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とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2021年05月

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1.警察庁がSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを導入
2021年5月29日の共同通信などの報道によると、警察庁がSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを導入することを決定したとのことです。年内に警察庁と警視庁などの5都府県警で運用を始め、全国の警察に広げる方針とのことです。SNSを利用して行われる特殊詐欺などの犯罪を捜査するためのAIシステムの導入と警察関係者は説明しているようです。

・警察庁SNS解析システム導入へ AI捜査で人物相関図作成|共同通信・ヤフージャパン

しかしこのような捜査は、特殊詐欺の捜査のためという必要性が肯定されるとしても、国民のプライバシーやSNSなどにおける国民の表現の自由などとの関係、あるいは、憲法や刑事訴訟法の定める令状主義や強制処分法定主義との関係で、法的に許容されるものなのでしょうか?

以下、①プライバシー権、②表現の自由、③刑事訴訟法(とくにGPS捜査)、④個人情報保護法制における「自動処理決定拒否権」などの観点から検討してみてみたいと思います。

2.プライバシー権
警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムにおいて、警察当局がもっとも取得しようと考えているのは、SNSの利用者・ユーザーの人物相関図であるようです。つまり、利用者のSNS上における友人関係(あるいは友人でない関係、ブロックしている関係など)、SNS上の社会関係のようです。

この「個人の自律的な社会関係」は、憲法上、プライバシー権あるいは自己情報コントロール権(憲法13条)の保障のもとにあります。

つまり、憲法の基本原理のひとつである、「すべての国民は(それぞれ個性を持った人間として)個人として尊重される」という「個人の尊重」原理(憲法13条)から、国や企業、第三者などに対して個人の自律的な社会関係は、尊重することが要求されてるものです。

すなわち、国民個人が自律的に形成する社会関係などの私的な領域は、個人の尊重原理に基づいて、国などの公権力や企業、第三者などによって干渉されてはならない領域であるため、国民個人の自律的な社会関係などの私的領域の情報については、国などは立入が許されないということになります。これが現代の情報化社会におけるプライバシー権であり、あるいは「自己に関する情報をコントロールする権利」(自己情報コントロール権)として憲法の学説上、通説として説明されるものです(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』275頁)。

日本の裁判例も、1964年の「宴のあと」事件判決が「私生活をみだりに公開されない権利」として認めたことを始まりとして(東京地裁昭和39年9月28日)、プライバシーの権利が判例により認められています(最高裁平成15年9月12日・早大講演会名簿提出事件など)。

3.表現の自由などの問題
また、国民のSNSなどのインターネット上の書き込みなどの情報発信などの表現行為も、憲法の表現の自由(憲法21条1項)の保障のもとにあります。また、国民がSNSなどのインターネットによりさまざまな情報を受け取る自由も、国民の「知る権利」として表現の自由の保障のもとにあります(芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』194頁)。

4.精神的自由と刑事法との関係
このように、SNSなどネット上の国民個人の社会関係・人間関係・人物相関図は、プライバシー権あるいは自己情報コントロール権(憲法13条)による保障のもとにあり、また、SNSなどネット上の国民の情報の発信や情報の授受なども表現の自由(21条1項)の保障のもとにあるわけですが、これらの精神的自由(人権)と、警察当局や刑罰法規がぶつかり合う場合に、それをどう解決するかが問題となります。

この点、裁判例は、国民の表現行為を規制・侵害する刑罰法規が「通常の判断能力を有する一般人の理解」において、具体的場合に当該表現行為がその刑罰法規の適用を受けるかどうかの基準が読み取れないような場合には、その刑罰法規は漠然とした不明確な法令であり違憲・無効となるとしています(「明確性の基準」「適正手続きの原則」(憲法31条)・最高裁昭和50年9月10日判決・徳島市公安条例事件)。

今回問題となっている、警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムは、報道をみるかぎり、従来、捜査員が目や手をもとに行っていた捜査手法をAIシステムに置き換えるだけであると警察庁は考えているようであって、警察庁の内部規則があるとしても、そもそも法律上の根拠なしに警察当局が導入し使用を開始するようです。

つまり、この明確性の基準を適用する法律すら存在しないようなので、そのような捜査システムを使用して国民のプライバシー権や表現の自由などを侵害することは、それだけで違憲・無効となると思われます(13条、21条1項、31条)。

5.刑事訴訟法
防犯カメラ、電話の盗聴、GPS捜査など、新しい科学技術を用いた警察の捜査は、刑事訴訟法の分野で裁判で争われてきました。つまり、そのような新しい捜査手法により収集した証拠などが、刑事裁判において有効な証拠となるかが争われてきました(違法収集証拠排除の原則)。

このなかで、従来、警察の捜査員が見張りや尾行などを行っていたところ、それに代えて、警察が令状をとらずに被疑者・容疑者の自動車などにひそかにGPS機器を取り付け、その被疑者の位置情報・移動履歴を収集する手法が裁判で争われ、最高裁はそのような捜査手法は令状主義や強制処分法定主義(憲法35条、刑事訴訟法197条1項)に違反するものであり、また、GPS捜査については国会で立法を行うべきであると判示しています(最高裁平成29年3月15日判決、宍戸常寿『新・判例ハンドブック情報法』231頁)。

すなわち、最高裁は、GPS捜査は①公道上だけでなくプライバシーが保護されるべき場所・空間をも捜査対象としており、②個人の行動を継続的・網羅的把握しプライバシーを侵害すること、③個人に秘密で機器を着けて行う点で公道上の見張りや尾行などと異なるため、令状が不要な任意捜査の限界を超えており、強制捜査というべきであり、違法な捜査であるとしています。

