
ジュリスト2024年12月号が日本版DBS法(こども性暴力防止法)の特集を組んでいたので読んでみました。
54頁の曽我部真裕「日本版DBS法の憲法問題-プライバシーの視点から」で、曽我部先生はつぎのように解説している点が印象に残りました。
「本法による情報提供制度は粗雑なプロファイリングであり、特定性犯罪を行った事実(や)宣告刑の種類のみが考慮され、それ以上に個々の申請従事者の再犯リスクが斟酌されていない。このことは、現在における様々な制約からするとやむを得ないとも言える側面もあろうが、こうした一律の取扱いを緩和する措置が望まれる。」学校や民間教育期間における児童に対する性犯罪が重大な問題であることは当然ですが、日本版DBS法の情報提供制度は「粗雑なプロファイリング」であり、「個々の申請従事者の再犯リスクが斟酌されていない」との曽我部先生のご指摘はそのとおりであると思われます。個々の申請従事者の再犯リスクに対して個別に対応してゆく方策が求められるように思われます。
曽我部真裕「日本版DBS法の憲法問題-プライバシーの視点から」ジュリスト2024年12月号58頁
また、66頁の小西暁和「日本版DBS法についての検討-刑事法の視点から」では、小西先生は日本版DBS法の対象となる法定期間(原則として20年)が長すぎるのではないかという問題について、つぎのように解説していることが印象に残りました。
「法務省法務総合研究所の調査では、再犯調査対象者のうち性犯罪再犯があった者について、再犯が可能となった日から再犯までの期間を性犯罪者類型別にみると、「強制わいせつ型」…は、中央値が470日・最長が1771日、「小児わいせつ型」は、中央値が499日・最長が1330日…であった。また、いずれの性犯罪者類型も4分の3以上が1000日にも満たないで再犯に及んでいた。」「これらの研究を踏まえると(日本版DBS法の対象となる法定期間は、)十分な科学的根拠に基づいているのか疑問が残る」
小西暁和「日本版DBS法についての検討-刑事法の視点から」ジュリスト2024年12月号69頁
この小西先生のご指摘のように、日本版DBS法の対象となる法定期間については、「とにかくまずは20年」という結論ありきで、科学的根拠がないがしろなままに法律が制定されたのではないかと疑問です。このように日本版DBS法にはいくつもの問題があるように思われます。
日本版DBS法は学校や民間教育施設などの労働者の労働の自由や職業選択の自由(憲法22条、27条)やプライバシー(13条)に対して大きな制約を課す法制度であるにもかかわらず、「子ども達がかわいそう」という一部国民の感情論や与党の「お気持ち」により、十分な理性的な議論もないままに一気呵成に制定されてしまったように思われます。(今後、このような仕組みが性犯罪だけでなく、あらゆる犯罪に対して、あらゆる国民に対象を広げて、就職・進学・結婚・保険への加入などのあらゆる場面で利活用されてしまうおそれもあります。)今後の国会での慎重な検討や見直しが必要であると思われます。
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