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2021年06月

school_jugyou_tablet
1.名古屋市が小中学校の学習用タブレットの操作履歴ログの収集を中止
報道によると、名古屋市は6月10日、市内の小学校中学校に対し、小中学生に配布しているタブレット使用を一時中止するように通知したとのことです。同市は、タブレットの操作履歴ログを収集してサーバーで保管しており、これが同市の個人情報保護条例に違反している疑いがあるためであるとのことです。

・名古屋市、小中学生の端末使用停止 履歴収集に指摘|日経新聞

この名古屋市の学校タブレットに関する報道については、Yahoo!ニュースにおいて、内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議の委員で日本大学文理学部教育学科教授(教育財政学・教育行政学)末冨芳氏が、『この操作履歴こそスタディログという子どもの学習行動を記録するものであり、逆にログが記録できなければ学習者の評価ができない場合もあります。』とコメントしたことが、ネット上で大きな注目を集めています。

また、末冨芳氏はTwitterにおいても、「ログが残る=個人情報って(略)さすがのTwitterクオリティ (略)役所サーバーにログが残っても、個人と紐付けてなきゃただのデータ」と投稿しておられます。

末冨ログは個人情報ではない
https://twitter.com/KSuetomi/status/1403081955848048641
(末冨芳氏のTwitter(@KSuetomi)より)

最近、「GIGAスクール」や「教育の個別最適化」、「EdTechの推進」などの掛け声とともに、学校教育におけるICT化が急速に推進されていますが、これらの点をどう考えたらよいのでしょうか。

以下、①学校のタブレット端末の操作履歴ログは個人情報に該当しないのか②タブレット端末等の操作履歴ログなどにより生徒の評価などを行うことは許されるのか、の2点を考えてみたいと思います。

2.タブレットの操作履歴ログは個人情報ではないのか?
末冨芳氏は、教育用タブレットの操作履歴ログが学校等のサーバーに残っていても原則として個人情報ではないとしています。

この点、個人情報保護法2条1項1号は、個人情報とは「個人に関する情報であって」、電磁的記録を含む「特定の個人を識別することができるもの」(他の情報と容易に照合することができるものを含む)と定義しています。

これは名古屋市個人情報保護条例2条1号においても同様です。

個人情報 個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。」(名古屋市個人情報保護条例2条1号)

・名古屋市個人情報保護条例

つまり、「個人に関する情報」であって、電磁的記録などを含むさまざまな情報の「特定の個人を識別することができるもの」「個人情報」です(鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁)。

個人情報の定義『ニッポンの個人情報』
鈴木正朝・高木浩光・山本一郎「「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ―第1回プライバシーフリーク・カフェ(前編)」EnterpriseZineより

学校のタブレット端末の操作履歴ログ(データ)は、学校の生徒がタブレットを操作したことにより生成された電子データですから「個人に関する情報」であり、また、何時何分何秒にどの操作を行ったなどのデータであるので、Suicaの乗降履歴のようにそれぞれ異なるデータであると思われ、それ自体で操作者を「あの人、この人」と「特定の個人を識別」できるので、やはり個人情報(個人データ)に該当すると思われます。

また、このようなログは、端末IDと操作履歴等がセットで記録されるのが一般的と思われるので、学校等のサーバー内のタブレット管理要DBや生徒の個人情報管理DBなどの「端末IDと生徒番号」、「生徒番号と氏名・住所・学年・クラス」等の情報を照合すれば、操作履歴の生徒を割り出すことは簡単であると思われ、これは「他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別」に該当するので、やはり操作履歴データは個人情報(個人データ)に該当します(宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第6版』39頁、岡村久道『個人情報保護法 第3版』77頁)。

さらに、まさに末冨氏がTwitterで指摘しているとおり、そもそもタブレットの操作履歴データは、教員が個々の生徒の思考方法などを把握し、「学習者の判定」を行ったり、生徒指導などを行うために収集・保存・分析などが実施されているのですから、操作履歴データが生徒個人と紐付かないデータであるとすると、教員や学校などにとって無意味なデータなのではないでしょうか。

(かりに、タブレット端末の操作履歴データが本当に個人情報でないとたとしても、タブレット操作の履歴データなのですから、ネットの閲覧履歴や位置情報などのように「個人関連情報」(改正個情法26条の2)に該当すると思われ、事業者が第三者提供するためには本人の同意が必要となります(佐脇紀代志『一問一答令和2年改正個人情報保護法』60頁、62頁)。

そのため、学校のタブレット端末の操作履歴データはやはり個人データであるため、自治体・教育委員会や学校あるいは関連する企業等は、この操作履歴データについて、自治体の個人情報保護条例や個人情報保護法上、利用目的の特定、目的外利用の禁止、本人への利用目的の通知・公表、本人同意のない第三者提供の禁止、安全管理措置、開示請求への対応などの各義務を負うことになります。

この点、「学校のタブレット端末の操作履歴データは原則として個人情報ではない」としている、末冨芳・日大教授などの、学校教育のICT化の推進派の方々は、前提となる個人情報保護法制の理解が正しくないと思われます。

3.学習用タブレット端末などの操作履歴・スタディログ・学習行動データなどにより生徒の評価を行うことは許されるのか?
(1)凸版印刷の学習ソフト「やる Key」
学校のタブレット端末などの操作履歴ログについて調べてみると、2017年に総務省が『教育ICTガイドブック Ver.1』という資料を作成し公表しています。
・「教育ICTガイドブック」(PDF)|総務省

この「教育ICTガイドブック Ver.1」48頁以下は、東京都福生市が2017 年度より、市立小学校 3 年生全員に算数のクラウド型ドリルを搭載したタブレット約450台を利用させている事例を紹介しています。

この記事によると、福生市は、凸版印刷クラウド型ドリル教材「やる Key」を搭載したタブレット端末(iPad)を市立小学校の3年生に利用させる実証実験を2015年から慶應義塾大学と連携して実施しているとのことです。

