なか2656のblog

とある会社の社員が、法律などをできるだけわかりやすく書いたブログです

2021年10月

共産党サイト
(日本共産党サイトより)

1.日本共産党の「非実在児童ポルノ」に関する選挙公約
日本共産党の2021年衆議院選挙の各政策の「7、女性とジェンダー」「非実在児童ポルノ」に関する記述を読みました。
・「7、女性とジェンダー」|日本共産党

私はマンガ・アニメ・ゲームなどの表現規制に反対の立場であるので、「非実在児童ポルノ」の法規制のために「社会的合意」を作ってゆくという日本共産党のこの政策に反対であり、この政策の撤回を求めます。

日本共産党の2021年衆議院選挙の各政策の「7、女性とジェンダー」の「非実在児童ポルノ」に関する政策はつぎのように記述しています。

現行法は、漫画やアニメ、ゲームなどのいわゆる「非実在児童ポルノ」については規制の対象としていませんが、日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており、これらを適切に規制するためのより踏み込んだ対策を国連人権理事会の特別報告者などから勧告されています(2016年)。

非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。「表現の自由」やプライバシー権を守りながら、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていくために、幅広い関係者と力をあわせて取り組みます。

この政策を読むと、「日本は、極端に暴力的な子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等の主要な制作国として国際的にも名指しされており」、国連人権理事会からも勧告を受けているとした上で、「非実在児童ポルノは、現実・生身の子どもを誰も害していないとしても、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つけることにつながります。」とし、「子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さない社会的な合意をつくっていく」としています。

この記述を素直に読むと、「子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等」の「非実在児童ポルト」は「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つける」ので、「非実在児童ポルノ」を法規制するための「社会的合意」を作ってゆく、つまり、日本共産党は、マンガ・アニメ・ゲームなどにおける「非実在児童ポルノ」法規制するために「社会的合意」を作ってゆくとなっています。

2.日本共産党の10月18日付の釈明文書
この点、ネット上で日本共産党が「非実在児童ポルノ」の法規制、つまり表現の自由の規制推進に舵を切ったとの大きな批判を受け、日本共産党は10月18日付で「「共産党は表現規制の容認に舵を切ったのですか」とのご質問に答えて」との釈明文書を公表しました。
・「共産党は表現規制の容認に舵を切ったのですか」とのご質問に答えて|日本共産党

しかしこの釈明文書も、「日本の現状への国際的な指摘があることを踏まえ、幅広い関係者で大いに議論し、子どもを性虐待・性的搾取の対象とすることを許さないための社会的な合意をつくっていくことを呼びかけたものです。」と記しているとおり、「子どもポルノを描いた漫画やアニメ、CG、ビデオ、オンライン・ゲーム等」の「非実在児童ポルト」は「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つける」ので、「非実在児童ポルノ」を法規制するための「社会的合意」を「呼びかけてゆく」と書かれているので、つまり、「「非実在児童ポルト」は「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広め、子どもの尊厳を傷つける」ので、法規制するための「社会的合意」を作ってゆくとされており、結局、日本共産党が「非実在児童ポルノ」を法規制するための「社会的合意」を形成する方針、つまり日本共産党は表現規制推進派に舵を切ったことに変わりはありません。

私はマンガ・アニメ・ゲームなどの表現規制に反対の立場であるので、「非実在児童ポルノ」の法規制のために「社会的合意」を作ってゆくという日本共産党のこの政策に反対です。

2.表現の自由について憲法から考える
(1)表現の自由(憲法21条1項)

言うまでもないことながら、18世紀のフランス革命やアメリカ独立戦争以降の西側近代社会においては、表現の自由は、国民が自らの表現行為を行うことにより自らの人格を成長させるという自己実現の価値があるとともに、国民がさまざまな意見や見解を授受して議論を行い、民主政治に参加するための前提の人権という民主主義の価値(自己統治の価値)という二つの価値があります。そして特に後者の民主主義の価値のため、民主主義国家においては表現の自由はとりわけ重要な基本的人権です(芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』180頁)。

日本国憲法
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

そのため、かりに表現規制をするとしてもできるだけ表現内容には踏み込まず、時・場所などの面から規制したり(表現内容中立規制)、表現規制の基準はあいまい・漠然としたものであってはならない(明確性の原則)とするのが憲法学の基本的な考え方です。

にもかかわらず、ネット上でのある方の日本共産党への電話での問い合わせによると、日本共産党は「手塚治虫は法規制しない」等と回答しているとのことで、マンガ・アニメなどの表現内容に踏み込んで自分達の好き嫌いや恣意的な判断でマンガ・アニメなどを表現内容から規制する意図を隠そうともしていないとのことであり、これは2010年に「非実在青少年」なる概念を掲げてマンガ・アニメなどの表現規制を行おうとした東京都自民党などと何ら変わるところはありません。

・『日本共産党中央委員会への電凸記』|ヒトシンカ
・問い合わせの結果、共産党は表現規制派に転向したことが確定。共産党は”議論なしの法規制”に反対なだけで、”議論の上での法規制”には反対しない。|togetter
・【表現規制】日本共産党・吉良よし子参議院議員「“こういう表現は本当にまずいよね”“儲からないよね”という合意ができれば、クリエイターの皆さんも作らなくなると思う」|togetter
・共産党が規制対象としてコミケを名指し。”規制を求めるべき、子供を性的に虐待したり搾取したりする漫画やアニメがコミックマーケットで沢山売られている”|togetter

共産党吉良よし子
(「こういう表現は本当にまずいよね”“儲からないよね”という合意ができれば、クリエイターの皆さんも作らなくなると思う」等と「非実在児童ポルノ」政策を説明する共産党の吉良よし子議員。ABEMA NEWSより)

