daigaku_toudai
1.はじめに
反戦デモに許可なく参加したなどとして愛知大学が学生自治会の委員長ら学生3人に退学の懲戒処分を通知し、学生側が現在、審査請求を行っているとの中日新聞のニュースがネット上で大きく注目されています。ネット上では愛知大学を批判する意見が多いようですが、事件の概要や、類似する事件の判例をみると、問題はそう簡単ではないように思われます。

・反戦デモに参加し退学処分、元愛知大生3人が再審査請求 不当な処分と主張|中日新聞

2.今回の愛知大学の事件の概要
冒頭の中日新聞の記事によると、退学処分となった学生3人は愛知大学豊橋校舎学生自治会の委員長らであり、9月15日付の退学処分通知書は「反戦デモに参加し、無断で「愛知大学学生自治会」の旗を掲げて…本学公認の活動であるかのような外観を作出したこと」「学長が学生を監視している等虚偽の内容のビラを配布していること」など6~7項目の不適切な行為が列挙されていたとのことです。

また愛知大学に関するウィキペディアなどによると、愛知大学学生自治会は革マル系の団体であり、1月に自治会館の管理権をめぐって同自治会は大学を相手取って訴訟を提起しているとのことです。今回愛知大学が同自治会の3人を退学処分としたことは、このような様々な原因を総合考慮して、同大学学則55条3項3号の「大学の秩序を乱し、その他学生の本分に反したと認められる者」に該当すると判断されたものと思われます。

愛知大学学則55条
(愛知大学学則55条 愛知大学サイトより)

3.昭和女子大事件
(1)このような大学生の政治活動への退学処分が争点となった判例として昭和女子大事件(最高裁昭和49年7月19日判決)があります。学則の細則である生徒要録に反して学内で政治活動を行ったり政治団体に加入等した学生が私立大学の昭和女子大から退学処分となった事案について、学生側が生徒要録は憲法19条(内心の自由)、21条(表現の自由、結社の自由)などに違反するとして訴訟を提起したものです。

(2)この事件の最高裁は、①憲法19条、21条などの自由権規定は国又は公共団体の統治行為に対して個人の基本的人権を保障することを目的とした規定であり、私人相互間の関係については適用されない、②大学は国公立を問わず学則等の制定によって学生を規律する包括的権能を有する、③とくに私立大学は建学の精神に基づく独自の伝統・校風と教育方針を学則等において具現化することが認められる、④本件退学処分は社会通念上合理性を欠くものとはいえず、懲戒権者の裁量権の範囲内にある、等として学生側の主張を退けました。

(3)この最高裁判決に対しては、憲法の私人相互間への適用を大学について否定していること(間接適用説の否定)、法令に明文規定のない大学の学生への包括的権能を十分な論証もなしに安易に認めていることなど、憲法学の学説からは批判が大きいところです(木下智史「私立大学における学生の自由」『憲法判例百選Ⅰ第7版』24頁、芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第8版』116頁) 。

4.まとめ
とはいえ判例としてこのような事件が存在する以上は、今回の愛知大学の事件においても、もし訴訟となった場合においても、この昭和女子大事件判決に準拠して学生側が敗訴する判決が出される可能性はあると思われます。

このブログ記事が面白かったらシェアやブックマークをお願いします!

■参考文献
・芦部信喜・高橋和之補訂『憲法 第8版』116頁
・木下智史「私立大学における学生の自由」『憲法判例百選Ⅰ第7版』24頁
・高橋和之『新・判例ハンドブック【憲法】第2版』42頁

人気ブログランキング

PR