なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2021年01月

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1.はじめに
1月28日深夜頃よりツイッター上などにおいて、三井住友銀行(SMBC)、NTTデータ、NEC、警察当局などの情報システムのソースコードの一部が、ソフト開発のプラットフォームであるGitHub上で公開されていたことが発覚して大きく注目されています。

ソースコードの一部をGitHub上で公開した人物は、ツイッター上でのやり取りをみると、SMBCなどの勘定系システムの一部の作成を行ったプログラマのようであり、「転職系サイトに年収査定を試算してもらうために自分がPCに持っていたソースコードをGitHub上で公開した」とのことのようです。

さぶれ氏ツイート
(プログラマのツイートより)

ところでこのプログラマはのんびりした性格の方のようで、ツイッター上でも、”GitHub上にソースコードをアップしたが、デフォルトで公開の設定となっていることは知らなかった。自分は別に商業利用に転用していないので著作権法上は問題ないと思っている。もしSMBCから言われたら対応を考える。”等とかなりのんびりとした認識のようです。

2.ソースコード作成者のプログラマの問題
(1)プログラムの著作物
著作権法10条1項は著作物を例示していますが、その中の9号は、「プログラムの著作物」をあげています。また、定義規定である同法2条の10の2号は、プログラムについて「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したものをいう。」と規定しており、この、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたもの」にソースコードは該当します。したがって、極端に短いものなど創作性がないとされる以外のソースコードは、著作権法上保護の対象となる著作物であることは間違いありません。

(2)著作権者は誰か?
つぎに、このプログラマがこのSMBCの勘定系システムの一部のソースコードの作成者であるとしても、一般論としては、当該ソースコードの著作権者はこの作成者であるプログラマではなく、SMBCなど(あるいはこのプログラマの所属するシステム開発会社)である可能性が高いと思われます。著作権法15条にいわゆる法人著作(職務著作)の規定があるからです。プログラムに関しては同法同条2項が問題となります。

(職務上作成する著作物の著作者)
第15条
1 (略)
2 法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。

銀行の勘定系システムの開発は、プログラマの思い付きではなく、「法人等の発意」に基づき作成されるのが通常であると思われますし、「職務上作成するプログラム」であると思われます。この「職務上作成する」は、勤務時間中に作成したものだけでなく、自宅等で作成したものも含まれるとされています。「契約、勤務規則その他に別段の定め」がある場合には、ソースコードの著作者はプログラム作成者となりますが、一般的には、別段の定めがない場合が通常ではないかと思われます。

なお、「法人等の業務に従事する者」とは、典型的には法人等と雇用契約にある従業員が当てはまりますが、実質的な指揮監督関係が認められる場合には、委託先、請負先の社員などもこれに含まれるとされています。

ツイッター上のやり取りをみると、このプログラマは、SMBC等の委託先のシステム会社のプログラマのようであり、したがって、一般論としては著作権法15条2項により、SMBCなどのソースコードの著作権者は、プログラマではなくSMBC等ということになりそうです。

(3)著作権のまとめ
そのため、ソースコード作成者のプログラマが、著作権者であるSMBC等の許諾なく、ソースコードを転職系サイトに年収査定の試算をしてもらうためにGitHub上で公開することは、やはり一般論としては、SMBC等の著作権を侵害しているということになりそうです。そのため、SMBC等としては、許諾なくソースコードを公表したプログラマとその所属するシステム会社に対して、損害賠償請求(民法709条、715条)、不当利得返還請求権(民法703条)、差止請求権(著作権法112条、116条)、名誉回復措置請求(著作権法115条)を主張することになります。また、著作権侵害に対しては刑事罰も用意されています(著作権法119条以下)。

(4)営業秘密など
なお、システム開発の委託元と、委託先のシステム開発会社との間においては、通常は、システム開発の業務委託契約書等が締結され、そのなかに秘密保持条項が盛り込まれています。就業規則や雇用契約書等にも秘密保持条項が規定されているのが通常です。

この点、不正競争防止法は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性、の3要件を満たすものを営業秘密としており、営業秘密の社外への持出しや開示は同法違反となる可能性があります(不正競争防止法2条1項4号以下)。