また、最高裁は、現行の刑事訴訟法上の検証などの令状でGPS捜査を適切に限定することは困難であり、また、裁判官が多様な選択肢のなかから実施条件を選んで令状を交付することは強制処分法定主義に反するとして、GPS捜査について、国会立法を行うべきであると判示しています。

■GPS捜査事件最高裁判決について詳しくはこちら
・【最高裁】令状なしのGPS捜査は違法で立法的措置が必要とされた判決(最大判平成29年3月15日)

この判決を警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムについてあてはめると、 上でみたように、SNS上の友好関係・社会関係などの人物相関図などは、利用者個人のプライバシーあるいは自己情報コントロール権による保障の対象であるので、①のプライバシーが保護されるべき空間などに該当します。また、AIによる分析というその捜査手法の性質上、利用者個人のSNS上の表現・行動などを継続的・網羅的に把握し、大量の個人データ・プライバシーに関する情報を迅速に収集してしまうことから、②のように継続的・網羅的に利用者のプライバシーに関する膨大な情報を収集してしまうことに該当します。

加えて、SNSの利用者には秘密裡にAI捜査が行われると思われ、さらに、AIによる人物相関図の分析という捜査の性質上、その捜査対象がSNSの利用者全員におよぶおそれがあり、たとえば日本のTwitterの利用者が約4500万人、LINEの利用者が約8600万人、Facebookの利用者が約2600万人などとされていることから(echoes「2021年2月更新 データからみるTwitterユーザー実態まとめ」)、単純に計算しても日本の国民の大多数が警察庁のAI捜査システムの捜査対象となってしまう危険性があるため、③のように令状なしに警察等が実施できる任意捜査の限界を大きく超えています。

AIやコンピュータなどによるこのようなネット上の網羅的・継続的な捜査により収集された大量の個人データなどによれば、友好関係だけでなく、利用者・個人の思想・信条、政治的見解、趣味・嗜好、性的嗜好、病歴、犯罪歴などを把握することにより、「国家の前で国民が丸裸になる」状況が生み出されてしまいます。

これは国家による国民の監視・モニタリングであり、しかも上でみたように、その警察によるモニタリング・監視の対象が国民の大多数におよぶ危険があることから、これは国民の個人の尊重や基本的人権の確立という目的のために国などの統治機構は手段として存在する(憲法11条、97条)というわが国の近代立憲主義憲法の根幹すら揺るがしなけない、極めて深刻な状況であるといえます。

したがって、GPS捜査事件について最高裁判決が判示するように、警察庁のSNSをAI解析システムについては、国会で慎重な議論を行い、そのような捜査手法が本当に許容されるのか、許容されるとしてどのような基準をもとに警察が実施・運用するのか等を検討し、本当に必要であれば立法を行うべきです。

6.AI・コンピュータの自動処理による人間の選別
1960年代からのコンピュータの発展による人権侵害のおそれを受けて、世界で個人情報保護法(個人データ保護法)が検討されてきています。

さまざまな目的で収集されたさまざまな個人データが国などに収集され、それがコンピュータなどにより迅速に機械的に処理されるようになると、それぞれの個人データがある目的のためには適切であるとしても、別の目的のためには利用することが適切でない個人データが名寄せにより連結され、コンピュータが極端な結果や間違った結果を生み出してしまうおそれがあります。

また、データの誤りの混入によっても間違った結論が出されてしまうおそれがあります。これらの極端な結論や間違った結論について、人間がチェックすればその結論に疑問を持ち再確認が行えるはずなのに、コンピュータであるとその間違い等に気が付けないリスクが存在します。

さらに近年急速に発展しているAIは、大量のデータを自ら学習することにより自らを高度化させてゆきますが、その機械学習が進んでいくと、AIの専門家ですら、AIがどのような理由でそのような結論を導き出したか説明できないとされています(ブラックボックス化)。しかも人間は、人間よりも機械やコンピュータなどを過信してしまう傾向があります(自動化バイアス)。(山本龍彦『AIと憲法』63頁。)

このような問題意識をもとに、とくに西側自由主義諸国(近代立憲主義的憲法をもつ諸国)の個人情報保護法(個人データ保護法)においては、プライバシー権、自己情報コントロール権と並んで、「コンピュータ・AIによる人間の選別・差別を拒否する権利」(自動処理決定拒否権)がその重要な立法目的とされてきています。

つまり、「コンピュータ・AIによる人間の選別・差別を拒否する権利」(自動処理決定拒否権)とは、上でみたようなさまざまなリスクのあるコンピュータ・AIによる個人データの自動処理のみによる法的決定・重要な決定を個人・国民が拒否する権利であり、言ってみれば人間について、工場などのベルトコンベアーに載せられたモノではなく、人間による人間らしい対応を求める権利であり、つまり、個人の尊重人格権に基づく権利であるといえます(憲法13条、山本・前掲101頁)。

この「コンピュータ・AIによる人間の選別・差別を拒否する権利」は、1996年のILO「労働者の労働者の個人情報保護に関する行動準則」で明文化され、欧州では1995年のEUデータ保護指令15条から2018年のGDPR22条に受け継がれています。そして、EUでは本年4月に「AI規制法案」が公表されました。

この自動処理決定拒否権は、日本でも2000年の労働省「労働者に関する個人情報の保護に関する行動指針」第2(個人情報の収集)6(6)に、「使用者は、原則として、個人情報のコンピュータ等による自動処理又はビデオ等によるモニタリングの結果のみに基づいて労働者に対する評価又は雇用上の決定を行ってはならない。」と明文規定があるとおり、日本の個人情報保護・個人データ保護法制にも存在する考え方です。

