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2022年にはいってから、個人情報保護委員会(PPC)で「防犯予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」が開催されています。そこで、PPCサイトで公表されている同検討会の資料を読み、気がついたところを簡単にまとめてみました。

・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会(第1回)
・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会(第2回)
・犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会(第3回)

Ⅰ.資料2「顔識別機能付き防犯カメラの利用に関する法的整理と検討課題」について
1.2頁の3.カメラ画像の提供の(3)共同利用について
(1)防犯カメラの個人データが際限なくどんどん広範囲に共同利用されてしまうおそれへの歯止めが必要ではないか。学者の先生方の教科書をみると、共同利用の限界は「書店業界」など「〇〇業界」のなかが限界(外延)であるように読めるが(園部逸夫・藤原静雄『個人情報保護法の解説 第二次改訂版』187頁)、もし防犯カメラの個人データが「日本の小売業全体」で共同利用されてしまったら、それは範囲が広すぎではないか。立法などで歯止めをかけるべきではないか。

(2)また第三者提供の例外である委託、事業承継、共同利用のなかで、共同利用は一番抽象的で事業者にいかようにも利用されてしまうリスクが高い。(例、TポイントのCCCの個人データの管理が当初、共同利用とされていたことなど)この点は、今後の個人情報保護法の改正などで明確化を図るべきではないか。

2.2頁の開示等請求について
(1)いわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」の方々がスーパーや警備会社などに開示等請求をしても、一番多い対象は「うちはそういうことはやってない」「そういうデータは保存していない」と対応を断られることである。この場合、個人情報保護法上は開示等請求の民事訴訟を提起するしか対応方法がないが、これは一般市民にはハードルが高すぎる。例えば個人情報保護委員会(PPC)への相談、申告などの手続きを経て、PPCから事業者に対して助言・指導を行わせるなど、PPCが関与して紛争解決をするための手続きがあったほうがよいのではないか。

3.3頁の(1)利用目的の特定について
(1)PPCの個人情報保護法QA1-12は、ただの防犯カメラは個人情報保護法21条4項4号との関係で事業者は「防犯カメラ作動中」との掲示・表示さえすればよしとされているが、顔識別機能付き防犯カメラの場合は「防犯のために顔識別技術を用いた顔識別データの取扱が行われていること」を示す掲示・表示が必要としているが、現状ではほとんどの事業者が後者を遵守していない。遵守させるために、ガイドラインやQAだけでなく立法が必要なのではないか。

4.12頁のカメラ画像の提供の(3)共同利用、個人情報保護法ガイドラインQA7-50について
(1)共同利用する個人データは「真に必要な範囲に限定」、「データベースへの登録条件を整備」とあるが、特にいわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」の人々が被る権利利益の侵害、個人の尊重と基本的人権(プライバシー権など)の侵害は重大であるため、この部分を事業者や認定個人情報保護団体のブラックボックスとさせないように、登録条件・基準や保存期間、開示等請求の手続き、問合せ窓口などを事業者に制定させ公開させ遵守を義務付けるための立法が必要なのではないか。ガイドラインやQAなどでは足りないのではないか。個人情報保護法は事業者による個人情報の利用と国民の権利利益の保護や人権保障のバランスをとる法律であることを考えると、PPCは国民の個人の尊重と基本的人権を守るための行政活動や立法活動がより必要なのではないか(個人情報保護法1条、3条)。

5.13頁の開示等請求の施行令5条各号について
(1)一般論としては、事業者側の対犯罪対応、反社対策、警察などの対テロ対応、安全保障対策のためにこのような除外規定があることは理解できるが、しかしいわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」のように間違ってデータベースに登録された人々の権利救済のためには、施行令5条にも、本人が異議申し立てをできる場合を明記するような方向で、個人情報保護法を改正すべきではないか。施行令5条が事業者の免罪符になっている現状は問題である。(例えば施行令5条に該当する場合でも、冤罪被害のおそれが高い場合には、PPCや裁判所の関与のもとにインカメラ手続きなどを利用して本人の権利救済を図るなど。)

個人情報保護法施行令5条
(個人情報保護法施行令5条。PPCの資料2より)

6.企業の特定分野を対象とする団体を認定する認定個人情報保護団体の創設について
(1)この法改正により、あまりにも広い範囲で個人データの共同利用がなされてしまった場合、本人の合理的な予測ができず、本人の権利利益の侵害となってしまうのではないか。(例えば業界をまたぐ個人データの共同利用などは認めるべきではないのでは。)認定個人情報保護団体や事業者の利便性とは別に、本人・国民の側の権利利益の保護も図られるべきではないか。

7.17頁の事業者の自主的な取り組みについて
(1)これらの事業者の自主的な取り組みを事業者に実施させるために、自主的な取り組みの制定・公表を事業者や認定個人情報保護団体に義務付け、遵守させるために、枠組み立法が必要なのではないか。

Ⅱ.資料3「顔識別機能付き防犯カメラの利用に関する国内外動向」について
(1)EUのGDPR22条だけでなく、同22条のプロファイリング拒否権やAI規制法案も検討すべきではないか。また、GDPR22条については、日本の2000年の旧労働省の「労働者の個人情報保護のための行動指針」第2第6(6)もプロファイリング拒否権を明記していたことをもっと注目すべきではないか。