この場合、営業秘密を開示等された法人等は、損害賠償請求(4条)、差止請求(3号)などを主張することができます。また、不正競争防止法違反には刑事罰の規定も用意されています(21条以下)。2014年に発覚したベネッセ個人情報漏洩事件においては、個人情報を持ち出したSEがこの営業秘密の開示等の罪に問われ、裁判所はこれを認める判断を示しています(東京高裁平成29年3月21日判決)。

2.三井住友銀行等の問題
今回の事件では、SMBC、NTTデータ、NEC、警察当局などの情報システムのソースコードの一部が公開されたようですが、とくに大手金融機関のSMBCの基幹システムの一部のソースコードが漏洩したことが気になります。

個人情報保護法20条は、事業者に対して「データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の(略)安全管理のために必要かつ適切な措置」(安全管理措置)を講じることを規定し、事業者に従業員等を監督し(同21条)、業務委託をする場合はその委託先への管理・監督を行うこと(同22条)も安全管理措置の一環として要求しています。

これを受けて、金融庁および個人情報保護委員会は、「金融分野における個人情報保護に関するガイドライン」および「金融分野における個人情報保護に関するガイドラインの安全管理措置等についての実務指針」を策定しています。

このガイドラインおよび実務指針においては、社内規定の整備・社内の監督体制の整備などの組織的安全管理措置、従業員等への教育などの人的安全管理措置、データのアクセス権限の管理・設定や漏洩防止策の実施などの技術的安全管理措置などを金融機関が実施することが求められています。

SMBCはメガバンクですので、一般論としては、システム開発の職員が開発ための社屋や部屋に入る入退室は社員証などでアクセス管理をされていたはずであり、また、自分のPCやスマホなども容易に持ち込み・持ち出しなどができないようになっていたであろうと思われ、そのような技術的安全管理措置がどう突破されてしまったのか疑問が残ります。

ベネッセ個人情報漏洩事件は、委託先のSEが刑事責任を問われただけでなく、ベネッセも安全管理措置に疎漏があったとして、ベネッセ側の民事上の損害賠償責任を認める最高裁判決が出されています(最高裁平成29年9月29日判決)。また、ベネッセに対しては株主代表訴訟も提起されています。

このように、ベネッセ事件に照らしても、情報システムに関する個人情報あるいは営業秘密の流出・漏えいは、企業のコンプライアンスと共にガバナンスの問題でもあります。SMBCはメディアの取材に対して、「セキュリティ上の問題はない」などと回答しているようですが、今回の基幹システム等のソースコードの流出事故は、メガバンク等における重大なインシデントではないかと思われます。SMBC等は、従業員や委託先などの監督に関する安全管理措置の法的義務違反の責任を厳しく問われるのではないかと思われます。

(なお、このようなGitHubやSNSなどによる転職や年収査定をうたう、Findy、LAPRASなどの最近のネット系人材紹介会社は、今回のような流出事故について、何等かの責任を負うのか否かについても、個人的には関心のあるところです。)

■関連するブログ記事
・AI人材紹介会社LAPRAS(ラプラス)の個人情報の収集等について法的に考える









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1.はじめに
1月25日の各メディアの報道によると、国は、新型コロナのワクチン接種について、国民個々の接種履歴などの進捗状況を把握するために、接種履歴などを管理する新システム(「接種者管理システム」)を作り、その個人データをマイナンバーと紐付ける方針であるとのことです。

・新型コロナワクチン接種情報、マイナンバーにひも付け 河野氏が新システム構築表明|毎日新聞

2.接種者管理システム
同日付けで、内閣IT戦略室などが運営する政府CIOポータルにも、この「接種者管理システム(仮称)」の概要図の資料が掲載されています。

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(政府CIOポータルより)
・新型コロナワクチンの接種支援に関するデータベースの検討|政府CIOポータル

この接種者管理システムのイメージ図をみると、ワクチン接種を受ける国民の個人データについて、一つの「接種管理DB」を作成し、基本的に、①接種券(クーポン券)、②接種の予約、③接種、④支払い、の4つの場面について進捗管理を行う一般的なDBシステムのようです。

つまり、この扱う個人の数が約1億2千万人分ということで、扱う件数は大きくても複雑とは思えないDBシステムを作成し運用するには、当然、DBのマスターキーとしてのIDは必要ですが、それは「接種者管理システムID」などと適切なIDを設定すればよいだけの話です。あえてマイナンバー(個人番号)を主キーのIDとして利用するであるとか、あるいはマイナンバーと紐付けする必要性が高いとは思えません。

