なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2021年07月

LINE
1.台湾の政府要人のLINEアカウントがハッキング攻撃を受ける
台湾政府要人がイスラエル企業のマルウェア・スパイウェア「Pegasus」(ペガサス)により通信アプリLINEのアカウントにハッキング攻撃を受けていた事件が報道されています。「Pegasus」は、標的のスマートフォンなどのデータへのアクセスや、スマホのカメラやマイクの機能を強制的にオンにして情報を収集するとされています。

それらの報道のなかで、7月29日付の産経新聞「スパイウエア取り締まり困難 政府要人は自衛を」という記事が、神戸大学森井昌克教授(電気通信工学)の「こうした監視ツールは昔からある。法的に禁止することは難しい」等のコメントを掲載していますが、この森井教授のコメントにはネット上でさまざまな疑問の声が寄せられています。またこの産経新聞記事は、「スパイウエアは…国際社会でも使用を禁止する動きはない。」としている点もよくわかりません。
・スパイウエア取り締まり困難 政府要人は自衛を|産経新聞

2.不正指令電磁的記録作成罪(ウイルス作成罪)
神戸大学の森井教授は「法的に禁止することは難しい」とコメントを寄せれおられますが、しかし、2011年(平成23年)にはわが国の国会では、「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」が制定され、コンピュータ・ウイルスに関する罪の不正指令電磁的記録作成等罪(いわゆるウイルス作成罪)が刑法に新設されました(刑法168条の2、168条の3)。

刑法
(不正指令電磁的記録作成等)
第168条の2 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。

つまり、新設された不正指令電磁的記録作成等の罪である刑法168条の2第1項1号は、コンピュータやスマホなどのユーザーに対して「正当な理由がないのに」「意図に反する動作」をさせる「不正な指令」を与えるプログラムを作成したり提供したり、他人のコンピュータ等で実行させることを犯罪として3年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則の対象としています。

法務省「いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について」は、この「意図」について、「当該プログラムの機能の内容や機能に関する説明内容、想定される利用方法等を総合的に考慮して、その機能につき一般に認識すべきと考えられるところを基準として判断する」としており、スマホ内のデータへアクセスし、またスマホのカメラやマイクの機能を強制的にオンにしてデータを収集する「Pegasus」などのスパイウェアの挙動は「意図に反する動作」に該当します。

また、法務省の同文書は、「不正な指令」について、「その機能を踏まえ、社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断する」とし、例えばコンピュータのストレージのデータを消去するためのプログラムがストレージ内のデータを消去することは「不正な指令」に該当しないが、例えば官庁の通知・通達などの文書ファイルを偽装した実はストレージ内のデータを消去させるファイル等は「不正な指令」に該当するとしています。そのため、「Pegasus」などのスパイウェアは社会的許容性もなく「不正な指令」に該当します。

さらに、「正当な理由がないのに」とは、例えばウイルス対策ソフトの研究開発のためにウイルス対策ソフト会社がコンピュータウイルスを作成などする行為に本罪が成立しないことを明確化するために国会審議で追加されたものです(西田典之・橋爪隆補訂『刑法各論 第7版』412頁)。「Pegasus」などのスパイウェアが一般人や政府要人のスマホ等に導入され動作することはこれに該当しないので、「Pegasus」などは「正当な理由がないのに」に該当します。

したがって、「Pegasus」などのスパイウェアについては、もしこれが日本の一般国民や政府要人などのスマホ等にインストールされ動作した場合、不正指令電磁的記録作成等の罪が成立するといえるので、「法的に禁止することは難しい」としている森井教授や産経新聞は正しくないと考えられます。

そもそもこの不正指令電磁的記録作成等の罪・ウイルス作成罪などは、2004年に日米欧など約50か国が批准し成立したサイバー犯罪条約への対応として制定されたものです。日本だけでなく、例えばイギリスでは「コンピュータ不正利用法」の3A条にウイルス作成罪が設けられ、イタリアの刑法615条の5もウイルスに関する罪を規定しています。さらにロシア中国などの刑法にもウイルス罪の規定は設けられています(財団法人社会安全研究財団「諸外国における不正アクセスの助長行為等を規制する関連法令に係る調査報告書」(平成23年10月)5頁より)。
・諸外国における不正アクセスの助長行為等を規制する関連法令に係る調査報告書(平成23年10月)|財団法人社会安全研究財団