そして、EUのAI規制法案は、AIの人間に対する危険度から①禁止②高リスク③限定的なリスク④最小限のリスクと、4つのカテゴリに分類しています。

このうち、①禁止のカテゴリには、AIによる信用スコア事業や、公共の場所における警察などによる防犯カメラの顔認証などによる国民の常時監視・モニタリングが該当するとされ、また、②高リスクのカテゴリには、AIを利用した運輸・ガス・水道などのインフラ、教育、医療、企業などの採用・人事考査、公的部門の移民・難民の審査、司法、社会保障など公共機関におけるAIの利用などが該当するとされています。

そのため、今回報道された警察庁のAIを利用したSNSの捜査システムは、「司法」に準じた警察・検察の行政作用であるという点で少なくとも②高リスクに該当しそうですし、AIによる国民の常時監視・モニタリングという行為を考えると、①禁止のカテゴリに該当してしまいそうです。

したがって、日本を含む西側自由主義諸国(近代立憲主義憲法を持つ諸国)の個人データ保護の基本的な考え方の一つの「コンピュータ・AIによる人間の選別・差別を拒否する権利」からは、警察庁のAIを利用したSNSの捜査システムは、①禁止、あるいは②高リスクのカテゴリに該当するとして、平成11年の通信傍受法などのように、警察の捜査システムとして本当に必要であるのか、必要であるとしてどのような基準で実施すべきなのか等を国会で慎重に審議して、必要であれば新しい法律を制定した上で実施すべきなのではないでしょうか(法律による行政の原則)。

■関連する記事
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR
・【最高裁】令状なしのGPS捜査は違法で立法的措置が必要とされた判決(最大判平成29年3月15日)
・デジタル庁のプライバシーポリシーが個人情報保護法的にいろいろとひどい件-個人情報・公務の民間化

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』275頁
・芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』194頁
・宍戸常寿『新・判例ハンドブック情報法』231頁
・山本龍彦『AIと憲法』63頁
・田口守一『刑事訴訟法 第4版補正版』46頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』94頁
・高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ―民間部門と公的部門の規定統合に向けた検討」『情報法制研究』2巻75頁
・EUのAI規制案、リスク4段階に分類 産業界は負担増警戒|日経新聞














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1.Githubの利用規約とネット系人材紹介会社
ある方が、Twitter上で「「Githubをみてメールしました」との人材紹介会社からのメールが来るけれど、これはGithubの利用規約違反ではないか?」という趣旨の投稿をされているのを見かけました。

以前より、私もGithubやSNSなどネット上で個人情報を収集している最近のネット系人材紹介会社(LAPRASHackerBase Jobsなど)に関心があったので、Githubの利用規約をみてみました。

すると、Github利用規約「5.情報利用の制限」はつぎのように規定しており、たしかに、ユーザーの個人情報を、人事採用担当者、ヘッドハンター、求人掲示板など販売することなどの目的で、Githubのサービスから取得して利用することはできないとはっきり禁止規定が存在します。

Github利用規約
5.情報利用の制限
「ユーザ個人情報」を、ユーザに対して未承諾メールを送信する、人事採用担当者ヘッドハンター求人掲示板など販売するといった目的を含め、スパム目的で本「サービス」から取得 (スクレイピング、APIを介した情報収集、その他の手段による取得) した情報利用することはできません。


github利用規約5情報の利用制限
(Githubより)

・Github利用規約

また、Github企業向け利用規約「3.プライバシー」も次のように規定し、企業(「お客様」)はGithubから「外部ユーザー」(=当該企業の顧客には未だなっていないユーザー)個人情報を収集して使用するには、当該ユーザー「利用目的」への「承認」が必要であると明記しています。

つまり、ここでも企業がユーザーの個人情報を取得し利用するためには、ユーザー本人の同意が必要であると明記されています。

「お客様がGitHubから「ユーザ個人情報」を収集した場合、お客様は「外部ユーザ」承認した目的にのみその個人情報を使用するものとします。


github企業向け利用規約
(Githubより)

このようにみてみると、人材紹介会社が、Github上のユーザーの本人の同意なしに、ユーザーの個人情報を収集し、分析、加工するなどして求人を行っている企業の人事部やヘッドハンターなどに第三者提供することは、Githubの利用規約に違反していることになります。

もし、Github上のユーザーの個人情報の企業などによる違法・不当な収集・利用があった場合、「GitHubはGitHubまたは「外部ユーザ」からの苦情、削除要請、および連絡拒否の要請速やかに対応する」と規定されており(Github企業向け利用規約「5.情報利用の制限」)、また、企業などは「当社やその他ユーザからの苦情、削除要請、および連絡拒否の要請速やかに対応する」(Github利用規約「6.プライバシー」)ことが義務付けられています。

2.ネット系人材紹介会社と職業安定法5条の4・2019年の厚労省通達
また、2019年に就活生のネット閲覧履歴などのAI分析に基づく内定辞退予測データの販売が大きな社会的問題となったリクナビ事件を受けて、厚労省職業安定局は2019年9月6日付で「募集情報等提供事業者等の適正な運営について」(職発0906第3号令和元年9月6日)との通達を発出しています。

・厚労省職業安定局「募集情報等提供事業者等の適正な運営について」(職発0906第3号令和元年9月6日)|厚労省(PDF)

厚労省通達職発0906第3号

この2019年の通達では、人材紹介会社や求人企業などは、求職者の個人情報を収集する際には、「本人から直接収集」するか、あるいは「本人の同意」の下に収集をしなければならないと明記されており、職業安定法5条の4および指針通達平成11年第141号第4「法5条の4に関する求職者等の個人情報の取扱い」の規定が再確認されています。(なお、本人同意は形式的なものであってはならないこと、人材会社等のサービスを利用するために本人の同意を条件とするなど同意を事実上強制してはならないこと等も明記されていることも注目されます。)