共産党手塚治虫は法規制しない
(松田未来氏のTwitterより)
https://twitter.com/macchiMC72/status/1450651084377055238

しかもその表現規制の理由が、「非実在児童ポルト」は「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広める」という真偽不明な、あいまいで漠然としたものであり、その規制の基準も「手塚治虫は法規制しない」等という日本共産党の恣意的な判断で規制を行おうということも非常に漠然としてあいまいなものであり、表現の自由など精神的人権はその重要性から、その法規制は明確でなければならないという明確性の原則「漠然性ゆえに無効」「過度の広範性ゆえに無効」)に反しているので、日本共産党の「非実在児童ポルノ」政策憲法21条1項に反して違法・違憲で無効なものです(最高裁昭和50年9月10日判決・徳島市公安条例事件、芦部・高橋・前掲213頁)。

さらに、いったん表現の規制立法ができてしまうと、その表現規制立法について公権力による濫用のおそれの危険が発生します。つまり表現の規制法ができてしまうと、政府に規制対象の認定権をゆだねることになり、その恣意的な適用が懸念されることになります(渋谷秀樹『憲法 第2版』380頁)。

例えば最初はマンガ・アニメなどの「非実在児童ポルノ」だけが法規制の対象だったものが、いつのまにか同性愛などの内容をも禁止の対象が拡大するであるとか、国・政府や政治政党等を批判することが禁止の対象にされるなど、政府の恣意的な判断で表現の自由の規制の対象範囲がどんどん拡大してしまう危険があります。

実際にも、2014年8月には、国会でヘイトスピーチ規制法の議論が行われた際に、自民党の高市早苗政調会長(当時)は、「ヘイトスピーチとセットで国会前デモも規制する立法を検討する」との見解を公表しました(「国会周辺の大音量デモ規制も検討 自民ヘイトスピーチPT」産経ニュース2014年8月28日付より)。表現の自由規制立法の公権力による濫用の危険は机上の空論ではないのです。

(2)検閲・事前抑制の禁止(憲法21条2項)
憲法21条2項は「検閲」を禁止しています。これは戦前の日本の政府や軍部、特高警察などのファシズムによる表現弾圧・思想弾圧・学問弾圧への反省を踏まえたものです。

検閲とは、「公権力が外に発表されるべき思想の内容をあらかじめ審査し、不適当と認めるときには、その発表を禁止する行為」です。この「公権力」とは行政権のことであり、国や自治体などが該当します。また、検閲の対象広く表現内容を指します。さらに検閲の時期については思想・情報の発表前とするのが判例ですが、憲法学の通説は、現代社会では表現の自由について国民の「知る権利」が重要であることから、思想・情報の国民の受領時を基準として、思想・情報の発表に重大な抑止効果をおよぼすような規制も検閲に該当するとしています(最高裁昭和59年12月12日判決・税関検査事件、最高裁平成元年9月19日判決・岐阜県青少年保護条例事件、芦部・高橋・前掲207頁)。

そのため、もし日本共産党の主張する「非実在児童ポルノ」を規制するとの「社会的合意」が社会に形成され、それに基づいて国会で「非実在児童ポルノ規制法」などが制定され、当該法律に基づいて法務省などの行政機関や自治体、あるいは立憲民主党の主張する「人権機関」などの行政権が「非実在児童ポルノ」を公表前に審査し発表を禁止すると憲法の禁止する「検閲」に該当し憲法21条2項違反となります(判例)。

あるいは「非実在児童ポルノ」が書店やコミケ(コミックマーケット)等で書店の顧客やコミケ参加者が当該図書等を手にとる前に国・自治体などが当該図書の販売を禁止したり、ネットやSNS上で「非実在児童ポルノ」が公表された後に国・自治体などが当該表現物の公表をSNS等の運営会社に停止させること等は、憲法学の通説の「検閲」に該当し憲法21条2項違反となります。

3.憲法の基本構造から考える
また、日本共産党は国連人権委員会の意見を錦の御旗のように掲げていますが、戦後の欧州がナチズムへの反省から、自由主義・民主主義に反する者には表現の自由や集会の自由などの基本的人権を与えないと憲法に明記し(ドイツ基本法18条など)、特別刑法で民衆扇動罪などを準備する「闘う民主主義」という「国家による人権保障」「ポスト近代憲法」のスタンスをとるのに対して、アメリカの憲法や、アメリカの憲法をもとに現行憲法を制定した日本は、戦前の言論弾圧・表現弾圧・思想弾圧が戦争を招いた反省を踏まえ、「さまざまな意見を自由に発言させて議論させれば、よりよい結論を得られるだろう」という「思想の自由市場論」(野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』352頁)を基本とする、表現の自由などの国民の精神的自由に関して「国家からの自由」を重視する、伝統的な「近代憲法」の国です。

このような欧州のポスト近代憲法と日米の近代憲法との違いの検討を欠いたままで、欧州の「国家による人権保障」「法律による人権保障」を安易に志向することには大きな問題があります(辻村みよ子『比較憲法 新版』126頁)。

国連人権委員会は、「国家による人権保障」を重視する欧州型の「ポスト近代憲法」のスタンスに立って「非実在児童ポルノの禁止」を日本に要求していると思われますが、そもそも日本は思想の自由市場論や「国家からの自由」を重視する伝統的な「近代憲法」を国の基盤とする国家なので、憲法的な基盤の異なる国連人権委員会の主張を唯々諾々と受け入れる日本共産党の姿勢は憲法学的に間違っています。日本共産党はフェミニストや社会学者、反差別活動家、人権活動家などに乗っ取られ、憲法学や法律学に詳しい人材がいなくなってしまったのでしょうか?