また、ドイツでは最近、国や州が疑わしい国民のパソコンやスマホなどにスパイウェアを導入して監視を行うための法律案が準備中であるそうですが、同様の内容の法律が2008年にドイツ連邦憲法裁判所で国民の「コンピュータ基本権」という「新しい人権」に抵触する違憲なものであり無効とする判決(オンライン監視事件・2008年2月27日連邦裁判所第一法定判決 BVerfGE 120.274.Urteil v.27.2.2008)が出されたことは、このブログでも取り上げたとおりです。
・ドイツで警察が国民のPC等をマルウェア等で監視するためにIT企業に協力させる法案が準備中-欧州の情報自己決定権と日米の自己情報コントロール権-なか2656のblog

そのため、「スパイウエアは(略)、国際社会でも使用を禁止する動きはない。」としている産経新聞記事のこの部分も正しくありません

3.個人情報保護法から
さらに、この産経新聞記事は、森井教授の「(スパイウェアを)法的に禁止することは難しい」というコメントの理由として、「個人情報を監視するソフトの定義が明確でないのが一因。もし、利用者のデータ収集を禁じれば、ネット通販交流サイト(SNS)などのアプリも規制を受けることになってしまうからだ。」と記述しています。

この説明が、森井教授か産経新聞記者のどちらの見解なのかは不明ですが、しかし、SNSやネット通販サイトなどは、一応は、個人情報保護法に基づき、それぞれの運営会社において、プライバシーポリシーで個人データの利用目的や個人データの第三者提供先、委託先、個人データの開示・訂正・削除・利用停止などの手続きなどを規定し、会社サイトなどで公表するなどして、個人情報・個人データの収集・管理などが(一応は)法律に則り実施されているのが一般的です。

したがって、「もし、利用者のデータ収集を禁じれば、ネット通販やSNSなどのアプリも規制を受けることになってしまう」ので「スパイウェアなどを法的に禁止できない」という説明は無茶苦茶であり、この点は個人情報保護法からもまったく正しくありません

4.まとめ
このように、この産経新聞の記事は、刑法や個人情報保護法などの観点から正しくない点が多く存在します。産経新聞は多くの国民が記事などを読むマスメディアなのですから、スパイウェアなどについて報道するにあたり、もう少し刑法や個人情報保護法、情報法などに関する法的知識情報リテラシーを持った上で取材や報道を行うべきではないでしょうか。

■関連する記事
・「内閣府健康・医療戦略推進事務局次世代医療基盤法担当」のPPC・令和2年改正個人情報保護法ガイドラインへのパブコメ意見がいろいろとひどい件
・デジタル庁の事務方トップに伊藤穣一氏とのニュースを考えた
・コインハイブ事件高裁判決がいろいろとひどい件―東京高裁令和2・2・7 coinhive事件
・ドイツで警察が国民のPC等をマルウェア等で監視するためにIT企業に協力させる法案が準備中-欧州の情報自己決定権と日米の自己情報コントロール権
・「法の支配」と「法治主義」-ぱうぜ先生と池田信夫先生の論争(?)について考えた
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
・個人情報保護法ガイドラインは図書館の貸出履歴なども一定の場合、個人情報や要配慮個人情報となる場合があることを認めた!?
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR

■参考文献
・西田典之・橋爪隆補訂『刑法各論 第7版』412頁
・いわゆるコンピュータ・ウイルスに関する罪について|法務省
・諸外国における不正アクセスの助長行為等を規制する関連法令に係る調査報告書(平成23年10月)|財団法人社会安全研究財団
・イスラエル企業開発のスパイウェア 世界中の記者や活動家を監視か|NewsWeek
・懸念されていた濫用がついに始まった刑法19章の2「不正指令電磁的記録に関する罪」|高木浩光@自宅の日記















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最近、Twitter上で、千葉大学の行政法のぱうぜ先生(@kfpause)こと横田明美准教授の、西村経済担当大臣の酒類販売事業者や金融機関への無茶ぶりな要請と「法治主義」・「法律による行政の原則」や国会の立法の重要性を指摘するインタビュー記事について、アゴラを運営している経済学者の池田信夫氏が、「法の支配」「法治主義」を混同する初歩的な間違い。法学部の1年生でも不可だ。」とツイートしたことがプチ炎上しています。