また、この2019年の通達では、「人材会社などの事業者の判断により求職者の個人情報選別または加工を行うことの禁止」を明記していることも大いに注目されます。(これは、EUのGDPR22条や、2000年の労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」第2、6(6)などの「コンピュータによる個人データの自動処理のみによる法的決定・重要な決定の拒否権」と同じ趣旨の考え方であると思われ注目されます。平成28年の個人情報保護委員会の「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」制定後は、日本の官庁はこの自動処理拒否権を無視・否定しているかに見えたのですが、この考え方は現在も日本で有効であるようです。すなわち、現在の日本政府は、AIやコンピュータによる個人情報の無制限な利活用を許容していないことになります。

ネット系人材会社LAPRASなどは、サイトの説明によると、転職を希望している「転職顕在層」だけでなく、「転職潜在層」のGithubなどネット上の個人データを収集・加工して求人企業の人事部などに提供を行うビジネスを業務を行っているようです。また、同社サイトはオプトアウト手続きのための入力フォームを現在も設置しており、やはり本人の同意を得ていない個人の個人データをネット上で収集し加工するビジネスを現在も行っているようです。

LAPRAS宣伝
(LAPRAS社サイトより)

そのため、LAPRASなどネット系人材紹介会社の業務は、(LAPRASの場合は「転職潜在層」に関して)個人の個人情報について、「本人から直接取得」あるいは「本人の同意」を得て収集しておらず、また、それらの個人情報・個人データを事業者の判断で選別・加工して、その個人データを求人企業などに提供しているようです。

したがって、Githubなどネットで個人情報を収集してるネット系人材会社のLAPRASなどのビジネスモデルは、やはり、Githubの利用規約に違反してると共に、職安法5条の4や厚労省の通達平成11年第141号、2019年の厚労省通達職発0906第3号などに違反しているのではないかと思われます。

■参考文献
・菅野和夫『労働法 第12版』69頁、262頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』93頁
・山本龍彦『AIと憲法』101頁

■関連する記事
・AI人材紹介会社LAPRAS(ラプラス)の個人情報の収集等について法的に考える
・リクルートなどの就活生の内定辞退予測データの販売を個人情報保護法・職安法的に考える
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR
・人事労務分野のAIと従業員に関する厚労省の労働政策審議会の報告書を読んでみた
・デジタル庁のプライバシーポリシーが個人情報保護法的にいろいろとひどい件-個人情報・公務の民間化
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた











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1.はじめに
2020年(令和2年)4月に、国の新型コロナ緊急事態宣言をうけ、代表取締役が招集通知後に取締役会決議を経ずに株主総会の日時場所を変更したことが違法でないとされた興味深い裁判例が出されています(大阪地裁令和2年4月22日決定・積水ハウス株主総会事件)。

2.事案の概要
訴外A社(積水ハウス株式会社)は、住宅建設などを行う建設会社であり、会社法上の公開会社かつ大会社であり監査役設置会社である。YはA社の代表取締役であり、XはA社の取締役であり、A社の株式を6か月以上前から保有している。訴外Bは、A社の前代表取締役である。

XおよびBは、2020年2月14日付で、A社に対し、X、Bなど9名を取締役に選任するための提案権を行使した。同年3月5日、A社の取締役会は定時株主総会招集決議を行った(本件定時株主総会決議)。同年4月1日、A社は本件定時株主総会決議に基づき、定時株主総会(本件定時株主総会)の招集通知を同社のウェブサイトに公表し、同年4月6日、Yは株主に対して招集通知の書面を発送した。

招集通知においては本件定時株主総会は、日時は2020年4月23日午後10時より、場所は大阪市のCホテル2階のホテル大宴会場と記載されていた。

同年4月7日、国は新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)32条に基づき、新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言を発出し、同日、大阪府知事は、特措法24条9項に基づき府内の一定施設に対して、同年4月14日から同年5月6日までの休業等の要請を行った。

この緊急事態宣言を受けた大阪府知事の休業要請により、Cホテルのホテル大宴会場が利用不能となったため、Yは同年4月15日、本件定時株主総会の開催場所を大阪市のCホテルに隣接するDビルの35階フロアとし、開始時刻を30分遅らせて午前10時30分と変更し(本件変更)、「定時株主総会 開催場所・開始時刻変更等について」との情報を、A社ウェブサイトで公表した。

これに対してXは、Yの本件変更は、招集手続きに関する法令(会社法298条1項1号、4項、299条)に違反したYの違法行為であり、本件決定を前提に本件定時株主総会を開催することは、YのA社に対する善管注意義務違反であると主張し、差止請求権を被保全権利として、本件定時株主総会の開催禁止を求める仮処分命令を申し立てたのが本件訴訟である(同360条3項、1項)。

3.裁判所の決定の要旨
「会社法上、株主総会を招集するにあたり、取締役会で定めた会社法298条1項所定の事項を変更しようとする場合の要件や手続きにつき、明文の規定はない。(略)もっとも、(略)本件定時株主総会招集決議の権限の範囲は、本件定時株主総会招集決定の合理的解釈によって画定されるものというべきである。招集通知(略)の最初の頁には、新型コロナウイルス感染症への対応として、『本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください。』という一文が明記され、参照先のURLが記載されていたのであるから、本件定時株主総会招集決定は、新型コロナウイルス感染症の動向いかんによっては定時株主総会の運営に変更があり得ることを前提としていたことは明らかであり、変更をおよそ許容しない趣旨と解することはできない。」

