ai_shigoto
7月1日に日本データベース学会の「2023年度第1回DBSJセミナー「AI生成コンテンツ利用における法的課題や活用事例」」をオンラインで受講しました。弁護士の田中浩之先生の個人情報保護法に関する講義が大変勉強になったので、講義中にとったメモをまとめてみたいと思います。(メモのため、もし間違いがあった場合それは私の責任です。)

1.学習済みパラメータは、個人情報に当たるか?
個人情報保護法ガイドラインQA1-8によれば個人情報にあたらない。また同QA2-5によれば個人情報の取扱いではないのでプライバシーポリシーの利用目的に記載する必要はない。

2.生成AIと要配慮個人情報について
●個人情報をAIでプロファイリングして得られた推知情報が要配慮個人情報に該当するかについては、該当しないとするのが日本の個人情報保護法学界の多数説である。

●ネット上の個人データの収集(スクレイピング)自体については個人情報保護法はこれを規制していない。しかし要配慮個人情報の取得については原則として本人の同意が必要となる(法20条2項)。ただし法20条2項7号は「当該要配慮個人情報が、本人、国の機関、地方公共団体、学術研究機関等、第五十七条第一項各号に掲げる者その他個人情報保護委員会規則で定める者により公開されている場合」には本人同意が不要と規定しているので、本人がネット上の要配慮個人情報を公開している場合などはこの例外規定が適用される。

●ネット上の要配慮個人情報の収集(スクレイピング)については、個人情報保護委員会(PPC)が6月2日付で発出した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」の「【別添2】OpenAIに対する注意喚起の概要」の1.(1)(2)が参考になる。すなわちPPCはつぎのように整理している。

PPCの要配慮個人情報の図
(個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」「【別添2】OpenAIに対する注意喚起の概要」より)

3.生成AIと第三者提供
●個人情報をchatGPT等の生成AIに入力することはchatGPT(openAI社)等への第三者提供に該当するのか?
・個人情報保護法ガイドラインQA7-53、54はクラウトサービスに事業者が個人情報を預ける場合に関して、それがただ単に「倉庫として利用しているような場合」には第三者提供には該当しないとしているところ、chatGPT等の生成AIは処理や機械学習などを行っているので、これを「倉庫として利用しているような場合」と考えることはできず、原則として第三者提供に該当すると考えるべきであろう。

ただし、上述の個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」の「【別添1】生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」は、生成AIが機械学習をしていないのであれば第三者提供に該当しないと読める。

なお、openAI社のchatGPTの利用規約などを読むと、openAI社は「入力された情報を30日間保存する」と規定している。しかしこの点については、個人情報保護法27条1項2号の「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」に該当する場合であるとして、第三者提供にあたらないと考えることは可能であろう。

企業などがopenAI社とデータ処理契約(DPA)を締結してchatGPTを利用する場合には、契約内容にてこれらの点を問題ないように処理できるであろう。しかしopenAI社とデータ処理契約を締結できない個人の利用などの場合には、第三者提供の問題が起きることになるであろう。

4.生成AIと不適正利用禁止規定
●chatGPTなどの生成AIが勝手に個人情報に関する回答を行ったらどうなるか?
・このような場合については、chatGPTなどの生成AIは統計的な計算により回答を行っていることから第三者提供にはあたらないと考えることもありうる。とはいえ、chatGPTなどが嘘の前科を回答する事例は現実に発生しており、これは大問題といえる。

この点に関しては個人情報保護法19条の不適正利用の禁止の条文の適用も考えられるが、個人情報保護委員会はこの条項を伝家の宝刀としてこれまではあまり発動してこなかった。しかし、個人情報保護委員会が本年3月に公表した、「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」の「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(令和5年3月)」20頁はつぎのように記述しており、個人情報保護法とプライバシーが重なり合う場面において、法19条の不適正利用禁止条項が法執行されることが今後はあるかもしれないと思われる。

防犯カメラ報告書20頁
(個人情報保護委員会「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会報告書(令和5年3月)」20頁より)

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