池田信夫氏ツイート
https://twitter.com/ikedanob/status/1418107519377960964

■論争(?)の元となったぱうぜ先生のインタビュー記事
・ドイツで政策を見て痛感…日本政府が「法治主義」を軽視しすぎという大問題|現代ビジネス

おそらく、池田信夫氏は「法治主義」を「形式的法治主義」(=戦前のドイツの法治主義)つまり議会で制定さえすればどんな法律でもよいという、「悪法も法」的な悪い意味の「法治主義」と捉えて批判しているようです。

しかし、この記事でぱうぜ先生が説明されている「法治主義」は、法律の内容も憲法に照らして適正でなければならないという、良い意味の「法治主義」つまり「実質的法治主義」(=戦後ドイツの法治主義)であることは間違いありません。現在の憲法・行政法では、この「実質的法治主義」はほぼ「法の支配」と同じ意味であると解されています。

したがって、池田氏のぱうぜ先生への批判は、「法治主義」への知識不足によるものであり正しくないと思われます。法律学上の「初歩的な間違い」をして「法学部の1年生でも不可」なのは池田氏のほうではないでしょうか。

ここで一応かんたんに説明すると、「法の支配」とは、英米法のなかで発展してきた基本原理であり、「専断的な国家権力の支配(人の支配)を排斥し、権力を法で拘束することにより、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理」です。

それに対して「法治主義」(=法治国家)とは、立憲君主制のドイツで発展した大陸法の基本原理であり、戦前のドイツの法治主義は「形式的法治主義」と呼ばれ、国家権力(国王)の行使を議会が制定した法律で制限しようとする原理ですが、法律の内容の合理性・正当性は問われない形式的なものでした。

一方、戦後のドイツの法治主義は「実質的法治主義」と呼ばれ、ナチズムの全体主義・軍国主義を反省し、法律は議会で制定されることだけでなく、法律の内容も憲法に照らして正当であることを要求する原理となっており、英米法の「法の支配」とほぼ同じ意味であるとされています。この点、ドイツ基本法20条3項は「立法は、憲法的秩序に拘束され、執行権および司法は、法律および法に拘束される」と規定し、実質的法治主義の原理を宣言しています。
法の支配と法治主義の対比表

ところで、池田信夫氏の最近(7月23日付)のブログ記事「法の支配とその敵」を拝見すると、池田氏は平凡社「世界大百科事典 第2版」(1998年)を引用して法治主義と法の支配を論じています。
・「法の支配とその敵」|池田信夫blog

法の支配とその敵

しかしこの引用元の世界百科事典の内容を読むと、形式的法治主義のことだけで、ぱうぜ先生の説明している実質的法治主義については書かれていません。百科事典ですし、しかも1998年のものですから仕方ないのでしょうか・・・。

そもそも法律学の概念について法律書や法律用語辞典などでなく、大昔の百科事典を引用する池田氏のスタンスには驚きを禁じ得ません。

■参考文献
・芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』13頁
・櫻井敬子・橋本博之『行政法 第6版』12頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』31頁

■関連する記事
・西村大臣の酒類販売事業者や金融機関に酒類提供を続ける飲食店との取引停止を求める方針を憲法・法律的に考えた
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた
・ドイツで警察が国民のPC等をマルウェア等で監視するためにIT企業に協力させる法案が準備中-欧州の情報自己決定権と日米の自己情報コントロール権
・個人情報保護法ガイドラインは図書館の貸出履歴なども一定の場合、個人情報や要配慮個人情報となる場合があることを認めた!?ーAI・プロファイリング・データによる人の選別
・コロナ禍のリモートワークにおいてPCなどで従業員をモニタリング・監視することを労働法・個人情報保護法から考えた

















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クラブハウス
スイスの情報セキュリティ研究者のMarc Ruef氏(@mruef)などのTwitterの7月24日の投稿によると、音声SNSのClubhouseの日本を含む38億件電話番号データベースがダークウェブのオークションで売りに出されている可能性があるそうです。(【追記】Clubhouse側や他の研究者たちはこの情報漏洩を否定していることを記事末に追記しました。)

クラブハウス情報販売
(Marc Ruef氏(@mruef)のTwitterより)
https://twitter.com/mruef/status/1418693478574346242

Clubhouseのアプリは、自動的にスマホユーザーのアドレス帳に登録されたすべての電話番号を収集するので、自分自身はClubhouseを利用していなくても、自分の電話番号を知っている人間がClubhouseを利用していれば、電話番号等の個人情報が流出している可能性があるとのことです。