政府CIOポータルのイメージ図によれば、この接種者管理システムの趣旨・目的には、「接種を促すために国が接種状況を把握できる仕組みの整備」「接種を忘れている人への案内ができるように」などの点が強調されています。

しかし、ワクチン接種に類似する事例を考えてみると、マイナンバー制度のないころから実施されてきた、乳幼児や児童へのさまざまな予防接種などは、母子手帳や病院のカルテ、健康保険制度などで長年、運営されてきています。この母子手帳やカルテなどで予防接種の実務やその進捗状況の管理がうまくいっていないという話は聞いたことがありません。

国が接種者管理システムを作るのはよいとしても、マイナンバーを持ち出す理由がありません。むしろ、「せっかく制度を作ったマイナンバー制度がなかなか国民に受け入れられないから、コロナ禍に乗じて一気呵成にマイナンバー制度の適用範囲を拡大してやろう」という国の不純な意図を感じます。

3.マイナンバー制度
マイナンバー制度は、行政の効率化と国民の利便性の向上のために、①社会保障、②納税、③災害の3分野のために作成された制度です。行政の効率化のために、国民一人ひとりに割り当てられた唯一無二のマイナンバー(個人番号)を割り当て、このマイナンバーにより行政のもつさまざまな分野の国民の個人データを名寄せできるようにして、業務の効率化を図ろうとしています。

(なお、マイナンバー制度における「災害」とは、東日本大震災などのような災害の際に、銀行や保険会社などが、マイナンバーを利用して簡易・迅速に利用者に銀行預金や保険金等を支払うための仕組みであり、今回の「接種者管理システム」のような事例は法が予定していません。番号法9条4項)

しかしマイナンバーはさまざまな行政分野の個人データを名寄せできるマスターキーであるため、国がマイナンバーを不正・不適正に利用した場合、国民のプライバシー権が大きく侵害されてしまいます(宇賀克也『番号法の逐条解説』6頁、14頁)。つまり、マイナンバーという最強のマスターキーにより、比喩的にいえば、「国家の前で国民が丸裸とされるがごとき状況」のおそれがあるのです(金沢地裁平成17年5月30日判決)。

そのため、マイナンバー制度は、マイナンバーという番号は創設するものの、行政の持つ個人データは従来どおり各行政庁が分散管理し、一元管理・中央集権的なシステムの濫用を防ぐ仕組みとなっています。また、マイナンバーの利用目的を社会保障・税・災害の三分野とし、その利用目的を個別具体的に法で定めるなどの仕組みがなされています(番号法9条、19条)。

このように国民のプライバシー権を侵害するおそれのあるマイナンバー制度を、政府与党がコロナ禍を奇禍として、なし崩し的にその適用範囲を拡大してゆくべきではありません。

4.まとめ
接種者管理システムを作成・運営するのはよいとしても、それをマイナンバーに紐付ける必要が本当にあるのか、あるとしたらどのような条件で紐付けを許すのか、濫用防止にどのような仕組みを盛り込むのか等を、内閣府や総務省などで検討するだけでなく、国会で慎重に審議を行い、必要があれば番号法の改正などの立法手続きを行うべきです。

近年は、小中学生の成績データを国が集中管理すべきであり、そのために成績データをマイナンバーカードのICチップ欄などに紐付けるべきである、あるいは、医者・看護師などを国がうまく利用できるように、医者・看護師などの資格データや個人データを国が集中管理すべきでありそれらのデータもマイナンバーに紐付けるべきである等々、マイナンバー制度の本来の趣旨・目的から逸脱したマイナンバー制度の活用方針が次々と国から示されており、少なくない国民は、国のマイナンバー制度の利活用に疑問や不安を感じている状況です。

国民一人一人のプライバシー権や内心の自由など精神的自由(人権)に深く関連する問題であるので、国・政府は、経済界や御用学者を集めて諮問会議でガイドラインなどを制定して済ませるのではなく、国会での慎重な議論を踏まえた立法が必要であると思われます。