4.思想・良心の自由(憲法19条)
さらに、日本共産党は、「非実在児童ポルノ」は「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を広める」と主張していますが、それは日本共産党の高齢の女性幹部達の恣意的な思想や判断、決めつけの国民への押し付けなのではないでしょうか。

「非実在児童ポルノ」を見た国民が「「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念」を持つということについて、日本共産党は何らかの科学的・医学的なエビデンスを持っているのでしょうか?

日本共産党の高齢の女性幹部の方々が、「こういうわいせつなアニメ・マンガ・ゲームを見たら、日本の若い男性は、子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念を持つ」と考えたとしても、現実の日本の若い国民がそう思わないことのほうが多いように思われます。

例えば、本年9月には、日本共産党や社民党の女性政治家達の全国フェミニスト議員連盟が、千葉県警の交通安全を啓発するための動画に千葉県松戸市の女性VTuber「戸定梨香」氏を起用したところ、戸定梨香氏の3Dのキャラクターが「女性を性的に搾取している」と、全国フェミニスト議連が千葉県警に当該交通安全啓発の動画を削除させた事件が起こりました。

vtuberアベマニュース
(ABEMA NEWSより)
・「女性の権利や社会進出を訴えたいという思いは同じだと思う」松戸市のVTuber「戸定梨香」の動画削除で、運営会社社長が全国フェミニスト議員連盟に呼びかけ|ABEMA TIMES

この事件で問題となった戸定梨香氏の3Dキャラクターを私も見ましたが、ごく普通のキャラクターでした。日本共産党などの全国フェミニスト議員連盟は、単に「自分達、高齢女性にはよく分からない表現で何だか気にくわないから、「性的搾取」という理由で弾圧してやれ」と思っているとしか思えませんでした。全国フェミニスト議員連盟のやっていることは、「焚書」や、中国の文化大革命などと同様の文化・文明を破壊する表現弾圧や思想弾圧の蛮行であると思われます。

同様に、今回の「非実在児童ポルノ」についても、日本共産党の幹部達は、「自分達にはよく理解できない表現だから若者がそういう表現を好むことはけしからん、このような表現は「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念」を招くとして法規制のための「社会的合意」を形成しようと考えていると思われます。

それは、国家が国民の言論を監視・検閲し、国民に特定の思想を強制し、国家が特定の思想や表現を弾圧する中国北朝鮮ロシアジョージ・オーウェルの小説「1984」のようなファシズム国家、監視国家などと同じです。

さらに、そもそも国民が心のなかで何を思うか、どのような思想や良心を持つか自体は、憲法が思想・信条や良心、内心の自由として絶対的に保障しているところです(憲法19条)。個人の思想や良心がその個人の内心にとどまっている限りは、他人の人権と衝突しないので、それは絶対的に保障されます。政治政党として公権力の一部である日本共産党が、国民の思想や良心に介入することは憲法19条に違反する違法・違憲な行為です。

日本国憲法

第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。


にもかかわらず、日本共産党が「子どもを性欲や暴力の対象、はけ口としても良いのだとする誤った社会的観念」を招くから「非実在児童ポルノ」を「社会的合意」のもとに法規制を行おうとすることは、自民党が2012年に公表した憲法改正草案で示したような、「経済を発展させ国を成長させる義務」「家族助け合い義務」などの特定の価値観や考え方、思想などを公権力が国民に強制するものと同様の行為であり、内心の自由を定める憲法19条違反であるとともに、国民の自由意思を重んじる、個人の尊重と基本的人権の確立を国家の目的とする近代憲法である日本国憲法の趣旨・目的(憲法11条、97条)そのものに反しています。

このように、日本共産党の「非実在児童ポルノ」に関する政策は、表現の自由(憲法21条1項)に関する基本的理解を誤っており、また、日本共産党という政治政党が「社会的合意」により法改正などにより国民の表現の自由を規制し、また、国民に政治政党である日本共産党が立法などを通じて自分達の好む思想を国民に強制しようとしている点で、国民の内心の自由(憲法19条)を侵害し、国民の自由意思に基づく自由な民主主義という日本の憲法の趣旨そのものに違反しています(憲法11条、13条、97条)。

日本共産党の国会議員や地方議員達は、政府・与党の議員や官僚などと同様に、憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負っていますが、日本共産党はそのことを失念しているのではないでしょうか?

5.フェミニズム・ジェンダー平等
たしかにあらゆる差別の禁止、男女平等という平等原則・法の下の平等は重要な基本的人権(憲法14条1項)であり、私も男女平等や「女性の権利の向上」には大賛成です。しかし平等原則も人権である以上無制限に認められるものではなく、他の人権と衝突した場合にはその調整が必要となります(「公共の福祉」・憲法12条、13条、22条、29条)。

女性の平等権を侵害する表現等があった場合は、上でみたように表現の自由の重要性に鑑み、そのような表現行為は、現在の判例・通説上そうであるように、名誉棄損やわいせつ罪などの観点から裁判所で判断され事後的に救済されるべきです(最高裁昭和44年6月25日判決など)。

そのため、近年、日本共産党をはじめとする野党各党やフェミニスト、社会学者などは、「女性の権利の向上」「ジェンダー平等」などの主張を錦の御旗のように掲げ、それと異なる主張や価値観や、マンガ・アニメ・ゲーム等を激しく攻撃していますが、それは「フェミニズム・ファシズム」あるいは「女性至上主義」とでも呼ぶべきものであり、男女の平等を定める憲法14条1項違反であって、憲法学・法律学の観点から明らかに間違っています。

