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1.はじめに
1月25日の各メディアの報道によると、国は、新型コロナのワクチン接種について、国民個々の接種履歴などの進捗状況を把握するために、接種履歴などを管理する新システム(「接種者管理システム」)を作り、その個人データをマイナンバーと紐付ける方針であるとのことです。

・新型コロナワクチン接種情報、マイナンバーにひも付け 河野氏が新システム構築表明|毎日新聞

2.接種者管理システム
同日付けで、内閣IT戦略室などが運営する政府CIOポータルにも、この「接種者管理システム(仮称)」の概要図の資料が掲載されています。

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(政府CIOポータルより)
・新型コロナワクチンの接種支援に関するデータベースの検討|政府CIOポータル

この接種者管理システムのイメージ図をみると、ワクチン接種を受ける国民の個人データについて、一つの「接種管理DB」を作成し、基本的に、①接種券(クーポン券)、②接種の予約、③接種、④支払い、の4つの場面について進捗管理を行う一般的なDBシステムのようです。

つまり、この扱う個人の数が約1億2千万人分ということで、扱う件数は大きくても複雑とは思えないDBシステムを作成し運用するには、当然、DBのマスターキーとしてのIDは必要ですが、それは「接種者管理システムID」などと適切なIDを設定すればよいだけの話です。あえてマイナンバー(個人番号)を主キーのIDとして利用するであるとか、あるいはマイナンバーと紐付けする必要性が高いとは思えません。

政府CIOポータルのイメージ図によれば、この接種者管理システムの趣旨・目的には、「接種を促すために国が接種状況を把握できる仕組みの整備」「接種を忘れている人への案内ができるように」などの点が強調されています。

しかし、ワクチン接種に類似する事例を考えてみると、マイナンバー制度のないころから実施されてきた、乳幼児や児童へのさまざまな予防接種などは、母子手帳や病院のカルテ、健康保険制度などで長年、運営されてきています。この母子手帳やカルテなどで予防接種の実務やその進捗状況の管理がうまくいっていないという話は聞いたことがありません。

国が接種者管理システムを作るのはよいとしても、マイナンバーを持ち出す理由がありません。むしろ、「せっかく制度を作ったマイナンバー制度がなかなか国民に受け入れられないから、コロナ禍に乗じて一気呵成にマイナンバー制度の適用範囲を拡大してやろう」という国の不純な意図を感じます。

3.マイナンバー制度
マイナンバー制度は、行政の効率化と国民の利便性の向上のために、①社会保障、②納税、③災害の3分野のために作成された制度です。行政の効率化のために、国民一人ひとりに割り当てられた唯一無二のマイナンバー(個人番号)を割り当て、このマイナンバーにより行政のもつさまざまな分野の国民の個人データを名寄せできるようにして、業務の効率化を図ろうとしています。

(なお、マイナンバー制度における「災害」とは、東日本大震災などのような災害の際に、銀行や保険会社などが、マイナンバーを利用して簡易・迅速に利用者に銀行預金や保険金等を支払うための仕組みであり、今回の「接種者管理システム」のような事例は法が予定していません。番号法9条4項)

しかしマイナンバーはさまざまな行政分野の個人データを名寄せできるマスターキーであるため、国がマイナンバーを不正・不適正に利用した場合、国民のプライバシー権が大きく侵害されてしまいます(宇賀克也『番号法の逐条解説』6頁、14頁)。つまり、マイナンバーという最強のマスターキーにより、比喩的にいえば、「国家の前で国民が丸裸とされるがごとき状況」のおそれがあるのです(金沢地裁平成17年5月30日判決)。

そのため、マイナンバー制度は、マイナンバーという番号は創設するものの、行政の持つ個人データは従来どおり各行政庁が分散管理し、一元管理・中央集権的なシステムの濫用を防ぐ仕組みとなっています。また、マイナンバーの利用目的を社会保障・税・災害の三分野とし、その利用目的を個別具体的に法で定めるなどの仕組みがなされています(番号法9条、19条)。

このように国民のプライバシー権を侵害するおそれのあるマイナンバー制度を、政府与党がコロナ禍を奇禍として、なし崩し的にその適用範囲を拡大してゆくべきではありません。

4.まとめ
接種者管理システムを作成・運営するのはよいとしても、それをマイナンバーに紐付ける必要が本当にあるのか、あるとしたらどのような条件で紐付けを許すのか、濫用防止にどのような仕組みを盛り込むのか等を、内閣府や総務省などで検討するだけでなく、国会で慎重に審議を行い、必要があれば番号法の改正などの立法手続きを行うべきです。

近年は、小中学生の成績データを国が集中管理すべきであり、そのために成績データをマイナンバーカードのICチップ欄などに紐付けるべきである、あるいは、医者・看護師などを国がうまく利用できるように、医者・看護師などの資格データや個人データを国が集中管理すべきでありそれらのデータもマイナンバーに紐付けるべきである等々、マイナンバー制度の本来の趣旨・目的から逸脱したマイナンバー制度の活用方針が次々と国から示されており、少なくない国民は、国のマイナンバー制度の利活用に疑問や不安を感じている状況です。

国民一人一人のプライバシー権や内心の自由など精神的自由(人権)に深く関連する問題であるので、国・政府は、経済界や御用学者を集めて諮問会議でガイドラインなどを制定して済ませるのではなく、国会での慎重な議論を踏まえた立法が必要であると思われます。

そもそもわが国でのワクチン接種開始が3月頃が予定されているところ、1月下旬に急にマイナンバーを利用した新システムの話がでてきたのもおかしな話です。コロナ対応においては、接触確認アプリCOCOAやHER-SYSなどがこれまでも企画・立案され作成・運用がなされていますが、上手くいっていないようです。マイナンバーについては、平時の落ち着いた環境のなかで、国会で冷静な議論がなされるべきであると考えられます。

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