そもそもわが国でのワクチン接種開始が3月頃が予定されているところ、1月下旬に急にマイナンバーを利用した新システムの話がでてきたのもおかしな話です。コロナ対応においては、接触確認アプリCOCOAやHER-SYSなどがこれまでも企画・立案され作成・運用がなされていますが、上手くいっていないようです。マイナンバーについては、平時の落ち着いた環境のなかで、国会で冷静な議論がなされるべきであると考えられます。

■関連するブログ記事
・文科省が小中学生の成績等をマイナンバーカードで一元管理することを考える-ビッグデータ・AIによる「教育の個別化」


番号法の逐条解説(第2版)

ニッポンの個人情報 「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ

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1.CCCがT会員規約などを改定
Tポイントやツタヤ図書館などを運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社)の1月15日付のプレスリリースによると、同社はTポイントの個人情報・個人データの利用規約・プライバシーポリシーなどを一部変更したとのことです。

・T会員規約等、各種規約の改訂について|CCC

2.「他社データと組み合わせた個人情報の利用」の明確化
そのプレスリリースでは、CCCが個人情報・個人データの利用方法として新たにプライバシーポリシーなどに明確化したという使い方が説明されています(T会員規約4条6項)。

・T会員規約 改訂前後比較表|CCC

これは、おおざっぱにいうと、CCCが他社から他社の個人データを受け取り、CCCの持つ個人データと突合して分析・加工した個人データまたは統計データを生成して利用するというものですが、これは個人情報保護法上の委託スキームの、いわゆるデータセンター等における「混ぜるな危険の問題」に抵触してないでしょうか。

T会員規約4条6項
6.他社データと組み合わせた個人情報の利用
当社は、提携先を含む他社から、他社が保有するデータ(以下「他社データ」といいます)を、他社が当該規約等で定める利用目的の範囲内でお預かりした上で、本条第2項で定める会員の個人情報の一部と組み合わせるために一時的に提供を受け、本条第 3 項で定める利用目的の範囲内で、統計情報等の個人に関する情報に該当しない情報に加工する利用および当社の個人情報と他社データのそれぞれに会員が含まれているかどうかを確認した上での会員の興味・関心・生活属性または志向性に応じた会員への情報提供(以下あわせて「本件利用」といいます)を行う場合があります。
なお、当社は、本件利用のための他社データを明確に特定して分別管理し、本件利用後に他社データを破棄するものとし、本件利用のための、前述、当該他社から当社への一時的な提供を除いては、それぞれの利用目的を超えて利用することも、当該他社その他第三者に対して会員の個人情報の一部または全部を提供することもありません。

CCC他社データと組み合わせた個人情報の利用
(CCCサイトより)

3.飲料メーカーA社の事例(統計データ)
CCCのプレスリリースは、このT会員規約4条6項について、「飲料メーカーA社の事例(統計データ)」と「旅行代理店B社の事例(個人データ)」の二つの図を用意しているので、この二つの図で考えてみます。

飲料メーカーA社
(CCCサイトより)

まず一つ目の、飲料メーカーA社の事例では、飲料メーカーA社(他社)の他社個人データAをCCCがデータの分析・加工のために受取り(「委託」、個人情報保護法23条5項1号)、その他社個人データAとCCCの個人データを突合し、CCCの個人データに該当する個人の属性・嗜好などを分析した統計データ等を作成し、A社に渡すとなっています。

しかし、この事例のような個人データの委託元A社と委託先のCCCの個人データを混ぜて取り扱うことは禁止されています。

これは、たとえば、A社の個人データAとCCCの個人データを個人個人で本人同士突合し分析などを行うことがそれに該当します。つまり、個人データAとCCCの個人データの突合は、例えばD社、E社等などからCCCが本人同意の基に第三者提供を受けた個人データÐ・Eなどの合成されたCCCの個人データとの突合ということになります。委託のスキームをとらない本来の場合であれば、A社はD社、E社などから本人同意に基づく第三者提供を受けた上で個人データの突合が許されるわけですが、委託というスキームは、この第三者提供における本人同意の取得の省略を許すものではありません。(田中浩之・北山昇「個人データ取り扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号30頁)