これがもし本当にClubhouseを運営するAlpha Exploration(AE)社の保有する個人情報データベースから何らかの方法で出された電話番号データベースであるのなら、日本の個人情報保護法上、電話番号のみのでも「個人情報データベース等」(法2条4項)のデータの一部に該当し、つまり「個人データ」(法2条6項)に該当し、つまりそれは「個人情報」(法2条1項1号)に該当することになります。

個人データの第三者提供には原則、本人の同意が必要であり(法23条1項)、また第三者提供には個人情報が提供された際のトレーサビリティ(追跡可能性)の確保のために、記録作成義務記録確認義務が課されます(法24条、法25条)。(そのため、こういう個人データが大っぴらに転売されることは難しいように思われます。)

AE社は米企業のようですが、もし日本であれば、2014年のベネッセ個人情報漏洩事件のような個人情報漏洩事故なので、安全管理措置(法20条)の懈怠の問題としてAE社は個人情報保護委員会から行政指導等を受けたり(法41条、42条)、ユーザーなどから損害賠償請求訴訟を提起されるリスクがあります。販売等の目的などで個人データを持ち出した人間・法人は罰則も科されます(法84条)。

もしClubhouseがEU圏のユーザーも利用してるなら、AE社はGDPR(EU一般データ保護規則)最高2000万ユーロまたは前会計年度の全世界年間売上高の4%のいずれか大きい額の制裁金が科されるリスクもあります(GDPR83条)。また同様に、もしClubhouseがEU圏のユーザーも利用してるなら、GDPR33条は事業者等が自社の個人情報の漏洩を知った場合、72時間以内の所轄のデータ保護当局への報告という厳しいタイムアタックを要求しているので、AE社はこの義務を履行しなければなりません。

(なお、2022年4月施行予定の日本の令和2年改正の個人情報保護法22条の2は、個人情報漏洩が発覚した場合、原則として、事業者は速やかに個人情報保護委員会に速報を報告し、30日以内に報告書を提出しなければならないことになるので、日本の事業者も個人情報漏洩があった場合には迅速な対応が要求されることになります。)

聞くところによると、一時期大きな注目を浴びたClubhouseも、最近はめっきり利用者が減少しているそうですが、AE社の保有する個人データの取扱や管理の在り方が、いろいろと気になるところです。

■追記(2021年7月26日2:00)
情報セキュリティの専門家の高梨陣平氏(@jingbay)より、この件に関しては、つぎの記事のように、Clubhouse側や他の研究者たちが電話番号の情報漏洩を否定しているとのご教示をいただきました。高梨様、ありがとうございました。
・Clubhouse denies data breach, experts debunk claims of leaked phone numbers|TechZimo
















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小林解任
(TBSニュースより)
1.東京オリンピック開会式・閉会式のトップのディレクター・小林賢太郎氏が解任
東京オリンピックの開会式が明日にせまるなか、7月22日午前11時頃に、開会式のディレクターで開会式の演出のトップの元お笑い芸人の小林賢太郎氏が、お笑い芸人時代にナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を笑いの対象としたコントをしていたことに対し、ユダヤ人人権団体のサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)が同氏を非難する声明を公表したことを受け、組織委員会は本日、小林賢太郎氏を解任したとのことです。
・小林賢太郎氏を解任 五輪開会式演出担当、ホロコーストをやゆ|毎日新聞

・SWC Condemns Anti-Semitic Remarks by Director of Opening Ceremony of Tokyo Olympics|SWC

SWCサイト
(SWCサイトより)

たしかに、SWCサイトをみると7月21日付で、「SWC Condemns Anti-Semitic Remarks by Director of Opening Ceremony of Tokyo Olympics」(SWCは東京オリンピックの開会式のディレクターによる反ユダヤ主義の発言を非難する)との抗議声明が出されています。

同声明はつぎのように、小林賢太郎氏を強く非難しています。

“Any person, no matter how creative, does not have the right to mock the victims of the Nazi genocide. The Nazi regime also gassed Germans with disabilities. Any association of this person to the Tokyo Olympics would insult the memory of six million Jews and make a cruel mockery of the Paralympics,”
(どんなに創造的であっても、ナチスの虐殺の犠牲者をあざける権利は誰にもありません。ナチス政権はまた、障害を持つドイツ人をガス処刑した。この人物(=小林賢太郎氏)と東京オリンピックとの関係は、600万人のユダヤ人の記憶を侮辱するものであり、パラリンピックへの残酷な嘲笑を引き起こすでしょう。)

