なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2020年11月

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NHKなどの報道によると、政府(総務省)は、マイナンバーカード未取得者約8000万人に対して、マイナンバーカード発行の申請手続き書類を再度郵送する方針だそうです。

・マイナンバーカード未取得者 約8000万人に申請書発送へ 総務省|NHK

かりに三つ折りハガキで郵送するとしても、郵送料だけでも単純計算で約48億円もの出費ですが、この莫大な行政コストは一体誰が負担するのでしょうか?

そもそもマイナンバー制度とは、国民一人一人にマイナンバー(個人番号)を付番した情報システムを行政が整備・運営することにより、「行政運営の効率化及び行政分野におけるより公正な給付と負担の確保」を図る制度です(番号法1条)。

つまり、従来は多くの人員と書類でやっていた行政の事務処理を、各官庁をまたいだ名寄せのためのマスターキーであるマイナンバー(個人番号)を付番した情報システムで行うことにより、行政を効率化・迅速化しコストダウンを図ろうという制度です。

マイナンバー制度概要図総務省
(総務省サイトのマイナンバー制度の解説より)


そのため、マイナンバー制度開始の平成27年に、国が国民全員にマイナンバーを情報システム上で付番した段階で、「行政の効率化とコストダウン」というマイナンバー制度の立法目的の本丸は達成されているのです。

なのに、なぜ政府・与党は制度のオマケのはずのマイナンバーカードに偏執的にこだわるのでしょうか?

制度の検討段階で「マイナンバーカードを国民に広く普及させたい」「住民基本台帳カードの二の舞にはならない」という目標を政府与党は掲げたようですが、その目標にこだわるあまり、オマケの目的が自己目的化して政府与党が暴走しているようにも思えます。(「行政の効率化やコストダウン」が制度目的のはずなのに、今回の政府方針だけでも約48億円もの行政の税金の無駄づかいに思えてなりません。)

政府与党は、「これからの日本はIT社会デジタル化を目指さなくてはならない。マイナンバーカードには本人認証機能があるから、日本のデジタル化の基盤である。だから国民は全員、マイナンバーカードを持たねばならない」と主張しているようです。

「日本はデジタル化を目指さなくてはならない」という理念を政府与党や国会が掲げるのはある意味自由です。しかし、わが国が「個人の尊重」「個人の基本的人権の尊重」を掲げる自由主義国家である以上は、それぞれの国民がどのような国家像や行政を望むか、そしてその国家に対して国民個人がなにをどの程度するかについては、原則として、国民一人一人の自由意思に委ねられています。わが国の主人公は国民であり、行政・国はその使用人(サービス機関)にすぎないのですから。

とくにマイナンバー(個人番号)は各官庁が持つ国民の個人情報・プライバシー情報を簡易・迅速にシステム的に名寄せする仕組みですから、その使い方を誤れば、いわば「国家の前に国民が丸裸となる状態」(金沢地裁平成17年5月30日判決)の危険をはらんでおり、マイナンバー制度は国民個人のプライバシー権(憲法13条)に隣接する制度です。

番号法17条1項が、マイナンバーカードの取得や所持を国民の義務とするのではなく、国民の任意による自治体への申請を踏まえて発行される建付けとしている趣旨は、このようにマイナンバー制度が国民のプライバシーに隣接する制度であることや、オマケとしてのマイナンバーカード(やそれに随伴する本人認証機能)を利用するか否かは国民個人の自由意思にゆだねているからであろうと思われます。

番号法
(個人番号カードの交付等)
第17条
   市町村長は、政令で定めるところにより、当該市町村が備える住民基本台帳に記録されている者に対し、その者の申請により、その者に係る個人番号カードを交付するものとする。この場合において、当該市町村長は、前条の政令で定める措置をとらなければならない。

この点、情報法や行政法の第一人者である学者にして最高裁判事の宇賀克也・東大教授の番号法の解説書は、番号法17条1項に関してつぎのように解説しています。

個人番号カードの取得を強制することは、(略)個人番号カードの取得を希望しない者や必要としない者に(市区町村の事務所への)出頭を強制してまで取得を義務づけることは適切でないと考えられたため、申請により取得することとしている。』(宇賀克也『番号法の逐条解説』78頁)

また、マイナンバーカードがICチップ部分に本人認証機能を有しながらも、本来はいわば「実印」のように慎重にも慎重に保管すべきマイナンバー(個人番号)が表面にでかでかと印刷されてしまっていること等など、マイナンバーカードの制度設計上の「おそまつさ」もマイナンバーカードの問題を難解なものにしています。先般の「10万円給付金」の電子申請の件で露呈したように、政府の運用する情報システムのレベルが非常に低いものであること等も、国民の心を冷やしています。

少なくとも今回の政府方針のように、マイナンバーカード普及というお役所が勝手に立てた目標のために、国の予算を大量に使い、本来、国の主人公である国民に、その使用人であるはずの国・行政が無理やりにでもマイナンバーカードを取得させようというのは、番号法17条1項違反であり、もっといえば国民の自由意思(憲法13条)や国民主権原理(憲法1条など)の侵害であるようにすら思われます。

番号法の逐条解説 第2版

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生損保の保険会社の営業職員等が、保険契約者等以外の他人(家族を含む)の名義を勝手に利用したり、架空の人間の名義を利用して保険契約を勧誘・募集することは「名義借契約」・「作成契約」などと呼ばれ法令で禁止されています(保険業法307条1項3号)。

同様に、証券会社の営業職員等が、他人(家族を含む)の名義を勝手に利用したり、架空の人間の名義を利用した取引の勧誘・募集を行うことは、「借名取引」と呼ばれ、法令で禁止されています(金融商品取引法157条、犯罪収受移転防止法)。これは、マネーロンダリングや脱税などの違法な行為を防止する趣旨であるとされています。

このような法令の規定を受けて、各証券会社は、自社ウェブサイトなどにおいても解説の項目をおいています(野村証券「「ご利用ガイド 不公正取引」など」)。

また、このような他人の名義を冒用した金融取引(契約)については、その取引(契約)の効力を無効とする民事上の裁判例も現れています(静岡地浜松支判平9.3.24)。

つまり、借名取引・名義借契約などの他人の名義を勝手に利用して金融機関の営業職員等が取引・契約を募集・勧誘することは、行政法規上違法なだけでなく、民事上も無効とされるものです。

証券会社などの金融機関は、借名取引などの違法・不正な取引は、監督官庁からの行政リスクだけでなく民事上のリスクも大きいことを十分留意し、その撲滅に努める必要があります。





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