記事は、「「やる Key」には、児童の学習状況理解度可視化でき、理解度に合った問題が自動出題されるという特徴がある。」、「教員は、家庭学習を含め児童学習内容学習時間問題の正答分布などを一覧で把握できる。」、「家庭学習の状況も可視化されることで…学習への取組状況についての声掛けもできるようになった」等と説明しています。

また、凸版印刷サイトの「やる Key」に関する2016年のプレスリリースを読むと次のように説明されています。

「 具体的には、学校で活用するタブレット端末を家庭でも使用し、児童が自分で目標を立て、教科書の内容に沿った演習問題(デジタルドリル)に取り組みます。解答と自動採点の過程で、どこを誤ったのかだけでなく、どこでつまずいているかが判定され、児童ごとに応じた苦手克服問題が自動で配信されます。さらに、児童の進行状況や、どこが得意でどこを間違えやすいかを教員が把握し、声がけや指導改善の材料にできる機能も提供します。」と解説されています。(凸版印刷「凸版印刷、静岡県浜松市、慶應義塾大学と共同で 小学校向け学習応援システム「やるKey」の実証研究を開始」より)

・凸版印刷、静岡県浜松市、慶應義塾大学と共同で 小学校向け学習応援システム「やるKey」の実証研究を開始|凸版印刷

凸版印刷やるkey
(凸版印刷のプレスリリースより)

つまり、小中学校で実証実験が進むタブレット端末等と学習ソフトによるICT教育は、「どこを誤ったのかだけでなく、どこでつまずいているか判定」するものであり、「児童の進行状況や、どこが得意でどこを間違えやすいかを教員が把握」するものです。

すなわち、これは生徒・児童思考方法考え方のくせなど、生徒の内心の動きをタブレットやAIが詳細に把握・分析し、教員や学校などに提供するものであると言えます。しかもこのタブレットやAIによる児童の内心のモニタリング・監視は、児童が学校にいる時間だけでなく、家庭などにいる時間も含まれているものです。

このようにタブレット端末やAI等により、「どこを誤ったのかだけでなく、どこでつまずいているか」などの生徒の思考方法や考え方のくせなど、生徒の内心の動きをモニタリング・監視することは、「児童の教育」という目的のためであるとしても、はたして許容されるものなのでしょうか?

(2)憲法・教育基本法などから学校教育のICT化は問題ないのか?
この点、岡山大学法学部堀口悟郎准教授(憲法・教育法)「AIと教育制度」『AIと憲法』(山本龍彦編)253頁は、「AIは機械学習により判定基準(アルゴリズム)を生成するため、過去の人間の不公正な判定を繰り返してしまう危険性や、人間であれば当然しない差別的判断をする危険性(例えば「母子家庭の児童の中退率のデータ」から「母子家庭の児童」というだけでマイナス評価を行うなど)を指摘しています(275頁)。

■関連記事
・文科省が小中学生の成績等をマイナンバーカードで一元管理することを考える-ビッグデータ・AIによる「教育の個別化」

また堀口・前掲は、憲法26条教育基本法4条「教育の平等」を規定するにもかかわらず、AIによる「教育の個別最適化」が、義務教育における「学年生」をもゆるがしてしまうおそれや、裁判例が認める、障害児や成績のよくない生徒等が普通の教育を選ぶ「不自由を選ぶ自由」(インクルーシブ教育)侵害する危険性を指摘しています(神戸地判平成4.3.13・尼崎高校事件など)。

さらに堀口・前掲は、戦前・戦時中の学校教育の問題などに触れた上で、判例は「教師は政府の特定の意見のみを生徒に伝達することを拒みうる」と、民主主義社会において教師が政府からの生徒の「防波堤」となる機能としての教育権を認めていることから(最判昭和51.5.21・旭川学テ事件)、未来の学校がAIや教育ビデオだけとなり、人間の教師が学校からいなくなる場合の危険性を指摘しています。

このように、政府が推進する教育のICT化は、憲法や教育基本法の観点からも大いに問題があるといえます。

(3)EUのGDPR22条・AI規制法案と日本
児童・生徒のタブレット端末の操作履歴・スタディログなどをAIに分析させて「生徒・学習者を評価」することは、EUであれば、GDPR(一般データ保護規則)22条「コンピュータの自動処理(プロファイリング)による法的決定・重要な決定拒否権」や、本年4月に公表されたAI規制法案の内容に抵触するおそれがあります。またGDPR8条は、16歳未満の未成年者の個人データの収集を原則禁止としています。

とくに本年4月に公表されたEUのAI規制法案は、AIの利用を①禁止、②高リスク、③限定されたリスク、④最小限のリスク、の4段階に分けて規制する内容です。そのなかで「教育」は、企業の採用選考・人事評価などとともに②「高リスク」に分類されています。

この点、産業技術総合研究所研究員の高木浩光先生など情報法の先生方がネット上でたびたび説明しておられるように、EUだけでなく日本を含む西側自由主義・民主主義諸国は、「コンピュータによる人間の選別の危険」の問題意識のもとに1970年代より個人データ保護法制を発展させてきました。

日本も雇用分野の個人データ保護で厚労省の指針・通達などが何度もこの考え方を示しています(2000年「労働者の個人情報保護行動指針」第2、6(6)など)。最近もリクナビ事件に対する厚労省通達(職発0906第3号令和元年9月6日)はこの考え方を示しています。そのため、日本においても「コンピュータによる人間の選別の危険」を防ぐための「コンピュータ・AIの自動処理(プロファイリング)による法的決定・重要な決定に対する拒否権」は無縁な考え方ではないのです。

この「コンピュータ・AIの自動処理(プロファイリング)による法的決定・重要な決定に対する拒否権」について、慶応大学の山本龍彦教授(憲法)は、「個人の尊重」自己情報コントロール権(憲法13条)および適正手続きの原則(31条)から導き出されるとしています(山本龍彦「AIと個人の尊重、プライバシー」『AIと憲法』104頁~105頁)。