Y限りで株主総会の日時及び場所を変更することの可否等も、本件定時株主総会招集決議の解釈により決せられることになる。もとより、本件定時株主総会招集決議を執行するにあたり、株主の議決権行使が妨げられることとなるような恣意的な変更を許容する趣旨と解することはできないが、少なくとも本件のように、Yが、当初予定していたホテル大宴会場の使用が事実上不可能となったことに伴い、代替会場として、隣接する高層ビルの35階をフロアごと確保し、これに伴い、35階空きフロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分繰り下げる範囲で本件定時株主総会の開始時刻及び場所を変更するにとどまる本件変更は、本件定時株主総会決議の執行の域を逸脱するものとまではいえない。」

「Xは、Yが自己の保身等のために本件定時株主総会開催を強行しようとするものであるかのように主張する。(略)しかし、A社取締役会も、取締役候補者選任をめぐっては鋭く対立しているものの、緊急事態宣言前後を通じて、本件定時株主総会を開催する方向で異論なく準備を進めてきたと認められるのであり、それまでのYの認識と前提を全く異にする義務を肯定することは困難である。(略) よって、本件仮処分命令申立は、被保全権利の疎明を欠くものとして、理由がない。」

4.検討
(1)株主総会の日時・場所の変更について
監査役設置会社などの取締役会設置会社が株主総会を開催する場合には、株主総会の日時・場所など所定の事項を取締役会で決議し(会社法298条1項、4項)、株主総会の日の二週間前までに書面またはウェブサイト等で株主に通知しなければなりません(299条1項、2項、3項)。

しかし、会社法は株主総会の日時・場所などを変更する場合の要件や手続きなどの規定がないため、本事例のような場合に、株主総会の日時・場所などを変更できるのか、できるとしてどのような手続きをとるべきなのかが問題となります。

この点、学説・裁判例は、招集通知を通知後に株主総会の日時・場所を変更することも、正当な理由があり、かつ変更について株主に対する適切な周知方法がとられていれば、そのような変更は許されるとしています(広島地裁高松支部昭和36年3月20日判決)。

ただし、理由なく変更が行われた場合には、決議不存在事由になりうるとする裁判例も存在し(大阪高裁昭和58年6月14日判決)、開始時間を長時間遅らせることは決議取消事由となるとする裁判例も存在します(水戸地裁下妻支部昭和35年9月30日判決、江頭憲治郎『株式会社法 第7版』327頁)。

本判決の決定は、上の広島地裁高松支部の判決と異なり、招集通知送付後に取締役会決議を経ずに代表取締役限りで株主総会の日時・場所を変更することは、「本件定時株主総会招集決定決議の合理的解釈により決せられる」と判示しており、この点に意義のある裁判例です。

そして本裁判の決定は、招集通知に「本定時株主総会運営に変更が生じた場合には、以下のウェブサイトに掲載いたしますので、ご出席の際にはご確認ください」と明記されていることから、新型コロナの動向によっては定時株主総会の運営に変更がありうることを前提として取締役会決議がなされたことは明らかであり、変更を許容しない趣旨とは言えないとしています。この点は、招集通知からうかがわれる本件株主総会決議の内容として合理的な解釈であるといえるので、妥当なものであると思われます。

(2)取締役会決議を経ないで株主総会の日時・場所を変更することの可否
本裁判の決定は、取締役会決議を経ないで株主総会の日時・場所を変更することの可否について、「代表取締役限りで本件変更をすることの可否は、本件定時株主総会収集決議の解釈による」、そしてその解釈にあたっては、「株主の議決権行使が妨げられるような恣意的な変更は許されない」としています。

そのうえで、本裁判の決定は、①Cホテルのホテル大宴会場が事実上使用不可能となったこと、②代替会場として、隣接するDビルの35階フロアを確保したこと、③Dビルの35階フロアへの移動時間を考慮して開始時刻を30分遅らせて午前10時30分からとしたこと、の3点から、本件変更は本件定時株主総会招集決議の解釈の限度内にとどまると判示しています。これは妥当な判断であると考えられます。

(3)Yの善管注意義務違反の有無
Xは、Yが自己保身のために本件定時株主総会の開催を強行しており、それは取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)の違反に該当すると主張しています。

これについて本裁判の決定は、「本件定時株主総会招集決議の趣旨は、流会等の措置を講じることではなく、新型コロナの動向に照らし、Yが本件変更を前提として本件定時総会を開催することにある」として、その趣旨に沿って開催のために事務を行う以上は、Yに善管注意義務は認められないと判示しています。上でみたように本件変更は妥当であると考えられますので、それを実現するためのYの行為は善管注意義務違反にならないとの判断は妥当であると思われます。

(4)その他、新型コロナと株主総会について
法務省は、新型コロナに関連して、定款で定めた時期に定時株主総会を開催できない場合には、その状況が解消された後、合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるとしています。また、定款に定めた基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない場合は、新たに議決権行使のための基準日を定め、当該基準日の2週間前までに当該基準日および基準日株主が行使することができる権利の内容を公告した上で、定款に定めた基準日から3か月以上を経過した日に株主総会を開催することができるとしています(法務省「定時株主総会の開催について」2020年4月2日更新)。

また、新型コロナの動向により、招集通知送付後に予定していた株主総会の会場が使用できなくなった場合は、予定していた株主総会の会場のできるだけ近隣の施設や社内などを利用し、代替会場の手配を行い、開催場所・時間の変更を行うべきとされています。旧会場からの移動のために、開催時間の繰り下げや、株主を案内するためのスタッフの用意などが必要になります。そして株主総会の変更を会社のウェブサイト等で株主に周知する必要があります(須磨美月「総会準備と当日の運営」『新型コロナウイルス影響下の法務対応』44頁、52頁)。