また、最近の日本共産党や立憲民主党などは、「フェミニズム」「ジェンダー平等」を憲法の掲げる個人の尊重と基本的人権よりも上位の価値理念であるかのような主張をしています。

たしかに最近、「ジェンダー平等」は日本でも社会的注目を集めている理念ですが、法的にみると、これは2015年の国連総会で採択された「持続可能な開発目標」・SDGs(Sustainable Development Goals)が17の目標を掲げているところ、その5番目に「ジェンダー平等」が掲げられているものです。
・持続可能な開発目標・SDGsとは|外務省

SDGS
(SDGsの17の目標。外務省サイトより)

つまり、「ジェンダー平等」を目標の一つに掲げるSDGsは、国連で採択された条約の一種であり、憲法学の通説は、条約と憲法との上下関係について、憲法98条は憲法が最高法規であり、法律や国の政策、処分などに優先すると規定していることから、憲法が条約に優越するとしています(98条)。

したがって、共産党や立憲民主党、フェミニストや社会学者などが、ジェンダー平等やフェミニズムなどの価値理念を憲法の定める表現の自由、法の下の平等、内心の自由などの基本的人権より優越する価値理念であるかのように主張することは憲法98条に違反しています。

さらに、上でみたように、共産党や立憲民主党などは国会議員等で構成される政治政党なので、共産党や立憲民主党などは憲法尊重擁護義務(憲法99条)を負っており、「非実在児童ポルノ」政策などの憲法違反の政策を主張する共産党や立憲民主党などは尊重擁護義務違反でもあります。(共産党・立憲民主党などは、憲法尊重擁護義務を負うのは政府与党だけだと勘違いをしているのでしょうか?)

従来、共産党や立憲民主党などは、「憲法を守れ」と主張する「護憲政党」であったはずですが、フェミニズムやジェンダー平等等を憲法の規定する表現の自由や法の下の平等より優越する価値理念であると憲法違反の主張を行っている共産党・立憲民主党等には「護憲政党」を名乗り「憲法を守れ」と主張する資格はもはやありません。

6.まとめ-日本共産党は「非実在児童ポルノ」政策の撤回を
戦前、特高警察に拷問で殺されたプロレタリア文学の小林多喜二が党員であった日本共産党は、公権力の暴走や、公権力の表現規制と闘うことがアイデンティティの政党だと思っていたのですが、表現規制推進に転換したことは信じられません。

小林多喜二
(特高警察により拷問で殺された小林多喜二の遺体を囲む遺族や文学者達。日本共産党サイトより)

戦前の日本は軍国主義・ファシズムが台頭し、その考え方の「社会的合意」に基づいて議会で治安維持法、翼賛体制などが立法化され、滝川事件などの学問弾圧や思想弾圧公立図書館などにおける「思想善導」などが行われ、第二次世界大戦に突入してしまいました。このような公権力による思想や価値観の強制や、表現の自由規制などがいかに間違ったものであるかは、第二次世界大戦の無残な戦禍の結果を見れば歴史的に明らかです。

表現の自由や内心の自由は民主主義の基盤であり、自民党などと同様に、表現規制推進派、つまりファシズムや国家主義、検閲を是とする監視国家的価値観に転換した日本共産党は、自由な民主主義や表現の自由、内心の自由を掲げる日本国憲法について、「憲法を守れ」と主張する資格や「護憲政党」を名乗る資格はありません。また、自民党・公明党や維新等を全体主義・国家主義と批判する資格ももはやありません。

このような理由から、私は日本共産党の2021年衆議院選挙の各政策の「7、女性とジェンダー」の「非実在児童ポルノ」の政策に反対であり、この政策の撤回を求めます。

(なお今回の衆院選の公約において、「インターネット上の誹謗中傷を含む、性別・部落・民族・障がい・国籍、あらゆる差別の解消を目指すとともに、差別を防止し、差別に対応するため国内人権機関を設置します。」としている立憲民主党の主張も、日本共産党の「非実在児童ポルノ」政策と同様に、国民の表現行為などを国(人権機関)が監視・検閲し、特定の表現行為や思想を弾圧し、立憲などが好む表現や思想を国民に強制する点で、中国や北朝鮮などのファシズム国家・超監視国家と同様であり、「反差別ファシズム」、「人権ファシズム」とでも呼ぶべきものであり、憲法の規定する表現の自由(憲法21条1項)や思想・良心の自由(憲法19条)に違反し、また自由主義と民主主義を掲げる日本国憲法の趣旨・目的そのものに反する考え方であり、私は反対であり撤回を求めます。)
・人権政策の抜本強化|立憲民主党

■追記(2021年11月2日)
報道によると、10月31日の衆議院選挙の大敗を受けて、立憲民主党の枝野幸男氏が党首を辞任するとのことです。衆院選の大敗もさることながら、「立憲民主党」という「立憲」を冠した党名の政党でありながら、国民の現実やネット上のあらゆる表現行為を検閲・規制する「人権機関」という近代立憲主義憲法に反するファシズム的な公約を掲げた立憲民主党の枝野氏が辞任するのは当然のことです。

同様に、「非実在児童ポルノ」というこれも近代立憲主義憲法に反するファシズム的な公約を掲げて衆院選で敗北した日本共産党の志位和夫委員長や、同政策の責任者の吉良よし子氏池内さおり氏なども責任をとって辞任更迭されるべきです。

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■参考文献
・芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第7版』180頁、213頁
・渋谷秀樹『憲法 第2版』380頁
・野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法Ⅰ 第5版』352頁
・辻村みよ子『比較憲法 新版』126頁
・樋口陽一・小林節『「憲法改正」の真実』90頁