したがって、国・自治体や学校、教育業界やIT業界などが、児童・生徒のタブレット端末の操作履歴・スタディログなどをAIに分析させて「生徒・学習者を評価」することは、日本においても、児童のプライバシー権、「個人の尊重」と自己情報コントロール権(憲法13条)を侵害するおそれがあるので、慎重な検討と対応が必要です。

■関連記事
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR

4.まとめ
このように、小中学校のタブレット端末の操作履歴ログは個人情報・個人データに該当するので、学校や教育委員会、自治体や国、企業などは、個人情報保護法・自治体の個人情報保護条例などに基づいた情報管理が必要となります。また、学校のタブレット端末等の操作履歴ログなどにより生徒・児童の評価などを行う「GIGAスクール構想」・「教育の個別適正化」などの政策は、児童・生徒の教育を受ける権利や人権保障の問題に深くかかわる重大な問題であるので、政府は国会での慎重な議論などを行うことが必要と思われます。

「GIGAスクール構想」「教育の個別適正化」などは、教育業界やIT業界などの経済的利益だけでなく、児童・生徒の教育を受ける権利教育の平等(憲法26条)個人情報の保護プライバシー権自己情報コントロール権「AI・コンピュータの自動処理による法的決定・重要な決定に対する拒否権」などの人格権(憲法13条)など、児童・生徒の「個人の尊重」人権保障に関連する重大な問題です。

そのため、政府・与党は、「学校教育のICT化」「GIGAスクール構想」などについては、内閣府や文科省などにおける諮問委員会で産業界や政府寄りの学識者の意見を聞くだけでなく、国会で慎重に時間をかけて議論を行うなど、国民的合意を得たうえで推進するべきであると思われます。

■関連記事
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
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・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR
・Github利用規約や厚労省通達などからAIを利用するネット系人材紹介会社を考えた
・日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた
・警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを法的に考えた-プライバシー・表現の自由・GPS捜査・AIによる自動処理決定拒否権

■参考文献
・宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第6版』39頁
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』77頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁
・堀口悟郎「AIと教育制度」『AIと憲法』(山本龍彦編)253頁
・山本龍彦「AIと個人の尊重、プライバシー」『AIと憲法』104頁
・菅野和夫『労働法 第12版』69頁、262頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』64頁、93頁
・高野一彦「従業者の監視とプライバシー保護」『プライバシー・個人情報保護の新課題』(堀部政男編)163頁
・「教育ICTガイドブック」(PDF)|総務省
・凸版印刷、静岡県浜松市、慶應義塾大学と共同で 小学校向け学習応援システム「やるKey」の実証研究を開始|凸版印刷
・高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ―民間部門と公的部門の規定統合に向けた検討」『情報法制研究』2巻75頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎「「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ―第1回プライバシーフリーク・カフェ(前編)」EnterpriseZine
・厚労省職業安定局・職発0906第3号令和元年9月6日「募集情報等提供事業等の適正な運用について」(PDF)
・「労働政策審議会労働政策基本部会報告書~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~」|厚労省
・EUのAI規制案、リスク4段階に分類 産業界は負担増警戒|日経新聞















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LINE
6月11日、ZホールディングスLINEの個人情報事件に関する有識者委員会(座長・宍戸常寿教授)第一次報告書の概要をサイトで公表しました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」第一次報告受領について|Zホールディングス

この報告書の概要を大まかにみると、まず、「LINEの主要な個人情報は主に日本のサーバーに保管されている」とLINE社2013年、2015年、2018年の3回、日本の国・自治体関係者に説明していた点が報告書にありますが、これはやはり、非常に不適切だと思われます。

なおこの点、個人情報保護法40条は、個人情報保護委員会は事業者に対して報告を求め、また立入検査をすることができると規定していますが、この報告に虚偽があった場合や検査忌避があった場合などは罰則(両罰規定)が科されると規定されています(法85条)。

また、個人情報保護委員会だけでなく、総務省もLINE社に対して報告徴求などを実施していますが、電気通信事業法169条も虚偽の報告などに対して罰則規定を置いています。さらに金融庁もLINE社に報告徴求などを実施していますが、例えばQRコード決済などに関する資金決済法も、報告徴求に対する事業者の虚偽の報告などに対して罰則規定をおいています(法112条7号、8号)。

これらの罰則規定が今後、LINE社などに対して適用されるのか、大いに気になるところです。

また、LINE社の話を鵜呑みにしていた国・自治体側も、個人情報保護法制や、国の安全保障あるいは経済安全保障の観点から非常に問題があるのではないでしょうか。

LINE報告書01

この点、例えば行政機関個人情報保護法6条は、行政機関は「保有個人情報の漏えい、滅失又は毀損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない」と規定しています(安全確保措置)。

また、これも例えば総務省の「総務省の保有する個人情報等の適切な管理のための措置に関する訓令 」(総務省訓令第54号)38条は、業務委託について、適切な安全確保措置が実施できる事業者を書面などを求めて選定すること(1項)、目的外利用の禁止や秘密保持条項、再委託の制限、個人情報漏洩事故があった場合の対応などを盛り込んだ契約書による業務委託契約を締結すること(2項)、少なくとも年1回の委託先への実地検査を実施すること(3項)等などを規定しています。

しかし、LINEを情報提供サービスなどのために利用していた総務省や、各自治体は、LINE社としっかり業務委託契約書を締結し、年1回以上のLINE社への実地検査などを法令に基づいて実施していたのでしょうか?大いに疑問です。

つぎに、3月の朝日新聞等の報道を受けて、LINE社はプレスリリースを公表し、2021年6月までに韓国サーバーに保管されている画像・動画などの個人データを日本のサーバーに移動させる等と発表しました。