「どんなに創造的であっても、ナチスの虐殺の犠牲者をあざける権利は誰にもありません。」との批判は正当であり、もはや東京オリンピックは開会を前に、完全にレイムダック、「死に体」の状況に陥っているように思われます。

障害者のパラリンピックを含む東京五輪の開会式・閉会式の音楽担当の小山田圭吾氏が、学校時代の障害者へのいじめ加害で辞任となったばかりですが、今度は開会式の演出トップが、ナチスドイツのユダヤ人大虐殺を笑いの対象としていたことでSWCから非難され解任というのは非常に深刻な状況です。(SWCはアメリカに本部を置く、日本を含む西側自由主義諸国の政治に大きな影響力のある団体です。)

ナチスドイツによる600万人を超えるユダヤ人虐殺は、第二次世界大戦における重大な戦争犯罪の一つであり、ナチスドイツと同盟を結び軍国主義・全体主義国家として第二次世界大戦を行ってしまった日本も、このユダヤ人虐殺を軍国主義・全体主義国家の重大な間違いとして深く反省しなければならない立場のはずです。

世界の国々が参加する、オリンピックという準国家的なイベントの開会式・閉会式の演出のトップのディレクターの人選にあたり、組織委員会や国は、十分な身元調査などを実施していなかったのでしょうか?

また身元調査以前の問題として、そもそも、オリンピックという準国家的なイベントの演出ディレクターや楽曲担当などの要職は、いわば日本の広告塔となるわけですから、イベントの演出や音楽などの実務能力だけでなく、学識経験や高潔な人格など高い水準が要求されるように思われますが、なぜ東京オリンピック開会式・閉会式のスタッフ達は、お笑い芸人であるとか、露悪趣味を売り物にしているサブカル系のミュージシャン等ばかりが幹部に選抜されているのでしょうか?

武藤組織員会事務総長は、小山田氏の辞任劇に際し「我々は開会式・閉会式のスタッフは一人一人選んでいない」と自分達に責任がないと強調していましたが、電通などに重要な人事を丸投げにして放置していた点にこそ、重大な責任があるのではないでしょうか。武藤事務総長や橋本組織委員長ら幹部達は、重要な人事すら丸投げして放置しておいて、自分達はこれまで一体何の仕事をしていたのでしょうか?電通やテレビ局、政治家などへの中抜きのカネ勘定しかやっていなかったのでしょうか。

このように、五輪組織委員会の幹部達の経営責任や、監督する立場の菅首相や丸川大臣らの国の責任は重大であると思われます。

2.中山泰秀・防衛副大臣がサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)に通報?
また、この解任劇は、Twitter等によると、ネット上で小林賢太郎氏の過去のコントが問題であると話題になり、7月22日午前1時頃にあるネット上の人物からTwitter上で申告を受けた防衛省副大臣の中山泰秀氏が同日午前2時前にSWCに通報を行い、22日午前11時頃に組織委員会が小林氏を解任したという経緯があるようです。

防衛省副大臣中山氏のツイート2
(中山泰秀氏のTwitterより)
https://twitter.com/iloveyatchan/status/1417896461262483457

Twitter等によると、中山泰秀・防衛副大臣は菅総理や丸川五輪担当大臣、橋本聖子組織委員長などに連絡することなしに、直接、SWCに通報を行ったようですが、これは少し大げさにいえば、防衛省幹部による、政府に対する一種の電子的なクーデターなのではないでしょうか。

新型コロナの第5波が日本を襲うなか、世論調査によると国民の5割~8割が東京オリンピックに反対しているにもかかわらず、菅首相は東京五輪の開催を強行しています。昨日は、経団連など経済界の3団体のトップが東京五輪の開会式を欠席することを明らかにしただけでなく、東京オリンピック開催を推進してきた安倍前総理も開会式を欠席することが明らかになりました。もはや政府与党の中では、菅首相に幹部達が公然と従わない空気となっているのかもしれません。