そもそも個人情報保護法における個人データの「委託」とは、契約の種類・形態を問わず、委託元の個人情報取扱事業者が自らの個人データの取扱の業務を委託先に行わせることであるから、委託元が自らやろうと思えばできるはずのことを委託先に依頼することです。したがって、委託元は自らが持っている個人データを委託先に渡すなどのことはできても、委託先が委託の前にすでに保有していた個人データや、委託先が他の委託元から受け取った個人データと本人ごとに突合させることはできないのです。そしてこれは、突合の結果、作成されるのが匿名加工情報等であっても同様であるとされています。(田中・北山・前掲『ビジネス法務』2020年8月号30頁)

この点は、個人情報保護委員会の個人情報保護法ガイドラインQ&A5-26-2の事例(2)にも明示されています。また、個人データを本人ごとに突合して作成するデータが匿名加工情報などであっても、これは同様であると同QA11-13-2に明記されています。

個人情報QA5
(個人情報保護委員会サイトより)

したがって、CCCの明確化した新しい個人情報の取扱である、T会員規約4条6項の「飲料メーカーA社の事例(統計データ)」については、個人情報保護法23条1項、個人情報保護法ガイドラインQ&A5-26-2・11-13-2に違反しており、許されないものであると思われます。また、このような個人データの取扱は、法16条の定める目的外利用の禁止に抵触するおそれもあります(岡村久道『個人情報保護法 第3版』262頁)。

4.旅行代理店Bの事例(個人データ)
つぎに、二つ目のT会員規約4条6項の「旅行代理店Bの事例(個人データ)」は、旅行代理店Bから受け取った個人データBをCCCの個人データと本人同士で突合し、加工した結果の「個人データ」を「CCC」が自社のマーケティングや販売促進等に利用するようです。

旅行代理店B社
(CCCサイトより)

つまり、こちらも、上の飲料メーカーAの事例と同様に、突合してはいけない個人データBとCCCの個人データを本人同士で突合していますし、作成するのは統計データや匿名加工データ等ではなく、個人データのようであり、さらに当該個人データを販売促進などに利用するのはCCCのようです。

すなわち、個人データの委託というより、CCCの主導による他社の個人データの突合による個人データの利用のようです。したがって、これはそもそも個人情報保護法23条5項1号の委託のスキームを踏み越えているので、CCCは、原則に戻って、B社から本人同意に基づく第三者提供(法23条1項)によって個人データBを受け取っていない限り、この取り扱いは許されないことになると思われます。

5.まとめ
最近の世の中は、ビッグデータやAI、DX、官民のデジタル化という用語をニュースなどで聞かない日はないような状況ですが、CCCはデジタル化に少し浮かれ過ぎているのではないかと心配になります。

2019年の就活生の内定辞退予測データに関するリクナビ事件においては、リクナビだけでなくトヨタ等の採用企業側に対しても、個人情報保護委員会と厚労省から、「社内において個人情報保護法などの法令を十分に検討していない」として安全管理措置違反(法20条)があったとして行政処分・行政指導が出されたことを、個人情報取扱事業者の大手のCCCは失念しているのではないでしょうか(個人情報保護委員会・令和元年12月4日付「個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について」)。

CCCによるとTポイントの会員は約6900万人、提携企業数は188社、店舗数は1,052,092店舗(2019年3月現在)であるとのことであり、CCCの個人情報のデータベースには日本国民の50%を超える人間の個人データが集積されていることになります。そのような莫大な個人データを預かる企業市民としてのCCCの社会的責任、法的責任は重大であると思われます。

■関連するブログ記事
・CCCがT会員6千万人の購買履歴等を利用してDDDを行うことを個人情報保護法的に考える
・Tポイントのツタヤ(CCC)がプライバシーマークを返上/個人情報保護法の安全管理措置
・海老名市立中央“ツタヤ”図書館に行ってみた/#公設ツタヤ問題
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える

■参考文献
・田中浩之・北山昇「個人データ取り扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号30頁
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』262頁














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アメリカ連邦議会占拠1
1.メルケル首相のツイッター社などへの「苦言」
1月11日のメディアの報道によると、ドイツのメルケル首相が、アメリカ連邦議会襲撃事件に関連し、ツイッター(Twitter)やFacebookなどのSNSがトランプ氏を永久追放としていることについて、「表現の自由はとても重要で、それを規制できるのは議会の立法だ。」としてツイッター(Twitter)社などの対応に「苦言」を呈したとのことです。これはとても考えさせる苦言です。