しかし、この点についても、さまざまな個人データの日本への移動が、LINE社のリリースに示されたスケジュールに対して遅延していることが明らかにされています。この点を、本報告書は「ユーザーファーストの意識が欠けている」と指摘しています。
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この点は、新興のIT企業であるLINE社およびZホールディングスは、「ユーザー・顧客との約束を守ろうという意識」、ユーザー・顧客への説明責任や、>ガバナンスコンプライアンスの意識が企業として極めて低いのではないでしょうか。Yahoo!Japan社も、2004年の450万人分の個人情報漏洩を起こしたYahoo!BB個人情報漏洩事件など、3年から5年おきに不祥事を起こしている印象があります。

さらに、朝日新聞の峯村健司氏のスクープ報道のとおり、やはりLINE社の委託先の中国子会社の日本サーバーへのアクセスログ等は、中国等の開発者が具体的にどんな個人データにアクセスしたか等の記録が残っていないとのことです。アクセスログも保存されていても、1年間しか保存されていないとのことです。さらに中国等の開発者PC等は外部ネットに接続可能な状態であり、当該PC等の挙動のログなども残っていないと報告書は指摘しています。これはLINE社の安全管理措置が非常に不十分であったと言わざるを得ません。
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加えて、報告書は、2016年ごろより、中国の国家情報法に関する議論が日本国内で高まっていたのに、LINE社がシステムの開発・保守などを中国で継続していた点も指摘しています。
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この点も、わが国の国民約8600万人のアクティブ・ユーザーを持ち、国・自治体の情報発信業務や国民・市民からの相談業務、多数の日本企業の情報発信業務などを担っているLINE社は、日本の国民の個人情報保護や国・自治体や多くの企業の機密情報の保護に対する大きな責任を負っていること、日本の安全保障および経済安全保障に大きな責任を負っていることに対して、企業市民としてあまりにも無頓着だったのではないでしょうか。

なお、本報告書の概要をざっとみる限り、本事件で個人情報とともに問題となった、電気通信事業法4条憲法21条2項の定めるユーザーの「通信の秘密」に関しては、有識者委員会であまり議論がなされていないようですが、大丈夫なのでしょうか。

4月の総務省のLINE社に対する行政指導のプレスリリースも、個人情報に関しては問題視していますが、「通信の秘密」に関しては、まるでなかったかのようにしているわけですが。この点を、情報法の大御所である宍戸教授などの有識者委員会に大いに議論していただきたいと、一般の国民としては思っていたのですが。
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また、本日のZ社のプレスリリースでは、有識者委員会の第一次報告書は概要のみが公表されており、報告書本文は公表されていないことも、やや不可思議な対応であると思われます。

■関連する記事
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・LINEの通信の秘密の問題に対して総務省が行政指導を実施
・LINEの個人情報の問題に対して個人情報保護委員会が行政指導を実施











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日銀サイト
1.日銀の『プライバシーの経済学入門』
本年6月に日本銀行がウェブサイト上で公表した論文『プライバシーの経済学入門』16頁が、日本個人情報保護法上、「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しないと記述していることがネット上で大きく注目されています。

この論文『プライバシーの経済学入門』は、2021年6月3日付で日本銀行ウェブサイトに公開された日本銀行決済機構局の方々によるものとされています。

すなわち、『プライバシーの経済学入門』16頁は、つぎのように記述しています。
(日本の個人情報保護法において、)『学説上解釈の余地があるとされているものの、推論(プロファイリング)によって取得した情報は、「個人情報」には該当しないと解されているためである(宇賀2018)。この前提によった場合、プラットフォーマーが人々の個人情報を類推した結果を第三者に提供したとしても、個人情報保護法には違反していないと考えられる』(日本銀行『プライバシーの経済学入門』16頁)

日銀『プライバシーの経済学入門』16頁
(日本銀行『プライバシーの経済学入門』16頁より)
・「プライバシーの経済学入門」|日本銀行

つまり、日銀の本論文においては、日本の個人情報保護法上、「推論(プロファイリング)によって取得した情報は、「個人情報」には該当しないと解されているためである(宇賀2018)』としています。

そして、本論文の文末の脚注をみると、「(宇賀2018)」とは、個人情報保護法の著名な学者であり最高裁判事の宇賀克也先生の『個人情報保護法の逐条解説 第6版』であることが示されていますが、具体的には宇賀先生のこの本のどの部分であるかは示されていません。(執筆者の方々は、あまり学術的な論文に親しくないのかもしれません。)

私も宇賀先生のこの『個人情報保護法の逐条解説 第6版』を見直してみたのですが、よくわからなかったため、日銀に問い合わせてみたところ、回答をいただきました。

2.日銀の回答
日銀の回答の概要はつぎのとおりでした。

1.宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第6版』の個人情報保護法2条の定義における「個人情報」の定義の解説にあるとおり、プロファイリング(推論)によって得られた情報は、個人情報に該当するかは明示されていない。

2.同書143頁は、『本人の同意なしにプロファイリングによって要配慮個人情報を新たに生み出すことは、要配慮個人情報の「取得」に当たると解すべきかという重要な解釈問題が存在する』と、論点であると指摘している。

3.プロファイリングにより取得した情報が要配慮個人情報に該当するか否かについては、平成30年の衆議院の質問主意書に対する政府回答が、「「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」2-3が、同ガイドライン2―3(1)から(11)までに掲げる情報を推知させる情報にすぎないものについては、要配慮個人情報に含まれないとしており、個人情報取扱事業者が同ガイドライン2―3(1)から(11)までに掲げる情報を推知させる情報にすぎないものを取得することは、同法第十七条第二項の規定により制限されるものではない」と否定している。

4.そのため、『プライバシーの経済学入門』16頁は、プロファイリングで取得した情報に対する法的保護に不明確性があることを簡潔に記載し、個人情報保護法について概括的に扱った参考図書として宇賀先生の教科書を挙げたものである。