(2)ドイツは憲法擁護庁など諜報機関の防犯カメラなどの統制のために「テロ対策データベース法」などを制定して諜報機関の防犯カメラなどの運用を第三者機関などがチェックしているそうなので、日本も同法を検討してはどうか(日弁連『監視社会をどうする』95頁以下に概要あり。)。また、米オレゴン州ポートランドは2020年9月に、民間企業も公共空間での防犯カメラの利用を禁止する法律を制定し、2020年8月にはアメリカの連邦裁判所が警察による防犯カメラの利用に違憲判決を出しているので、個人情報保護委員会は本検討会でこれらの法律や判決を検討すべきではないか。

Ⅲ.第1回議事録について
1.5頁開示請求について
(1)万引き犯などのブラックリストは施行令5条により保有個人データに該当しないとなると、事業者側は一切開示等請求に応じなくてよいことになってしまい、いわゆる防犯カメラの冤罪被害者の人権侵害を救済できない。施行令5条で一律に保有個人データに該当しないのではなく、ブラックリストに載せられた人を救済できるための何らかの手当が必要ではないか。

2.5頁GDPRについて
(1)DGPR9条だけでなく、同22条やAI規制法案も検討すべき。また、例えばドイツの憲法擁護庁など諜報機関に関する対テロ法など、諜報機関の情報管理を第三者がチェックするための法律なども検討すべき。本検討会の射程に収まるかは別として、PPCはプロファイリング拒否権やAI規制法を日本にも導入するために検討をすべきではないか。また、欧米は2000年代に制定した遺伝子差別禁止法なども日本も早く立法化すべきではないか。

Ⅳ.第2回議事録について
1.2頁目の真ん中の〇の部分
(1)「制定当初の個人情報保護法は…個人情報の中に機微性における区別はなかった」は、事実誤認である。制定当初の個人情報保護法に基づいて制定された、金融庁の金融分野における個人情報保護ガイドラインなどは、センシティブ情報に関する規定を置いている。また、2000年の旧労働省の「労働者の個人情報保護の行動指針」もプロファイリング拒否権の条文を置いている。

(2)3頁目の3番目の〇の「立法者意思説でなく法律意思説でいくべき」について 賛成である。立法者の意思も重要であるが、現在の社会情勢や判例・学説の動向を勘案の上、機動的に個人情報保護(個人データ保護)、個人の尊重や基本的人権の確立のための行政活動・立法活動を行うべきである。

2.6頁の顔識別機能付きカメラについて
(1)顔識別機能付きカメラにより個人のプロファイリングがなされてしまうとの問題意識に賛成である。この点をさらに深堀りし、国民の個人の尊重と基本的人権を守る方向で議論をすすめていただきたい。

3.7頁目の「検討すべき事項」について
(1)経産省・総務省の商用カメラに関する「カメラ画像利活用ガイドブック」と個人情報保護法や同ガイドラインの防犯カメラに関する部分との統一化が必要ではないか。カメラを利用し個人の顔識別やプロファイリングなどを行う面では同じ問題なのであるから。また、国民の個人の尊重と基本的人権の保護のために、これらを規制する枠組み立法が必要である。

(2)8頁目の「カメラ画像の第三者提供や共同利用」を広げていく議論に関しては、慎重な議論が必要である。個人情報保護法17条(利用目的の特定)の背後にある、「必要最低限の原則」に180度反する可能性が高いので、慎重な議論が必要である。同様に、デジタル庁等が現在推進している、「学習データ利活用ロードマップ」や「行政の保有する子供の個人データの共有化」「スーパーシティ構想・デジタル田園都市構想」などの政策も、この「必要最低限の原則」に180度反しているので、PPCは個人情報保護法の所管官庁として、しかるべき対応をすべきではないか。

(3)その他、就活生のSNSの「裏アカウント」を採用企業や調査会社などが調査し分析している問題や、ネット系人材紹介会社が本人の承諾なしに勝手にSNSやGithubなどの個人データを収集・分析して人材紹介ビジネスを行っている問題など、労働法(職安法など)と個人情報保護法が交錯する分野についても、PPCは厚労省と共担でしかるべき対応を行うべきではないか。また、最近、警察庁が国民のSNSをAIで捜査するシステムを導入したとのことであるが、これらについてもPPCは個人情報保護法(個人データ保護法)の担当所管としてしかるべき対応をすべきではないか。

(参考)
・JR東日本が防犯カメラ・顔認証技術により駅構内等の出所者や不審者等を監視することを個人情報保護法などから考えた(追記あり)
・防犯カメラ・顔認証システムと改正個人情報保護法/日置巴美弁護士の論文を読んで
・ジュンク堂書店が防犯カメラで来店者の顔認証データを撮っていることについて
・コロナ下のテレワーク等におけるPCなどを利用した従業員のモニタリング・監視を考えた(追記あり)-個人情報・プライバシー・労働法・GDPR・プロファイリング
・デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」は個人情報保護法・憲法的に大丈夫なのか?
・Github利用規約や労働法、個人情報保護法などからSNSなどをAI分析するネット系人材紹介会社を考えた
・警察庁のSNSをAI解析して人物相関図を作成する捜査システムを法的に考えた-プライバシー・表現の自由・GPS捜査・データによる人の選別
・遺伝子検査と個人情報・差別・生命保険/米遺伝子情報差別禁止法(GINA)
・日銀『プライバシーの経済学入門』の「プロファイリングによって取得した情報は「個人情報」には該当しない」を個人情報保護法的に考えた(追記あり)