■参考文献
・尾形祥「株主総会の開催場所の変更等を理由とする違法行為差止めの可否」TKCローライブラリー新・判例解説 商法136
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』327頁
・須磨美月「総会準備と当日の運営」『新型コロナウイルス影響下の法務対応』44頁、52頁
・東京弁護士会会社法部編『新・株主総会ガイドライン 第2版』6頁
・法務省「定時株主総会の開催について」2021年1月29日更新
・経産省・法務省「株主総会運営に係るQ&A」2020年4月2日
・経産省「「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(別冊)実施事例集」を策定しました」2021年2月3日













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IPAルール3
1.コロナワクチンの大規模接種センターの予約システムに不備
コロナワクチンの自衛隊の大規模接種センター予約システムが、市町村コードや接種券番号、年齢などが接種対象者のもの以外でも予約が取れてしまう「ザル」の状態であることを5月19日に、朝日新聞、毎日新聞などのマスコミが報道しました。

これに対してネット上では、「国のシステムなのにひどい」という意見の一方で、主にエンジニアやセキュリティの専門家と思われる方々から反論が多く出されています。また官房長官や防衛大臣などは「法的措置も検討する」と発言しています。

・岸防衛相、朝日新聞出版と毎日新聞に抗議へ 架空の接種券予約で|産経新聞

2.IPAのルール
ところで、昨日ごろからネット上でよく見かけるのが、「システムの脆弱性を見つけたら、まずは運営者に報告するのがルール」であるという、エンジニアやセキュリティ専門家の方々の主張です。

IPAのルール2

・脆弱性発見・報告のみちしるべ ~発見者に知っておいて欲しいこと~(統合版)|IPA

・脆弱性を突く手口、IPA「見つけたらまず開発者やIPA窓口に報告して」 ワクチン予約システムの欠陥巡り|ITmediaニュース

しかし、このツイートの画像やURLなどにもあるように、この「システムの脆弱性を見つけたら、まずは運営者に報告するのがルール」というのは、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)のルールのようですが、それは法令なのでしょうか?(かりにこれが法令であれば、「法の不知はこれを許さず」という法律上の原則もあてはまるわけですが。)

この点、ベネッセ個人情報漏洩事件の民事訴訟で、事業者(ベネッセ)の講じるべき安全管理措置が争われた事例において、当時の経産省の個人情報保護ガイドラインに法的拘束力を認めるものの、IPAのガイドラインには法的拘束力はないとして、ベネッセのIPAのガイドライン違反を違法としなかった裁判例があります(千葉地判平成30.6.20)。

・ベネッセの個人情報漏洩事故につき経産省ガイドラインの法的拘束力を認めるも情報処理推進機構のガイドラインの拘束力は認めなかった裁判例-千葉地判平成30・6・20

そもそも法律は主権者である国民から選挙で選ばれた国会議員の国会で作られるのが原則であり、その法律の細部を定めるために官庁が政省令(法施行令)や、さらにその政省令の細目を定める施行規則や、通達・指針・ガイドラインなどを作ることになっています。

IPAは経産省の傘下団体ではありますが、官庁ではないので、IPAのガイドラインなどに法的拘束力を認めなかった裁判所の判断は妥当だと思われます。(そもそもエンジニアなどIT業界・業種以外の普通の一般人にとっては、「IPAって何?おいしいの?」レベルだと思われますし。

つまり、「システムの脆弱性を見つけたら、まずは運営者に報告するのがルール」というのは、IPAのルール、つまり"SE村・IT村の内部ルール"に過ぎないと思われます。

そのため、同様に、「システムの脆弱性を見つけたら、まずは運営者に報告するのがルール」というIPAのルールに違反したとしても、報道したマスコミなどの行為が直ちに違法となるわけではないことになります。

したがって、エンジニアやセキュリティ専門家の方々が、IPAのルールを、報道をしたマスコミや国のシステム開発を批判している一般人への反論の論拠に使っても、それはあまり説得力がないのではないでしょうか。

3.国とマスコミとの関係
マスコミの報道は国民の「知る権利」に奉仕するものであり、民主主義社会の前提となるものなので憲法21条1項の表現の自由の保障の下にあるとされています(最高裁昭和44年11月26日判決・博多駅テレビフィルム事件)。

そして、国とマスコミの報道・取材との問題については、情報源の外務省の国家公務員に秘密を漏示することをそそのかした新聞記者の取材・報道が刑事裁判で争われた裁判において、裁判所は、「真に報道目的であるとき」等の場合には、記者の報道等は形式的には「そそのかし罪」の構成要件に該当するとしても、正当業務行為にあたり違法性が阻却されると判示しています(最高裁昭和53年5月31日判決・外務省秘密漏洩事件)。

今回の大規模接種センターの予約システムの問題を報道したマスコミの行動についても、かりにそれが国などに対する業務妨害罪などの刑事上の罪に形式的には該当する余地があるとしても、当該報道は、国民の生命・健康に関連するワクチン接種に係るシステムの問題であり、国民の重大な関心事であるので、実質的には報道目的ありとして、正当業務行為であり違法性が阻却され無罪となる可能性があるのではないでしょうか。

今回問題となっている大規模接種センターの予約システムは、国があらかじめ公表した「東京23区および大阪府の75歳以上の高齢者に大規模接種センターで接種する」という方針・計画に反して、23区外や75歳未満の住民などでも予約可能であったこと、つまり国・計画の方針に対して予約システムが設計段階で間違っていることが大きな問題であると思われます。

コロナから国民の生命・健康を守るために重要なワクチンを国が接種するための予約システムは、国の方針や計画をきちんと反映したものでなければならないはずです。

そうでなければ、国があらかじめ考えている接種する住民の優先順位を守ることができず、また公平・公正でなければならない国のワクチン接種などの行政行為が公平性・公正性が失われるおそれがあります。

