条項に抵触していない限り、疾病入院給付金や一般の死亡保険金は支払いとなると思われます。

一方、少し前までの生命保険各社の終身保険などには、交通事故など事故を原因とした被保険者の方の死亡に対して割増の保障を提供する災害割増特約を販売されていました。また、傷害特約、災害入院特約なども、事故を原因とした入院などに対して保険金・給付金を支払う保険は現在も広く販売されています。

ところで、これらの災害割増特約など災害系の保険は、新型肺炎を原因とした入院・死亡などにおいて保険金・給付金が支払われるのかが問題となります。

2.災害系の保険・特約の支払事由・「対象となる感染症」
この点、例えば日本生命保険の「新傷害特約(H11)」の約款をみると、災害死亡保険金の支払事由は、「つぎのいずれかを直接の原因として(略)被保険者(略)がこの特約の保険期間中に死亡したとき」とされ、「②責任開始時以後に発病した感染症(別表11)」と規定されています。

そして、「別表11」はつぎのようになっています。

疾病傷害死亡分類提要
(日本生命保険サイトより)

つまり、感染症を原因とする死亡であっても、一定のものは災害保険金の支払い対象となるが、その感染症は、別表に掲げられている疾病のどれかである必要があります(厚労省の「疾病、傷害および死因統計分類提要ICD-10」により限定列挙されている)。

そして、別表11の感染症には、今回の新型肺炎に関連しそうなものとしては、「重症急性呼吸器症候群(SARS) U04」が含まれていますが、「(ただし、病原体がコロナウイルス属SARSコロナウイルスであるものに限ります。)」とのただし書があります。

また、厚労省はWHOが新型肺炎のICD-10上の分類等を、「2019 年新型コロナウイルス急性呼吸器疾患 U07.1」としたことを周知する通達をだしています。これを読むと、今回の新型肺炎と以前のSARSとは、感染症として別のものとなっています。

・世界保健機関(WHO)による新型コロナウイルスに関する「疾病、傷害及び死因の統計分類第10版(ICD-10)」における対応について|日本神経学会

3.まとめ
したがって、新型肺炎は生命保険各社の災害割増特約・傷害特約・災害入院特約などにおいては、保険金・給付金の支払い対象外となるように思われます。

*なお、保険会社各社で約款などの規定が異なることや、社内規定などが異なりますので、保険契約者・被保険者等の方は、加入なさっておられる保険会社にご相談をお願いいたします。

■関連するブログ記事
・傷害保険/ダニにかまれてダニ媒介性脳炎で死亡した場合に保険金は支払われるか?

■参考文献
・日本生命保険『生命保険の法務と実務 第3版』238頁、245頁

生命保険の法務と実務 【第3版】

生命・傷害疾病保険法の基礎知識

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