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1.職場でメガネ禁止?
昨日ごろより、「#メガネ禁止」などの単語がツイッター上でトレンド入りしています。これは、最近、会社の窓口部門や秘書部門などの女性職員が、「メガネ禁止」などの趣旨の指導・指示を受けるケースがあるという話題です。ねとらぼもつぎのような記事を作成しています。労働法的にはこれはどうなのでしょうか。

・「女性はメガネ着用禁止」の職場に批判の声多数 「ハラスメントだ」「なぜ女性だけ?」|ねとらぼ

2.会社の服務規律などの限界
視力に問題のある労働者がメガネをかけるのか、かけるとしてどのようなメガネをかけるのか等は、個人の身じまいに関する事柄であり、基本的には労働者の自己決定権・人格権に属することがらです(憲法13条)。

ところで、事業者(=企業)においては、たとえば入退館に関する規律、遅刻・早退・欠勤・休暇などの手続き、服装規定、上司の指示・命令への服従義務、職場秩序の保持、などの服務規律が定められています。

しかし、労働者は事業者および労働契約の目的上必要かつ合理的なかぎりでのみ服務規律等に服するのであり、「企業の一般的(=包括的な)な支配に服するものではない」のです(最高裁昭和52年12月13日判決)。

具体的には、事業者・企業において制定される規則や、発せられる命令等は、事業者の円滑な運営上必要かつ合理的なものであることが求められ、たとえば、労働者の私生活上の行為は、実質的にみて企業秩序に関連性のある限度においてのみその規制の対象となるとされています。(菅野和夫『労働法 第11版補訂版』653頁)

3.メガネ・ひげ
つまり、例えばモデルなど外観を条件として雇用契約が締結されたような例外的な場合は別として、一般的な労働者が普通の職場でメガネをかけることは個人の自己決定に属することであり、企業側が「メガネをかけないで」と指示するためには、その命令に「事業の運営上必要かつ合理的」な理由が必要であり、これはなかなか難しいのではないかと思われます。

この点、ハイヤー運転手の口ヒゲが問題となった事例では、裁判所は、「ハイヤー乗務員要綱」が禁止するヒゲとは、「無精ひげ、異様、奇異なひげ」などに限定されるとした裁判例も存在します(イースタン・エアポートモータース事件・東京地裁昭和55年12月15日)。

そのため一般的には、女性職員のメガネが「異様、奇異」なものではない限りは、企業側は、これをかけるなと職員に命じることは困難なのではないかと思われます。

そもそも事業者側は労働者に対して、職務において安全で仕事ができるよう配慮する安全配慮義務などを負っており(労働契約法5条)、視力に問題のある職員に「メガネをかけるな」と命令することはこの義務からも困難と思われます。

なお、今回のメガネの件については、「われわれはマネキン扱いなのか」という声もツイッター上にあがっています。

この点、近年、性同一性障害者の別姓容姿を理由としてなされた職場からの懲戒解雇を無効とした裁判例も出されています(S社事件・東京高裁平成14年6月20日、菅野・同前)。

4.まとめ
このように、労働法の裁判例は、労働者の人格権や自由(思想信条の自由、容貌に関する表現の自由を含む)の保護の見地から、企業の服務規律上の権限を限定する立場をとっています。

したがって、ツイッターで話題になるように、もし多くの企業・官庁などの職場で、漫然と労働者に対して「メガネをかけるな」との指示・命令が出されているとしたら、労働法的に問題があります。

cf.
なお、もし「メガネをかけるな」という命令が、女性という理由だけで出されているとしたら、それは男女雇用機会均等法や職業安定法などが定める男女平等原則に抵触する可能性があります。

さらに、上でみたように、メガネをかけるか、どのようなメガネをかけるか等は個人のプライベートな領域の問題ですので、もし職場の上司などが、それをかけるな等と強く指示するようなことがあった場合、これはパワーハラスメントの6類型のなかの「個の侵害」あるいは「精神的な攻撃」に該当する可能性もあるかもしれません。

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