あるいは予約システムの設計上の大きな誤りは、ワクチン接種の恣意的な運用や、間違ったな運用を許してしまうかもしれません。

しかしそれは国の行為として大きな危険をはらんでいます。わが国が国民主権の国であり、国民の福利のために国が存在する以上は、国の行為に間違いや誤りがあった場合などには、主権者である国民がそれを批判するのは正当ではないでしょうか(憲法11条、97条)。

国民が国を監視し、批判あるいは応援して政治に参画するためには、その前提として様々な情報や多様な意見が必要です。その国民の政治への参加の「助っ人」として、マスコミ・報道機関が国を取材し、批判的に報道することも、民主主義国家においては重要なことと思われます。

■参考文献
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』396頁

■関連する記事
・デジタル庁のプライバシーポリシーが個人情報保護法的にいろいろとひどい件-個人情報・公務の民間化
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR
・【デジタル関連法案】自治体の個人情報保護条例の国の個人情報保護法への統一化・看護師など国家資格保有者の個人情報の国の管理について考えた
・健康保険証のマイナンバーカードへの一体化でカルテや処方箋等の医療データがマイナンバーに連結されることを考えた
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた











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デジタル庁トップ
5月12日にデジタル関連法案が参議院で可決・成立したことを受けて、デジタル庁が早々とウェブサイトを作成したようです。また、デジタル庁が最近いろいろと物議を醸しているnoteを使った宣伝活動を開始したことが早くも炎上しているようです。

・デジタル庁サイト

・デジタル庁「noteはじめました」→ドメインが「.go.jp」であることの問題点を高木浩光先生が指摘|togetter

そこで、デジタル庁のサイトを私もみてみました。

ざっとみると、現在のデジタル庁サイトは、①情報発信の業務と、②国民からの意見・要望募集の業務、③新卒・中途の職員の採用業務の3つをメインに行っているようです。

そこで、プライバシーポリシーを見てみると・・・

デジタル庁プラポリ1

条文形式にすらなっていないのが気になります。どこかのオシャレなITベンチャー企業のプレスリリースをコピペしてきたのでしょうか?文章も素人臭い感じで、本当に内閣IT推進室などの霞が関の個人情報保護法や情報セキュリティの専門家のエリート官僚達が作っているのか少し心配になってきます。

プライバシーポリシー(プラポリ)の内容としても、気になる点がいくつかあります。
第一に、このデジタル庁サイトは上でみた①から③までの業務・サービスを行っているのですが、「2.収集する情報の範囲」は、収集する個人情報を、「お問い合わせの種別、お名前、メールアドレス」と、「ご意見・ご要望」に関する個人情報しか記載されていません。

デジタル庁プラポリ2

しかし、デジタル庁サイトは新卒・中途の職員採用業務も実施しており、またプラポリの「3.利用目的」では、「当ウェブサイトが提供するサービスを円滑に運営するための参考として利用」するとも記載されています。

そのため、採用活動でやり取りする、就活生・求職者の氏名、試験区分、参加希望日時、参加希望形式などの個人情報・個人データなども「収集する情報の範囲」に明記するべきです。

デジタル庁プラポリ3

また、「当ウェブサイト運営の参考」のための、ウェブサイト閲覧者のIPアドレス、デバイスの種類、OSの詳細、ブラウザの詳細、サイト閲覧履歴などの個人情報・個人データ・個人関連情報も収集していることを明記すべきです。

第二に、プラポリ「3.利用目的」には、個人情報は、①「当ウェブサイト運営の参考のため」と②「ご意見・ご要望」を今後の政策立案の参考にし、関係府省に第三者提供することの2点しか明記されていません。

しかしデジタル庁サイトは採用活動も行っているのですから、「3.利用目的」に「新卒・中途の採用活動」に関しても個人情報・個人データを利用していることを明記すべきです。

第三に、「4.利用及び提供の制限」やっつけ仕事というか、いい加減です。

デジタル庁プラポリ5

まず冒頭が「当室では」とありますが、主体はデジタル庁であって内閣IT推進室ではないのですから、これは明らかに誤字脱字でしょう。(世の中に公開するプライバシーポリシーなのに、しかも官庁のプライバシーポリシーなのにダブルチェックや上の人の決裁などを受けていない文章なのでしょうか?)

また、法令に基づく開示要請があった場合、不正アクセス脅迫等の違反行為があった場合その他特別の理由のある場合を除き…3の利用目的外に自ら利用し、又は第三者に提供しません」とあります。(ここは完全に素人臭い文章で、官僚なら職場で叩き込まれているはずの法律知識や法令用語の使い方を無視しているので、おそらくどこかの零細ITベンチャー企業などのプラポリをコピペしているのだろうと思われます。)

この部分については、例えば現在はまだデジタル庁に適用される行政機関個人情報保護法の8条1項はつぎの各号の場合には、行政機関は個人情報を目的外利用・第三者提供することができると規定しています。

・「本人の同意があるとき」(1号)
・「行政機関が法令の定める所掌事務の遂行に必要な限度で保有個人情報を内部で利用する場合であって、当該保有個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき」(2号)
・「他の行政機関(略)に保有個人情報を提供する場合において、保有個人情報の提供を受ける者が、法令の定める事務又は業務の遂行に必要な限度で提供に係る個人情報を利用し、かつ、当該個人情報を利用することについて相当な理由のあるとき」(3号)
・「学術研究の目的・統計利用の目的」(4号)