■関連する記事
・共産党が公営プールでの水着撮影会を中止させた件を憲法的に考えたー泉佐野市民会館事件
・「幸福追求権は基本的人権ではない」/香川県ゲーム規制条例訴訟の香川県側の主張が憲法的にひどいことを考えた
・東京医科大学の一般入試で不正な女性差別が発覚-憲法14条、26条、日産自動車事件
・懐風館高校の頭髪黒染め訴訟についてー校則と憲法13条・自己決定権
・「表現の不自由展かんさい」実行委員会の会場の利用承認の取消処分の提訴とその後を憲法的に考えた-泉佐野市民会館事件・思想の自由市場論・近代立憲主義













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1.LINEの個人情報・通信の秘密に関する不祥事が発覚
2021年10月18日に、LINEの個人情報の事件に関するZホールディングスの有識者委員会の最終報告書が公表されました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」最終報告書受領および今後のグループガバナンス強化について|Zホールディングス

朝日新聞の編集委員の峰村健司氏などによる2021年3月17日付のスクープ報道により、通信アプリ大手LINE(国内の月間利用者約8900万人・2021年9月現在)を運営するLINE社が、中国の関連会社にシステム開発やユーザーから通報を受けた投稿等に問題がないかどうかのチェックなどの業務を委託し、中国関連会社の技術者らが日本のLINEのサーバーの個人情報にアクセスすることができる状態にあったことや、日本のユーザーの画像データ、動画データなどのすべての個人データがLINE社の韓国の関連会社のサーバーに保存されていることが発覚し、LINE社とその親会社のZホールディングス社には大きな社会的非難が起きました。
・【独自】LINEの個人情報管理に不備 中国の委託先が接続可能|朝日新聞

■参考
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた

このLINEの事件に関しては、日本の約8900万人の個人データが中国の関連会社からアクセス可能であったことや、日本のユーザーの膨大な個人データが韓国の関連会社のサーバーに保管されていたこと等が、国民の個人情報保護やプライバシー保護の問題だけでなく、政府与党の要人や大企業の経営陣などの挙動が海外に密かに知られてしまうリスクや、国家の機密や大企業などの営業秘密などが海外に漏洩してしまうリスクとして、「経済安全保障」という新しいリスクとして社会的な大きな注目を集めました。

このLINEの事件を受けて総務省など国の官庁や多くの自治体は、LINEを利用した行政サービスを中止する事態となりました。

このLINE事件に関しては4月23日付で個人情報保護委員会がLINE社に対して行政指導を実施し、4月26日付で総務省がLINE社に行政指導を実施しました。また、個人情報保護委員会・総務省・金融庁・内閣官房は4月30日付で、「政府機関・地方公共団体等における業務でのLINE利用状況調査を踏まえた今後のLINEサービス等の利用の際の考え方(ガイドライン)」を制定・公表しました。しかし個人情報保護委員会はプレスリリースで、現在もLINE社に対する調査は続行中であることを公表していました。
・個人情報の保護に関する法律に基づく行政上の対応について(LINE株式会社・令和3年4月23日)|個人情報保護委員会
・LINE株式会社に対する指導|総務省
・「政府機関・地方公共団体等における業務でのLINE利用状況調査を踏まえた今後のLINEサービス等の利用の際の考え方(ガイドライン)」の公表について|金融庁

これに対してZホールディングス社はLINEの問題に関する有識者による調査委員会(「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」、座長・宍戸常寿・東大教授(憲法・情報法))を設置し、調査を開始し、6月11日付で第一次報告書を公表しました。
・LINEの個人情報事件に関する有識者委員会の第一次報告書をZホールディンクスが公表

2.最終報告書
その後、2021年10月18日付でZホールディングス社の有識者委員会はLINEの事件に関する最終報告書を公表し、また同日、有識者委員会は座長の宍戸教授と川口洋委員(株式会社川口設計代表取締役)が記者会見を行いました。

・「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」最終報告|Zホールディングス

このブログでは、LINEの個人情報などに関する不祥事について何回か取り上げてきましたが、本ブログ記事では、この最終報告書を簡単にみてみたいと思います。

3.中国の関連会社について
本最終報告書20頁以下を読むと、LINE社の情報セキュリティ部門は、外部の法律事務所に委託して中国のリーガルリスクの検討を行っていたが、2015年頃に中国向けアプリサービスを中止したことを受け、法律事務所に委託して中国のリーガルリスクを検討することが中断したとされています。そのため、「中国の国民や法人は中国政府の情報活動に協力する法的義務がある」(中国国家情報法7条)との規定がある2017年に中国で制定された中国国家情報法のリーガルチェックがLINE社において会社組織として漏れていたとされています(本最終報告書20頁)。

ライン2
(Zホールディングス社サイトより)

また、本最終報告書によると、有識者委員会の技術部会がログなどから調査を行ったところ、中国の関連会社の職員によるシステムの保守・開発や通報を受けたメッセージや画像などの確認のために、日本のサーバーにアクセスした件数は、2021年3月23日にLINE社が行った個人情報保護委員会及び総務省への報告においては、LINEアプリのトークに関して通報されたメッセージに係る情報を閲覧し得る権限によるアクセスについては132件、そのうちLINEアプリのトークに関して通報されたメッセージの内容を直接閲覧できるURLへのアクセスは32件としていたところ、その後の調査で、LINE社は、LINEアプリのトークに関して通報されたメッセージに係る情報を閲覧し得る権限によるアクセスについては132件から139件に、LINEアプリのトークに関して通報されたメッセージの内容を直接閲覧できるページ(URL)へのアクセスについては32件から35件が確認されたとしています(本最終報告書24頁注18)。