3.検討
(1)プロファイリングによって得られた情報は個人情報に該当しないのか?
まず、日銀の回答の1.については、個人情報保護法2条1項1号は、「個人情報」の定義について、「個人情報」とは、生存する個人に関する情報であって、(略)当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等(略)により特定の個人を識別することができるもの」としています。

そして、宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第6版』(以下「宇賀・前掲」とする)37頁は、『「個人に関する情報」とは、個人の属性・行動、個人に関する評価、個人が創作した表現等、当該個人と関係するすべての情報が含まれる。公知の情報であるか否かを問わないし、情報の存在形式も、文字情報に限られ』ないと解説しています。

つまり、個人の属性・行動、個人に関する評価情報などの、当該個人と関係するすべての情報が「個人に関する情報」です。

そして、宇賀・前掲37頁は、「特定の個人を識別することができるもの」について、「誰か一人の情報であることが分かることを意味し、特定の個人を識別できるとは、識別される個人が誰か分かることを意味する」と解説しています。

この点、これも著名な個人情報保護法の実務書・解説書である、岡村道久『個人情報保護法 第3版』70頁は、「「特定の個人を識別」について、「防犯カメラ画像等によって特定の個人の顔が、いわば「この人」であると識別しうる場合には、当該個人の実名等が不明であっても、本要件を満たす」としています。

そのため、「個人の属性・行動、個人に関する評価情報などの、「個人に関する情報」(当該個人と関係するすべての情報)」であって、実名等が不明でも「この人、あの人」であると「特定の個人を識別できる情報」は、個人情報保護法上の「個人情報」です(法2条1項、鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』18頁)。
個人情報の定義『ニッポンの個人情報』
鈴木正朝・高木浩光・山本一郎「「個人を特定する情報が個人情報である」と信じているすべての方へ―第1回プライバシーフリーク・カフェ(前編)」EnterpriseZineより

すなわち、「プロファイリング(推論)によって得られた情報」が、「個人の属性・行動、個人に関する評価などの、当該個人と関係するすべての情報」、つまり「個人に関する情報」であり、かつ、「実名等が不明でも「この人、あの人」であると「特定の個人を識別できる情報」である場合は、当該情報は個人情報保護法上の「個人情報」に該当します(法2条1項1号)。

したがって、「プロファイリング(推論)によって得られた情報は、個人情報に該当するかは明らかでない」とする日銀の見解は正しくないのではないかと思われます。

(2)平成30年の衆議院の「プロファイリングに関する質問に対する答弁書」について
つぎに、日銀の回答の2.の、平成30年の衆議院の「プロファイリングに関する質問に対する政府答弁書」とは、衆議院サイトなどで調べてみると、平成30年の第196国会の『衆議院議員松平浩一君提出プロファイリングに関する質問に対する答弁書』(以下「本政府答弁書」とする)であると思われます。
・平成30年第196国会『衆議院議員松平浩一君提出プロファイリングに関する質問に対する答弁書』|衆議院

この本政府答弁書に先立つ衆院議員の松平浩一氏の質問書によると、松平氏は、おおむね、「個人情報保護委員会のガイドライン等を参照すると、個人情報保護委員会は、ある情報が要配慮個人情報について推知させるものであっても、推知情報にとどまる限り、あらかじめの本人の同意なく当該情報を取得・利用することは法17条2項との関係で問題がないという整理をしていると思われるが、そのような理解でよいか。」という質問と、「「推知された情報が要配慮個人情報に準ずるもの」および「推知された情報が、推知のレベルを超えて、ある個人の要配慮個人情報と実質的に同等と評価できる情報」の場合には、やはり本人の同意が必要ではないか」という質問をしています。

これに対して政府答弁書は、前者の質問については、個人情報保護委員会の「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」2-3が、「なお、次に掲げる情報(=要配慮個人情報)を推知させる情報にすぎないもの(例:宗教に関する書籍の購買や貸出しに係る情報等)は、要配慮個人情報には含まない。」としていることを受けて、「要配慮個人情報を推知させる情報にすぎないもの(推知情報)は要配慮個人情報ではないから、個人情報取扱事業者が推知情報を取得することは、個人情報保護法17条2項違反とならない」と答弁しています。

そして後者の質問について本政府答弁書は、「お尋ねの「一定の場合には推知された情報が要配慮個人情報に準ずる」こと及び「推知される情報が、推知のレベルを超えて、ある個人の要配慮個人情報と実質的に同等と評価できる場合」の意味するところが明らかではないため、お答えすることは困難である」と答弁しています。つまり政府はこの点をうまく回答を避けています。

すなわち、本政府答弁書は、「推知情報は要配慮個人情報ではないので、推知情報を個人情報取扱事業者が本人の同意を得ずに取得することは、法17条2項との関係では問題ない」と言っているだけであり、日銀の回答の2.のように「プロファイリングにより取得した情報が要配慮個人情報に該当」することを「否定」しているわけではありません。

この点は、日銀の『プライバシーの経済学入門』は、松平浩一・衆院議員のプロファイリングに関する質問書とそれに対する政府答弁書における、要配慮個人情報と、「推知情報」と、「「推知された情報」が要配慮個人情報に準ずる場合」および「「推知された情報」が「要配慮個人情報と実質的に同等となる場合」」の3つの用語・概念を混同しているのではないかと思われますが、いずれにしても、本政府答弁書は「推知された情報」が「要配慮個人情報と実質的に同等となる場合」等については回答を避けています。

したがって、わが国の政府は「「プロファイリングにより取得した情報が要配慮個人情報に該当」することを「否定」している」との日銀の理解は、これも正しくないと思われます。

なお、この点、岡本・前掲191頁は、要配慮個人情報の取得や利用について、法17条2項5号の「本人が自分のTwitterブログなどで自ら公開していた場合」などにおいても、「本人以外の第三者が、本人の同意を得ることなく、当該本人がインターネット上で公開している情報から本人の信条犯罪歴等に関する情報を取得し、既に保有している当該本人に関する情報の一部として、自己のデータベース等に登録することは、本17条2項違反となる」としています。