・トランプ氏追放は「問題」 独首相、ツイッターに苦言|時事ドットコム

一方、最近のニュースによると、グーグル・アップルだけでなく、アマゾンもクラウドサービスのAWSにおいて、トランプ氏支持者に支持されている保守系SNS「Parler(パーラー)」への締め出しを開始したそうです。さらに、ネット上の決済会社「Stripe(ストライプ)」によるトランプ派の締め出しも開始されたとのことです。事態はさながらGAFAなど巨大IT企業による"トランプ・パージ"の様相を呈しています。

・トランプ支持者集うSNS、Amazonがクラウド接続停止|日経新聞
・Stripe Stops Processing Payments for Trump Campaign Website|WSJ

もちろん、私はトランプ氏支持者達による米連邦議会襲撃というテロリズムを擁護するつもりはありません。しかし、メルケル首相の指摘があるように、問題はそう単純なものなのでしょうか?

2.表現の自由
王朝や独裁国家と異なり、民主主義国家では主権者たる国民が議会・国会の議員を通して自由闊達な議論を行えなければ国家の運営ができません。そして議員達がどのような言動をしたかをメディアなどが報道し表現することも、国民が議員や政党を支持あるいは批判する上で極めて重要です。つまり、表現の自由は、国民の自己実現にとって重要なだけでなく、民主主義にとっても非常に重要な自由(基本的人権)です。

3.憲法と民間企業
また、もともと憲法は、国家権力を縛り国民の権利(基本的人権)を守るための法(近代立憲主義の憲法)であり、ツイッター社やGAFAなどは国家の機関ではなく民間企業ですが、社会に影響を及ぼす法人・民間企業等についても、憲法の考え方・理念を民事法(日本では例えば民法90条)などの適用において間接的に及ぼすという考え方が広くとられています(間接適用説)。つまり、民間企業とはいえ、ツイッター社やGAFAなども憲法の射程外ではないのです。

*なお、トランプ氏のツイッター上のツイートと、それに対する他のユーザー・利用者のツイート(リプライ)は、いわゆる「パブリック・フォーラム」であるとして、トランプ氏が自身に批判的なユーザーの投稿をブロックする行為は違法・違憲であるとする判決が米連邦裁判所で複数出されています。

・トランプ大統領に対し三度目の「批判的なTwitterユーザーをブロックするのは違憲」との判決が下される|engadget

4.独仏と日米の憲法の構造の違い
ところで、憲法の構造・建付けからみると、独仏等の憲法が「闘う民主主義」を採用し「民主主義の敵には人権を認めない」との立場を取るのに対して、米日等の憲法はその立場はとっていません。米日などの憲法は、上でみたような、自由闊達な議論(表現)を重視する、伝統的な近代立憲主義の憲法です。憲法の構造からすれば、ドイツなどでは表現規制はやりやすく、米日ではやりにくいはずなのです。

アメリカ合衆国憲法修正1条
連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。

日本国憲法
第21条1項 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

アメリカ合衆国憲法修正1条
(アメリカ合衆国憲法修正1条)

つまり、ドイツ等はナチズムの反省に立つ「ポスト近代憲法」であり、ドイツ基本法1章18条が、"民主主義に反する表現行為等の基本権(人権)を認めない"と明記した上で民衆扇動罪等の個別の立法がある建付けですが、日米等は表現を最大限尊重する伝統的な「近代憲法」である点が大きく違うのです。

ドイツ基本法
第18条(基本権の喪失)
意見表明の自由、とくに出版の自由(第5条1項)、教授の自由(第5条3項)、集会の自由(第8条)、結社の自由(第9条)、信書、郵便および電気通信の秘密(第10条)、所有権(第14条)または庇護権(第16条a)を、自由で民主的な基本秩序を攻撃するために濫用する者は、これらの基本権を喪失する。喪失とその程度は、連邦憲法裁判所によって宣言される。

ドイツ基本法18条
(ドイツ基本法1章18条)

日本に関していえば、戦前の日本は、体制翼賛制度のもと国家による言論弾圧、表現統制・思想統制などが広く行われ、軍部の暴走を止めることができなかったとの反省から、最大限、表現の自由を認める現行憲法ができあがったとされています。

5.まとめ
このようにそれぞれの憲法の建付けやその歴史的経緯を振り返ると、「闘う民主主義」をとるドイツのメルケル首相すら警鐘を鳴らすネット上の民間企業による表現規制を、アメリカ(や日本)が安易に許してよいのだろうかとの疑問が湧きます。

