1.はじめに
2019年12月16日付の新聞各紙によると、高齢者などの顧客に対して不正な保険販売(保険募集)を行い、空前の規模の不祥事(18万件以上)を起こしていたかんぽ生命とその保険代理店の日本郵便(郵便局)に対して、年内にも保険業法に基づく業務停止命令・業務改善命令をだす方針であるそうです(保険業法132条1項、同133条)。
■関連
・かんぽ生命・日本郵便の不正な乗換契約・「乗換潜脱」を保険業法的に考える
・かんぽ・日本郵便に保険販売で業務停止命令へ 金融庁|日経新聞
2.行政処分で想定される法令違反事項(保険業法)
かんぽ・郵便局の現場では、営業職員が保険契約の不正な乗換を行っていました。不利益となる事実(保険料が上がる、新しい保険に加入できないかもしれない等)を十分に説明しないまま行う契約乗換の保険募集は保険業法違反です(法300条1項4号)。
また、かんぽ等の営業職員は既に保険契約に加入している顧客に対して、「更新の時期です」などと虚偽のことを言って、新しい保険契約を締結させ、約半年間、「この期間は解約できません」と嘘をついて保険料の二重払いや無保険状態を発生させています。これは、「「保険契約者又は被保険者に対して、虚偽のことを告げる行為」なので保険業法違反です(法300条1項1号)。
さらに、平成28年の保険業法改正により新設された意向把握義務は、顧客本位の保険商品の購入を目指す制度ですが、かんぽ生命はひたすら営業職員都合・会社都合の商品をゴリ押ししているだけのようであり、この点も保険業法に違反しています(法294条の2)。
加えて、保険業法は法人としての保険会社、保険代理店に対して体制整備義務を課しています(法100条の2など)。保険業法施行規則53条以下は、保険会社たるかんぽや、募集代理店たる日本郵便は、全国のかんぽ支店や郵便局を定期的あるいは随時に臨検し、不正がないかどうかチェックが行われることを要求していますが、これをかんぽ生命・日本郵便はどの程度真面目に履行していたのでしょうか。
3.まとめ
平成17年には多くの生命保険・損害保険が、会社の利益を上げるなどの目的のために、顧客からの保険金請求について、保険約款の条文を不正に解釈したり、あるいは保険約款上の「詐欺無効」条項を濫用して保険金不払いを行ったことが、大きな社会問題となりました。この事件に対しては、最終的には平成17年10月28日付で金融庁が明治安田生命などに、重大な保険業法違反、コンプライアンス態勢およびガバナンス体制に根本的な問題があるとして、業務停止命令・業務改善命令が発出されました。
・明治安田生命保険相互会社等に対する行政処分について|金融庁
何万件、何十万件もの保険業法違反の保険募集による保険契約の事実が発覚した以上、かんぽ生命・日本郵便の違法は重大であり、社内にそれを防止するためのガバナンス体制・コンプライアンス態勢が整備されていなかったのですから、かんぽ・日本郵便・日本郵政などが厳しい行政処分を受けるのは当然のことと思われます。
*なお、政治的な事情からかんぽ生命の倒産等はないと思われますが、万が一かんぽ生命が倒産等しても、生命保険契約者保護機構により加入者の方々は保護されます。原則として、責任準備金の90%が保障の対象となります。
・生命保険契約者保護機構サイト
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