さらに、要配慮個人情報を合理的な理由なく事業者等が取り扱うことは、個人情報保護法以外にも、プライバシー権侵害として不法行為(民法709条)による損害賠償責任が成立する可能性があることも指摘されています(岡村・前掲191頁)。

4.結論
このように、「日本の学説上、プロファイリングによって得られた情報は個人情報保護法上の「個人情報」に該当するか否かは明確でない」という点は正しくなく、また、わが国の政府は、「「プロファイリングにより取得した情報が要配慮個人情報に該当」することを「否定」している」という点も正しくありません。

そのため、そのような日銀のわが国の個人情報保護法に関する理解を前提とした、日銀『プライバシーの経済学入門』16頁の、「日本の学説上、推論(プロファイリング)によって取得した情報は、「個人情報」には該当しないと解されている(宇賀 2018)」という記述は誤りであると思われます。

同時に、それを前提とした、本日銀論文の『この前提によった場合、プラットフォーマーが人々の個人情報を類推した結果を第三者に提供したとしても、個人情報保護法には違反していないと考えられる』も、やはり誤りであると思われます。

上で検討したように、日本の個人情報保護法においても、プラットフォーマー等が、プロファイリングして類推した情報も、個人の属性・行動、個人に関する評価などの、当該個人と関係するすべての情報が「個人に関する情報」であり、かつ、実名等が不明でも「この人、あの人」であると識別できる情報は、やはり「個人情報」に該当するので、そのような「個人情報」に該当する「プロファイリングにより類推した情報」を、当該プラットフォーマーなどの個人情報取扱事業者が第三者に提供する場合には、やはり法23条1項により、当該情報の本人の同意が必要となり、本人の同意のない第三者提供は個人情報保護法違反となります。

そして、そのようなそのような「個人情報」に該当する「プロファイリングにより類推した情報」が、「要配慮個人情報」(法2条3項)に該当する場合には、やはり法17条2項が規定するとおり、「法令に基づく場合」(法17条2項1号)などの例外規定に該当する場合以外は、やはり「あらかじめ本人の同意」を得て取得することが必要となります。また、要配慮個人情報をオプトアウト方式で第三者提供することは禁止されていますので(法23条2項かっこ書き)、やはり要配慮個人情報を第三者提供する場合には、個人情報取扱事業者は本人の同意が必要となります(法23条1項)。

本論文は、わが国の中央銀行である日本銀行が公表した、個人情報・プライバシーとプロファイリングなどの先端分野に関する論文として、ITやDX、情報セキュリティなどの関係者の方々や関係する政府機関や金融機関の方々、個人情報保護法や情報法などに関する学者・研究者の方々から注目されている論文であると思われ、ITやデジタル化などに関する専門サイト等もすでに取り上げているところです。そのため、日銀は本論文の該当部分の訂正などを行うべきではないでしょうか。

■補足
AIやコンピュータのプロファイリングについては、最近、EUのGDPR22条の「コンピュータによる個人データの自動処理(プロファイリング)による法的決定・重要な決定の拒否権」(プロファイリング拒否権)や同じくEUが本年4月に公表したAI規制法案などが注目されています。

この考え方は、コンピュータの発展を受けた1970年代頃からの、「コンピュータのデータによる人間の選別・差別の危険」への問題意識を受けたものですが(高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ」『情報法制研究』2巻75頁)、日本においても、2000年の労働省「労働者の個人情報保護に関する行動指針」第2、6(6)で規定が置かれ、その後も2019年6月の厚労省の『労働政策審議会労働政策基本部会報告書~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~』9頁以下も同様の問題を指摘しており、リクナビ事件を受けた2019年9月の厚労省の通達「募集情報等提供事業等の適正な運営について」「学生等の他社を含めた就職活動や情報収集、関心の持ち方などに関する状況を、本人があずかり知らない形で募集企業に提供することは…学生等の就職活動に不利に働くおそれが高い。…このような事業は行わないこと」とし、「収集した個人情報の内容及び提供先について、あらかじめ明示された基準によらずに、事業者の判断により選別又は加工を行うこと」を明確に禁止しているように、欧州だけでなく日本でも受け継がれています。そしてこの「AIやコンピュータによる人間の選別の拒否権」は、日本の憲法においても、「個人の尊重」や人格権、自己情報コントロール権(憲法13条)、適正手続の原則(憲法31条)などから導き出されると解されています(山本龍彦『AIと憲法』101頁)。

したがって、AIやコンピュータなどによるプロファイリングを行う事業者等は、個人情報保護法や同ガイドライン等だけでなく、憲法や職業安定法、関連する厚労省の指針や通達などをも遵守することが求められます。

■追記
日銀は7月9日付で、この『プライバシーの経済学入門』16頁の修正を行っています。
・プライバシーの経済学入門|日本銀行

『さらに、やや逆説的だが、こうした状況は、わが国の個人情報保護法によっても対処できない可能性がある。なぜなら、推論(プロファイリング)による要配慮個人情報の生成が要配慮個人情報の「取得」に該当するかは解釈問題とされているためである(宇賀2018)。該当しないとの解釈によった場合には、プラットフォーマーが要配慮個人情報に該当しない個人情報をオプトアウト方式により第三者に提供し、その第三者が推論を行ったとしても、個人情報保護法には違反していないと考えられる。

修正版プライバシーの経済学入門16頁
(日銀「プライバシーの経済学入門」(7月9日版)16頁より)

上でもふれたとおり、プロファイリングという手法による/よらないに関係なく、「個人に関する情報」であって、かつ、「特定の個人を識別できるもの(容易照合性を含む)」は個人情報保護法の条文上、個人情報に該当します(法2条1項)。そして、その個人情報が「本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実」などに該当する場合は、当該情報は要配慮個人情報(法2条3項)に該当します。