しかしデジタル庁のプライバシーポリシーが「4.利用及び提供の制限」でまったくこれらに触れていないのは、デジタル庁がIT・デジタル化や個人情報・マイナンバーや情報セキュリティが所管業務であるのに、その役職員が個人情報保護法制などのまったくのド素人なのか、あるいは最初から法律や社会常識などをはなから守るつもりがないのか、よくわからないところです。

第四に、せっかくプライバシーポリシーを作ったのに、国民・利用者が開示・訂正・削除などの請求をするための手続きやそのための手数料などを明記していない点も非常に疑問です。この点も、完全にド素人の作成したプライバシーポリシーであることを伺わせます。(なお、行政機関は必ず手数料を設定しなければならないと規定されています(行個法28条)。)

第五に、「5.安全確保の措置」では、ここでも冒頭の「当室」が誤字脱字で、その内容も、デジタル庁自身の安全確保措置と、個人データの取扱の委託先に対する監督については一応明記がありますが、デジタル庁の役職員に対する監督や、役職員の守秘義務が記載されていないのも法的にどうなのかと思います(行個法6条、7条)。

また、デジタル庁のプライバシーポリシーにおいては、個人情報の事務の委託先や、第三者提供先がまったく明らかになっていません。これでは国民・利用者は、自分の個人情報がどこに行くのか予測することがまったくできません。

少し前には、LINEの個人情報の問題が大炎上しました。しかしデジタル庁のプライバシーポリシーは、LINEのプライバシーポリシーの足元にもおよばないレベルです。またデジタル庁はnoteでしきりに「透明性」を宣伝しているようですが、自庁の個人情報の取扱の段階で「透明性」がまったく看板倒れとなっています。

これはITやデジタルに関する中央官庁なのに本当に許されるのでしょうか?日本は民主主義国家であり、行政部門の暴走や独断専行を防ぐために、国民から選択された議員による国会で作られた法律を、行政は守らなければなりません(「法律による行政の原則」「行政の法律による民主的統制の原則」)。内閣IT推進室でデジタル庁設立のために働いている官僚の人々は、たとえ理系の方であったとしても、国家公務員試験の憲法・政治学などの科目でこれくらいは勉強しているはずなのに、デジタル庁のプラポリのグデグデな状況は非常に謎です。

5月12日のデジタル関連法案の成立により、今後はデジタル庁などの行政機関についても、個人情報に関する事柄については、個人情報保護委員会の監督下になるそうなので、個人情報保護委員会は、一足早く、このデジタル庁のツッコミどころ満載のプライバシーポリシーと、同庁の情報管理の実務について行政指導などを実施すべきなのではないでしょうか?

なお、Twitterでみかけた次のようなIT企業の社長さんらしき方のツイートによると、デジタル庁に採用されたIT企業の従業員は、出向などでなく、デジタル庁とその民間企業に両方勤務する掛け持ち状態になるようです。しかしそのような状態は、利益相反やデジタル庁職員としての守秘義務、さらにはデジタル庁と特定企業との癒着などの問題は大丈夫なのでしょうか?

デジタル庁は組織や人員という観点からも非常に「ブラックボックス」的であって「透明性」がまったく欠如しているように思われます。

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行政庁や公務員は憲法に定められた国民福祉(25条)基本的人権(11条)などの実現のために働く機関であり、そこで働く人々です。そのためその業務には公共性・公平性・中立性が要求されます。つまり公務員は一部の国民や特定の業界・業種のために働くのではなく、日本の全ての国民のために働く職業(15条2項・「公務員は一部の奉仕者でなく全体の奉仕者」)なのですから、デジタル庁やその役職員がIT企業や製薬会社、自動車メーカーなど特定の企業・業界のために便宜を図ることは許されません。

国家公務員法も、「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」しなければならないと規定(96条1項)し、国家公務員は業務に関して守秘義務を負い(100条)、さらに国家公務員は営利企業の職員を兼務したり、営利企業を経営することが禁止されています(103条・私企業からの隔離

デジタル関連法案などの法改正で、これらの点の手当が一応なされているのかもしれませんが、「日本社会をデジタル化する」「そのために民間企業などのITエンジニアを大量にデジタル庁に中途採用する」というデジタル庁そのものが、本当に公共機関である国が主体となって行うべきものなのか、あるいは民間の職員を大量に採用して公務員に代用するという手法が、公共機関である官庁のやり方として本当に正しいのか、大いに疑問です。

2000年頃から日本でも始まった、新自由主義の政府・与党による「政治主導」「行政改革」「規制緩和」「官から民へ」の政策は、国・自治体の職員の削減・非正規化、指定管理者制度、PFIなどさまざまな形でわが国の公の部門をやせ細らせ、憲法が国民に保障する、本来国民が享受できたはずのさまざまな「福利」、つまり社会保障や社会権をやせ細らせてきました(晴山一穂『現代国家と行政法学の課題』161頁)。今回のコロナ禍における日本全国の医療崩壊、1万人を超える死者などはその典型例であると思われます。

「日本社会をデジタル化」するために、それを主導する公的機関を、民間の人員を動員して行政庁ではなく「スタートアップ企業」的な「民間IT企業的な組織」とすることは、このような「官から民へ」の新たな形態であるように思えます。しかしそれは、上でみたような憲法や国家公務員法の趣旨や基本原則を大きく逸脱しているのではないかと思われます。

■追記(9月1日)
9月1日となり、デジタル庁の発足を受け、同庁サイトもリニューアルされています。そこでプライバシーポリシーをざっと読んでみたのですが、「当室」との単語が「デジタル庁」に変わった以外は変更はないようです。デジタル行政を所管するデジタル庁には、個人情報保護法制の素人しかいないのでしょうか? 国民の一人としては非常に心配です。

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■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』423頁、434頁
・晴山一穂『現代国家と行政法学の課題』161頁















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