ただし、ログは一部しか保管がされていなかったことや、ページ(URL)へのアクセスのログはあっても、そのアクセスで具体的にどのような操作を行ったかのログは残っていないこと等も、本最終報告書には記載されており(本最終報告書24頁)、これらのアクセスの数字がどこまで正確なのか不明であり、また中国関連会社の職員等が具体的にアクセスしたメッセージに対して中国当局の諜報活動に協力する等のために当該メッセージをコピー等して別の端末などに保存した等の行為があったか否かについては不明のままです。

また、法律事務所などによる詳細なリーガルチェックは中断していたものの、その期間中もLINE社の情報セキュリティ部門は、「中国に関するサイバーセキュリティリスクとして、例えば、Huaweiに代表される中国企業の製品利用に関わるリスクや、中国のハッカー集団による攻撃リスク等、中国企業や政府に絡んだサイバー攻撃のリスクを認識し、分析・対応」しており、中国にはサイバーセキュリティリスクがある旨を経営陣に報告していたが、経営陣はそのような中国のセキュリティリスクを経営上の課題として適切に取り上げ、対応をしていなかったと本報告書は記述しています(本最終報告書24頁)。

ところが、本最終報告書は、技術部会によるログのチェックなどから、「これらは、開発及び保守プロセスにおける正規の作業であるということが確認された。このことから、技術検証部会におけるこれらの調査による限り、調査対象期間(2020年3月19日から2021年3月19日)において、LINE China社から外部の組織に対して、LMPに関する情報の漏えいは認められなかった。」(本最終報告書24頁)との、「情報漏洩は発生していない」との結論を導き出していますが、これは不祥事に対する有識者委員会の報告書としてあまり正しくないのではないでしょうか。

ライン24
(Zホールディングス社サイトより)

ただし、情報セキュリティ部門からの中国のセキュリティ上のリスクの報告があったにもかかわらず経営陣が適切な対応をとらなかったことに関して、本最終報告書は「このように経営陣がLINE社に求められるガバメントアクセスのリスクの検討やそれへの対応を怠ったと考えられ、結果、通信内容である送受信されたテキスト、画像、動画及びファイル(PDFなど)のうち、ユーザーから通報されたものについて、個人情報保護法制が著しく異なる中国の委託先企業からの継続的なアクセスを許容していたことは、極めて不適切であったと、本委員会は判断する。」(本最終報告書26頁)としていることは正当な評価であると思われます。

この点、中国の国家情報法については、制定された2017年前後においては、日本のマスメディアなどもこれを大きく取り上げ、同法7条により中国の個人・法人が中国当局の諜報活動・情報活動に協力する義務があることは国・大企業の役職員などにおいて公知の事柄であったにもかかわらず、かつ、社内の情報セキュリティ部門からの報告・進言があったにもかかわらず、LINE社の経営陣がLINEのシステムの保守・開発や通報のあったメッセージなどの監視・モニタリングなどの業務の委託を中国関連会社に漫然と継続し、中国関連会社からの日本のサーバーへのアクセス権の見直しなどの対応を実施していなかったことは、LINE社の個人情報取扱事業者としての安全管理措置(個人情報保護法20条)や、委託先の監督(同法22条)の明確な違反であると思われます。

個人情報保護法

(安全管理措置)
第20条 個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。

(委託先の監督)
第22条 個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合は、その取扱いを委託された個人データの安全管理が図られるよう、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行わなければならない。

つまり、個人情報保護委員会の「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」「8(別添)講ずべき安全管理措置の内容」「8-3 組織的安全管理措置」は、「(5)取扱状況の把握及び安全管理措置の見直し」として「個人データの取扱状況を把握し、安全管理措置の評価、見直し及び改善に取り組まなければならない。」と規定しています。

83組織的安全管理措置
(個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)8-3 組織的安全管理措置」より)

また、同ガイドラインの「8-6 技術的安全管理措置」「(1)アクセス制御」として「担当者及び取り扱う個人情報データベース等の範囲を限定するために、適切なアクセス制御を行わなければならない。」と規定しており、LINE社の経営陣はこれらの安全管理措置を完全に怠っているからです。

84技術的安全管理措置
(個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)8-6 技術的的安全管理措置」より)

4.韓国の関連会社について
また有識者委員会の第一次報告書でも、LINE社は日本の国・自治体に対して、「LINEの個人情報を扱う主要なサーバーは日本国内にある」との虚偽の説明を2013年、2015年、2018年の3回実施していたことを公表しましたが、今回の最終報告書も同様の記述をしています。

LINE社の公共政策・政策渉外部門の担当者達「「LINEアプリの日本ユーザーに関する全てのデータが『日本に閉じている』旨の説明を国・自治体にしていたとされています。

しかしその理由について、本最終報告書は「本委員会による調査の範囲においては、公共政策・政策渉外部門の役職者が、上記の説明に反して、LINEアプリの画像や動画、ファイル(PDFなど)が韓国に保管されている事実を認識していたことを示す事実は確認されなかった」という不可解な結論を本文で示しています(本最終報告書46頁)。

しかし本最終報告書は同時に、脚注部分で、「公共政策・政策渉外部門の役職者のみが韓国サーバーに個人データが保存されていることを知らなかったとは考え難い」との委員の反対意見を付記しています(本最終報告書46頁注35)。

