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1.LINE社のLINE通知メッセージ
ネット上でLINEの「LINE通知メッセージ」は個人情報保護法的に大丈夫なのか?という声があがっています。

「LINE通知メッセージ」とは、郵便局(日本郵便)の「郵便局eお届け通知」などのメッセージが、郵便局等のアカウントを友だち追加していなくても勝手に突然届くサービスのことです。LINE社の説明サイト「LINE通知メッセージを受信する方法」などによると、本サービスは郵便局などの提携事業者から電話番号とメッセージを、委託されたLINE社が自社が保有する顧客個人データの電話番号と突合し、該当するユーザーに当該メッセージを送信するものであるそうです。またLINE社は該当するユーザーのユーザー識別符号を郵便局などの提携事業者に第三者提供するそうです。そしてユーザー本人はLINEの設定画面からこのユーザー識別符号の提供をオプトアウト手続きで停止することができるとされています。

結論を先取りしてしまうと、この「LINE通知メッセージ」は、①いわゆる委託の「混ぜるな危険」の問題(個人情報保護法27条5項1号)の違反②提携企業にユーザー識別符号をオプトアウト方式で提供するとなっていること等がプライバシーポリシーに明記がなく法27条2項違反、の2点で違法なのではないかと思われます。

2.委託の「混ぜるな危険」の問題
個人情報保護委員会(PPC)の個人情報保護法ガイドラインQA7-41は、委託に伴って委託元から提供された個人データを委託先が独自に取得した個人データ又は個人関連情報と本人ごとに突合することはできないとしています。

これは「委託」(個人情報保護法27条5項1号)とは、PCへのデータ入力など委託元ができる業務を委託先に委託するスキームであり、委託元ができないことを委託先に行わせることは「委託」のスキームを超えるものであるからです。これはいわゆる「委託の「混ぜるな危険」の問題」と呼ばれるものです(岡村久道『個人情報保護法 第4版』327頁、田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁)。

個人情報保護法ガイドラインQA7-41
(個人情報保護法ガイドラインQA7-41。個人情報保護委員会サイトより)

この点、LINE社の「LINE通知サービス」は日本郵便などの委託元から提供された電話番号という個人データを委託先であるLINE社が独自に収集して保有するユーザーの電話番号等の個人データと突合し、該当するユーザーに提供されたメッセージ等を表示するものであり、個人情報保護法の「委託」のスキームを踏み越えており違法なものです(法27条5項1号、個人情報保護法ガイドラインQA7-41)。(もしLINE社がこのような業務を行うためには、第三者提供の原則に戻って、ユーザー本人のあらかじめの本人の同意が必要となります(法27条1項)。)

3.「LINE通知サービス」のオプトアウト手続き
つぎに、個人情報保護法27条2項はオプトアウト方式による第三者提供のためには、第三者に個人データをオプトアウト方式で提供することをプライバシーポリシーなどの利用目的に明示すること(法27条2項2号)や、本人はオプトアウトできること(同6号)等の事項をあらかじめプライバシーポリシー等に表示しなければならないと規定していますが、LINE社のLINEのプライバシーポリシーにはその明示がありません。 パーソナルデータの利用目的
(LINEの「パーソナルデータの利用目的」。LINE社のLINEプライバシーポリシーより)

そして、LINEプライバシーポリシーの「4.d.お客様に最適化されたコンテンツの提供」と、Google検索などでようやく出てくる「LINE通知メッセージを受信する方法」サイトやLINEの設定画面などを読んでようやく「LINE通知サービス」の概要とオプトアウト方法が分かるのは、個人情報保護法27条2項違反と言わざるを得ないのではないでしょうか。 お客様に最適化されたコンテンツの提供
(LINEプライバシーポリシーの「4.d.お客様に最適化されたコンテンツの提供」より)

LINE通知メッセージを受信する方法
(LINE社サイト「LINE通知メッセージを受信する方法」より)

LINE通知メッセージの設定画面
(LINEアプリの設定画面の「LINE通知メッセージの設定画面」より)

4.個人情報・個人関連情報
なお、LINE社はユーザー識別符号や電話番号は個人情報ではないと反論するかもしれません。しかし、提供元のLINE社内の顧客情報DB等を照合して、「個人に関する情報」であって「あの人、この人」と「個人を識別できるもの」は個人情報です(法2条1項1号)。

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(鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁より)

また、万一、これらのユーザー識別符号や電話番号が個人情報でないとしても個人関連情報に該当するので、第三者提供にはやはり本人の同意が必要です(法31条1項1号)。

5.まとめ
このように、「LINE通知メッセージ」は、①いわゆる委託の「混ぜるな危険」の問題(個人情報保護法27条5項1号)の違反②提携企業にユーザー識別符号をオプトアウト方式で提供するとなっていること等がプライバシーポリシーに明記がなく法27条2項違反、の2点で違法なのではないかと思われます。

LINE社のLINEは2021年3月に、峯村健司氏などの朝日新聞のスクープ報道により個人情報の杜撰な取扱いが発覚し、大きな社会問題となり、個人情報保護委員会と総務省から行政指導を受けました。また内閣官房・個人情報保護委員会・金融庁などは、行政機関・自治体のLINE利用のガイドラインを制定する等しました。Zホールディングスが設置した有識者委員会の最終報告書は、LINE社内の情報セキュリティ部門などが繰り返し問題点を経営陣に伝えていたのに、出澤剛社長ら経営陣はそれらの問題の解決を放置していたことなど、LINE社の経営陣はコンプライアンスやガバナンスの意識が欠落していたことを指摘していました。出澤社長を始めとするLINE社は、コンプライアンスとガバナンスの徹底を記者会見などで誓ったはずですが、この「LINE通知メッセージ」の個人情報保護法違反の問題には、LINE社の姿勢に大きな疑問が残ります。

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■参考文献
・岡村久道『個人情報保護法 第4版』319頁
・田中浩之・北山昇「個人データ取扱いにおける「委託」の範囲」『ビジネス法務』2020年8月号29頁
・鈴木正朝・高木浩光・山本一郎『ニッポンの個人情報』20頁