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(ボイスキャリアのwebサイトより)

1.はじめに
ネット上で、「過去の面接音声が聞ける就活サービス」「TOP企業の”内定”面接が聞ける」を銘打つ就活の「ボイスキャリア」(Voice Career)というサービスが話題となっています。ボイスキャリアは、企業の採用面接の就活生等による(おそらく無断録音の)録音データを集めてネット上で公開しており、そんなことしてよいのか?と話題になっています。

採用活動をする企業が採用面接の録音データを就活サービスの企業に提供するとは思えないので、これは無断録音であるとして、そもそも無断録音(秘密録音)は違法ではないのでしょうか?また、無断録音で収集した録音データをネット上で公開することは法的に問題ではないのでしょうか?以下見てみたいと思います。

2.無断録音(秘密録音)は違法ではないのか?
刑事裁判の手続きにおいて、警察・検察が録音等の捜査や証拠収集等を行うことについては、国が被疑者の個人の権利を侵害しないように、また公正な裁判が行われるように、証拠の収集については厳格に判断されます(違法収集証拠排除法則)。

一方、今回問題となっているボイスキャリアの件のように、私人対私人あるいは企業対企業のような民事に関する分野においては、録音の方法が著しく反社会的な場合などを除いて、原則として無断録音は違法とはならないと考えられます。

この点、飲み会での相手方との会話を無断で録音した録音テープが民事裁判で証拠となるか(証拠能力が認められるか)が争われた裁判では、話者の人格権を侵害する可能性があること、録音の方法が著しく反社会的である場合には違法となると判断されたものの、結論としては相手方の会話を無断で録音したテープは証拠として認められる判決が出されています(東京高裁昭和52年7月15日判決・判時867号60頁)。

したがって、民事の分野では、録音の方法が著しく反社会的な場合などを除いて、原則として無断録音は違法とはならないことになります。

3.無断録音した録音データをネット上で公開することは合法か?
しかし、民事の分野で、原則として無断録音は違法とはならないとしても、その無断録音した録音データをネット上で公開することは別の問題といえます。上でみた東京高裁判決が指摘するように、無断録音は相手方の人格権を侵害する可能性があります。

そのため、無断録音した録音データをネット上で公開することは、プライバシー侵害や名誉棄損や業務妨害に該当し、公開した人間は不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法709条)。

4.まとめ:ボイスキャリアのサービスは法的に問題ないのだろうか?
以上を踏まえて、ボイスキャリアのサービスが法的に問題ないか検討すると、採用面接における、就活生等の無断録音の録音データを収集しネット上で公開しているボイスキャリアのサービスは、採用面接の音声を公開された企業との関係では、業務妨害や営業秘密の侵害、プライバシー侵害などに該当し、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する可能性があるのではないでしょうか(民法709条)。

なお、多くの企業では、エントリーシートの提出の段階等で、「採用面接の録音禁止」という規約・契約書に就活生等の同意を取得した上で面接などの採用選考を行うことが通常ではないかと思われます。

そのような場合に、もしボイスキャリアの公開した録音データ等により、就活生等が企業から特定されたときは、規約・契約違反(債務不履行)として、当該就活生等は企業から内定取消、あるいは債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を企業から請求されるリスクがあるかもしれません。

就活生の方々も、就職活動は非常に大変であると思われますが、しかし就活に利用するサービスはよく考えて、わが身を守ることが重要であると思われます。

■参考文献
・安井英俊「民事訴訟における無断録音の証拠能力」福岡大学
・黙って録音するのは違法じゃないんですか?|なごみ法律事務所

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・就活のSNSの「裏アカ」の調査や、ウェブ面接での「部屋着を見せて」等の要求などを労働法・個人情報保護法から考えた(追記あり)
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