東京オリンピックとともに、菅政権も「死に体」、レイムダックの状況となっているのかもしれません。これまでの東京五輪のごたごたをみると、不祥事は小林氏の件で終わりになるとは思えません。オリンピック関係者や選手、スポーツ関係者達だけならまだよいですが、一般国民に対してもトラブルや政治的混乱の悪影響が及ばないことを願うばかりです。

今からでも菅政権は東京オリンピックを中止し、コロナ対応に全力を尽くすべきです。

■関連する記事
・菅義偉首相の「東京五輪をやめるのは簡単」「挑戦するのが政府の役割」発言を考える
・西村大臣の酒類販売事業者や金融機関に酒類提供を続ける飲食店との取引停止を求める方針を憲法・法律的に考えた
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・自民党憲法改正草案の緊急事態条項について考える
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた



















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7月23日の東京オリンピック開催まであと3日の20日、菅義偉首相はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のインタビューで、「東京オリンピックをやめるのは簡単」だが、「挑戦するのが政府の役割だ」と語ったとのことです。
・菅首相「五輪やめるのは簡単」「挑戦するのが政府の役割だ」、WSJに語る|WSJ・Yahoo!ニュース

これまで国会で、「新型コロナの感染拡大のなかの東京オリンピック開催は危険だから中止や延期すべきだ」と何度問われてても、「安心・安全な東京オリンピックを開催する」と主張していた菅首相ですが、開催まで数日ということで、とうとう本音が出たようです。
菅義偉首相はやはりヒトラーと同じ国家主義者・全体主義者・ファシストです。

ヒトラー

「挑戦するのが国家の役割」などと一見かっこいいことを言っていますが、その「国家の挑戦」のために犠牲となるのは、菅首相など政府与党の幹部達の生命や健康ではなく、一般の日本世界国民生命や健康です。

一般の国民の生命・健康を犠牲にして自分の独りよがりな「国家の挑戦」という目的を追求しようとしていますが、これはナチスドイツや現在の中国のような国家主義・全体主義・ファシズムであって、国民の生命・健康や基本的人権の確立が一番重要であるとする、日本の憲法が定める自由主義・民主主義に明確に反しています。

日本は中国・北朝鮮や旧ソ連などの国家主義国・全体主義国と違って、菅首相などの政府与党の幹部が主権者なのではなく、国民が主権者の自由主義・民主主義の国家です(憲法1条)。そして近代民主主義国家においては、国民の命と健康は一番大事なものであり(13条)、国民の命や健康などの基本的人権を守るために国・自治体などの機関は存在します(11条、97条)。

菅首相など政府与党が国民の命や健康を犠牲にして自分達の野心を実現するために権力を行使することは許されません。「日本のコロナの死者が他の国に比べて多い少ない」はこの場合、関係がない問題です。国民はたとえたった一人であっても、個人として尊く、国から個人として尊重される存在なのですから(憲法13条)。国にはたった一人の国民に対しても、生命や健康を守る責務があります(13条、25条など)。

もはや「国家のために国民は犠牲となれ」との本音をさらした菅首相は、日本や世界の国民と、自由主義・民主主義、個人の尊重を掲げる近代立憲主義憲法の敵です。

日本や西側世界の個人・法人は、敵である菅首相ら政府与党から、国民・法人の個人の尊重や基本的人権を守るために、「不断の努力」を行わなければなりません(憲法12条)。

■追記(7月22日)
東京オリンピックの開会式が明日にせまるなか、開会式のディレクターで開会式の演出のトップの元お笑い芸人の小林賢太郎氏が、お笑い芸人時代にナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を笑いの対象としたコントをしていたことに対し、ユダヤ人団体のサイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)が同氏を非難する声明を公表したことを受け、組織委員会は本日、小林賢太郎氏を解任したとのことです。もはや東京オリンピックは開会を前に、完全にレイムダック、「死に体」の状況に陥っているように思われます。

障害者へのいじめ加害で小山田圭吾氏が辞任となったばかりですが、今度は開会式の演出のトップが、ナチスドイツのユダヤ人大虐殺を笑いの対象としていたことでSWCから非難され解任というのは、もはや東京オリンピックと菅政権は、五輪の開会を前に完全に「死に体」、レイムダックの状況といえます。

■関連する記事
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・障害者へのいじめ加害者の小山田圭吾氏を東京五輪スタッフに留任する五輪組織委員会について考えた-オリンピック憲章
・川渕三郎氏の東京オリンピックに関するツイートが戦時中の政府のように根性論の思考停止でひどい件
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