また、有識者委員会は、公共政策・政策渉外部門の役職者達「「LINEアプリの日本ユーザーに関する全てのデータが『日本に閉じている』」旨の説明を国・自治体にしていたことの理由をLINE社の経営陣にヒアリングしたところ、出澤代表取締役社長CEO(ChiefExecutiveOfficer)をはじめとするLINE社の経営陣(取締役)は、いずれも画像、動画及びファイル(PDFなど)は韓国で保管されていると認識していた一方、このような説明が行われていた事実を認識していなかったと説明した。このほか、本委員会による調査の範囲においては、LINE社の経営陣が公共政策・政策渉外部門の役職員が当該説明を行っていたことについて関与した事実は認められなかった。と本文では結論づけられてしまっています(本最終報告書47頁)。

しかしこの点に関しても、本最終報告者は脚注部分で、「本委員会では、本文の結論に対し、以下のとおり反対意見があった。公共政策・政策渉外部門の役職員による「日本に閉じている」との説明は、本文記載のとおり、地方公共団体、中央省庁、政党等の公的機関に対し繰り返してなされたものであり、本委員会の委員の中にも直接これを耳にしたことがある者が複数名存在した。「日本に閉じている」という説明は、まさに公然と繰り返されていたと評価しうるのである。それにもかかわらず、LINE社の上級役員らがこの説明のことを知らなかったとは、およそ信じがたいところである。むしろ、上級役員らはこの説明を知っており、上級役員らの「韓国色を隠す」という意向・方針に沿ってこのような説明が繰り返されたと考えるのが自然である。との委員からの反対意見を付加しています(本最終報告書47頁注37)。

ライン47
(本最終報告書47頁注37より)

これは、ここ最近の10年、20年の日韓関係が冷え込んでいる状況から、LINE社が、LINEがもともと韓国のものであるという「韓国色」を明確にすると、日本の利用者・ユーザーからの不評を買い、LINEサービス利用の低下などの風評リスクが発生することを恐れたLINE社の経営陣や役職員達が、「韓国色隠し」を全社的に行っていた結果、日本の国・自治体や一般国民や企業などへの説明も、「LINEアプリの日本ユーザーに関する全てのデータが『日本に閉じている』」という趣旨の虚偽のものになってしまったと考えるのが自然なのではないでしょうか。

本最終報告書がこのように切り込み不足・踏み込み不足で、結果としてLINE社やZホールディングス社に有利となるような結論ばかりが目につくのは、この報告書のための調査や作成を行った委員会は外部の弁護士などによる第三者委員会ではなく、あくまでも有識者委員会であることの限界なのではないでしょうか。

現に、本有識者委員会の座長の宍戸常寿教授は、LINE社の傘下団体である一般財団法人 情報法制研究所(JILIS)参与であり、この有識者委員会の報告書は自然とLINE社やZホールディングスに忖度した内容となってしまっているのではないでしょうか。
・メンバー紹介|情報法制研究所

(なお、このように特定のIT企業と関係の深い情報法制研究所に、日本の著名な情報法や情報セキュリティの学者・研究者の先生方のほとんどが所属しておられる状況は、日本の情報法学の健全な発展や学問の自由(憲法23条)を阻害しないのか懸念が残ります。)

いずれにせよ、上でみた、中国の国家情報法によるセキュリティ上のリスクへの対応を漫然と放置していたことや、日本の国・自治体や国民・法人・ユーザーに対して「韓国色隠し」の虚偽の説明を行っていたこと等について、LINE社の出澤剛社長をはじめとする経営陣は今後、取締役の善管注意義務・忠実義務などの法的責任経営責任について、株主代表訴訟なども含めて、会社や株主、ユーザー・利用者、監督官庁・国民などから厳しく責任を追及されるのは必至であろうと思われます。(会社法355条、423条、429条、847条、民法644条など、江頭憲治郎『株式会社法 第7版』434頁、469頁)。

会社法
(忠実義務)
第355条 取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。

(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
第423条 取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人(以下この章において「役員等」という。)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

民法
(受任者の注意義務)
第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。

5.LINEpayの問題
さらに、LINEpayについては、LINE社は資金決済法39条に基づき、資金移動業を行うための申請書類として、商号及び住所、資本金の額、「資金移動業の一部を第三者に委託する場合にあっては、当該委託に係る業務の内容並びにその委託先の氏名又は商号若しくは名称及び住所」(同法38条1項9号)などを金融庁・財務局に申請し、金融庁・財務局は登録簿(資金移動業者登録簿)に登録する必要があるところ、LINE社は韓国、台湾及びタイの子会社にも資金移動業を委託していたにもかかわらずその申請を怠っており、金融庁の登録簿と現実に齟齬が発生していたことが本最終報告書では明らかにされています(本最終報告書70頁)。

キャッシュレス決済の資金移動業という金融機関の業務に関する申請書類において、金融庁への申請漏れがあったということは、金融業としては重大なミスであり、金融庁・財務局はヒアリングや報告徴求立入検査などを実施し(資金決済法54条)、業務改善命令(同55条)などの行政処分をLINE社に対して発出すべき事態ではないでしょうか(堀天子『実務解説 資金決済法 第3版』160頁、167頁、177頁)。

こういったところにも、LINE社がベンチャー企業として急成長した企業にありがちなように、利益の追求や業務の拡大には熱心な一方で、コンプライアンスガバナンスなどをおろそかにしている傾向がみられます。

6.LINEヘルスケア・LINEドクターなどの問題
本年3月には、LINE社は韓国の関連会社のサーバーに保管されている日本のユーザーの画像データ・動画データなどの個人データを日本のサーバーに移動させる方針を発表しました。この点に関して、本最終報告書はおおむね予定通り進んでいるとしています(本最終報告書27頁)。

