
4月26日に総務省は、LINEに対する行政指導に関するプレスリリースを公表しました。
・LINE株式会社に対する指導|総務省
このリリースを読むと、委託先のアクセス権の設定に一部不明確な部分があったことや、モニタリングシステムの本人確認が厳格でないこと等の事実を総務省は認定してるのに、「「通信の秘密」侵害は認められなかった」と結論づけているのは、LINEに厳しい行政処分・行政指導を行わないでおこうという、性善説に立った結論ありきで物事が進められたようで疑問です。
リリースの文中には、「LINEからの報告書をみる限りでは」という表現もあるので、総務省はLINE社に対して立入検査すら実施しなかったようです。
また、画像・動画データのすべてが現在もLINE社の韓国の関連会社のサーバーに保存されていることについて、総務省の今回のプレスリリースはまったく触れていません。
「通信の秘密」(憲法21条2項)は、国民のプライバシー(憲法13条)や内心の自由(19条)、表現の自由(21条1項)に関連する重要な人権です。そのため、電気通信事業法は4条で「通信の秘密」を規定し、同179条はその侵害に対する罰則を用意しています。
この「通信の秘密」は、LINEでいえばトークなどのメッセージや画像データ・動画データなどの通信内容が保護対象となるのは当然として、メッセージの相手である友達などの通信の宛先、通信の日時、通信の有無、などの外形的事項も保護対象となるとされている幅広なものです。
LINEなどの電気通信事業者は、「通信の秘密」については、「緊急避難」、「正当業務行為」あるいは利用者の「本人の同意」などがあった場合には、通信の秘密の侵害は例外的に許容されるとされています(曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁)。
しかし、LINEの事件では、中国・韓国などに個人データが海外移転していたことについては、問題が発覚し、3月末にLINE社がプライバシーポリシーを改正する前は、プライバシーポリシーに明示されておらず、利用者の「本人の同意」があったとはいえません。
なんらかのアクシデントに対する緊急避難的対応として中国・韓国などに個人データが移転したという事実はないようですし、日本のユーザーのすべての画像データ・動画データを韓国に移転していたことが正当業務行為といえるのかも大いに疑問です(しかも画像データ・動画データには、個人の医療データ、金融データなどセンシティブ情報も含まれています。)。しかし、これらの論点についてLINE社からの説明はなく、今回の総務省のプレスリリースもこれらの問題に関してはまったく触れていません。
LINEの日本の利用者は8600万人を超えるそうで、個人だけでなく、国・自治体や大企業もさまざまな場面で利用を行っています。個人のプライバシーに関する情報とともに、企業の営業秘密・機微情報や、国などの安全保障にかかわる情報(例えば国の要人のスケジュールや移動・位置情報に関する情報等)もやり取りされている可能性があります。
総務省がLINE社に対して立入検査すら実施せずに、提出された報告書だけで性善説的な観点で行政指導を行い、事件を終わりにしようとしている点には、「通信の秘密」や個人情報保護法上の問題、情報セキュリティ上の問題だけでなく、国の安全保障の観点からも疑問を感じます。
■関連するブログ記事
・LINEの個人情報の問題に対して個人情報保護委員会が行政指導を実施
・LINEの個人情報・通信の秘密の中国・韓国への漏洩事故を個人情報保護法・電気通信事業法から考えた
■参考文献
・曽我部真裕・林秀弥・栗田昌裕『情報法概説 第2版』53頁