この点、最近公表された、PPCの令和2年改正個人情報保護法ガイドライン(通則編)のパブコメ結果308は、「Cookieなどだけでなく、GoogleのFLoCなどの新しい収集方法で取得されたデータについても個人関連情報などに含まれることを明記すべき」との意見に対して、PPCは「収集の方法によって判断がかわるものではない。」と回答しています。

また、オプトアウト方式による個人情報の第三者提供は、個人情報保護委員会への届出などが必要です(個人情報保護法23条2項)。さらに、この日銀の新しいスキームも、個人情報の第三者提供先でのプロファイリングなどの個人情報の取扱の目的ややり方など次第では、個人情報保護法を潜脱する手法を規制するために令和2年改正で新設され2022年4月施行予定の不適正利用の禁止(改正法16条の2)に抵触し違法となるおそれがあると思われます。

この点、PPCの令和2年改正個人情報保護法ガイドライン(通則編)のパブコメ結果57でPPCは、「プロファイリングの目的や得られたデータの利用方法など個別の判断が必要であるが、プロファイリングに関わる個人情報の取扱が「違法または不当な行為を助長、または誘発するおそれ」がある場合は、不適正利用に該当する場合があり得る。」と明確に回答しています。

■関連
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編、外国にある第三者への提供編、第三者提供時の確認・記録義務編及び匿名加工情報編)の一部を改正する告示」等に関する意見募集の結果について|個人情報保護委員会・e-GOV

■関連する記事
・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインのパブコメ結果を読んでみた(追記あり)-貸出履歴・閲覧履歴・プロファイリング・内閣府の意見
・「内閣府健康・医療戦略推進事務局次世代医療基盤法担当」のPPC・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインへのパブコメ意見がいろいろとひどい件
・Github利用規約や厚労省通達などからAIを利用したネット系人材紹介会社を考えた
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR
・警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを法的に考えた-プライバシー・表現の自由・GPS捜査・AIによる自動処理決定拒否権
・ドイツで警察が国民のPC等をマルウェア等で監視するためにIT企業に協力させる法案が準備中-欧州の情報自己決定権と日米の自己情報コントロール権

■参考文献
・宇賀克也『個人情報保護法の逐条解説 第6版』37頁、143頁
・岡村道久『個人情報保護法 第3版』70頁、191頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』18頁
・山本龍彦『AIと憲法』101頁
・高木浩光「個人情報保護から個人データ保護へ―民間部門と公的部門の規定統合に向けた検討」『情報法制研究』2巻75頁
・厚労省職業安定局・職発0906第3号令和元年9月6日「募集情報等提供事業等の適正な運用について」(PDF)
・「労働政策審議会労働政策基本部会報告書~働く人がAI等の新技術を主体的に活かし、豊かな将来を実現するために~」|厚労省















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6月7日の報道によると、菅首相は国会で五輪開催について「東京オリンピックの主催は私ではない」と発言したとのことです。これを受けてネット上では、「主催者はIOCであり、全ての権限はIOCにしかない」という意見も見受けられます。しかし、これは正しいのでしょうか?

・五輪判断を問われた菅首相「私は主催者でない」|朝日デジタル

そもそも東京オリンピック・パラリンピックは、日本に大きな経済効果があるとして、菅首相の前任者である、当時の安倍首相が国をあげて誘致活動を行い、2013年に開催が決定したものです。また、2016年のリオデジャネイロ・オリンピック閉会式でマリオの恰好をして登場し、世界に東京オリンピックをPRしたのもやはり安倍さんです。にもかかわらず、日本政府は東京オリンピックに関係ないというのはちょっと無理ではないでしょうか? E3RgWxrVcAI4piV (1)
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また、スポーツ基本法は2条6項で、「オリンピック等で優秀な成績をあげること」を目標の一つに掲げ、同3条は国に対して「スポーツに関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する」と規定しています。また国は五輪担当大臣も設置しています。そのためやはり国は無関係というのは無理筋でないでしょうか?
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/kihonhou/attach/1307658.htm

さらに、最近はIOC幹部のディック・パウンド氏「菅首相がNOと言っても東京オリンピックは開催される」と発言しました。
・IOC重鎮委員が独占告白「菅首相が中止を求めても、大会は開催される」|文春オンライン

しかし、東京五輪では選手・五輪関係者・メディア関係者等約9万人来日するそうですが、それに伴い新型コロナウイルスが日本に入ってくるおそれがあるのではないでしょうか。これは日本の公衆衛生上の大問題です。

この点、厚生労働省設置法4条職掌事務には、「感染症の発生、蔓延の防止、検疫」(19号)、「原因の明らかでない公衆衛生上重大な危害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態への対処」(4号)等と明記されています。

厚労省設置法4条

つまり、新型コロナなどの感染症の発生の防止・検疫などはやはり国の仕事であり、公衆衛生の問題は日本という国家主権大問題です。そのため、日本という国がコロナのリスクの高い東京オリンピックの開催の判断に関与できない、「菅首相がNOと言っても東京五輪は開催される」というのは、やはり日本主権重大な侵害です。つまりこれは菅首相などが判断すべき重大な政治問題です。(もしそれが本当なら、IOCのオリンピック憲章や、IOCとJOCや組織委員会などとの契約書などの国際法的な問題はさておいて、日本は場合によっては警察や自衛隊などによって、まるでGHQマッカーサーのように振る舞うIOCやバッハ氏から、日本を防衛する必要があるのではないでしょうか?)