しかし、LINEヘルスケア・LINEドクターに関して本最終報告書を読んでみると、LINEヘルスケア・LINEドクター等に関連する決済関係の情報(医療機関名称、所在地、担当者氏名、決済情報等)が、現在でも、韓国のLINEグループの財務情報システムに保存されており、このデータに関しては日本に移転するか否か検討中となっています(本最終報告書71頁、72頁)。

ライン72
(Zホールディングス社サイトより)

医療に関連するデータがまだ韓国の関連会社のサーバーに残っていて、しかもLINE社は当該データを日本に移転させるか否か検討中としている点については、医療データはセンシティブな個人情報であることに鑑み、厚労省や個人情報保護委員会は、これらのデータも日本に移転させるように行政指導などを実施すべきではないでしょうか。

欧州のGDPR(EU一般データ保護規則)などでは、医療データ・健康データや生体データなど「特別カテゴリーの個人データ」(GDPR9条)として厳格な取扱いが要求され、クレジットカードなどの金融関連のデータ個人データの取扱の安全性を規定するGDPR32条により厳格な取扱いが要求されます。

これに対して日本は、平成27年の個人情報保護法の改正で思想・信条や病歴、犯罪歴などに関する「要配慮個人情報」(法2条3項)という用語を新設しました。しかし、最近のJR東日本の防犯カメラ・顔認証技術による犯罪歴のある人物や不審者などの監視の問題などに見れれるように、日本は医療データや金融データなどのセンシティブな個人データの企業などによる取扱に関して中央官庁の対応が非常に甘すぎるのではないかと強く懸念されます。

7.虚偽の報告の罰則の可能性?
今回の最終報告書では、中国などの委託先企業からのアクセス件数がこれまでの報告書よりさらに増加したことや、LINE社の出澤社長ら経営陣が「日本の個人データは日本にある」との国・自治体や国民・法人への3回の虚偽の説明に関して「関与していない」等と主張してる件などについて、個人情報保護法85条は、個人情報保護委員会が報告徴求や立入検査をした場合(法40条)に事業者が虚偽の報告や検査忌避などをした場合の罰則を規定しているところ、この罰則が発動されるのか個人的には気になるところです。

LINE社内のコンプライアンスやガバナンスが極めて低いレベルであることから、個人情報保護委員会による追加の報告徴求・立入検査や、追加の行政指導等は必至と思われますし、金融庁や厚労省等も少しは行政指導・行政処分を実施すべきではないかと一般国民としては考えます。

8.「通信の秘密」について
なお、本最終報告書も個人情報保護法や情報セキュリティに関する検討がほとんどで、憲法21条2項が明記し、電気通信事業法4条や同179条が罰則付きで明示する「通信の秘密」に関して、有識者委員会がほとんど検討を行っていないことが気になります。座長の宍戸教授などをはじめ、憲法・情報法の専門家の先生方が委員を務めておられるにもかかわらずです。

日本国憲法
第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

電気通信事業法
(秘密の保護)
第4条 電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
 電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

【追記】 LINE社は、総務省に届出を行い通信事業を行っている電気通信事業者です(届出番号A-20-9913)。そのためLINE社は電気通信事業法が定める「通信の秘密」(法4条)などを遵守する義務を負っています。)

電気通信事業法4条の「通信の秘密」には、通信の内容や本文が保護対象となるのは当然として、宛先や差出人、通信をした年月日、通信の有無、電子メールやネットなどの場合にはヘッダー情報、メタデータなどの通信の外形的な事項も含まれるとされています。そして「通信の秘密」については、「緊急避難」、「正当業務行為」あるいは利用者の「本人の同意」などがあった場合には、通信の秘密侵害は例外的に許容されるとされています(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁、大阪高裁昭和41年2月26日判決、實原隆志『新・判例ハンドブック 情報法』(宍戸常寿編)140頁)。

しかし、今回のLINEの事件については、中国の関連会社が日本のサーバーにアクセス可能であったことや、日本のユーザーの画像データ・動画データなどのすべてが韓国のサーバーに保存されていたこと等は、緊急避難、正当業務行為、本人の同意、のいずれにも該当せず、やはりLINE社の日本のユーザーの情報の雑然とした取扱いは、個人情報保護法上問題となるだけでなく、電気通信事業法の観点からも違法となり罰則などが適用されるべき状況なのではないでしょうか。

ところが、総務省が2021年4月26日付で行ったLINE社に対する行政指導においては、個人情報保護法上の安全管理措置や情報セキュリティなどに関する指導が行われている一方で、「通信の秘密」に関しては何故かほとんどスルーされています。
・LINEの通信の秘密の問題に対して総務省が行政指導を実施

総務省は、2021年9月30日にはインターネットイニシアティブ(IIJ)に対しては、通信の秘密侵害があったとして行政指導を実施していますが、LINE社に対しては通信の秘密侵害について行政指導等を実施しないことは、行政の公平性・中立性(憲法15条2項、国家公務員法96条1項)が害される不公平な状況なのではないでしょうか。
・株式会社インターネットイニシアティブに対する通信の秘密の保護及び個人情報の適正な管理に係る措置(指導)|総務省

(なお、本最終報告書はその他にも、警察等からの照会へのLINE社の対応や、LINE社と情報法制研究所(JILIS)との関係などについても調査・検討しているのは興味深いものがあります。)

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■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第3版』87頁、218頁、220頁、227頁
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁
・實原隆志『新・判例ハンドブック 情報法』(宍戸常寿編)140頁
・小向太郎・石井夏生利『概説GDPR』64頁、105頁
・江頭憲治郎『株式会社法 第7版』434頁、469頁
・堀天子『実務解説 資金決済法 第3版』160頁、167頁、177頁

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