仮に許すとしても、それは民主主義国家における主権者たる国民の、議会での議論を経た上での立法を根拠として行われるべきではないのか?ツイッター社やGAFA等のIT系民間企業に任せてよい問題なのか?とのメルケル首相の主張は極めて正論であるように思われます。

表現の自由とは、民主主義国家における主権者の我われ国民の重要な権利です。民間企業の経営陣の営利的・恣意的な判断や、民間会社の利用規約などに委ねてしまった場合、その濫用によって、国民・市民の表現の自由が不当に阻害されたとき、その民主制に対する打撃は重大なものとなってしまうおそれがあるからです。これは少し大きくいえば、GAFAに対する、国家のネット上の「主権」あるいは「安全保障」に関する問題といえるかもしれません。

■関連するブログ記事
・アメリカ連邦議会にトランプ氏支持者の暴徒が侵入-大統領の罷免・弾劾

■参考文献
・辻村みよ子『比較憲法 新版』120頁、125頁
・樋口陽一・小林節『「憲法改正」の真実』90頁











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アメリカ連邦議会占拠1
(ロイターより)

2020年1月7日の各メディアの報道によると、1月6日にアメリカの連邦議会で昨年11月の大統領選の結果を認証する議事が行われていたところ、議事堂周辺に集まったトランプ大統領支持者の一部が暴徒化し、警備を破り建物内に侵入し、一時連邦議会は暴徒に占拠されたとのことです。これには驚いてしまいました。これは控えめに言っても、大統領選に敗れたトランプ氏とその支持者達による、クーデターか反乱の未遂のように思われます。

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(ロイターより)

これに先立ち、トランプ大統領は、「我々は負けを認めない。連邦議会に集まろう。」などと支持者に呼び掛けていたとのことです。

・トランプ支持者が議会占拠、銃撃で1人死亡 バイデン氏「反乱」と非難|ロイター

CNNによると、バージニア州は州兵を首都ワシントンに展開。この日の夜には、連邦議会の暴徒は排除されたようです。

その後、NHKなどの報道によると、ペンス副大統領らトランプ政権の閣僚達は、アメリカ合衆国憲法修正25条に基づく「大統領の職務遂行の不能」の手続きによりトランプ氏を罷免する手続きの検討に入ったとのことです。

・米連邦議会の混乱 オバマ前大統領がトランプ大統領を強く非難|NHK

アメリカ合衆国憲法修正25条
第4 項1号
副大統領、および行政各部の長または連邦議会が法律で定める他の機関の長のいずれか の過半数が、上院の臨時議長および下院議長に対し、大統領がその職務上の権限および義務を遂行できな い旨を書面で通告したときは、副大統領は、直ちに臨時大統領として、大統領職の権限および義務を遂行 するものとする。

同25条4項1号は、政権の閣僚の過半数が大統領が職務遂行の不能の状態にあると判断したときは、副大統領が連邦議会の上院および下院の議長に対して書面で通告することにより、大統領を罷免し、副大統領が大統領の職務を代行することができると規定しています。

具体的な事実はまだ明らかになっていませんが、もし本当にトランプ氏が大統領としての権力を保持し続けようとの目的で支持者達を扇動し、連邦議会に突入させ占拠したのだとしたら、これはクーデターや、反乱としかいいようがありません。「大統領が職務遂行の不能」の状態にあったと言わざるを得ないのではないでしょうか。

なお、同じくアメリカ合衆国憲法2章(大統領の権限)の4条は、大統領などの弾劾の手続きを定めており、大統領などは、反逆罪などで弾劾裁判で有罪判決を受けた場合は罷免されると規定しています。(弾劾裁判については第3条第3節。)

アメリカ合衆国憲法第2節
第4 条[弾劾]
大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき 弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる。

合衆国憲法修正25条、あるいは合衆国憲法第2節第4条のいずれの手続きをとるにせよ、このままいくと、トランプ氏は大統領の職位を罷免されるということになりそうです。

■関連するブログ記事
・独・メルケル首相のツイッター社等のトランプ氏追放への「苦言」を考える-憲法の構造



新版 世界憲法集 (岩波文庫)

憲法 第七版

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