このように少し考えてみても、菅首相の「東京オリンピックの主催は私ではない」という発言は、まったくの責任逃れの発言といえます。

菅首相は、日本の最高責任者として、東京オリンピックについて「夢と希望」を語るのではなく、新型コロナの世界と日本における大流行などの現実をみて、日本と世界における新型コロナの蔓延防止を行い、それにより日本と世界の国民の命と健康を守るために、東京オリンピックの中止決断すべきです。

■追記
弁護士で政治家の宇都宮健児氏が、東京オリンピック中止のネット署名を行っています。
・東京五輪の開催中止を求める署名はこちら | 宇都宮けんじ公式サイト

■関連する記事
・新型コロナ・尾見会長「五輪何のためにやるのか」発言への丸川五輪大臣の「別の地平の言葉」発言を考えた
・川渕三郎氏の東京オリンピックに関するツイートが戦時中の政府のように根性論の思考停止でひどい件









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東京オリンピック
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の医師の尾身茂会長が、6月2日に国会で、「普通はオリンピック開催はない。このパンデミックで。」、「そもそもオリンピックをこういう状況のなかで何のためにやるのか。それがないと、一般の人は協力しようと思わない」と発言したことが大きな社会的注目を集めています。

・尾身氏「普通はない」発言、自民幹部反発「言葉過ぎる」|朝日

ところが、この尾身会長の発言に対して、丸川珠代・五輪担当大臣は6月4日に「我々はスポーツの力を信じて今までやってきた。別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても(我々、政府・五輪関係者には)なかなか通じづらい」と記者会見で発言したとのことです。

・丸川五輪担当大臣 開催意義「スポーツの持つ力を」|テレ朝News

また、同じく4日には、菅首相は記者団からの質問に対して「夢と希望を届ける」と東京オリンピックの今夏開催の意義を書面で回答したそうです。

政府の首脳陣達のこのようなお花畑というかポエムのような回答にはさすがに呆れてしまいました。

(さらに、田村厚労大臣は、尾見会長の発言について、「自主研究にすぎない」と記者会見で発言したとのことです。菅首相らはコロナに関しては二言目には「専門家に相談する」と発言するのに、自分達に都合の悪い専門家の見解については「自主研究」とは呆れてしまいます。反知性主義もいいところです。)

朝日新聞が5月15日、16日に実施した東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査では、「今夏に開催」は14%、「中止すべき」が43%、「再び延期すべき」が40%と、東京オリンピックの中止・延期を求める国民の世論が実に83%となっているところです。

・五輪「中止」43%、「再延期」40% 朝日世論調査|朝日

Yahoo!Japanの新型コロナ特集サイトにおいても、6月4日現在の新型コロナの日本の新規感染者数は2593人、死者は13470人、世界の新規感染者数は約47万人、死者は約369万人と現在も大変な数字となっています。

コロナ世界の感染状況

このような状況下での丸川大臣の発言を意訳すると、「私達、政府や五輪関係者や選手達は皆、スポーツや金儲けしか関心のない脳ミソ筋肉のアホなので、医者の医学的・科学的な意見は理解できないので受け付けません」ということなのでしょうか?

あるいは、丸川大臣や菅首相は、日本全国の病院やホテル、自宅などで病気と闘っているコロナ患者や、1万3千人を超えるコロナの死者の遺族の前でも「スポーツの力」とか「夢や希望」などの薄っぺらい発言ができるのでしょうか?

しかし「別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」という発言はすさまじいものがあります。

丸川氏は東京五輪担当の国務大臣のはずであり、内閣の一人です。政府つまり行政は、国民の「全体の奉仕者であつて一部の奉仕者ではない」(憲法15条2項)のであり、「内閣は行政権の行使について、国会に対し連帯して責任」(66条3項)を負うのですから、丸川大臣や菅首相ら内閣は、政府与党側の意見だけを考えるのではなく、国民の反対派の意見や専門家の意見を十分考慮して国会(国民)に対して責任を持って国政(行政)を実施しなければならない立場です。

にもかかわらず、丸川大臣らは、「別の地平から見てきた言葉をそのまま言っても、なかなか通じづらい」として、専門家の意見や反対派の意見を受け止め検討することを拒否していますが、これは国務大臣任務の放棄であり、内閣の東京オリンピックに関する国政の、国会・国民への責任放棄です。

このような今夏の東京オリンピック開催に拘泥し、医師などの専門家や8割を超える国民の反対意見をシャットダウンする政府・与党の態度は、わが国の近代立憲主義憲法に基づく民主主義制の観点からも言語道断なのではないでしょうか。

生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については…立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と憲法13条に明記されているとおり、近代憲法の自由主義・民主主義の国家においては、国民の生命や健康は、国民の基本的人権のなかでも一番守られなければならないものです。そして近代憲法の国家においては、政府などの国の統治機構は国民の個人の尊重や基本的人権の確立のために存在します(11条、97条)。

日本国憲法
第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


したがって、日本政府は世界的な新型コロナの大流行という状況を鑑み、今一度、医師など専門家の意見や主権者たる国民の声を十分に検討し、日本国民および世界の人々の生命・健康を守るために東京オリンピックの中止あるいは延期を決定すべきです。

また、わが国の憲法の前文第2段落は、「われらは、平和を維持し、専制と隷従圧迫と偏狭地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。」と国際協調主義を規定しています。

日本国憲法
前文・第二段落後段
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

新型コロナの蔓延という世界的な災厄を地上から永遠に除去しようと努力している国際社会において、日本が「名誉ある地位」のためにまず実施すべきことは、カネの亡者のバッハ・IOC会長やオリンピック選手達、スポンサー企業、テレビ局などのカネ儲けや名声のために東京五輪を開催するのではなく、東京オリンピックの中止または延期を決断することより他にないと思われます。世界の人々の生命と健康をコロナの感染拡大から守るという、これ以上の国際貢献は他にないと思われます。


■追記
弁護士で政治家の宇都宮健児氏が、東京オリンピック中止のネット署名を行っています。
・東京五輪の開催中止を求める署名はこちら | 宇都宮けんじ公式サイト

■関連する記事
・東京オリンピックの主催はIOCなので日本政府は開催に関係ないのか?









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