
1.はじめに
現在、個人情報保護委員会は次の個人情報保護法改正の準備を進めており、今年度(令和7年度)の通常国会または臨時国会に改正法案を提出するともいわれています。そして、2025年2月19日に個情委が公表した、「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方(案)について(個人データ等の取扱いの態様の多様化等に伴うリスクに適切に対応した規律の在り方)」は、①個人関連情報に関する規律の見直し、②顔特徴データ等に関する規律の在り方、③悪質な名簿屋対策としてのオプトアウト届出事業者への規律の見直し、の3点を取り上げていますが、②はこのブログで度々取り上げている顔識別機能付きカメラシステム(顔識別機能付き防犯カメラ)に関するものなので、本ブログ記事で取り上げてみたいと思います。
2.顔特徴データ等に関する規律の在り方
(1)上述の2月19日付の個情委の文書は、「2 本人が関知しないうちに容易に取得することが可能であり、一意性・不変性が高いため、本人の行動を長期にわたり追跡することに利用できる身体的特徴に係るデータ(顔特徴データ等)に関する規律の在り方」のなかで、顔識別機能付きカメラシステムによる顔特徴データ等について次のように説明しています。
「顔識別機能付きカメラシステム等のバイオメトリック技術の利用が拡大する中で、生体データ(注5)のうち、本人が関知しないうちに容易に(それゆえに大量に)入手することができ、かつ、一意性及び不変性が高く特定の個人を識別する効果が半永久的に継続するという性質を有する(注6)顔特徴データ等は、その他の生体データに比べてその取扱いが本人のプライバシー等の侵害に類型的につながりやすいという特徴を有することとなっている。」
「そこで、上記侵害を防止するとともに、顔特徴データ等の適正な利活用を促すため、顔特徴データ等の取扱いについて、透明性を確保した上で本人の関与を強化する規律を導入する必要があるのではないか。」
「具体的には、顔特徴データ等の取扱いに関する一定の事項(顔特徴データ等を取り扱う当該個人情報取扱事業者の名称・住所 ・代表者の氏名、顔特徴データ等を取り扱うこと、顔特徴データ等の利用目的、顔特徴データ等の元となった身体的特徴の内容、利用停止請求に応じる手続等)の周知を義務付けてはどうか。その場合において、一定の例外事由(例えば、周知により本人又は第三者の権利利益を害するおそれがある場合、周知により当該個人情報取扱事業者の権利又は正当な利益を害するおそれがある場合、国又は地方公共団体の事務の遂行に協力する必要がある場合であって、周知により当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合等)を設ける必要があるのではないか。」
「また、顔特徴データ等(保有個人データであるものに限る。)について、違法行為の有無等を問うことなく利用停止等請求を行うことを可能としてはどうか。その場合において、一定の例外事由(例えば、本人の同意を得て作成又は取得された顔特徴データ等である場合、要配慮個人情報の取得に係る例外要件と同種の要件に該当する場合等)を設ける必要があるのではないか。」
「さらに、顔特徴データ等について、オプトアウト制度に基づく第三者提供(法第27条第2項)を認めないこととしてはどうか。」
(2)これまでも顔識別機能付き防犯カメラは、いわゆる「誤登録」(いわゆる「防犯カメラの冤罪被害者」)が問題となってきました。すなわち、スーパーや書店、ドラッグストアなどの店舗で、実際には万引きをしていないのに万引き犯として顔識別データがデータベースに登録されてしまい、当該店舗だけでなく情報連携を受けた他の店舗でも買い物ができなくなってしまうという問題です。今回の法改正案は、この誤登録の問題の解決に大きな前進となる可能性があると思われます。
本文書はまず、顔識別機能付き防犯カメラによる顔特徴データ等の取扱いに関する一定の事項(顔特徴データ等を取り扱う当該個人情報取扱事業者の名称・住所 ・代表者の氏名、顔特徴データ等を取り扱うこと、顔特徴データ等の利用目的、顔特徴データ等の元となった身体的特徴の内容、利用停止請求に応じる手続等)の周知を義務付けを行うとしています。
つぎに、本文書は、「顔特徴データ等(保有個人データであるものに限る。)について、違法行為の有無等を問うことなく利用停止等請求を行うことを可能としてはどうか。その場合において、一定の例外事由(例えば、本人の同意を得て作成又は取得された顔特徴データ等である場合、要配慮個人情報の取得に係る例外要件と同種の要件に該当する場合等)を設ける必要があるのではないか。」としている点は非常に画期的です。
つまり、一定の例外事由があるとはいえ、原則として理由を問わずに顔特徴データ等の利用停止等請求を認めるように法改正を行うこととしています。
(この点については、現行法は、個情法施行令5条が、「当該個人データの存否が明らかになることにより、本人又は第三者の生命、身体又は財産に危害が及ぶおそれがあるもの(施行令5条1号)」、「当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの(同2号)」等の場合には、当該個人データは保有個人データに該当せず、結果として利用停止等請求の対象にならないという仕組みになってしまっているのですが(個情法16条4項)、次の法改正でどうなるか気になるところです。)
さらに本文書は、「顔特徴データ等について、オプトアウト制度に基づく第三者提供(法第27条第2項)を認めないこととしてはどうか。」としています。つまり、顔特徴データ等について、要配慮個人情報のように、オプトアウト方式による第三者提供を認めないこととし、顔特徴データ等については原則に戻って第三者提供に本人同意が必要とするとしています。これは、顔特徴データの安易な第三者提供により、顔特徴データ等が転々と情報提供されてしまうことを防ぐものであり、これも画期的な改正であると思われます。
3.まとめ
このように、令和7年の個人情報保護法改正は、顔識別機能付き防犯カメラの誤登録の被害者の方々にとって大きな朗報となる可能性があります。まだ法案作成前の段階で、これから万防など業界団体・経済界などからの反対もあると思われ、法改正がどうなってゆくか不明ではありますが、法改正の動向を今後も引き続き注視してゆきたいと思います。
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